𝑅 =𝜌ℓ/𝑆 は断面が一様な導線の式です.断面が変わる導体や電流が放射状に広がる導体では,薄い小片の抵抗を足し合わせます.温度係数の式で使う1次の近似も整理します.この節の 𝜌 はすべて抵抗率です.
定理 数学の道具:小片の抵抗を積分で足す
電流が 𝑥 方向に流れ,位置 𝑥 の断面積が 𝑆(𝑥),抵抗率が 𝜌(𝑥) の導体の抵抗は
𝑅=∫ℓ0𝜌(𝑥)𝑆(𝑥)d𝑥
である.電流が半径 𝑟 の方向に広がる場合は,半径 𝑟 で電流が通る面の面積を 𝐴(𝑟) として 𝑅 =∫𝑏𝑎𝜌𝐴(𝑟)d𝑟 である.
導体を 𝑥 に垂直に厚さ d𝑥 の板に切ると,1枚の抵抗は 𝜌d𝑥/𝑆(𝑥) です.定常電流では電荷がたまらないので,どの板にも同じ電流 𝐼 が流れ,板は直列です.電圧 𝑉 =∫𝐸d𝑥 は各板の電圧 𝐼𝜌d𝑥/𝑆 の和なので,𝑉 =𝑅𝐼 と比べると上の式になります.放射状の場合は薄い殻に切れば同じです.
この式は,各断面の上で電流密度が一様で断面がほぼ等電位だと仮定しています.断面が急に変わると電流の線が曲がって偏るので,断面の差し渡し 𝑎 の変化の割合 |d𝑎/d𝑥| が1よりずっと小さいことが条件です.
[図:変わる断面を薄い板に分ける]断面積S(x)が変わる導体を厚さdxの板に分ける.各板を同じ電流Iが通り,抵抗ρdx/S(x)を直列に足す.
電流と平行に細い筒に切る場合は,筒が並列で同じ電圧を受けるので,コンダクタンス(抵抗の逆数 1/𝑅)を足します.
練習1 長さ 10 m,断面積 0.50 mm2 の銅線(𝜌 =1.7 ×10−8 Ωm)の抵抗を求めよ.
練習2 断面積 𝑆 が一様で,抵抗率が 𝜌(𝑥) =𝜌0(1 +𝑥/ℓ) と変わる長さ ℓ の棒の抵抗を求めよ.
答え 練習1:𝑅 =1.7 ×10−8 ×10/(0.50 ×10−6) Ω =0.34 Ω.練習2:𝑅 =𝜌0𝑆∫ℓ0(1+𝑥ℓ)d𝑥 =3𝜌0ℓ2𝑆.𝜌 が 𝑥 の1次式なので,平均の 1.5𝜌0 を使った値と一致する.
定理 数学の道具:1次の近似
|𝑥| が1よりずっと小さいとき
(1+𝑥)𝑛≈1+𝑛𝑥,11+𝑥≈1−𝑥
である.省いた項は 𝑥2 の程度で,相対誤差もおよそ 𝑥2 である.
11+𝑥 =1 −𝑥 +𝑥2 −⋯ です.𝑅 =𝑅0(1 +𝛼𝜃) に電圧 𝑉 をかけたときの電流は 𝐼 ≈𝑉𝑅0(1 −𝛼𝜃) で,どこまで信じてよいかは (𝛼𝜃)2 で判断します.
例題
厚さ ℎ の一様な金属の板が,長さ ℓ の台形をしている.幅は左端で 𝑤0,右端で 2𝑤0 で,左端からの距離 𝑥 に比例して増える.抵抗率は 𝜌 で,左右の端の全体を電極とする.𝑤0/ℓ は十分小さいとする.
左右の電極の間の抵抗を求めよ.平均の幅 1.5𝑤0 の長方形の板として求めた抵抗と比べよ.
電流 𝐼 を流すとき,単位長さあたりの発熱率が最も大きいのはどこか.左端と右端の比も求めよ.
[図:台形の金属板と両端の電極]上から見た厚さh,抵抗率ρの台形の板.左端の幅w_0,右端の幅2w_0,長さℓと左端からの座標xを示す.左右の端の全体が電極である.
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考え方 幅 𝑤(𝑥) =𝑤0(1 +𝑥/ℓ),断面積 𝑆(𝑥) =ℎ𝑤(𝑥) として,薄い板を直列に足す.
𝑅=∫ℓ0𝜌ℎ𝑤0(1+𝑥/ℓ)d𝑥=𝜌ℓℎ𝑤0[ln(1+𝑥ℓ)]ℓ0=𝜌ℓln2ℎ𝑤0≈0.693𝜌ℓℎ𝑤0
平均の幅の長方形なら 𝜌ℓ1.5ℎ𝑤0 ≈0.667𝜌ℓℎ𝑤0 で,約 4 % 小さい.狭い所の抵抗が大きく効くので,幅を平均すると抵抗を小さく見積もる.
長さ d𝑥 の部分の発熱率は 𝐼2𝜌d𝑥/𝑆(𝑥) なので,単位長さあたり 𝐼2𝜌/(ℎ𝑤(𝑥)).幅が最も狭い左端で最大で,左端と右端の比は 2 :1 である.
確かめ:ln2 は 1/2 と 1 の間にあり,一様な幅 2𝑤0 の板と 𝑤0 の板の抵抗の間に入る.𝑤0/ℓ が小さくないと電流が幅いっぱいに一様に広がらず,この式は使えない.
同軸ケーブルは,半径 𝑎 の銅の芯線を,内半径 𝑎,外半径 𝑏 のポリエチレン(抵抗率 𝜌,比誘電率 𝜀𝑟)で包み,その外側を円筒の導体(外部導体)で覆ったものである.長さは ℓ とする.端の効果を無視し,漏れ抵抗と容量を求めるときは,芯線と外部導体をそれぞれ等電位とみなす.
芯線と外部導体の間に電圧をかけたとき,ポリエチレンを通って漏れる電流に対する抵抗(漏れ抵抗)𝑅ℓ を求めよ.𝑎 =0.50 mm,𝑏 =2.5 mm,ℓ =50 m,𝜌 =1.0 ×1014 Ωm のときの値も求めよ.
ケーブルを長くすると,漏れ抵抗と芯線の抵抗はそれぞれどう変わるか.
芯線と外部導体の間の容量 𝐶 は,第20章のガウスの法則から 𝐶 =2𝜋𝜀𝑟𝜀0ℓln(𝑏/𝑎) である.𝑅ℓ𝐶 を求め,𝜀𝑟 =2.3,𝜀0 =8.85 ×10−12 Fm−1 で値を求めよ.
[図:同軸ケーブルの断面と漏れ電流]半径aの銅の芯線と,内半径bの外部導体の間をポリエチレンが満たす.青い矢印で芯線から外側へ向かう漏れ電流の向きを示す.緑の破線の同心円は半径r,厚さdrの薄い円筒殻の断面.ケーブルの長さはℓ.
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考え方 漏れ電流は芯線から放射状に流れる.半径 𝑟,厚さ d𝑟 の円筒の殻は,電流が通る面の面積が 𝐴(𝑟) =2𝜋𝑟ℓ で,殻は直列に並ぶ.
𝑅ℓ=∫𝑏𝑎𝜌2𝜋𝑟ℓd𝑟=𝜌2𝜋ℓln𝑏𝑎
数値では ln5 ≈1.61 なので
𝑅ℓ=1.0×10142𝜋×50×1.61Ω≈5.1×1011Ω
漏れの道は長さ方向に並列に並ぶので 𝑅ℓ ∝1/ℓ で,長くすると小さくなる.芯線の抵抗 𝜌Cuℓ/(𝜋𝑎2) は ℓ に比例して大きくなる.電流が長さに沿うか垂直かで逆になる.
𝑅ℓ𝐶=𝜌2𝜋ℓln𝑏𝑎×2𝜋𝜀𝑟𝜀0ℓln(𝑏/𝑎)=𝜌𝜀𝑟𝜀0
で,ケーブルの寸法によらない.数値は 1.0 ×1014 ×2.3 ×8.85 ×10−12 s ≈2.0 ×103 s である.
確かめ:𝜌𝜀0 の単位は Ωm×Fm−1 =ΩF =s で時間になる.𝑅ℓ と 𝐶 に同じ形の積分 ∫d𝑟/𝑟 が逆数で入るので,形によらない組み合わせが残った.
金属の抵抗は,基準の温度からの温度変化 𝜃 について 𝑅 =𝑅0(1 +𝛼𝜃) で近似できるとする.
白金の測温抵抗体は 0∘C で 𝑅0 =100.0 Ω,𝛼 =3.85 ×10−3 K−1 である.抵抗が 119.4 Ω を示したときの温度を求めよ.
この測温抵抗体に 0.100 V の一定電圧をかけて電流を読む.(1) の温度での電流を,1/(1 +𝛼𝜃) ≈1 −𝛼𝜃 で近似した値と,近似しない値で求め,差が何の程度か説明せよ.
電球のタングステンのフィラメントは,20∘C で 12 Ω で,点灯中は 100 V で 0.60 A が流れる.20∘C を基準として 𝛼 =4.5 ×10−3 K−1 を使い,点灯中の温度を見積もれ.この見積もりは信頼できるか.
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考え方 1次の式を 𝜃 について解く.近似が使えるかは 𝛼𝜃 の大きさで決まる.
𝛼𝜃 =𝑅/𝑅0 −1 =0.194 より 𝜃 =0.194/(3.85 ×10−3) K ≈50.4 K.温度は約 50.4∘C である.
𝑉/𝑅0 =1.00 mA なので,近似では 1.00 ×(1 −0.194) mA =0.806 mA,近似しないと 1.00/1.194 mA =0.838 mA.差 0.032 mA は 𝑉/𝑅0 の約 0.03 倍で,省いた2次の項 (𝛼𝜃)2 =0.038 と同じ程度である.𝛼𝜃 =0.19 は小さいが,3桁の精度が要る測定では1次の近似では足りない.
点灯中の抵抗は 100/0.60 Ω ≈167 Ω.𝛼𝜃 =167/12 −1 ≈12.9 から 𝜃 ≈2.9 ×103 K,温度は約 2.9 ×103∘C となる.しかし 𝛼𝜃 ≈13 は1よりずっと大きく,室温付近の1次の式を使う根拠が無い.タングステンの抵抗率は高温で直線より速く増えるので,実際の温度はこれより低い.
確かめ:(3) では抵抗が十数倍に変わるので,電球は抵抗一定の素子として扱えない(次の題材で非線形素子として扱う).
ポイント ここまでのまとめ
断面や抵抗率が場所で変わる導体は,電流に垂直な薄い小片に切って 𝑅 =∫𝜌d𝑥/𝑆(𝑥) と足す.放射状の流れでは殻に切り,𝑅 =∫𝜌d𝑟/𝐴(𝑟).
直列は抵抗を,並列はコンダクタンスを足す.断面の変化がゆるやかで,断面がほぼ等電位であることが条件.
同軸ケーブルの漏れ抵抗は 𝜌2𝜋ℓln𝑏𝑎 で,長さに反比例する.𝑅ℓ𝐶 =𝜌𝜀𝑟𝜀0 は形によらない.
(1 +𝑥)𝑛 ≈1 +𝑛𝑥 の誤差は 𝑥2 の程度.温度係数の式は 𝛼𝜃 が1よりずっと小さいときだけ使える.