問いしるべ
問いから始める物理 電荷と電場

電荷と電場

電位と静電エネルギー

著者:柚木芹香

問い

山の地形は,等高線を引いた地図1枚で分かります.等高線が混んだ所は急な斜面で,雨水は等高線に直角に流れ下ります.電場は各点に向きと大きさをもつベクトルで,目には見えません.電場についても,各点に1つの数を書き込んだ地図を作り,その「等高線」から電場の向きと強さを読み取ることはできないでしょうか.できるとすれば,その地形にはどんな決まりがあるでしょうか.

考えてみる

重力には位置エネルギーがありました.第6章では,仕事が道すじによらない力(保存力)に位置エネルギー U を決め,力を F=−∇U と取り出しました.地上の重力なら U=mgh で,地図の等高線はそのまま位置エネルギーの等しい線です.電気の力でも同じことができれば,電荷1つあたりの位置エネルギーが「電場の地図」になります.

困るのは,どんなベクトルの場にも地図が作れるわけではないことです.風呂の栓を抜いたときの渦のように,ぐるりと回る流れを考えます.流れに沿って一周すると,ずっと流れに押される向きに進むので,元の場所に戻っても押された分の仕事が0になりません.このような場では,各点の「高さ」を1つに決められません.ですから,まず静電気の力が保存力であることを確かめる必要があります.

静電気力は保存力

原点にある点電荷 Q が作る電場の中で,電荷 q を点 A から点 B まで動かします.電場は原点から放射状なので,小さな変位 dr のうち仕事に効くのは半径方向の成分 dr だけです.電場がする仕事は

WA→B=∫ABqE⋅dr=∫rArBqQ4πε0r2dr=qQ4πε0(1rA−1rB)

で,端の2点の距離だけで決まります.第10章の万有引力と同じ計算です.電荷がたくさんあっても,電場は各電荷の電場の和なので,仕事も各項の和で,やはり道すじによりません.

定理 静電場は保存場

止まった電荷の作る電場 E について,線積分 ∫ABE⋅dr は道すじによらず端点だけで決まる.同じことだが,どんな閉じた道 Γ に沿って一周しても ∫ΓE⋅dr=0 である.

電位

定義 電位

基準の点 O を決め,点 P の電位を

V(P)=−∫OPE⋅dr

と定める.電荷 q の位置エネルギーは qV である.単位は V=JC−1(ボルト).

2点の電位差(電圧)VB−VA=−∫ABE⋅dr は基準の選び方によりません.電荷 q が A から B へ動く間に電場がする仕事は −q(VB−VA) です.一方,電荷を運動エネルギーを変えずにゆっくり運ぶ外力は,電場の力と逆向きで同じ大きさなので,外力の仕事は +q(VB−VA) です.正の電荷は電位の低い方へ押され,負の電荷(電子)は電位の高い方へ引かれます.

点電荷 Q の電位は,上の計算で無限遠を基準にして

V(r)=14πε0Qr

です(k=1/(4πε0) を使えば V=kQ/r).電荷 q1,q2,… があれば,電位は各電荷の電位の和 V=∑ikqi/ri で,連続した分布なら和を積分 ∫kdq/r にします.電場はベクトルの和でしたが,電位はただの数の和なので,計算がずっと楽です.

電荷 e が電位差 1V を通って得るエネルギーを電子ボルトといい,1eV=1.60×10−19J です.原子や分子の中の電子のエネルギーは数 eV ほどです.

基準はふつう無限遠に取りますが,いつもできるわけではありません.無限に長い直線電荷(線密度 λ)では,E=λ/(2πε0r) を積分すると V=−λ2πε0ln⁡rr0 となり,r→∞ で発散します.無限に広い平面電荷でも,一様な電場の中で電位が距離に比例して変わり続けます.電荷が無限の遠くまで広がった模型では,有限の点(上の r0)を基準にします.一様な電場 E の中で,電場の向きに距離 d 離れた2点の電位差は V=Ed,つまり E=V/d です.

等電位面と勾配

電位の等しい点をつないだ面を等電位面といいます.地図の等高線にあたります.等電位面に沿って電荷を動かしても仕事は0なので,電場は等電位面に垂直です.小さな変位 dr での電位の変化は dV=−E⋅dr で,これを各成分について読むと次のようになります.

定理 電場は電位の勾配

E=−∇⁡V=−(∂V∂x, ∂V∂y, ∂V∂z)

電場は電位が最も急に下がる向きを向き,大きさはその向きの電位の傾きに等しい.等電位面が混んだ所ほど電場は強い.

∇⁡V は第6章で ∇U と書いた勾配で,数学の節でくわしく扱います.

[図:等電位線と電気力線]

初期状態は q₂/q₁ = −1 で,等しい正負の点電荷を置く.灰色の等電位線と青の電気力線を重ね,スライダーで比を −1 から +1 へ変えると,電場が0でない所で両者が直交したまま形を変える.

一周の線積分と回転(発展)

保存場であることは「どんな閉じた道でも一周の線積分が0」と言い換えられました.数学の節のストークスの定理を使うと,これは各点の性質

∇×E=0

と同じことです.回転 ∇×E は,その点のまわりの小さな道に沿った一周の線積分を,道の囲む面積で割ったものです.逆に E=−∇⁡V と書ければ,∇×∇⁡V=0 がいつも成り立ちます.第23章では,磁場が時間とともに変わると ∇×E が0でなくなり,電位だけでは電場を表せなくなることを見ます.この題材の話は「電荷が止まっている」という条件の上に立っています.

前の題材で,ガウスの法則は各点で ∇⋅E=ρ/ε0 と書けました.これに E=−∇⁡V を入れると,次の式が出ます.

法則 ポアソン方程式とラプラス方程式

∇2⁡V=∂2V∂x2+∂2V∂y2+∂2V∂z2=−ρε0

電荷の無い所では ∇2⁡V=0(ラプラス方程式).

静電場の法則は ∇⋅E=ρ/ε0 と ∇×E=0 の2つで尽きていて,電位を使うと1つの式にまとまります.

電荷の無い所に山や谷はない

電荷の無い所で電位が極大や極小になることはありません.ガウスの法則から分かります.点 P で電位が極大なら,P を囲む小さな球面ではどこでも電場が外向きで,流束が正になるので,中に正の電荷がなければなりません(極小なら負の電荷).電荷の無い所の電位の地形は,山頂も谷底もない,馬の鞍(くら)のような形の組み合わせだけです.(発展)ラプラス方程式で言えば,∇2⁡V はある点の電位がまわりの平均からどれだけずれているかを表し(数学の節),∇2⁡V=0 は「どの点の電位も,そのまわりの小さな球面上の平均に等しい」ということです.

ここからアーンショーの定理が出ます.正の電荷が安定につり合うには,位置エネルギー qV が極小,つまりほかの電荷が作る電位がその点で極小でなければなりませんが,それは起こりません.止まった電荷の力だけで,電荷を安定に浮かせておくことはできないのです.

電荷の系の静電エネルギー

点電荷 q1,q2,… を無限遠から1つずつ運んできて並べます.j 番目の電荷を運ぶ外力の仕事は,先に置いた電荷がその場所に作る電位を qj に掛けたものです.全部を並べるのに要る仕事,つまり系の静電エネルギーは

U=∑i<j14πε0qiqjrij=12∑iqiVi

です.Vi は i 番目の電荷の位置に,自分以外の電荷が作る電位です.右の式に 12 が付くのは,どの組も2回数えているからです.どの順番で並べても同じ値になります.

電気双極子

最初の題材の電気双極子を電位で見直します.双極子の性質は,モーメント p=qd(d は −q から +q へ向かうベクトル)で決まります.中心から十分遠く(d/r が1よりずっと小さい所)の電位は

V=14πε0p⋅rr3

で,1/r2 で減ります(導き方は数学の節).電場 E=−∇⁡V の中に双極子を置くと,位置エネルギーは qV(r+)−qV(r−)≈qd⋅∇⁡V です.

定理 電場の中の双極子

U=−p⋅E,τ=p×E

一様な電場では,トルク τ が p を E の向きにそろえようとし,力の和は0である.一様でない電場では,p を一定にして U を位置で微分した力 F=−∇⁡U が働く.

p が E と同じ向きなら,U=−pE は電場の強い所ほど低いので,双極子は電場の強い方へ引かれます.帯電していない髪の毛が下じきに引かれたのはこの力でした(最初の題材の F=pdE/dx).近似の条件は,双極子の長さ d が,電場が目立って変わる距離よりずっと短いことです.

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静電場では,どんな閉じた道でも一周の線積分が0なので,電位という1つの数の地図が作れます.等電位面が等高線で,電場は等電位面に垂直に,電位の高い所から低い所へ向き,等電位面が混んだ所ほど強くなります(E=−∇⁡V).この地形には決まりがあり,電荷の無い所には山頂も谷底もなく(ガウスの法則,各点の形では ∇2⁡V=0),鞍の形だけが許されます.山と谷は,電荷のある所にしかできません.

ポイント ここまでのまとめ

  • 静電場は保存場:一周の線積分は0,各点で ∇×E=0(発展).

  • 電位 V(P)=−∫OPE⋅dr,点電荷では V=Q/(4πε0r).電場のする仕事は −qΔV,ゆっくり運ぶ外力の仕事は qΔV.

  • E=−∇⁡V.等電位面と電気力線は直交する.

  • 電荷の無い所に電位の極大・極小はない(アーンショーの定理).各点の形はポアソン方程式 ∇2⁡V=−ρ/ε0(発展).

  • 静電エネルギー U=∑i<jqiqj/(4πε0rij).双極子は U=−p⋅E,トルク p×E.