問いしるべ
問いから始める物理 電磁波(発展)

電磁波(発展)

真空を伝わる電磁波

著者:柚木芹香

問い

音は空気がなければ伝わりません.第25章で見たように,音は空気の圧縮と膨張が隣へ次々に伝わる波だからです.ところが太陽の光は,ほとんど何もない宇宙空間を1億5千万 km 渡って地球に届きます.途中には揺れる媒質も,電荷も電流もありません.光は何が揺れて,どうやって伝わってくるのでしょうか.

この章では,第24章でそろえた電場と磁場の4つの法則と,第25章で作った波の言葉(波動方程式,重ね合わせ,定在波)を合わせて,電磁波を導きます.この題材では,真空を伝わる電磁波の速さ,場の向き,運ぶエネルギーと運動量を調べます.次の題材「電荷の放射と光の散乱」では,電磁波がどうやって生まれるか,空が青い理由と屈折率の起源を見ます.最後の題材「電磁波の反射と透過」では,物質の境界での反射と透過を,境界で場がつながる条件から出します.ここで光が電磁波だと分かれば,第27章で光の進み方と干渉を調べる準備が整います.微分形による波動方程式の導出は数学の節にあり,本体の積分形の議論だけで先へ進んでもかまいません.「(発展)」と付けた所(光のドップラー効果,数学の節の回転の回転を使う導出)は飛ばしても後が読めます.

ポイント 第26章で使う記号

記号

意味

E, B

電場,磁場(磁束密度)

c=1/ε0μ0

真空中の光の速さ

λ, ν, ω=2πν

波長,振動数,角振動数.光の振動数は f でなく ν と書く

k=2π/λ

波数.ω=ck

E0, B0

正弦波の電場と磁場の振幅

u=uE+uB

場のエネルギー密度(単位 Jm−3)

⟨ ⟩

1周期についての時間平均

S=E×B/μ0

ポインティングベクトル(第24章,単位 Wm−2)

I

電磁波の強さ.進む向きに垂直な単位面積を単位時間に通るエネルギーの時間平均(単位 Wm−2)

E^

複素振幅.電場を E^eiωt の実部で表す(第7章・第23章と同じ)

p, P

電気双極子モーメント,放射される電力(次の題材)

n

屈折率(最後の題材)

ex, ey, ez

右手系の直交座標の単位ベクトル

面積は第24章と同じく A と書きますが,問題によっては S と書くことがあります.太字の S とその成分 Sx はポインティングベクトルです.光の圧力(放射圧)には記号を付けず,I/c のように書きます.

考えてみる

波と聞くと,揺れる何か(媒質)を思い浮かべます.19世紀の物理学者も,光を伝える見えない媒質「エーテル」が宇宙を満たしていると考えました.しかし,エーテルに対する地球の動きを光の速さの違いとして捉えようとする実験は,どれも失敗しました.光の速さはどう動く人が測っても同じで(第13章),媒質は要らないのです.

手がかりは第24章の「場は自分で伝わる」で見たことです.電荷も電流もない真空では,渦の2つの法則が「変化する磁場が電場を作る」「変化する電場が磁場を作る」と言っています.どこかで場が変化すれば,その変化がまわりに新しい場を作り,それがまた変化して…と,場が自分で自分を運んでいけそうです.けれど,言葉だけではそれが本当に成り立つのか,どんな速さで進むのかが分かりません.いちばん簡単な場合で,積分形の法則を使って確かめます.

突然流れ始めた電流が作る場

yz 平面に置いた無限に広い板に,時刻 t=0 から +y 向きの一様な電流を流し始めます.流れの向きに垂直な幅 1m あたりの電流を K(単位 Am−1)とします.もし磁場が一瞬で全空間にできるなら,板をまたぐ長方形の道にアンペールの法則(第22章)を使って,板の両側に大きさ μ0K/2 の一様な磁場ができるはずです(下で確かめます).しかし実際には,場は板から有限の速さ v で広がっていくと考えて,x>0 の側で,板から波面 x=vt までの間にだけ一様な場があり,その先は場がない,と仮定してみます.

[図:電流の板から広がる場と波面]

初期状態では波面が板の右側にあり,電場Eは−y向き,磁場Bは−z向きである.同じ領域をxy平面とxz平面から示し,破線の長方形の道が波面をまたぐ.丸の中の点は手前向き,十字は奥向きを示す.時刻tを増すと波面x = vtが右へ進み,場の領域が広がる.

対称性から,磁場は z 方向で,x>0 では −z 向きです(+y 向きの電流に右ねじの規則を使うと,ey×ex=−ez).大きさを B とします.電場は y 方向で,大きさを E とします.向きは,エネルギーが板から外へ流れ出す,つまり E×B が +x 向きになることから −y 向き,電流と逆向きです.板の電流は自分の作った電場に逆らって流れることになり,電流を流し続ける電源は仕事をしなければなりません.その仕事が,広がっていく場のエネルギーになります(数学の節の例題1).

まずファラデーの法則です.xy 平面に,y 方向の長さ L の長方形の道を,波面をまたぐように置きます.時間 dt の間に波面は vdt 進むので,道を貫く磁束は BLvdt だけ増えます.道に沿った電場の線積分は,波面の後ろの辺だけが EL を与え,x 方向の辺は電場に垂直なので寄与しません.したがって EL=BLv,つまり

E=vB

です.次にアンペール・マクスウェルの法則です.xz 平面に,z 方向の長さ L の長方形の道を,同じく波面をまたぐように置きます.板から離れているので電流は貫かず,電束が ELvdt だけ増えます.磁場の線積分は波面の後ろの辺の BL だけなので,BL=μ0ε0ELv,つまり

B=vc2E

です.2つを掛け合わせると v2=c2 で,場の面は

v=c=1ε0μ0,E=cB

で進むときに限って,2つの法則を同時に満たします.他の速さではつじつまが合いません.場の大きさは,板をまたぐ長方形の道にアンペールの法則を使えば,2BL=μ0KL から B=μ0K/2 で,E=cμ0K/2 です.

この結果は大事なことを言っています.電流が流れ始めたという知らせは,速さ c で広がります.波面の先では,場はまだ何も知りません.そして,電流を時刻 t1 に変えれば,その変化も遅れて t1+x/c に位置 x に届きます.板の電流が時間とともに K(t) と変わるなら,位置 x の電場は板の x/c だけ前の電流で決まり,E は t−x/c だけの関数,つまり第25章の f(x−vt) の形の波になります.電流を正弦波で往復させれば,正弦波の電磁波が出ていきます.

電磁波の性質

電荷も電流もない真空では,マクスウェル方程式から場の波動方程式

∇2⁡E=1c2∂2E∂t2,∇2⁡B=1c2∂2B∂t2

が出ます(数学の節).x だけによる場なら ∂2Ey∂x2=1c2∂2Ey∂t2 で,第25章の弦や音の波動方程式と同じ形です.違うのは,揺れているのが媒質ではなく場そのものであることです.

法則 真空中の平面電磁波

真空中を進む平面電磁波について

  • 速さはどの波長でも c=1/ε0μ0=3.00×108ms−1 で,c=λν=ω/k.

  • 電場と磁場は進む向きに垂直で(横波),互いにも垂直で,E×B が進む向きを向く.

  • 各点・各時刻で E=cB.

横波であることは,ガウスの法則から分かります.x 方向に進む平面波で電場に x 成分があると,x 方向に並んだ薄い箱の左右の面で電束が違い,箱の中に電荷がないことと矛盾します(一様で変わらない成分は波ではありません).磁場も同じです.電場が振動する向きを偏光の向きといい,第27章で使います.

第24章で ε0 と μ0 から計算した c が,実際に測った光の速さと一致したことから,マクスウェルは光が電磁波だと考えました.電波,赤外線,可視光,X 線はすべて同じ方程式に従う電磁波で,違うのは波長だけです.

名前

波長のおよその範囲

例

電波

1mm 以上

ラジオ,携帯電話,電子レンジ(12cm)

赤外線

1mm から 770nm

体温の熱放射(第18章)

可視光

770nm から 380nm

赤から紫

紫外線

380nm から 10nm

日焼け

X 線・γ 線

10nm 以下

レントゲン,原子核から出る光

エネルギーと強さ

第24章の場のエネルギー密度に B=E/c を入れると,uB=E22μ0c2=12ε0E2=uE で,電磁波では電場と磁場がエネルギーを各瞬間に等しく分け合います.合わせて u=ε0E2 です.ポインティングベクトルの大きさは S=EB/μ0=ε0cE2=cu で,エネルギーが速さ c で運ばれることを表します.

正弦波 Ey=E0sin⁡(ωt−kx) では sin2 の時間平均が 1/2 なので(数学の節),強さは

I=⟨S⟩=12ε0cE02=c⟨u⟩

です.大気の外の太陽光は I≈1.4×103Wm−2 です.これを1つの正弦波とみなすと E0=2I/(ε0c)≈1.0×103Vm−1,B0=E0/c≈3.4×10−6T で,地磁気の10分の1ほどの磁場が 1015Hz ほどで振動しています.

運動量と光の圧力

電磁波が電荷 q に当たると,電場が電荷を y 方向に揺すって速度 vy を与え,磁場 Bz が力 qv×B を及ぼし,その x 成分は qvyBz=qvyEy/c です.一方,電場が電荷にする仕事率は qEyvy です.したがって,各瞬間に

(進む向きの力)=(電荷が受け取る仕事率)c

が成り立ちます.電荷がエネルギー U を吸収すれば,進む向きに運動量 U/c を受け取ります.電磁波はエネルギー U とともに運動量 U/c を運ぶのです.これは第24章の場の運動量密度 g=S/c2 とも,第13章の質量のない粒子の E=pc とも合っています.

ポイント 光の圧力

強さ I の光が面に垂直に当たるとき,面が受ける圧力は

  • すべて吸収する面で I/c,

  • すべて正反対に反射する面で 2I/c(運動量が逆向きになるので変化は2倍).

斜めに当たるときは,光を受ける面積と,運動量の法線成分の両方が入射角の余弦倍になる.

太陽光の圧力は I/c≈5×10−6Pa で,大気圧の 10−11 倍ほどしかありません.それでも,薄い大きな帆を広げて進む宇宙船(ソーラーセイル)や,彗星の尾が太陽と反対へ伸びることに効いています.ここでは物体の速さが c より十分小さいとしました.速さが c に近いと,反射した光の振動数が変わり(ドップラー効果),受け取る運動量も変わります.

電子レンジの中の定在波

金属の壁に電磁波が当たると,壁の表面では電場の壁に沿う成分が0になるので(第20章の導体),向きが逆の反射波ができます.入射波と反射波が重なると,第25章の弦と同じく定在波になり,電場の節は壁から λ/2 おきに並びます.電子レンジの電波は ν=2.45×109Hz,λ=c/ν≈12cm なので,庫内には約 6cm おきに温まりにくい所ができます.ターンテーブルが食品を回すのはこのためです.

[図:反射する電場と定在波]

初期状態はt/T = 1/8で,右へ進む入射波と左へ進む反射波の和に定在波ができている.3段の縦の尺度は共通で,金属の壁では電場の和が常に0になる.時刻のスライダーと再生・停止で,節が動かず,隣り合う節の間隔がλ/2であることを確かめられる.Tは波の周期である.

光のドップラー効果(発展)

光源と観測者が速さ V で遠ざかると,観測される振動数 ν′ は光源の振動数 ν より小さくなります.音(第25章)と違い,光には媒質がないので,光源が動くか観測者が動くかの区別はなく,相対速度だけで決まります.相対論から得られる結果は,β=V/c として

ν′=ν1−β1+β

です.β が十分小さければ ν′≈ν(1−β),波長の相対変化は Δλ/λ≈β で,音のドップラー効果の式と同じ形に戻ります.遠くの銀河の光の波長は長い方へずれていて(赤方偏移),宇宙が膨張していることを示します.

近似の適用条件

この題材の平面波は理想化です.光源からの距離が考えている領域よりずっと大きく,光の束の幅が波長よりずっと大きいとき,波面を平面とみなせます.電球のすぐそばや,波長ほどの小さな穴を通った後では,この近似は使えません(次の題材と第27章).また,ここでの式は真空中のもので,物質の中では速さが c/n に変わります(最後の題材).

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光は電場と磁場が揺れる波です.揺れているのは物質ではなく場そのもので,変化する電場が磁場を作り,変化する磁場が電場を作ることで,場は媒質なしに自分で伝わります.その速さはマクスウェル方程式から c=1/ε0μ0 と決まり,光の速さと一致します.太陽の光は,宇宙空間を電場と磁場のエネルギーと運動量として運ばれてくるのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 真空では,マクスウェル方程式から場の波動方程式が出て,電磁波は速さ c=1/ε0μ0 で進む.光は電磁波である.

  • 電場と磁場は進む向きに垂直な横波で,E=cB,E×B が進む向き.

  • 電場と磁場のエネルギー密度は等しく,強さは I=12ε0cE02=c⟨u⟩.

  • 電磁波はエネルギー U とともに運動量 U/c を運び,吸収面に I/c,反射面に 2I/c の圧力を及ぼす.

  • 金属の壁で反射すると定在波ができ,電場の節は λ/2 おきに並ぶ.