問いしるべ
問いから始める物理 電流と回路

電流と回路

直流回路とキルヒホッフの法則

著者:柚木芹香

問い

4本の抵抗を四角形につなぎ,向かい合う2つの頂点に電池を,残りの2つの頂点の間に5本目の抵抗をつなぎます.この5本目の抵抗には,どれだけの電流が流れるでしょうか.直列と並列の公式を組み合わせようとしても,この回路はどこから手をつけても直列にも並列にもなっていません.枝分かれした複雑な回路の電流は,何によって決まるのでしょうか.

考えてみる

直列なら電流が共通,並列なら電圧が共通です.どちらでもない回路では,各枝の電流を未知数にするしかありません.問いの回路なら電池の枝を含めて6本の枝があり,独立な式が6つ要ります.その式を,前の題材の「電荷の保存」と「導線の中の電場」から作ります.

キルヒホッフの法則

法則 キルヒホッフの法則

第1法則:回路の接続点に流れこむ電流の和は,流れ出す電流の和に等しい.

第2法則:回路の中のどの閉じた道を一周しても,起電力の和は電圧降下(抵抗 R に電流 I が流れる向きに進むときの RI)の和に等しい.

第1法則は,定常電流では電荷が接続点にたまらないこと,つまり電荷の保存です.第2法則は,静電場が保存場であること(第20章)から出ます.電位は場所だけで決まるので,閉じた道を一周して元の点に戻れば,電位の変化の和は0です.抵抗を電流の向きに通ると電位は RI 下がり,電池を負極から正極へ通ると E 上がるので,上がる分と下がる分が等しくなります.

電池2個と抵抗3本の回路.上の接続点へI_1とI_3が流れ込み,I_2が流れ出すと仮定する.破線の矢印は各網目を一周する向き. 電池2個と抵抗3本の回路.上の接続点へI_1とI_3が流れ込み,I_2が流れ出すと仮定する.破線の矢印は各網目を一周する向き.

使い方の手順は次のとおりです.各枝の電流の向きを仮に決め,接続点ごとに第1法則を,独立な閉じた道ごとに第2法則を書きます.解いた電流が負なら,実際の向きが仮の向きと逆だということです.代わりに,接続点の電位を未知数にして各接続点で第1法則を書いてもかまいません.電位を使えば第2法則は自動的に満たされるので,未知数が少なくて済むことが多い方法です.

第2法則は,磁場が時間とともに変わる所では書き換えが要ります(第23章).また,光が回路を横切る時間より十分ゆっくりした変化だけを考える,前の題材の最後で述べた集中定数回路の近似の上に立っています.

直列と並列

キルヒホッフの法則から,直列なら R=R1+R2,並列なら 1R=1R1+1R2 が出ます.並列の合成抵抗を R1∥R2=R1R2R1+R2 と書くこともあります.対称な回路では,対称性から等電位と分かる点どうしを導線でつないでも,そこに電流は流れないので回路は変わりません.逆に,等電位の点を結ぶ導線を外してもかまいません.これを使うと,立方体のような網も直列と並列にまとめられます.同じ形の段が無限に続くはしご型の回路では,1段進んだ先にも同じ回路が続くことを使えば,合成抵抗の満たす方程式が作れます.

電流計と電圧計

電流計は測る枝に直列に,電圧計は測る2点の間に並列に入れます.どちらも回路の一部になるので,電流計の内部抵抗 RA は小さいほど,電圧計の内部抵抗 RV は大きいほど,回路を乱しません.

指針の振れが電流に比例する計器(抵抗 Rg,最大の電流 Ig)から,大きな電流を測る電流計を作るには,小さな抵抗(分流器)を並列につないで電流の大部分をそちらへ逃がします.全体の電流 I で振り切れるには,分流器の抵抗を Rs=IgRg/(I−Ig) にします.電圧計を作るには,大きな抵抗(倍率器)を直列につなぎ,電圧 V で振り切れるよう全体を V/Ig にします.

左は抵抗R_gの計器に分流器R_sを並列につないだ電流計.全電流Iが計器のI_gと分流器のI−I_gに分かれる.右は計器に抵抗V/I_g−R_gを直列につないだ電圧計. 左は抵抗R_gの計器に分流器R_sを並列につないだ電流計.全電流Iが計器のI_gと分流器のI−I_gに分かれる.右は計器に抵抗V/I_g−R_gを直列につないだ電圧計.

ホイートストンブリッジと電位差計

問いの回路で,四角形の4辺を R1,R2,R3,R4,5本目を検流計(ごく小さな電流を検出する計器)とします.検流計の両端が等電位なら電流は流れず,R1 と R2 には共通の電流 I,R3 と R4 には共通の電流 I′ が流れます.電池をつないだ一方の頂点から検流計の両端までの電圧降下が等しいことと,検流計の両端からもう一方の頂点までの電圧降下が等しいことから R1I=R3I′,R2I=R4I′ で,割ると

ポイント ブリッジの平衡

R1R2=R3R4

のとき検流計に電流は流れない.このとき,電池の起電力や内部抵抗,検流計の抵抗によらず,3つの抵抗から残りの1つが決まる.

四つの抵抗R_1,R_2,R_3,R_4の間を検流計で結び,もう一組の対角の頂点に電池をつなぐ.平衡時,検流計の両端の二点は等電位になる. 四つの抵抗R_1,R_2,R_3,R_4の間を検流計で結び,もう一組の対角の頂点に電池をつなぐ.平衡時,検流計の両端の二点は等電位になる.

電流が0になる所を探して測るこの方法を零位法といいます.電池の起電力を測るのにも使えます.一様な抵抗線に一定の電流を流しておくと,線に沿った電圧は長さに比例します.測りたい電池を検流計を通して線につなぎ,検流計の振れが0になる長さ ℓx を探します.起電力の分かっている標準電池で同じことをして長さ ℓs を得れば,Ex=Esℓx/ℓs です.つり合ったとき電池から電流を取り出していないので,内部抵抗による電圧降下が入らず,端子電圧ではなく起電力そのものが測れます.これが電位差計です.

テブナンの定理

複雑な回路のうち1本の枝の電流だけが知りたいときは,残りを簡単な形にまとめます.

定理 テブナンの定理

理想電圧源・理想電流源と抵抗だけからなる回路を,2つの端子から見ると,起電力 Vth の理想電圧源と抵抗 Rth の直列と同じにふるまう.Vth は端子を開いたときの端子間の電圧,Rth は理想電圧源を導線に,理想電流源を切れた導線に置き換えたときの端子間の合成抵抗である.

理由は,キルヒホッフの法則がすべて1次式で,解を重ね合わせられるからです.端子から電流 I を取り出したときの端子電圧は,「電源だけがあって I=0 のときの電圧」と「電源をすべて0にした回路から I を取り出したときの電圧」の和です.前者が開放電圧 Vth,後者は抵抗だけの回路なので −RthI で,V=Vth−RthI となります.電源を0にするとは,電圧源を導線に,電流源を切れた導線にすることです.前の題材の電池の E と r は,この定理の一番簡単な例です.

電池と複数の抵抗を含む左の回路を,右ではV_thとR_thの直列で表す.両側の端子に同じ負荷抵抗をつなぐと,同じ電圧と電流になる. 電池と複数の抵抗を含む左の回路を,右ではV_thとR_thの直列で表す.両側の端子に同じ負荷抵抗をつなぐと,同じ電圧と電流になる.

非線形素子と動作点

電球のフィラメントは電流が増えると熱くなって抵抗が増えるので,電流と電圧の関係(特性曲線)は直線になりません.ダイオードは,一方の向き(逆方向)にはほとんど電流を通さず,もう一方の向き(順方向)には電圧がある値を超えると急に大きな電流を通します.ここでは素子の性質だけを使い,仕組みは第29章で説明します.

非線形素子に,起電力 E の電源を抵抗 R を通してつなぐとします(電源と抵抗はテブナンの定理でまとめたものでもかまいません).素子の電圧 V と電流 I は,回路の側からは V=E−RI,素子の側からは特性曲線で決まります.同じグラフに2つを描いた交点が,実際に流れる電流と電圧で,これを動作点といいます.

[図:電球の特性と動作点の移動]

初期状態はℰ=6 V,R=10 Ω.上に凸の電球の模式的な特性I=0.1√Vと回路の直線の交点が動作点.ℰとRのスライダーで交点が動き,その点での接線も変わる.

動作点のまわりで電圧を少し変えたときの電流の変化は,特性曲線の接線の傾きで決まります.rd=dV/dI を微分抵抗といい,小さな変化については δV=rdδI と,素子を抵抗 rd とみなせます.これは動作点での静的な抵抗 V/I とは別の値です.この近似が使えるのは,変化の範囲で曲線が直線とみなせるとき,つまり |δI|/I が十分小さいときです.

問いに戻る

問いの回路では,電池の枝を含む6本の枝の電流を未知数にして,4つの接続点のうち3つで第1法則を(残りの1つは他の3つから出ます),3つの独立な閉じた道で第2法則を書けば,ちょうど6つの独立な式がそろい,電流は1通りに決まります.5本目の電流だけが要るなら,5本目を外した残りをテブナンの定理で Vth と Rth にまとめ,I=Vth/(Rth+R5) とすれば済みます.4辺の抵抗がブリッジの平衡の条件を満たせば,5本目には電流が流れません.

ポイント ここまでのまとめ

  • 第1法則は電荷の保存,第2法則は静電場が保存場であること.仮の向きで電流を置き,負の答えは逆向きを表す.接続点の電位を未知数にしてもよい.

  • 電流計は直列で内部抵抗が小さいほど,電圧計は並列で大きいほど回路を乱さない.分流器は並列,倍率器は直列に入れる.

  • ブリッジは R1/R2=R3/R4 で平衡し,電位差計は電流を取り出さずに起電力を測る(零位法).

  • テブナンの定理:2端子から見た線形の回路は,開放電圧 Vth と,電源を0にした合成抵抗 Rth の直列に置き換えられる.

  • 非線形素子は特性曲線と V=E−RI の交点(動作点)で動く.小さな変化には微分抵抗 rd=dV/dI を使う.

  • 問いの答え:電流は,各接続点の電荷の保存と各閉じた道の電圧の収支を同時に満たすように1通りに決まる.1本の枝だけならテブナンの定理が近道である.