問いしるべ
問いから始める物理 波と音

波と音

第25章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,弦・空気・水面の波を使って,波を語る言葉を作りました.出発点は第7章の連成振動で,ばねでつないだおもりの列の間隔を細かくした極限から波動方程式が出ます.波動方程式は線形なので,重なった波の変位は足し算になり,そこからうなりと干渉が出てきます.端で何が決まっているか(境界条件)を課すと,行きの波と帰りの波が定常波を作り,弦や気柱の振動数は飛び飛びのモードに限られます.どんな運動もモードの和で書け,その混ざり方(スペクトル)が音色を決めます.最後に,波が運ぶエネルギーの流れと,速さが波長で変わる分散のある波を扱い,エネルギーは群速度で運ばれることを見ました.

定義と法則

定義 波,横波と縦波

媒質のある所に生じた変形が,媒質を次々に伝わっていく現象を波という.媒質の各部分はもとの位置のまわりを行き来するだけで,運ばれるのは変形の形とエネルギーである.変位が進む向きに垂直な波を横波(弦の波),平行な波を縦波(音)という.縦波では密部と疎部が交互に並んで進む.

法則 1次元の波動方程式

∂2y∂t2=v2∂2y∂x2

v は「隣を押す強さ」と「慣性」の比の平方根で,波の速さである.

  • ばねの列(質量 m,ばね定数 K,間隔 a):v=aK/m.波長が a よりずっと長いときの近似で,誤差の目安は (ka)2/12.

  • 弦(張力 S,線密度 μ):v=S/μ.

  • 音(断熱変化):v=γp/ρ=γRT/Mmol.音速は圧力によらず,絶対温度の平方根に比例する.

y=F(x−vt) は形 F によらず解で,形を保って右へ進む波である.G(x+vt) は左へ進む波で,一般の解はこの2つの和である.どれも傾き |∂y/∂x| や |δp|/p が1よりずっと小さい小振幅の近似である.

公式 正弦波と音の圧力

y=Asin⁡(ωt−kx),k=2πλ,ω=2πT=2πf,v=fλ=ωk

ωt−kx を位相という.音の変位 ξ について δρ/ρ=−∂ξ/∂x,δp=−γp∂ξ/∂x=−ρv2∂ξ/∂x で,変位の節が圧力の腹になる.

法則 重ね合わせの原理

線形な波動方程式に従う媒質では,2つ以上の波が同じ場所に来たときの変位は,それぞれの波が単独で来たときの変位の和になる.重なったあと,それぞれの波は元の形のまま進む.大振幅では近似でしか成り立たない.

法則 うなり

振動数 f1,f2 の近い2つの音を重ねると,音の大きさが1秒に fbeat=|f1−f2| 回の割合で強弱を繰り返す.振幅は A1+A2 と |A1−A2| の間を行き来し,強さを長い時間で平均すると A12+A22 に比例する.

法則 ドップラー効果

空気に対する音速を v,音源から観測者へ向かう向きを正として,音源と観測者の速度の成分を us,uo とすると

f=f0v−uov−us

の振動数で聞こえる.速度はすべて空気に対するもので,風があれば v を v+w にする.斜めに動くときは,音を出した時刻の視線方向の成分を使う.音源が音より速いと,波面の包絡面が半頂角 sin⁡α=v/us の円錐になり,衝撃波ができる.

法則 端での反射と定常波

  • 固定端(変位が0):反射波の位相が π ずれる.自由端(傾きが0):同じ位相で戻る.

  • 気柱の閉口端は変位の節・圧力の腹,開口端は変位の腹・圧力の節.開口端補正は半径 r の管でおよそ 0.6r.

  • 逆向きに進む同じ振幅の波の和 y=−2Asin⁡kxcos⁡ωt は進まない定常波で,節の間隔は λ/2,節と腹の間隔は λ/4.平均すると正味のエネルギーは運ばれない.

定理 弦と気柱のモード

  • 両端固定の弦:λn=2l/n,fn=nv2l=n2lSμ(n=1,2,3,…).n=1 が基本振動.

  • 開管:f=nv/(2l).閉管:f=(2n−1)v/(4l) で奇数倍だけ.開口端補正は開いた端ごとに l に足す.

1つ1つのモードは独立な振動子で,弦や気柱は多くの振動数で共鳴する.弦のどんな運動もモードの重ね合わせで,全体は周期 2l/v で繰り返す.

法則 屈折の法則と干渉

  • 境界の両側で振動数は変わらず,sin⁡θ1sin⁡θ2=v1v2=λ1λ2.反射角は入射角に等しい.

  • 2つの波源の干渉では,位相差 δ=k(r1−r2)+α が 2mπ で強め合い,(2m+1)π で弱め合う.合成の振幅は B2=A12+A22+2A1A2cos⁡δ で,弱め合う所も振幅が等しいときだけ0になる.節線は経路差が一定の双曲線である.

定義 倍音とスペクトル

基本振動数 f1 の整数倍 nf1 の成分を倍音といい,各成分の振幅(または強さ)を振動数に対して並べたものをスペクトルという.音の高さは基本振動数で,音色は主にスペクトルの形で決まる.音程は振動数の比で決まり,オクターブは2,完全5度は 3/2,完全4度は 4/3,平均律の半音は 21/12 である.

定理 波のエネルギーの流れ

弦のエネルギー密度は e=μ2(∂y/∂t)2+S2(∂y/∂x)2,左から右へ渡す仕事率は P=−S∂y/∂x∂y/∂t である.形を変えずに進む波では運動と弾性のエネルギーが等しく,P=ev.正弦波では ⟨P⟩=12Zω2A2 で,Z=μv=Sμ を弦のインピーダンスという.

定義 分散関係と群速度

ei(ωt−kx) の形の波について,運動方程式から決まる ω と k の関係を分散関係という.v=ω/k を位相速度といい,ω/k が k によって変わる波を分散のある波という.波束の包絡線が進む速さ vg=dω/dk を群速度といい,分散のある波ではエネルギーは群速度で運ばれる(P=⟨e⟩vg).

定理 接続点での反射と透過

インピーダンス Z1,Z2 の弦の接続点では

ArAi=Z1−Z2Z1+Z2,AtAi=2Z1Z1+Z2

で,反射率 R=(Ar/Ai)2,透過率 T=(Z2/Z1)(At/Ai)2 の和は1である.Z2→∞ が固定端,Z2→0 が自由端,Z1=Z2 なら反射しない.

手順

ポイント 波の問題を解く手順

  1. 波形が与えられたら,y-x 図(波の写真,山から山が λ)か y-t 図(1点の記録,山から山が T)かを確かめる.媒質の動く向きは,波形を進む向きに少しずらして決める(∂y/∂t=−v∂y/∂x).

  2. うなりの回数からは振動数の差の大きさだけが分かる.振動数を少し動かしてうなりが増えるか減るかで,差の符号を決める.

  3. ドップラー効果では,音源から観測者へ向かう向きを正として us,uo を符号つきで書き,空気に対する速度に直す.反射体は,まず観測者として受け取り,次にその振動数の音源として出す.

  4. 定常波とモードでは,境界条件から節と腹の位置を先に決め,長さと λ/4 や λ/2 の関係を図に描く.気柱の共鳴の位置の差をとると開口端補正が消える.

  5. 境界の反射と透過は,複素振幅に「変位がつながる」「力がつり合う」の2条件を課して解く.

主な公式

  • 媒質の速度の最大値 Aω と波の速さ v は別で,比 Ak は傾きの最大値

  • 音の強さ:I=12ρvω2A2=pA22ρv,pA=ρvωA.レベル L=10log10⁡(I/I0)dB,I0=1.0×10−12Wm−2.点音源では P=4πr2I

  • 等振幅のうなり:2Acos⁡(ω1−ω22t)cos⁡(ω1+ω22t)

  • ドップラー効果の近似:us,uo が v より十分小さければ f≈f0[1+(us−uo)/v].動く人が壁の反射音と聞くうなりの回数は f0⋅2u/(v−u)≈2uf0/v

  • はじいた弦(端から b を高さ a まで引く):Bn=2al2π2b(l−b)⋅1n2sin⁡nπbl.はじいた点が節のモードは鳴らない.端の近くでは 1/n でしか減らず硬い音になる

  • 弦のモードのエネルギー:En=μlωn2(An2+Bn2)/4,全エネルギーは E=∑En.方形波は奇数倍音が 1/n,のこぎり波は全倍音が 1/n で減る

  • 水面の波:単位面積あたりの平均エネルギー 12ρgA2.深い水 ω2=gk,vg=v/2.浅い水 v=gh.一般に ω2=gktanh⁡kh.さざ波 ω∝σk3/ρ,vg=32v

  • ばねの列(質量 m,ばね定数 K,間隔 a):ω=2K/msin⁡(ka/2),上限 2K/m を超える振動数の波は進まない

  • グリーンの法則:A∝h−1/4,幅 b が狭まる湾では A∝b−1/2h−1/4

各題材の問いへの答え

  • 波動方程式と音の速さ:雷鳴として届くのは空気そのものではなく,押し縮められた状態である.空気の層が隣の層を押し,形とエネルギーだけが伝わる.速さは v=γp/ρ で,常温で約 340ms−1 なので,3秒の遅れなら雷は約 1km 先である.耳元の空気は 0.01 mm ほど行き来するだけである.

  • 重ね合わせとうなり:2本の音叉の音は耳の位置で足し合わされ,位相差 2π(f2−f1)t がゆっくり増えるので,振幅が1秒に |f1−f2| 回の割合で大きくなったり小さくなったりする.救急車の音は,近づくときは前方の波長が縮み,遠ざかるときは後方の波長が伸びるので,通り過ぎる時に f0v/(v−us) から f0v/(v+us) へ変わる.

  • 反射と定常波:弦の両端が節であるという境界条件を満たすのは,弦の長さが半波長の整数倍のときだけで,振動数は fn=nv/(2l) に限られる.どうはじいても運動はモードの和で,周期 2l/v で繰り返すので,音の高さは f1=12lS/μ で決まる.はじく強さは振幅を,はじく場所はモードの混ざり方を変えるだけである.

  • 倍音と音色:ピアノとフルートの同じ高さの音は,周期が同じで1周期の形が違う.形はフーリエ級数で倍音に分けられ,そのスペクトルが音色を決める.フルートは基本音が強く倍音が弱く,ピアノは高い倍音まで強い.

  • エネルギーと分散:津波は波長が水深よりずっと長いので外洋でも浅い水の波で,v=gh は水深 4000 m で約 200ms−1 である.浅くなると遅くなるが,エネルギーの流れ 12ρgA2gh は変わらないので,振幅は h−1/4 に比例して大きくなる.最後は振幅が水深に近づいて砕ける.

この章で使った数学

偏微分(∂y/∂x は波形の傾き,∂y/∂t は媒質の速度),差分のテイラー展開,複素数の矢印の和がありました.倍音では,三角関数の直交性からフーリエ係数 an=2T∫0Tfcos⁡nωtdt,bn=2T∫0Tfsin⁡nωtdt とパーセバルの等式 ⟨f2⟩=∑|cn|2 を導きました.分散では,近い波数の2つの波の和から群速度を出し,次元解析で水面の波の速さの形を決め,境界の条件を複素振幅に課して反射と透過を求めました.

発展の内容

  • 3次元の波(発展):四方に広がる音の圧力のずれは ∂2(δp)/∂t2=v2∇2⁡(δp) を満たす.点音源の球面波は δp=F(r−vt)/r で,振幅は 1/r,強さは 1/r2 で減る.

  • 波が運ぶ運動量(発展):光ではエネルギーの流れ P に伴って運動量の流れ P/c が運ばれる(第26章).弦や水面の波でも吸収する壁には平均して押す力が働くが,この力は振幅の2乗の量で,線形の理論だけでは決まらない.水面ではストークスの漂流がその一つの現れである.

波動方程式,重ね合わせ,境界条件とモード,インピーダンスと反射,分散と群速度は,どれも媒質の種類によらない言葉です.第26章では,ガラスの表面での光の反射をこの章の接続点と同じ考えで求めます.