問い 4本の 抵抗を 四角形に つなぎ,向かい合う2つの 頂点に 電池を,残りの2つの 頂点の 間に5本目の 抵抗を つなぎます.この5本目の 抵抗には,どれだけの 電流が 流れるでしょうか.直列と 並列の 公式を 組み合わせようと しても,この 回路は どこから 手を つけても 直列にも 並列にもなっていません.枝 分かれした 複雑な 回路の 電流は,何に よって 決まるのでしょうか.
考えてみる 直列なら 電流が 共通,並列なら 電圧が 共通です.どちらでもない 回路では,各枝の 電流を 未知数に するしか ありません.問いの 回路なら 電池の 枝を 含めて6本の 枝が あり,独立な 式が6つ 要ります.その式を,前の 題材の「電荷の 保存」と「導線の 中の 電場」から 作ります.
キルヒホッフの 法則 法則 キルヒホッフの 法則
第1法則 :回路の 接続点に 流れこむ電流の 和は,流れ出す電流の 和に 等しい.
第2法則 :回路の 中の どの 閉じた道を 一周しても,起電力の 和は 電圧降下(抵抗 𝑅 R に 電流 𝐼 I が 流れる 向きに 進むときの 𝑅 𝐼 R I )の 和に 等しい.
第1法則は,定常電流では 電荷が 接続点に たまらない こと,つまり 電荷の 保存です.第2法則は,静電場が 保存場である こと(第20章)から 出ます.電位は 場所だけで 決まるので,閉じた道を 一周して 元の 点に 戻れば,電位の 変化の 和は0です.抵抗を 電流の 向きに 通ると 電位は 𝑅 𝐼 R I 下がり,電池を 負極から 正極へ 通ると E E 上がるので,上がる 分と 下がる 分が 等しくなります.
[図:二つの網目と接続点の電流] 電池2個と抵抗3本の回路.上の接続点へI_1とI_3が流れ込み,I_2が流れ出すと仮定する.破線の矢印は各網目を一周する向き.
使い方の 手順は 次の とおりです.各枝の 電流の 向きを 仮に 決め,接続点ごとに 第1法則を,独立な 閉じた 道ごとに 第2法則を 書きます.解いた 電流が 負なら,実際の 向きが 仮の 向きと 逆だと いう ことです.代わりに,接続点の 電位を 未知数に して 各接続点で 第1法則を 書いてもかまいません.電位を 使えば 第2法則は 自動的に 満たされるので,未知数が 少なくて 済むことが 多い 方法です.
第2法則は,磁場が 時間とともに 変わる 所では 書き換えが 要ります(第23章).また,光が 回路を 横切る 時間より 十分ゆっくりした 変化だけを 考える,前の 題材の 最後で 述べた 集中定数回路の 近似の 上に 立っています.
直列と 並列 キルヒホッフの 法則から,直列なら 𝑅 = 𝑅 1 + 𝑅 2 R = R 1 + R 2 ,並列なら 1 𝑅 = 1 𝑅 1 + 1 𝑅 2 1 R = 1 R 1 + 1 R 2 が 出ます.並列の 合成抵抗を 𝑅 1 ∥ 𝑅 2 = 𝑅 1 𝑅 2 𝑅 1 + 𝑅 2 R 1 ∥ R 2 = R 1 R 2 R 1 + R 2 と 書く こともあります.対称な 回路では,対称性から 等電位と 分かる 点どうしを 導線で つない でも,そこに 電流は 流れないので 回路は 変わりません.逆に,等電位の 点を 結ぶ 導線を 外してもかまいません.これを 使うと,立方体のような 網も 直列と 並列に まとめられます.同じ形の 段が 無限に 続くは しご型の 回路では,1段進んだ 先にも 同じ回路が 続く ことを 使えば,合成抵抗の 満たす方 程式が 作れます.
電流計と 電圧計 電流計は 測る 枝に 直列に,電圧計は 測る2点の 間に 並列に 入れます.どちらも 回路の 一部に なるので,電流計の 内部抵抗 𝑅 𝐴 R A は 小さい ほど,電圧計の 内部抵抗 𝑅 𝑉 R V は 大きい ほど,回路を 乱しません.
指針の 振れが 電流に 比例する 計器(抵抗 𝑅 𝑔 R g ,最大の 電流 𝐼 𝑔 I g )から,大きな 電流を 測る 電流計を 作るには,小さな 抵抗(分流器 )を 並列に つないで 電流の 大部分を そちらへ 逃が します.全体の 電流 𝐼 I で 振り切れるには,分流器の 抵抗を 𝑅 𝑠 = 𝐼 𝑔 𝑅 𝑔 / ( 𝐼 − 𝐼 𝑔 ) R s = I g R g / ( I − I g ) にします.電圧計を 作るには,大きな 抵抗(倍率器 )を 直列に つなぎ,電圧 𝑉 V で 振り切れるよう全体を 𝑉 / 𝐼 𝑔 V / I g にします.
[図:分流器と倍率器] 左は抵抗R_gの計器に分流器R_sを並列につないだ電流計.全電流Iが計器のI_gと分流器のI−I_gに分かれる.右は計器に抵抗V/I_g−R_gを直列につないだ電圧計.
ホイートストンブリッジと 電位差計 問いの 回路で,四角形の4辺を 𝑅 1 , 𝑅 2 , 𝑅 3 , 𝑅 4 R 1 , R 2 , R 3 , R 4 ,5本目を 検流計(ごく 小さな 電流を 検出する 計器)とします.検流計の 両端が 等電位なら 電流は 流れず,𝑅 1 R 1 と 𝑅 2 R 2 には 共通の 電流 𝐼 I ,𝑅 3 R 3 と 𝑅 4 R 4 には 共通の 電流 𝐼 ′ I ′ が 流れます.電池を つないだ 一方の 頂点から 検流計の 両端までの 電圧降下が 等しい ことと,検流計の 両端から もう 一方の 頂点までの 電圧降下が 等しい ことから 𝑅 1 𝐼 = 𝑅 3 𝐼 ′ R 1 I = R 3 I ′ ,𝑅 2 𝐼 = 𝑅 4 𝐼 ′ R 2 I = R 4 I ′ で,割ると
ポイント ブリッジの 平衡
𝑅 1 𝑅 2 = 𝑅 3 𝑅 4 R 1 R 2 = R 3 R 4
の とき検流計に 電流は 流れない.この とき,電池の 起電力や 内部抵抗,検流計の 抵抗に よらず,3つの 抵抗から 残りの1つが 決まる.
[図:ホイートストンブリッジの平衡] 四つの抵抗R_1,R_2,R_3,R_4の間を検流計で結び,もう一組の対角の頂点に電池をつなぐ.平衡時,検流計の両端の二点は等電位になる.
電流が0に なる所を 探して 測る この 方法を零位法 と いいます.電池の 起電力を 測るのにも 使えます.一様な 抵抗線に 一定の 電流を 流しておくと,線に 沿った 電圧は 長さに 比例します.測りたい 電池を 検流計を 通して 線に つなぎ,検流計の 振れが0に なる 長さ ℓ 𝑥 ℓ x を 探します.起電力の 分かっている 標準電池で 同じ ことを して 長さ ℓ 𝑠 ℓ s を 得れば,E 𝑥 = E 𝑠 ℓ 𝑥 / ℓ 𝑠 E x = E s ℓ x / ℓ s です.つり合った とき電池から 電流を 取り出していないので,内部抵抗に よる 電圧降下が 入らず,端子電圧ではなく 起電力 その ものが 測れます.これが電位差計 です.
テブナンの 定理 複雑な 回路の うち1本の 枝の 電流だけが 知りたい ときは,残りを 簡単な 形に まとめます.
定理 テブナンの 定理
理想電圧源・理想電流源と 抵抗だけから なる 回路を,2つの 端子から 見ると,起電力 𝑉 t h V th の 理想電圧源と 抵抗 𝑅 t h R th の 直列と 同じに ふるまう.𝑉 t h V th は 端子を 開いた ときの 端子間の 電圧,𝑅 t h R th は 理想電圧源を 導線に,理想電流源を 切れた 導線に 置き換えた ときの 端子間の 合成抵抗である.
理由は,キルヒホッフの 法則が すべて1次式で,解を 重ね合わせられるからです.端子から 電流 𝐼 I を 取り出した ときの 端子電圧は,「電源だけが あって 𝐼 = 0 I = 0 の ときの 電圧」と「電源を すべて0に した回路から 𝐼 I を 取り出した ときの 電圧」の 和です.前者が 開放電圧 𝑉 t h V th ,後者は 抵抗だけの 回路なので − 𝑅 t h 𝐼 − R th I で,𝑉 = 𝑉 t h − 𝑅 t h 𝐼 V = V th − R th I と なります.電源を0に するとは,電圧源を 導線に,電流源を 切れた 導線に する ことです.前の 題材の 電池の E E と 𝑟 r は,この 定理の 一番 簡単な 例です.
[図:二つの端子から見た等価回路] 電池と複数の抵抗を含む左の回路を,右ではV_thとR_thの直列で表す.両側の端子に同じ負荷抵抗をつなぐと,同じ電圧と電流になる.
非線形素子と 動作点 電球の フィラメントは 電流が 増えると 熱くなって 抵抗が 増えるので,電流と 電圧の 関係(特性曲線 )は 直線に なりません.ダイオードは,一方の 向き(逆方 向)には ほとんど 電流を 通さず,もう 一方の 向き(順方 向)には 電圧が ある 値を 超えると 急に 大きな 電流を 通します.ここでは 素子の 性質だけを 使い,仕組みは 第29章で 説明します.
非線形素子に,起電力 E E の 電源を 抵抗 𝑅 R を 通して つなぐ とします(電源と 抵抗は テブナンの 定理で まとめた ものでもかまいません).素子の 電圧 𝑉 V と 電流 𝐼 I は,回路の 側からは 𝑉 = E − 𝑅 𝐼 V = E − R I ,素子の 側からは 特性曲線で 決まります.同じグラフに2つを 描いた 交点が,実際に 流れる 電流と 電圧で,これを動作点 と いいます.
[図: 電球の特性と動作点の移動] 初期状態はℰ=6 V,R=10 Ω.上に凸の電球の模式的な特性I=0.1√Vと回路の直線の交点が動作点.ℰとRのスライダーで交点が動き,その点での接線も変わる.
初期状態はℰ=6 V,R=10 Ω.上に凸の電球の模式的な特性I=0.1√Vと回路の直線の交点が動作点.ℰとRのスライダーで交点が動き,その点での接線も変わる.
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動作点の まわりで 電圧を 少し 変えた ときの 電流の 変化は,特性曲線の 接線の 傾きで 決まります.𝑟 𝑑 = d 𝑉 / d 𝐼 r d = d V / d I を微分抵抗 と いい,小さな 変化に ついては 𝛿 𝑉 = 𝑟 𝑑 𝛿 𝐼 δ V = r d δ I と,素子を 抵抗 𝑟 𝑑 r d と みなせます.これは 動作点での 静的な 抵抗 𝑉 / 𝐼 V / I とは 別の 値です.この 近似が 使えるのは,変化の 範囲で 曲線が 直線と みなせる と き,つまり | 𝛿 𝐼 | / 𝐼 | δ I | / I が 十分 小さい ときです.
問いに 戻る 問いの 回路では,電池の 枝を 含む6本の 枝の 電流を 未知数に して,4つの 接続点の うち3つで 第1法則を(残りの1つは 他の3つから 出ます),3つの 独立な 閉じた道で 第2法則を 書けば,ちょうど6つの 独立な 式が そろい,電流は1通りに 決まります.5本目の 電流だけが 要るなら,5本目を 外した 残りを テブナンの 定理で 𝑉 t h V th と 𝑅 t h R th に まとめ,𝐼 = 𝑉 t h / ( 𝑅 t h + 𝑅 5 ) I = V th / ( R th + R 5 ) と すれば 済みます.4辺の 抵抗が ブリッジの 平衡の 条件を 満たせば,5本目には 電流が 流れません.
ポイント ここまでの まとめ
第1法則は 電荷の 保存,第2法則は 静電場が 保存場である こと.仮の 向きで 電流を 置き,負の 答えは 逆向きを 表す.接続点の 電位を 未知数に しても よい.
電流計は 直列で 内部抵抗が 小さい ほど,電圧計は 並列で 大きい ほど回路を 乱さない.分流器は 並列,倍率器は 直列に 入れる.
ブリッジは 𝑅 1 / 𝑅 2 = 𝑅 3 / 𝑅 4 R 1 / R 2 = R 3 / R 4 で 平衡し,電位差計は 電流を 取り出さずに 起電力を 測る(零位法).
テブナンの 定理:2端子から 見た 線形の 回路は,開放電圧 𝑉 t h V th と,電源を0に した合成抵抗 𝑅 t h R th の 直列に 置き換えられる.
非線形素子は 特性曲線と 𝑉 = E − 𝑅 𝐼 V = E − R I の 交点(動作点)で 動く.小さな 変化には 微分抵抗 𝑟 𝑑 = d 𝑉 / d 𝐼 r d = d V / d I を 使う.
問いの 答え:電流は,各接続点の 電荷の 保存と 各閉じた 道の 電圧の 収支を 同時に 満たすように1通りに 決まる.1本の 枝だけなら テブナンの 定理が 近道である.