問いしるべ
問いから始める物理 電荷と電場

電荷と電場

誘電体の例題

著者:柚木芹香

自由電荷を D の流束で数え,境界の条件で各部分をつなぎます.力とエネルギーでは電源の仕事を忘れないようにしましょう.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

面積 S,間隔 d の平行板コンデンサーを電圧 V の電池につないだまま,隙間の半分を比誘電率 εr の線形な誘電体で満たす.真空のときの容量を C0=ε0S/d とし,端の効果を無視する.

電池 V につないだ面積 S,間隔 d の平行板コンデンサーを並べる.左では正の極板側の厚さ d/2 を,右では面積 S/2 の全厚さを,比誘電率 εᵣ の誘電体で満たす. 電池 V につないだ面積 S,間隔 d の平行板コンデンサーを並べる.左では正の極板側の厚さ d/2 を,右では面積 S/2 の全厚さを,比誘電率 εᵣ の誘電体で満たす.
  1. 直列型:厚さ d/2 の誘電体板を正の極板に接して全面に入れた.誘電体中と真空部分の電場,極板の自由電荷,容量 CA を求めよ.また,誘電体の真空側の面に現れる分極電荷の面密度を求めよ.

  2. 並列型:隙間の全厚さを満たす誘電体を,面積の半分にだけ入れた.各部分の電場と,極板の自由電荷の面密度,容量 CB を求めよ.

  3. CA と CB の大小を比べよ.εr=3 のときの値も求めよ.

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考え方 直列型では境界が極板に平行で,自由電荷の無い境界で Dn がつながるから,D が2つの層で等しい.並列型では境界が極板に垂直で,Et がつながり,どちらの部分も両極板の電位差が V だから,E が等しい.

  1. 両層の電束密度を D とすると,誘電体中は Ed=D/(εrε0),真空中は Ev=D/ε0 である.電圧は V=Ed⋅d2+Ev⋅d2=Dd2ε0(1εr+1) だから

D=2εrεr+1⋅ε0Vd,Ed=2εr+1⋅Vd,Ev=2εrεr+1⋅Vd

極板の表面で D のガウスの法則を使うと,正の極板の自由電荷の面密度は D で,Q=DS.よって

CA=QV=2εrεr+1C0

分極は P=D−ε0Ed=D(1−1εr) で,正の極板から負の極板へ向く.真空側の面の外向き法線は P と同じ向きなので,分極電荷の面密度は

σb=P=2(εr−1)εr+1⋅ε0Vd

で正である.確かめとして,この面で電場のガウスの法則を使うと ε0(Ev−Ed)=σb となり,一致する.

  1. どちらの部分でも E=V/d.電束密度は誘電体側で D=εrε0V/d,真空側で D=ε0V/d で,それぞれが極板の自由電荷の面密度に等しい.自由電荷は誘電体の側に εr 倍集まる.全電荷は Q=S2⋅(εr+1)ε0Vd だから

CB=εr+12C0

(εrC0/2 と C0/2 の並列).

  1. 差は

CB−CA=(εr+1)2−4εr2(εr+1)C0=(εr−1)22(εr+1)C0≥0

で,CB≥CA(等号は εr=1).εr=3 では CA=1.5C0,CB=2C0.直列型の真空部分の電場 1.5V/d は誘電体が無いときより強く,薄い空気の層は絶縁破壊しやすい.εr→1 では両方とも C0 に戻る.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

幅 w,長さ ℓ,間隔 d の水平な平行板コンデンサーと,隙間をちょうど満たす厚さで長さ ℓ,幅 w,質量 m,比誘電率 εr>1 の線形な誘電体板がある.板の先端を極板の端に合わせ(差し込んだ長さ x=0),静かに放す.板は極板の間を摩擦なく水平に動き,極板の反対側から抜け出すこともできる.C0=ε0wℓ/d とし,端の効果,電気抵抗による損失を無視する.電荷の移動は板の運動より十分速いとする.

長さ ℓ,幅 w の誘電体板が左から長さ x だけ入った配置を示す.極板の長さも ℓ,間隔は d である.上段は電池 V につながり,下段は充電後にスイッチを開く.求める速さや力の値は示さず,赤の矢印は板を右へ引き込む力 F の向きだけを表す. 長さ ℓ,幅 w の誘電体板が左から長さ x だけ入った配置を示す.極板の長さも ℓ,間隔は d である.上段は電池 V につながり,下段は充電後にスイッチを開く.求める速さや力の値は示さず,赤の矢印は板を右へ引き込む力 F の向きだけを表す.
  1. 電池につないで電圧を V に保つ.x=ℓ/2 での板の速さを求めよ.その間に電池がした仕事は,静電エネルギーの増加と板の運動エネルギーにどう分かれるか.

  2. x=0 で電圧 V に充電してから電池を切り離し,板を放す.x=ℓ/2 での板の速さを求め,(1)と比べよ.

  3. (1)の場合,板はその後どのように動くか.周期を求め,単振動かどうか答えよ.

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考え方 入った部分と入っていない部分は並列で,C(x)=C0[1+(εr−1)x/ℓ].電圧一定では電池の仕事 VdQ を入れたエネルギーの収支,電荷一定では静電エネルギーの減少が板の運動エネルギーになる.

  1. x=0 から ℓ/2 までの容量の増加は ΔC=(εr−1)C02.電池は電荷 VΔC を送り込み,仕事 Ws=V2ΔC をする.静電エネルギーの増加は ΔU=12V2ΔC だから,板の運動エネルギーは

12mv12=Ws−ΔU=12V2ΔC=(εr−1)C0V24

で,v1=V(εr−1)C02m.電池の仕事は半分ずつ静電エネルギーと運動エネルギーに分かれる.引き込む力は一定値 F0=V22dCdx=(εr−1)C0V22ℓ で,仕事 F0ℓ/2 とも一致する.

  1. 電荷 Q=C0V が一定である.C(ℓ/2)=εr+12C0 だから

12mv22=Q22C0−Q22C(ℓ/2)=C0V22⋅εr−1εr+1

で,v2=V(εr−1)C0(εr+1)m.比は v22v12=2εr+1<1 で,電荷一定の方が遅い.電荷一定では板が入るほど C が増えて電圧が下がり,力が弱まるからである.x=0 では両者の力は等しい.

  1. 0<x<ℓ では板は一定の力 F0 で引き込まれ,等加速度 a=F0/m で動く.x=ℓ で板は極板の間をちょうど満たし,運動エネルギー F0ℓ をもって反対側へ出始める.ℓ<x<2ℓ では重なりの長さが 2ℓ−x で,C が減るので力は −F0(引き戻す向き)になる.対称性から板は x=2ℓ で止まり,x=0 と 2ℓ の間を往復する.0 から ℓ までの時間は t1=2ℓ/a なので,周期は

T=4t1=42mℓF0

力の大きさが一定で変位に比例しないから,単振動ではない.たとえば w=ℓ=0.10m,d=1.0mm,εr=4.0,V=1.0kV では F0≈1.3×10−3N で,m=20g なら T≈6.9s とゆっくりである.

確かめ:力の式は d が w,x,ℓ−x より十分小さいときのもので,x=0,ℓ,2ℓ の近く(幅 d 程度)では力はなめらかに変わる.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

水(比誘電率 εr=80)の中に NaA+(電荷 e)と ClA−(電荷 −e)がある.水を一様な線形の誘電体とみなし,e=1.60×10−19C,14πε0=8.99×109Nm2C−2,kB=1.38×10−23JK−1,T=300K とする.

比誘電率 εᵣ = 80 の水の中に電荷 e の Na⁺ と電荷 −e の Cl⁻ を置く.(1) で用いる Na⁺ からの距離 r と,(2) のイオン間隔 r₀ を示し,求める分極電荷は示さない. 比誘電率 εᵣ = 80 の水の中に電荷 e の Na⁺ と電荷 −e の Cl⁻ を置く.(1) で用いる Na⁺ からの距離 r と,(2) のイオン間隔 r₀ を示し,求める分極電荷は示さない.
  1. NaA+ だけを水の中に置く.イオンから距離 r の電場の大きさを求めよ.また,イオンのすぐまわりの水に現れる分極電荷の和を求めよ.

  2. 距離 r0=0.28nm の NaA+ と ClA− の静電エネルギーの大きさを,真空中と水中で eV 単位で求め,kBT と比べよ.

  3. 静電エネルギーの大きさが kBT に等しくなる距離を,真空中と水中で求めよ.濃度 1mol/L の完全に電離した食塩水で,NaA+ と ClA− を合わせた数密度から見積もるイオンの間隔はおよそ何 nm か.アボガドロ定数を 6.02×1023mol−1 とする.これと比べて何が言えるか.

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考え方 イオンの電荷は自由電荷として D のガウスの法則で数え,E=D/(εrε0) で電場に直す.分極電荷は,電場のガウスの法則が数える電荷と自由電荷の差である.

  1. 半径 r の球面で 4πr2D=e だから

E=e4πεrε0r2

電場のガウスの法則で数えた面の中の電荷は ε0⋅4πr2E=e/εr なので,分極電荷の和は

Qb=eεr−e=−(1−1εr)e≈−0.99e

である.r によらないので,分極電荷は水の内部には無く,イオンに接する水の表面に集まっている.

  1. 真空中では

e24πε0r0=8.99×109×(1.60×10−19)20.28×10−9J≈8.2×10−19J≈5.1eV

水中ではその 1/80 で約 0.064eV.kBT=4.14×10−21J≈0.026eV だから,真空中では kBT の約200倍,水中では約2.5倍にすぎない.

  1. e24πεrε0r=kBT より r=e24πεrε0kBT.真空中では

r=8.99×109×(1.60×10−19)24.14×10−21m≈5.6×10−8m=56nm

水中では 1/80 で約 0.69nm.1mol/L の食塩水では,NaA+ と ClA− を合わせた数密度は n=2×6.02×1026m−3 で,間隔は n−1/3≈0.94nm である.水中ではこの程度離れた異符号のイオンの引力のエネルギーは kBT より小さく,熱運動でばらばらに動ける.真空中では,kBT と等しくなるまで約60倍の距離が必要である.

確かめ:水を連続した誘電体とみなせるのは,距離が水の分子の大きさ(約 0.3nm)より十分大きいときである.(3) の 0.69nm や 0.94nm ではおおよそ使えるが,(2) の接した距離 r0 では近似が粗く,0.064eV は桁の見積もりと考える.

ポイント ここまでのまとめ

  • 極板に平行な境界では D が共通(自由電荷の無い境界で Dn がつながる),極板に垂直な境界では E が共通(Et がつながり電圧も共通).前者は直列,後者は並列の合成になり,容量は並列型の方が大きい.

  • 電圧一定では電池の仕事 V2ΔC の半分が静電エネルギーに,半分が力学的な仕事になる.電荷一定では静電エネルギーの減少が仕事になり,力は弱まっていく.

  • 自由電荷のまわりの誘電体は,自由電荷に接する面に −(1−1/εr) 倍の分極電荷を集めて,外から見た電荷を 1/εr 倍にする.

  • 水中では εr≈80 のため,イオンの引力のエネルギーが kBT と同じ程度になる距離が約 0.7nm まで縮む.連続体の近似は分子の大きさより十分離れた所で使う.