問い
同じ長さの振り子を2つ,水平に張った1本の糸からつるします.片方だけを揺らして放すと,はじめは揺れていなかったもう片方が,だんだん揺れ始めます.そのうち最初に揺らしたほうはほとんど止まり,今度はもう片方が大きく揺れます.この揺れの受け渡しは,何度も繰り返されます.なぜ揺れが「移る」のでしょうか.
考えてみる
糸がなければ,2つの振り子はそれぞれ単振動を続け,片方がもう片方に影響することはありません.糸をつなぐと,片方が揺れたときに糸が引かれ,もう片方に小さな力が働きます.力を受ければエネルギーが移るのは自然ですが,それが「ぴったり全部移って,また戻る」ように見えるのが不思議です.
困るのは,一方の動きが他方の力を決め,他方の動きがまたその力を決めることです.2つの変位 𝑥1,𝑥2 の運動方程式が絡み合い,1つずつ解けません.そこで,絡みをほどく見方を探します.
2つの質点と3つのばね
なめらかな水平面の上で,質量 𝑚 の2つの質点を,ばね定数 𝑘 のばね2本で左右の壁につなぎ,2つの質点の間をばね定数 𝜅 のばねでつなぎます.つり合いの位置からの右向きの変位を 𝑥1,𝑥2 とします.結合ばねの伸びは 𝑥2 −𝑥1 なので,運動方程式は次のとおりです.
𝑚¨𝑥1=−𝑘𝑥1−𝜅(𝑥1−𝑥2),𝑚¨𝑥2=−𝑘𝑥2+𝜅(𝑥1−𝑥2)
[図:二つの質点と三つのばね]左右の壁から定数kのばねで支えた二つの質点mを,定数κのばねで結ぶ.x₁とx₂は各つり合い位置から右向きに測る.
2つの質点が同じ角振動数で振動するパターンを探します.まず 𝑥1 =𝑥2(同位相)で動く場合を考えます.結合ばねは伸び縮みせず,どちらの式も 𝑚¨𝑥1 = −𝑘𝑥1 になるので,これは実際に起こる運動です.角振動数は 𝜔1 =√𝑘/𝑚 です.次に 𝑥1 = −𝑥2(逆位相)で動く場合です.結合ばねの伸びは 𝑥2 −𝑥1 = −2𝑥1 になり,式は 𝑚¨𝑥1 = −(𝑘 +2𝜅)𝑥1 となります.結合ばねの分だけ復元力が強いので,角振動数は 𝜔2 =√(𝑘+2𝜅)/𝑚 で,𝜔1 より大きくなります.
定義 基準振動
すべての質点が同じ角振動数で,一定の位相関係を保って振動する運動を基準振動,その角振動数を基準角振動数という.この系の基準振動は,同位相(𝜔1 =√𝑘/𝑚)と逆位相(𝜔2 =√(𝑘+2𝜅)/𝑚)の2つである.
[図:基準振動の形と時間変化]上は同位相,下は逆位相の配置.下段の時間曲線では青をx₁,橙破線をx₂とし,同位相で重なり逆位相で符号が反対になることを示す.
法則 重ね合わせ
運動方程式は線形なので,基準振動を足し合わせたものも解になる.一般の運動は
𝑥1=𝐴cos(𝜔1𝑡+𝜙1)+𝐵cos(𝜔2𝑡+𝜙2),𝑥2=𝐴cos(𝜔1𝑡+𝜙1)−𝐵cos(𝜔2𝑡+𝜙2)
の形で,2つの基準振動の重ね合わせである.𝐴,𝐵,𝜙1,𝜙2 は初めの条件で決まる.
揺れが移るわけ
はじめに質点1を 𝑎 だけ引いて静かに放すと,𝑥1(0) =𝑎,𝑥2(0) =0,初速度は0です.これは,同じ大きさの2つの基準振動が,時刻0でちょうど 𝑥2 を打ち消し合う重ね合わせです.
𝑥1=𝑎2(cos𝜔1𝑡+cos𝜔2𝑡),𝑥2=𝑎2(cos𝜔1𝑡−cos𝜔2𝑡)
和積の公式(次の節の「数学の道具」で整理します)で和を積に直すと,¯𝜔 =𝜔1+𝜔22,Δ =𝜔2−𝜔12 として次のようになります.
𝑥1=𝑎cosΔ𝑡cos¯𝜔𝑡,𝑥2=𝑎sinΔ𝑡sin¯𝜔𝑡
速く振動する cos¯𝜔𝑡 に,ゆっくり変わる振幅 cosΔ𝑡,sinΔ𝑡 がかかっています.Δ𝑡 =𝜋/2 で質点1の振幅(包絡線)は0になり,質点2が最大の振幅 𝑎 になります.結合が弱く Δ が ¯𝜔 よりずっと小さいとき,質点1の揺れはこのころにほぼ消えます.厳密に0になるのは包絡線で,速度には 𝑎Δ 程度の大きさが残ります.この振幅の入れ替わりがうなりです.
[図:うなりを生む二つの振動の和と差]ω₁=1,ω₂=1.1の厳密な重ね合わせを数値評価.包絡因子が0になる時刻を示すが,その時刻の速度が必ず0とは限らない.
揺れが移る理由は,2つの基準振動の角振動数が少し違うことです.時間がたつと2つの位相がずれていき,はじめは打ち消し合っていた質点2が強め合い,質点1が打ち消し合うようになります.結合が弱い(𝜅 が 𝑘 よりずっと小さい)とき,結合ばねに蓄えられるエネルギーは小さく,各質点の揺れのエネルギーはおよそ cos2Δ𝑡 と sin2Δ𝑡 の割合で配られます.質点1から質点2へほぼ移りきる,つまり包絡線が入れ替わるまでの時間は 𝜋2Δ =𝜋𝜔2−𝜔1 です.また,𝜔2 ≈𝜔1(1 +𝜅/𝑘) なので,𝜔2 −𝜔1 ≈𝜔1𝜅/𝑘 と小さく,移るのに長い時間がかかります.
質点が3つ,4つ,𝑁 個と増えると,基準振動も 𝑁 個になります.𝑁 をどんどん大きくして連続にしたものが波で,第25章で調べます.
ポイント ここまでのまとめ
連成した振動は運動方程式が絡み合うが,同位相と逆位相の基準振動に分けると,それぞれ単振動になる.
この系では 𝜔1 =√𝑘/𝑚,𝜔2 =√(𝑘+2𝜅)/𝑚.一般の運動は基準振動の重ね合わせである.
問いの答え:片方だけ揺らすのは,2つの基準振動を同じ大きさで足した状態である.角振動数が少し違うので位相差が進み,結合が弱ければ,一方の揺れがほぼ消えて他方が最大になる.これを繰り返してエネルギーがほぼ往復する.