本体の節で使った勾配 𝛁,回転 𝛁 ×,ラプラシアン ∇2 を,熱の流れと水の流れを例にして定義します(発散 𝛁 ⋅ とガウスの定理は前の題材の数学の節).勾配と例題1は本体の電位に使います.回転から後は(発展)で,飛ばしてかまいません.熱は高温から低温へ流れ,単位時間に単位面積を通る熱(熱流束)は温度の傾きに比例するのでした(第18章).
定理 数学の道具:勾配と演算子 ∇
温度 𝑇(𝑥, 𝑦, 𝑧) の場で,近い2点の温度差は
Δ𝑇=𝜕𝑇𝜕𝑥Δ𝑥+𝜕𝑇𝜕𝑦Δ𝑦+𝜕𝑇𝜕𝑧Δ𝑧=𝛁𝑇⋅Δ𝒓,𝛁𝑇=(𝜕𝑇𝜕𝑥, 𝜕𝑇𝜕𝑦, 𝜕𝑇𝜕𝑧)
と書ける.𝛁𝑇 を 𝑇 の勾配という.𝛁𝑇 は 𝑇 が最も急に増える向きを向き,大きさはその向きの傾きで,等温面に垂直である.熱流束のベクトルは 𝒉 = −𝜅𝛁𝑇(𝜅 は熱伝導率).演算子 ∇ =(𝜕𝜕𝑥, 𝜕𝜕𝑦, 𝜕𝜕𝑧) を使うと,勾配は ∇𝑇,発散は ∇ ⋅𝒉,次に定義する回転は ∇ ×𝒗 と書ける.
|Δ𝒓| を決めると,内積 𝛁𝑇 ⋅Δ𝒓 は Δ𝒓 が 𝛁𝑇 と同じ向きのとき最大で,等温面に沿う向きのとき0です.
定理 数学の道具:勾配の線積分
どんな道すじに沿っても
∫BA𝛁𝜓⋅d𝒓=𝜓(B)−𝜓(A)
である.とくに閉じた道を一周すると0になる.
道を小さな区間に分けると,各区間で 𝛁𝜓 ⋅Δ𝒓 =Δ𝜓 です.これを足すと途中の値が打ち消し合い,終点と始点の差だけが残ります.電位では 𝑬 = −𝛁𝑉 なので,−∫BA𝑬 ⋅d𝒓 =𝑉B −𝑉A となり,本体の電位の定義と合っています.
回転と循環(発展)
水の流れの速度の場 𝒗 について,閉じた道 Γ に沿った一周の線積分 ∫Γ𝒗 ⋅d𝒓 を循環といいます.流れが道に沿ってどれだけ回っているかの量です.𝑥𝑦 平面の中に,辺が Δ𝑥, Δ𝑦 の小さな長方形をとり,反時計回りに一周します.下の辺と上の辺では 𝑣𝑥 だけが効き,向きが逆なので,合わせて −𝜕𝑣𝑥/𝜕𝑦 Δ𝑦 Δ𝑥 です.右の辺と左の辺からは 𝜕𝑣𝑦/𝜕𝑥 Δ𝑥 Δ𝑦 が残ります.循環を面積で割ると 𝜕𝑣𝑦/𝜕𝑥 −𝜕𝑣𝑥/𝜕𝑦 で,長方形の大きさによりません.
定理 数学の道具:回転
𝛁×𝒗=(𝜕𝑣𝑧𝜕𝑦−𝜕𝑣𝑦𝜕𝑧, 𝜕𝑣𝑥𝜕𝑧−𝜕𝑣𝑧𝜕𝑥, 𝜕𝑣𝑦𝜕𝑥−𝜕𝑣𝑥𝜕𝑦)
を 𝒗 の回転という.単位ベクトル 𝒏 方向の成分は,𝒏 に垂直な小さな道を(𝒏 に対して右ねじの向きに)一周する循環を,道の囲む面積で割ったものである.
角速度 𝜔 で回る水 𝒗 =𝜔( −𝑦, 𝑥, 0) では 𝛁 ×𝒗 =(0, 0, 2𝜔) で,回転は角速度の2倍です.流線がまっすぐな 𝒗 =(𝑎𝑦, 0, 0) でも 𝛁 ×𝒗 =(0, 0, −𝑎) で,浮かべた小さな水車は回ります.反対に,栓のまわりの渦 𝒗 =Γ02𝜋(−𝑦,𝑥,0)𝑥2+𝑦2 は,中心を除けば 𝛁 ×𝒗 =0 で,水車は回りません.
[図:3つの流れに浮かべた水車]初期状態は一様な回転で,水車は流れに運ばれながら自転する.ボタンで横にずれる流れと栓のまわりの渦に切り替え,時刻スライダーや再生と停止で位置と橙の目印の向きを比べる.栓のまわりでは中心以外の水車は自転しない.
初期状態は一様な回転で,水車は流れに運ばれながら自転する.ボタンで横にずれる流れと栓のまわりの渦に切り替え,時刻スライダーや再生と停止で位置と橙の目印の向きを比べる.栓のまわりでは中心以外の水車は自転しない.
定理 数学の道具:ストークスの定理
閉じた道 Γ と,Γ を縁とする面 𝑆(法線 𝒏 は道の向きに対して右ねじの向き)について
∫Γ𝒗⋅d𝒓=∫𝑆(𝛁×𝒗)⋅𝒏d𝑆
面 𝑆 を小さな網の目に分けると,各網目の循環は (𝛁 ×𝒗) ⋅𝒏 Δ𝑆 です.全部を足すと,隣り合う網目の共通の辺は逆向きに2回通るので打ち消し合い,縁 Γ の分だけが残ります.ガウスの定理と同じ仕組みです.
勾配の回転は0(発展)
𝛁 ×𝛁𝜓 の 𝑧 成分は 𝜕𝜕𝑥𝜕𝜓𝜕𝑦 −𝜕𝜕𝑦𝜕𝜓𝜕𝑥 =0 で,偏微分の順序を入れ替えてよいので0です.ほかの成分も同じで
𝛁×𝛁𝜓=0
です.逆に,穴のない領域で 𝛁 ×𝑬 =0 なら,どんな閉じた道にもそれを縁とする面が張れるので,一周の線積分は0で,電位が作れます.第6章で保存力の判定に使った 𝜕𝐹𝑥/𝜕𝑦 =𝜕𝐹𝑦/𝜕𝑥 は,𝛁 ×𝑭 の 𝑧 成分が0という条件でした.栓のまわりの渦は,中心という穴を囲むと循環が Γ0 になり,穴のない領域という条件が要ることを示しています.同じ計算で 𝛁 ⋅𝛁 ×𝒗 =0 も出ます.
ラプラシアン(発展)
勾配の発散を ∇2𝜓 =𝛁 ⋅𝛁𝜓 =𝜕2𝜓𝜕𝑥2 +𝜕2𝜓𝜕𝑦2 +𝜕2𝜓𝜕𝑧2 と書き,ラプラシアンといいます.熱源のない物体の定常な温度では,どの小さな体積からも熱が出入りしないので 𝛁 ⋅𝒉 =0,つまり ∇2𝑇 =0 です.電荷のない所の電位と同じ式なので,同じ形の境界なら同じ形の解になります.
1次元では 𝜓″(𝑥) ≈𝜓(𝑥+ℎ)+𝜓(𝑥−ℎ)−2𝜓(𝑥)ℎ2 なので,3次元では ∇2𝜓 ≈6ℎ2(前後・左右・上下の6点の平均−𝜓(𝑥,𝑦,𝑧)) です.∇2𝜓 =0 なら,どの点の値もまわりの平均に等しく,極大も極小もありません.
球対称な 𝑉(𝑟) では,𝛁𝑉 =d𝑉/d𝑟 𝒆𝑟 の流束は半径 𝑟 の球面で 4𝜋𝑟2d𝑉/d𝑟 です.半径 𝑟 と 𝑟 +d𝑟 の球面の流束の差を殻の体積 4𝜋𝑟2d𝑟 で割ると,次の式が出ます.円筒対称でも同じようにして,軸からの距離 𝑟 について右の式になります.
∇2𝑉=1𝑟2dd𝑟(𝑟2d𝑉d𝑟) (球対称),∇2𝑉=1𝑟dd𝑟(𝑟d𝑉d𝑟) (円筒対称)
練習1 𝑘 =1/(4𝜋𝜀0) とする.点電荷の電位 𝑉 =𝑘𝑄/𝑟 の勾配から電場を求め,𝑟 ≠0 でラプラス方程式を満たすことを確かめよ.
練習2 𝒗 =(𝑦𝑧, 𝑧𝑥, 𝑥𝑦) の回転を求めよ.𝒗 =𝛁𝜓 となる 𝜓 はあるか.
練習3 半径 𝑅,総電荷 𝑄 の一様に帯電した球(密度 𝜌)の中の電位は,中の電場 𝑘𝑄𝑟/𝑅3 を表面から積分して 𝑉 =𝑘𝑄(3𝑅2 −𝑟2)/(2𝑅3) となる.ポアソン方程式を満たすことを確かめよ.
答え 練習1:𝜕𝑟/𝜕𝑥 =𝑥/𝑟 なので 𝜕𝑉/𝜕𝑥 = −𝑘𝑄𝑥/𝑟3,ほかも同じで 𝑬 =𝑘𝑄𝒓/𝑟3.𝑟2d𝑉/d𝑟 = −𝑘𝑄 は定数なので ∇2𝑉 =0.練習2:𝑥 成分は 𝜕(𝑥𝑦)/𝜕𝑦 −𝜕(𝑧𝑥)/𝜕𝑧 =𝑥 −𝑥 =0,ほかも0で 𝛁 ×𝒗 =0.𝜓 =𝑥𝑦𝑧 とすればよい.練習3:𝑟2d𝑉/d𝑟 = −𝑘𝑄𝑟3/𝑅3 なので ∇2𝑉 = −3𝑘𝑄/𝑅3 = −𝜌/𝜀0(𝜌 =3𝑄/(4𝜋𝑅3)).
例題
点 (0, 0, 𝑑/2) に電荷 +𝑞,点 (0, 0, −𝑑/2) に電荷 −𝑞 を置く.𝒑 =(0, 0, 𝑞𝑑),𝑘 =1/(4𝜋𝜀0) とする.
無限遠の電位を0とし,原点からの距離 𝑟 が 𝑑 よりずっと大きい点の電位を,𝑑/𝑟 の1次まで求めよ.
の電位から電場を求め,𝑧 軸上と 𝑥𝑦 平面上の電場を答えよ.
[図:電気双極子と遠くの点 P]z = d/2 に +q,z = −d/2 に −q を置く.原点から遠くの点 P への位置ベクトル r と電荷の間隔 d を示す.
解答を見る
考え方 距離を 𝑑/𝑟 で展開して電位を足し,それから勾配をとる.
𝑟2± =𝑟2 ∓𝑧𝑑 +𝑑2/4 なので,1次までで 1𝑟± ≈1𝑟(1±𝑧𝑑2𝑟2).
𝑉=𝑘𝑞(1𝑟+−1𝑟−)≈𝑘𝑞𝑑𝑧𝑟3=𝑘𝒑⋅𝒓𝑟3
𝑉 =𝑘𝑝𝑧(𝑥2 +𝑦2 +𝑧2)−3/2 を偏微分して
𝐸𝑥=3𝑘𝑝𝑥𝑧𝑟5,𝐸𝑦=3𝑘𝑝𝑦𝑧𝑟5,𝐸𝑧=𝑘𝑝(3𝑧2−𝑟2)𝑟5
まとめると 𝑬 =𝑘3(𝒑⋅𝒆𝑟)𝒆𝑟−𝒑𝑟3 である.𝑧 軸上では 𝐸𝑧 =2𝑘𝑝/|𝑧|3(𝒑 の向き),𝑥𝑦 平面上では 𝑬 = −𝑘𝒑/𝑟3(𝒑 と逆向き).
確かめ:|𝑧| >𝑑/2 の 𝑧 軸上で2つの点電荷の電場を直接足すと 𝐸𝑧 =2𝑘𝑞𝑑|𝑧|(𝑧2−𝑑2/4)2 ≈2𝑘𝑝|𝑧|3(1+𝑑22𝑧2) で,先頭の項は (2) と一致し,ずれの割合は 𝑑2/(2𝑧2) である.双極子の近似は 𝑑/𝑟 が十分小さいときに使え,𝑟 が 𝑑 の5倍でも誤差は2 %ほどである.
(発展)𝐸0, 𝑎 を正の定数とし,2つのベクトルの場 𝑬1 =𝐸0𝑎(𝑥, −𝑦, 0) と 𝑬2 =𝐸0𝑎( −𝑦, 𝑥, 0) を考える.
それぞれの回転を求め,止まった電荷の電場になりうるのはどちらか答えよ.
なりうる方について,原点を基準とする電位と電荷密度を求め,等電位線の形を述べよ.
もう一方について,(0, 0),(𝑎, 0),(𝑎, 𝑎),(0, 𝑎) を頂点とする正方形を反時計回りに一周する線積分を直接求め,ストークスの定理と合うことを確かめよ.
[図:2つのベクトルの場と正方形の道]左に E₁ = (E₀/a)(x,−y,0),右に E₂ = (E₀/a)(−y,x,0) の青の矢印を示す.右の橙の正方形は原点から第1象限にある辺 a の道で,反時計回りに一周する.
解答を見る
考え方 静電場なら回転が0.一周の線積分は辺ごとに計算する.
𝑧 成分だけを調べればよい.𝑬1 は 𝜕𝐸𝑦/𝜕𝑥 −𝜕𝐸𝑥/𝜕𝑦 =0,𝑬2 は 𝐸0𝑎 +𝐸0𝑎 =2𝐸0𝑎.静電場になりうるのは 𝑬1.
𝑉 = −𝐸02𝑎(𝑥2 −𝑦2) とすると −𝜕𝑉/𝜕𝑥 =𝐸0𝑥/𝑎,−𝜕𝑉/𝜕𝑦 = −𝐸0𝑦/𝑎 で 𝑬1 に一致する.𝛁 ⋅𝑬1 =𝐸0/𝑎 −𝐸0/𝑎 =0 なので 𝜌 =0,∇2𝑉 =0 である.𝑥𝑦 平面の等電位線は 𝑉 ≠0 では直角双曲線 𝑥2 −𝑦2 =一定,𝑉 =0 では2直線 𝑦 = ±𝑥 で,原点は鞍点である.
下の辺(𝑦 =0)では 𝐸𝑥 =0 で0.右の辺(𝑥 =𝑎,𝑦 を0から 𝑎 へ)では 𝐸𝑦 =𝐸0 で 𝐸0𝑎.上の辺(𝑦 =𝑎,𝑥 を 𝑎 から0へ)では 𝐸𝑥 = −𝐸0 で ∫0𝑎( −𝐸0)d𝑥 =𝐸0𝑎.左の辺(𝑥 =0)では 𝐸𝑦 =0 で0.合計 2𝐸0𝑎.回転の 𝑧 成分 2𝐸0/𝑎 に面積 𝑎2 を掛けても 2𝐸0𝑎 で,一致する.
確かめ:𝑬1 は,𝑥 軸上の2点に負の電荷,𝑦 軸上の2点に正の電荷を原点から等距離に置いたときの,中心付近の場の形で,鞍点はアーンショーの定理と合う.𝑬2 のような回る電場は,第23章で磁場が時間とともに変わる所に現れる.
ポイント ここまでのまとめ
勾配 𝛁𝜓 は 𝜓 が最も急に増える向きのベクトルで,Δ𝜓 =𝛁𝜓 ⋅Δ𝒓.勾配の線積分は端点の値の差で決まる.
(発展)回転 𝛁 ×𝒗 は,小さな道に沿った循環を面積で割ったもの.ストークスの定理 ∫Γ𝒗 ⋅d𝒓 =∫𝑆(𝛁 ×𝒗) ⋅𝒏 d𝑆.
(発展)𝛁 ×𝛁𝜓 =0.穴のない領域では,回転が0の場は勾配で書ける(保存場).
(発展)∇2𝜓 =𝛁 ⋅𝛁𝜓 はまわりの平均とのずれ.∇2𝑉 = −𝜌/𝜀0,電荷のない所では ∇2𝑉 =0.
双極子の電位は 𝑘𝒑 ⋅𝒓/𝑟3,電場は 𝑘[3(𝒑⋅𝒆𝑟)𝒆𝑟−𝒑]/𝑟3.