問いしるべ
問いから始める物理 振動

振動

減衰振動と強制振動

著者:柚木芹香

問い

公園のブランコに乗っています.後ろから背中を押してもらうとき,いつ押すと一番大きく揺れるでしょうか.また,押す力が弱くても,何度も押すうちに大きく揺れるようになるのはなぜでしょうか.そして,押すのをやめるとブランコがやがて止まるのはなぜでしょうか.

考えてみる

押す力が強いほど大きく揺れそうですが,ブランコを経験した人は,力任せに押すよりも頃合いを見て軽く押すほうが高く上がると知っているはずです.頃合いとは,ブランコが自分で揺れる周期に合っていること,つまり押す向きが動く向きと同じになることだと見当がつきます.ばねや振り子の周期は振幅によらず決まっているので,そのリズムに押す側が合わせるのでしょう.

止まる理由は,空気の抵抗と鎖の摩擦で,エネルギーが少しずつ熱になるからです.ところが,押し続けても揺れが際限なく大きくなるわけではありません.押す力がする仕事と,抵抗で失うエネルギーが釣り合うところで,揺れの大きさが落ち着くはずです.これを式で確かめるために,まず抵抗だけがある振動を調べ,次に周期的な外力を加えます.

抵抗のある振動

おもりに,速度に比例する抵抗 −bx˙(b>0)が働くとします.運動方程式は mx¨=−kx−bx˙ です.次の2つの量を決めておきます.

定義 固有角振動数と減衰係数

ω0=k/m を固有角振動数,γ=b2m を減衰係数という.ω0 は抵抗が無いときの角振動数で,単位は rads−1.γ の単位は s−1 である.運動方程式は次の形になる.

x¨+2γx˙+ω02x=0

解は γ と ω0 の大小で3つの形に分かれます.導き方は次の節で扱い,ここでは結果と意味を見ます.

法則 減衰振動の3つの場合

  • 弱減衰(γ<ω0):x=Ae−γtcos⁡(ω′t+ϕ),ω′=ω02−γ2.振動しながら,振幅が e−γt で小さくなる.

  • 臨界減衰(γ=ω0):振動せず,つり合いの位置へ戻る.つり合いからずらして静かに放したときは,ω0 を一定にして γ を変えた場合に,振動しない範囲で最も速く戻る.

  • 過減衰(γ>ω0):振動せず,ゆっくりと戻る.

ω₀tを横軸に同じ初期位置と初速度0の厳密解を数値評価.弱減衰,臨界減衰,過減衰と弱減衰の包絡線を示す. ω₀tを横軸に同じ初期位置と初速度0の厳密解を数値評価.弱減衰,臨界減衰,過減衰と弱減衰の包絡線を示す.

弱減衰では,振幅が最初の 1/e になる時間 τ=1/γ が目安になります.周期 T′=2π/ω′ は抵抗が無いときより少し長くなりますが,抵抗が小さければほとんど変わりません.隣り合う山の高さの比は e−γT′ で,いつも一定です.エネルギーは振幅の2乗に比例するので,減衰が十分弱いときは,1周期ほどで平均したエネルギーが e−2γt で減ると見なせ,1/e になる時間は 1/(2γ) が目安です.ただし瞬間のエネルギーは E˙=−bx˙2 で減るので,速さが0になる折り返しの瞬間は減り方が止まり,なめらかな指数関数にはなりません.

臨界減衰は,扉を静かに閉めるドアクローザーや,自動車のショックアブソーバーに生かされています.

周期的な外力を加える

抵抗のあるおもりに,角振動数 ω の外力 F0cos⁡ωt を加えます.f=F0/m とおくと,運動方程式は次のとおりです.

x¨+2γx˙+ω02x=fcos⁡ωt

解は,初めの条件で決まる減衰振動の部分と,外力が続くかぎり残る部分の和になります.前者は時間とともに消える(弱減衰では e−γt で小さくなる)ので,十分に時間がたつと定常振動だけが残ります.

定理 強制振動の定常解

定常振動は,外力と同じ角振動数 ω で振動する.

x=Acos⁡(ωt−δ),A=f(ω02−ω2)2+4γ2ω2

δ は外力に対する位相の遅れで,tan⁡δ=2γωω02−ω2 をみたす(0≤δ≤π).振幅 A は外力の大きさ f に比例し,ω0,γ,ω にも依存する.位相の遅れ δ は ω0,γ,ω だけで決まる.どちらも初めの条件には無関係である.

導出は次の節で行います.まず,外力の角振動数 ω を変えたときの様子を3つの場合に分けて見ましょう.

  • ω0≫ω(ゆっくり押す.ω02≫2γω も必要):A≈f/ω02=F0/k.ばねを静かに引いたときの伸びと同じで,δ≈0,つまり変位が外力と同位相になる.

  • ω≫ω0(速く押す.ω≫2γ も必要):A≈f/ω2 で小さい.おもりが追いつけず,δ≈π,つまり変位が外力と逆位相になる.

  • ω=ω0:A=f2γω0 で,δ=π2.

δ は外力と変位の位相差なので,力が仕事をするかどうかは変位ではなく速度との向きで決まります.

γ が小さいと,ω が ω0 の近くで A は急に大きくなります.これを共鳴といいます.

同じ外力振幅で減衰比0.1と0.4の振幅および位相を厳密式から数値評価した曲線. 同じ外力振幅で減衰比0.1と0.4の振幅および位相を厳密式から数値評価した曲線.

ω=ω0 のとき δ=π/2 で,x=Asin⁡ω0t,速度は x˙=Aω0cos⁡ω0t になり,外力 F0cos⁡ω0t と同位相です.外力が常に動く向きに働くので,外力の仕事率が最大になります.これが「動く向きに合わせて押す」の正体です.なお,変位の振幅 A が最大になるのは,γ<ω0/2 のとき ω=ω02−2γ2 で,ω0 とはわずかにずれます.速度の振幅が最大になり,外力と同位相になるのが ω=ω0 です.弱減衰では両者はほぼ一致します.

共鳴の鋭さとQ値

共鳴での振幅を,ゆっくり押したときの伸び F0/k と比べると

A(ω0)F0/k=ω02γ

です.この値をQ値といい,Q と書きます.Q が大きいほど共鳴は強く,曲線は細くなります.弱減衰では,振幅の2乗が最大値の半分になる2点の間の幅がおよそ 2γ=ω0/Q です.また,Q が十分大きいとき,1周期で失うエネルギーの割合はおよそ 2π/Q です(厳密には 1−e−2γT′).Q は「振動が何回くらい続くか」の目安でもあります.ブランコの Q は数十,音叉では数千以上にもなります.

共鳴は,楽器の胴が音を響かせる仕組みや,ラジオが特定の局を選ぶ電気回路に使われます.橋や建物は,歩調や風,地震の周期が固有振動数に近いと危険です.弦や空気の柱の固有振動は,第25章の波で調べます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 速度に比例する抵抗があると x¨+2γx˙+ω02x=0.γ<ω0 なら振幅が e−γt で減る振動,γ=ω0 は臨界減衰,γ>ω0 は過減衰である.

  • 周期的な外力を加えると,十分に時間がたてば外力と同じ ω の定常振動になる.弱減衰では振幅は ω≈ω0 で最大になり,これが共鳴である.

  • 問いの答え:動く向きに合わせて,ブランコ自身の周期で押すのがよい.そのとき外力は常に仕事をし,抵抗で失う分とつり合う振幅で落ち着く.弱い力でも,抵抗が小さければ,ゆっくり押したときの Q 倍の揺れになる.