本体の節の群速度・水面の波の速さ・反射の式を導きます.
定理 数学の道具:近い波数の波の和と群速度
分散関係 𝜔(𝑘) に従う2つの波 𝑒𝑖(𝜔±𝑡−𝑘±𝑥)(𝑘± =𝑘0 ±Δ𝑘/2,𝜔± =𝜔(𝑘±))を足し,𝑒𝑖(¯𝜔𝑡−𝑘0𝑥)(¯𝜔 =(𝜔+ +𝜔−)/2)でくくると,Δ𝜔 =𝜔+ −𝜔− として
𝑒𝑖(𝜔+𝑡−𝑘+𝑥)+𝑒𝑖(𝜔−𝑡−𝑘−𝑥)=2cosΔ𝜔𝑡−Δ𝑘𝑥2𝑒𝑖(¯𝜔𝑡−𝑘0𝑥)
である.ゆっくり変わる振幅が一定の点は Δ𝜔 𝑡 −Δ𝑘 𝑥 =一定 の上を速さ Δ𝜔/Δ𝑘 で進む.Δ𝑘 が 𝑘0 より十分小さければ,テイラー展開 𝜔± ≈𝜔(𝑘0) ±𝜔′(𝑘0)Δ𝑘/2 から
𝑣𝑔=Δ𝜔Δ𝑘→d𝜔d𝑘(𝑘=𝑘0 での値)
第2題材のうなりは,同じ場所で時間だけを見た場合(Δ𝑘 =0)にあたります.
練習1 分散関係が 𝜔2 =𝜔2𝑐 +𝑐2𝑘2(𝜔𝑐,𝑐 は正の定数)の波について,位相速度 𝑣 と群速度 𝑣𝑔 の積を求めよ.
答え 両辺を 𝑘 で微分すると 2𝜔d𝜔/d𝑘 =2𝑐2𝑘 なので 𝑣𝑔 =𝑐2𝑘/𝜔,𝑣𝑣𝑔 =𝜔𝑘 ⋅𝑐2𝑘𝜔 =𝑐2.位相速度は 𝑐 より大きく,群速度は 𝑐 より小さい(𝜔 →𝜔𝑐 で 𝑣𝑔 →0).
定理 数学の道具:次元解析
物理量の関係式では,両辺の次元(長さ L,質量 M,時間 T の指数)が一致する.関係しそうな量のべきの積で答えを書き,次元が合うように指数を決める.数の係数は決まらない.
深い水の波.水深が波長に比べて十分深ければ,波は底を感じず,𝜔 を決めうるのは 𝑔(LT−2),𝑘(L−1),水の密度 𝜌(ML−3)です.𝜔 =𝐶𝑔𝑎𝑘𝑏𝜌𝑐 とおくと,M から 𝑐 =0,T から −1 = −2𝑎,L から 0 =𝑎 −𝑏 で,𝑎 =𝑏 =12,𝜔 =𝐶√𝑔𝑘 です(流体力学では 𝐶 =1).密度が入らないのは,重力も慣性も密度に比例するからです.
浅い水の波.波長が水深より十分長ければ,水は底から水面まで一様に前後に動き,速さは 𝑔 と ℎ で決まるので,次元を合わせて 𝑣 =𝐶√𝑔ℎ(𝐶 =1)です.𝑘ℎ が中くらいなら 𝑘ℎ の関数が掛かり,次元解析では決まりません.本体の節の 𝜔2 =𝑔𝑘tanh𝑘ℎ は,tanh𝑘ℎ が 𝑘ℎ の小さいとき 𝑘ℎ,大きいとき1に近づくので,2つの極限に戻ります.
定理 数学の道具:境界の条件と複素振幅
波動方程式に従う2つの領域が点 𝑥 =0 でつながっているとき,入射波・反射波・透過波を同じ角振動数 𝜔 の複素数の波
𝑦1=(𝐴𝑖𝑒−𝑖𝑘1𝑥+𝐴𝑟𝑒𝑖𝑘1𝑥)𝑒𝑖𝜔𝑡(𝑥<0),𝑦2=𝐴𝑡𝑒𝑖(𝜔𝑡−𝑘2𝑥)(𝑥>0)
の実部で表す.境界の条件はすべての時刻で成り立つので 𝑒𝑖𝜔𝑡 が消え,𝐴𝑟,𝐴𝑡 の連立1次方程式になる.答えの絶対値が振幅の比,偏角が位相のずれを表す.
弦の接続点.張力 𝑆,線密度 𝜇1,𝜇2 の弦を質量の無い結び目でつなぎます(𝑘𝑗 =𝜔√𝜇𝑗/𝑆).
弦は切れないので,変位がつながる:𝑦1(0,𝑡) =𝑦2(0,𝑡) から 𝐴𝑖 +𝐴𝑟 =𝐴𝑡.
結び目に質量が無いので,左右の弦が引く横向きの力 −𝑆𝜕𝑦1/𝜕𝑥 と 𝑆𝜕𝑦2/𝜕𝑥 の和が0:𝜕𝑦1/𝜕𝑥 =𝜕𝑦2/𝜕𝑥(𝑥 =0)から −𝑖𝑘1𝐴𝑖 +𝑖𝑘1𝐴𝑟 = −𝑖𝑘2𝐴𝑡,つまり 𝑘1(𝐴𝑖 −𝐴𝑟) =𝑘2𝐴𝑡.
2式から 𝐴𝑡 を消して
𝐴𝑟𝐴𝑖=𝑘1−𝑘2𝑘1+𝑘2,𝐴𝑡𝐴𝑖=1+𝐴𝑟𝐴𝑖=2𝑘1𝑘1+𝑘2
です.𝑍𝑗 =√𝑆𝜇𝑗 =𝑆𝑘𝑗/𝜔 は 𝑘𝑗 に比例するので,本体の式と一致します.エネルギーの流れ 12𝑍𝜔2|𝐴|2 から,反射率と透過率は
𝑅=(𝑍1−𝑍2)2(𝑍1+𝑍2)2,T=𝑍2𝑍1⋅4𝑍21(𝑍1+𝑍2)2=4𝑍1𝑍2(𝑍1+𝑍2)2
で,𝑅 +T =1 となり,エネルギーが保存しています.結び目に質量があると 𝐴𝑟/𝐴𝑖 は複素数になり,位相が0や 𝜋 以外の値だけずれます(例題3).
例題
南米沖の地震で生じた津波が,平均の水深 4.0 ×103 m の太平洋を 1.7 ×104 km 進んで日本の沖に届いた.津波の周期を 20 分,𝑔 =9.8 ms−2 とする.
外洋での津波の速さと波長を求め,浅い水の波とみなしてよいことを確かめよ.また到達までの時間を求めよ.
外洋での振幅が 0.50 m のとき,水深 10 m の所での振幅をグリーンの法則で見積もれ.海岸線に沿う幅は変わらず,反射と散逸は無いとする.この見積もりの信頼性について述べよ.
[図:太平洋の津波の経路と水深]南米沖から日本の沖へ向かう模式的な経路に,距離1.7×10⁴ kmを示す.下の断面では左が岸,右が外洋で,水深10 mと4.0×10³ m,外洋の振幅0.50 mを示す.周期は20分.岸での振幅や速さ,到達時間などの求める値は記さない.
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考え方 波長と水深の比 𝑘ℎ で浅い水か深い水かを判断する.浅い水なら 𝑣 =√𝑔ℎ.岸に近づく間はエネルギーの流れ 12𝜌𝑔𝐴2√𝑔ℎ が一定.
𝑣 =√9.8×4.0×103 ≈2.0 ×102 ms−1.周期 𝑇 =1.2 ×103 s なので,波長は 𝜆 =𝑣𝑇 ≈2.4 ×105 m =240 km.𝑘ℎ =2𝜋 ×4.0 ×103/(2.4 ×105) ≈0.11 で十分小さく(tanh0.11 ≈0.11 で,tanh𝑘ℎ と 𝑘ℎ の差は 0.4 % ほど),浅い水の波としてよい.到達時間は
𝑡=1.7×107√9.8×4.0×103≈8.6×104s≈24時間
である.
𝐴 ∝ℎ−1/4 より
𝐴2=0.50×(4.0×10310)1/4=0.50×4001/4≈0.50×4.47≈2.2m
である.
確かめ:水深 10 m では 𝐴/ℎ ≈0.22 で,振幅が水深に比べて十分小さいとは言えず,線形の理論の限界に近い.また実際の海では,湾の形による幅の変化(𝐴 ∝𝑏−1/2),海底の急な所での反射,海底との摩擦が効く.グリーンの法則は「数倍に高くなる」という見当を与える式で,岸での波高を精密に予測するものではない.
遠くの嵐で生じたうねりが,2.0 ×103 km 離れた海岸に届いた.うねりは深い水の波 𝜔2 =𝑔𝑘 に従うとし,𝑔 =9.8 ms−2 とする.
周期 12 s のうねりの波長,位相速度,群速度を求めよ.
嵐で同時に生じた周期 12 s と 8.0 s のうねりは,海岸に何時間の差で届くか.海岸で最初に観測されるのはどちらか.
[図:異なる周期のうねりの波束]嵐から海岸までの距離は2.0×10³ km.周期12 sと8.0 sの波束を上下の独立した模式図で示す.緑の包絡線と青い山はともに海岸へ進み,山は包絡線を追い越す.上下の波束の位置は到着順を表さず,求める波長,速さ,到着時間の差は記さない.
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考え方 エネルギー(観測される波の高まり)は群速度で届く.深い水では 𝑣𝑔 =𝑣/2 =𝑔/(2𝜔) で,周期に比例する.
𝜔 =2𝜋/12 ≈0.524 rads−1.𝑘 =𝜔2/𝑔 ≈0.0280 m−1 で,波長 𝜆 =2𝜋/𝑘 ≈2.2 ×102 m.位相速度 𝑣 =𝜔/𝑘 =𝑔/𝜔 ≈1.9 ×101 ms−1,群速度 𝑣𝑔 =𝑔/(2𝜔) ≈9.4 ms−1.
群速度は 𝑣𝑔 =𝑔𝑇/(4𝜋) と周期 𝑇 に比例する.𝑇 =8.0 s では 𝑣𝑔 ≈6.2 ms−1.到達時間は
𝑡12=2.0×1069.36≈2.1×105s≈59時間,𝑡8=2.0×1066.24≈3.2×105s≈89時間
で,差は約30時間.周期の長い 12 s のうねりが先に届く.
確かめ:深い水とみなす条件は水深が波長の半分(約 110 m)より深いことで,外洋では成り立つ.位相速度で計算すると到達時間は半分になってしまうが,個々の山は波束の前の端で消えるので,その速さでは何も届かない.海岸で観測するうねりの周期が時間とともに短くなっていくことから,逆に嵐までの距離を見積もることができる.
張力 𝑆,線密度 𝜇 の同じ弦2本を,質量 𝑀 の小さな玉を結び目にしてつなぐ.左から 𝑦 =Re[𝐴𝑖𝑒𝑖(𝜔𝑡−𝑘𝑥)] の波が来る(𝐴𝑖 は正の実数,𝑘 =𝜔√𝜇/𝑆).玉は弦に垂直な向きにだけ動き,重力は無視する.
玉の位置 𝑥 =0 での2つの条件を書き,透過波の複素振幅の比 𝐴𝑡/𝐴𝑖 と反射波の比 𝐴𝑟/𝐴𝑖 を求めよ.𝑞 =𝑀𝜔/(2𝑍),𝑍 =√𝑆𝜇 を使って表せ.
反射率 𝑅 と透過率 T を求め,和が1になることを確かめよ.𝑞 =1 のとき,透過波の位相は入射波からどれだけずれるか.
振動数が低いときと高いときに,それぞれどんな反射になるか説明せよ.
[図:質量をもつ結び目と左右の張力]同じ張力Sと線密度μの弦を質量Mの玉でつなぎ,左から波が入射する.反射は左向き,透過は右向きである.下の拡大図では玉が山の側にある瞬間を描き,左右の張力は弦に沿って外向き,横成分はともに下向きである.反射・透過の振幅比や位相,運動方程式は記さない.
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考え方 変位がつながる条件は同じだが,力の条件は玉の運動方程式になる.複素振幅で書けば,時間で微分することは 𝑖𝜔 を掛けることになり,連立1次方程式になる.
𝑦1 =(𝐴𝑖𝑒−𝑖𝑘𝑥+𝐴𝑟𝑒𝑖𝑘𝑥)𝑒𝑖𝜔𝑡,𝑦2 =𝐴𝑡𝑒𝑖(𝜔𝑡−𝑘𝑥) とする.変位がつながる条件は 𝐴𝑖 +𝐴𝑟 =𝐴𝑡.玉の運動方程式は,右の弦が引く横向きの力 𝑆𝜕𝑦2/𝜕𝑥 と左の弦が引く力 −𝑆𝜕𝑦1/𝜕𝑥 から
𝑀𝜕2𝑦2𝜕𝑡2=𝑆(𝜕𝑦2𝜕𝑥−𝜕𝑦1𝜕𝑥)(𝑥=0)
である.代入すると
−𝑀𝜔2𝐴𝑡=𝑆(−𝑖𝑘𝐴𝑡+𝑖𝑘𝐴𝑖−𝑖𝑘𝐴𝑟)
となる.𝐴𝑟 =𝐴𝑡 −𝐴𝑖 を入れると右辺は 2𝑖𝑘𝑆(𝐴𝑖 −𝐴𝑡) なので
𝐴𝑡𝐴𝑖=2𝑖𝑘𝑆2𝑖𝑘𝑆−𝑀𝜔2=11+𝑖𝑀𝜔2/(2𝑘𝑆)
である.𝑍 =𝑆𝑘/𝜔 より 𝑀𝜔2/(2𝑘𝑆) =𝑀𝜔/(2𝑍) =𝑞 なので
𝐴𝑡𝐴𝑖=11+𝑖𝑞,𝐴𝑟𝐴𝑖=𝐴𝑡𝐴𝑖−1=−𝑖𝑞1+𝑖𝑞
である.
両側の弦が同じなので,エネルギーの流れの比は振幅の比の絶対値の2乗である.
T=∣11+𝑖𝑞∣2=11+𝑞2,𝑅=∣−𝑖𝑞1+𝑖𝑞∣2=𝑞21+𝑞2
で,𝑅 +T =1.玉は弦からエネルギーを受け取っても同じだけ返すので,平均では吸収しない.𝑞 =1 では 𝐴𝑡/𝐴𝑖 =1/(1 +𝑖) =1√2𝑒−𝑖𝜋/4 で,透過波の振幅は 1/√2 倍,位相は 𝜋/4 遅れる.エネルギーの半分が反射する.
振動数が低く 𝑞 が小さいと(𝑀𝜔 が 2𝑍 より十分小さい),𝐴𝑡/𝐴𝑖 ≈1 で波はほとんどそのまま通る.玉の慣性が弦の張力に比べて効かないからである.振動数が高く 𝑞 が大きいと,𝐴𝑡/𝐴𝑖 →0,𝐴𝑟/𝐴𝑖 → −1 で固定端の反射に近づく.速く揺すられた玉は慣性のために動けず,壁のようにふるまう.
確かめ:𝑀 =0 なら 𝑞 =0 で全部透過し,同じ弦をただつないだだけの結果に戻る.𝑞 の次元は kg⋅s−1/(kgs−1) で無次元である(𝑍 =√𝑆𝜇 の単位は kgs−1).玉の大きさは波長より十分小さいとした.
ポイント ここまでのまとめ
近い波数の2つの波の和の包絡線は 𝑣𝑔 =d𝜔/d𝑘 で進む.
次元解析:深い水 𝜔 ∝√𝑔𝑘,浅い水 𝑣 ∝√𝑔ℎ.係数と 𝑘ℎ の関数は決まらない.
境界の条件(変位がつながる,力のつり合いか運動方程式)を複素振幅に課すと連立1次方程式になる.接続点では 𝐴𝑟/𝐴𝑖 =(𝑍1 −𝑍2)/(𝑍1 +𝑍2),𝑅 +T =1.
結び目に質量があると反射の係数は複素数になり,位相がずれる.高い振動数ほど固定端に近づく.