問いしるべ
問いから始める物理 電磁気と波の総合演習

電磁気と波の総合演習

回路の中のエネルギー

著者:柚木芹香

第20章のコンデンサーのエネルギー,第21章の電荷保存と非線形素子,第23章の自己誘導,相互誘導,複素インピーダンスを組み合わせます.第7章の複素指数関数と,第16章の熱の収支も使います.電流を止める素子の役割と,抵抗による平衡化を区別してください.交流は複素数で解きます.

総合演習 4

オリジナル ★★★★☆

一方向の電荷移送で電圧差を残す

容量 C1,C2 のコンデンサーの下側の極板を共通に接続します.上側の極板の初電位は V1>V2≥0 です.充電用の電源を切り離した後,上側の極板間を抵抗 R>0,自己インダクタンス L のコイル,スイッチで直列に接続します.電流 I は1から2へを正とし,初め0です.C∗=C1C2/(C1+C2),Δ0=V1−V2,α=R/(2L),ω0=1/LC∗ と置き,α<ω0 とします.素子は集中定数として扱い,配線の抵抗と放射を無視します.

共通の下側導体と2つのコンデンサーを描き,上側極板間に抵抗,コイル,スイッチを直列に置く.1から2への正電流と初電位を示す. 共通の下側導体と2つのコンデンサーを描き,上側極板間に抵抗,コイル,スイッチを直列に置く.1から2への正電流と初電位を示す.
  1. 電荷保存から電位差 Δ(t) と電流 I(t) を求めよ.特性方程式を複素数の根で解いてください.十分後の共通電位と発熱も求めよ.

  2. 直列に理想ダイオードを加え,1から2への電流だけを許します.順方向の電圧降下と逆電流は0です.最初の電流0で遮断されるとして,停止後の両電位,全ジュール熱,コンデンサーに残るエネルギーを求めよ.C1=2.0μF,C2=3.0μF,L=12mH,R=20Ω,V1=12V,V2=2.0V で数値も求めよ.

  3. ダイオードの順方向に一定の電圧 Vd を消費する模型へ変えます.0<Vd<Δ0 として,停止時の電位差,ダイオードが受け取るエネルギー,抵抗の発熱を求めよ.抵抗だけの接続と損失を比較せよ.

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考え方

ダイオードは電流が0となった境界で遮断し,それまでは通常の回路の式に従う模型とする.

  1. 上側電荷は Q1=C1V1(t),Q2=C2V2(t) で,dQ1dt=−I,dQ2dt=I.よって Q1+Q2=QΣ 一定であり,Vc=QΣ/(C1+C2) と置けば

V1(t)=Vc+C2C1+C2Δ(t),V2(t)=Vc−C1C1+C2Δ(t),I=−C∗dΔdt.

回路の式 LdIdt+RI=Δ に代入すると

d2Δdt2+2αdΔdt+ω02Δ=0.

est の代入から根は s=−α±iω,ω=ω02−α2.Δ(0)=Δ0,dΔdt(0)=0 を満たす複素指数関数の実数の組合せは

Δ=Δ0e−αt(cos⁡ωt+αωsin⁡ωt),I=Δ0Lωe−αtsin⁡ωt.

全電気エネルギーは

U=QΣ22(C1+C2)+C∗Δ22+LI22,dUdt=−RI2.

十分後は Δ=I=0 で両電位が Vc,ジュール熱は H∞=C∗Δ02/2.

  1. 0<t<π/ω で I>0 なので,この間の解は(1)と同じ.ts=π/ω,r=e−πα/ω と置くと,I(ts)=0,Δs=−rΔ0<0.このあと逆電流を遮断する.最終電位は

V1s=Vc−C2C1+C2rΔ0,V2s=Vc+C1C1+C2rΔ0.

コンデンサーの残留エネルギーは QΣ2/[2(C1+C2)]+C∗r2Δ02/2,熱は Hs=C∗Δ02(1−r2)/2 である.

数値では C∗=1.2μF,Vc=6.0V,α=8.33×102s−1,ω=8.29×103s−1.計算途中の値は ts=0.379ms,r=0.729 なので,V1s≃1.6V,V2s≃8.9V.有効数字2桁で,初エネルギーは 1.5×102μJ,残留は約 1.2×102μJ,発熱は約 28μJ.ダイオードなしで十分待てば 60μJ を失う.

  1. 導通中は LdIdt+RI=Δ−Vd.w=Δ−Vd と置くと(1)と同じ方程式で,初期値を Δ0−Vd に替えればよい.停止時刻は同じで,

Δs=Vd−r(Δ0−Vd).

Δs<Vd だから再導通せず,移動した電荷は Qtr=∫0tsIdt=C∗(Δ0−Δs).従って

Wd=VdC∗(Δ0−Δs),HR=C∗2(Δ0−Vd)2(1−r2).

発熱は C∗w2/2+LI2/2 の減少を使ったものである.コンデンサーのエネルギー差は,

C∗2(Δ02−Δs2)=HR+Wd

となり,ダイオードの消費を含めて収支が合う.

理想ダイオードで R→0 なら r→1,コイルがいったん受け取ったエネルギーをコンデンサーへ返し,ダイオードが逆電流を止めるため損失は0へ近づく.抵抗だけの平衡化では差の成分を全て熱にする.一定電圧降下の模型も,その接続の損失 C∗Δ02/2 に比べて C∗Δs2/2 だけ損失が少なく,Δs=0 なら等しい.R=0 のダイオードなしの回路は振動し続ける.集中定数近似には回路長 ℓ に対し ω0ℓ/c が十分小さいことが要る.

総合演習 5

オリジナル ★★★★★

結合コイルで負荷へ渡る電力を最大にする

一次側に抵抗 R1,自己インダクタンス L1,可変容量 C を直列に置き,電圧 V(t)=V0cos⁡ωt の理想電源で駆動します.二次側はコイル L2 と可変抵抗 R2>0 の閉回路です.相互インダクタンスは M>0,M2<L1L2 とします.巻き方向と電流の正方向は,磁気エネルギーの交差項が +MI1I2 となるよう定義します.素子は線形で温度によらず,漏れ容量と放射を無視します.複素振幅を I^1,I^2 とし,実際の電流は I^jeiωt の実部です.

電源と直列の \(R_1,L_1,C\),別の閉回路の \(L_2,R_2\) を描き,相互インダクタンス \(M\) と指定された正電流の向きを示す. 電源と直列の \(R_1,L_1,C\),別の閉回路の \(L_2,R_2\) を描き,相互インダクタンス \(M\) と指定された正電流の向きを示す.
  1. 複素数で回路の式を立て,二次電流と一次の入力インピーダンスを求めよ.二次側の寄与の実部と虚部を分離せよ.

  2. 一次電流が電源と同位相となるよう C を調整します.二次電力と電源出力の平均を求めよ.R2=5.00Ω,L2=5.00mH,ω=1.00×103s−1 で,電流振幅の比が 0.566±0.006 と測定されました.他の誤差を無視し,M と誤差上限を推定せよ.位相差の予測も示せ.

  3. R1=1.0Ω,L1=10mH,L2=5.0mH,M=4.0mH,ω=1.0×103s−1,V0=4.0V とします.各 R2 ごとに C を調整するとき,二次電力を最大にする R2 と対応する C,最大電力を求めよ.一次電流の振幅を一定にする場合の最適値との違いも説明せよ.

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考え方

線形な相互誘導の模型を複素数で解き,二次電流を消去する.負荷が一次電流も変えるため,電圧一定と電流一定の最適化を分ける.

  1. Z2=R2+iωL2 と置くと,

V0=(R1+iωL1+1iωC)I^1+iωMI^2,0=Z2I^2+iωMI^1.

従って I^2=−iωMI^1/Z2 であり,

Zin=R1+i(ωL1−1ωC)+ω2M2R2+iωL2.

D=R22+ω2L22 とすると,二次側の寄与は

Rf=ω2M2R2D,Xf=−ω3M2L2D.
  1. 同位相の条件は ωL1−1/(ωC)+Xf=0 なので,

C=1ω2(L1−ω2M2L2/D),I^1=V0R1+Rf.

ω2M2L2/D<M2/L2<L1 より容量は必ず正となる.I10=|I^1| と置けば,二次電力と一次抵抗の電力は

P2=R22|I^2|2=Rf2I102,P1=R12I102.

電源の平均出力は Re⁡(V0I^1∗)/2=(R1+Rf)I102/2=P1+P2.蓄積エネルギーの周期平均は変わらない.

振幅の比を b とすれば,M=bD/ω.測定条件では D=50Ω なので,M=4.00mH,δM=0.0424mH.誤差上限を丸めて (4.00±0.05)mH と表せる.二次の一次に対する位相差は −π/2−arctan⁡(ωL2/R2)=−3π/4.

  1. 電圧振幅一定での電力は

P2=V022Rf(R1+Rf)2.

Rf に関する微分は V02(R1−Rf)/[2(R1+Rf)3].従って Rf=R1 を実現できればそこで最大である.Rf(R2) は R2=ωL2 で最大 ωM2/(2L2) となる.指定値では最大が 1.6Ω>R1 なので,整合する負荷が2つある.

R1R22−ω2M2R2+R1ω2L22=0

を解くと,有効数字2桁で R2≃1.8Ω,14Ω.未丸めの負荷を容量の式に入れると,対応する容量は約 1.4×102μF,1.0×102μF.最大電力は P2max=V02/(8R1)=2.0W である.

一次電流固定では P2=RfI102/2 より R2=ωL2=5.0Ω が最適.電圧固定では一次電流も変わる.弱結合で ωM2/(2L2)<R1 なら整合に届かず,同じ負荷が最適となる.M→0 で二次電力は0へ戻り,集中定数近似には回路長 ℓ に対し ωℓ/c が十分小さい必要がある.

総合演習 6

オリジナル ★★★★☆

漏れ電流は増えても電源のない温度には上限がある

面積 S,間隔 d の平行板コンデンサーを,比誘電率 εr の弱く導電する材料で満たします.容量は C=ε0εrS/d で温度によらず,漏れ電流は並列抵抗 R(θ)=R0e−θ/Ts で表せます.θ=T−T0 は環境温度からの上昇,Ts>0,R0=ρ0d/S,ρ0 は初期の抵抗率です.材料と極板を合わせた熱容量は Ch,温度は一様とします.この抵抗の式は 0≤θ≤3Ts の範囲で実験に合うものとします.初め θ=0 で電圧 V0 まで充電し,電源を切り離して断熱します.

容量 \(C\) と温度依存の漏れ抵抗を並列に表し,断熱容器内の材料を描く.充電用電源の切り離しと,後半の放熱部の接続を示す. 容量 \(C\) と温度依存の漏れ抵抗を並列に表し,断熱容器内の材料を描く.充電用電源の切り離しと,後半の放熱部の接続を示す.
  1. 電圧 V(t) と温度上昇 θ(t) の連立方程式を立て,全エネルギー保存から θ を V で表せ.η=CV02/(2ChTs)<3,w=V2/V02 と置き,時刻を w の定積分で表せ.初期の時定数の形状依存も調べよ.

  2. 放電中の漏れ電流が初めより増す条件,最大となる電圧を求めよ.C=2.0μF,V0=40V,R0=1.0MΩ,Ch=8.0×10−5JK−1,Ts=10K で最大電流と最終温度上昇を求めよ.

  3. 今度は同じ装置を理想電源につなぎ,電圧 Vs を一定に保ちます.環境への放熱率を Gθ として,温度平衡と安定性を調べよ.平衡が消える電圧を求め,断熱放電との違いを電源の仕事から説明せよ.式の実験的な適用範囲を越えた温度について何がいえるかも述べよ.

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考え方

孤立系では電気と熱の総エネルギーが保存し,電源につなぐと流入が加わる.

  1. 漏れ電流は I=V/R(θ) なので,

CdVdt=−VR(θ),Chdθdt=V2R(θ).

第1式に V を掛けて足すと,ddt(CV2/2+Chθ)=0.初条件から

θ=C(V02−V2)2Ch=ηTs(1−w),dwdt=−2wR0Ceη(1−w).

変数を分け,w=1 から積分すると

t=R0C2e−η∫w1eηuudu.

初期値は R0C=ρ0ε0εr で,面積と厚さが消える.熱容量が変われば放電全体は異なる.

  1. 電流は I=(V0/R0)weη(1−w).dln⁡Idw=1/(2w)−η であり,w は時間とともに減る.η>1/2 なら初めの電流は増え,w∗=1/(2η) で最大となる.η≤1/2 なら最大は初期値である.従って増加する場合,

V∗=V02η,Imax=V0R02ηeη−1/2.

数値では η=2.0,V∗=20V,Imax≃90μA.初電流 40μA より増す.最終温度上昇は θ∞=CV02/(2Ch)=20K.w→0 で定積分は対数的に発散し,電圧は有限時間で厳密な0にはならない.

  1. 電圧固定では Chdθdt=Vs2eθ/Ts/R0−Gθ.y=θ/Ts,b=Vs2/(R0GTs) とすると

dydt=GCh(bey−y),ye−y=b.

左辺は y=1 で最大 1/e となる.0<b<1/e では形式上2つの根があり,y<1 の根は安定,y>1 の根は不安定である.範囲内の根だけを予測として使う.安定性は微小偏差への係数 (G/Ch)(bey−1)=(G/Ch)(y−1) の符号から分かる.

臨界電圧は Vs,c=R0GTs/e.等号の y=1 では線形の係数は0だが,bey−y≃(y−1)2/2 なので,上からの偏差は増し,下からは近づく.両側から戻る安定性はない.b>1/e なら温度は単調に増え,少なくとも経験式の範囲を出るまで平衡はない.

熱は電源の出力 VsI が供給し,孤立系のエネルギー上限は使えない.経験式を越えた発散や破壊時刻も断定できない.温度一様には内部の熱平衡化が電気・熱の変化より速く,集中定数近似には ℓ/(cR(θ)C) が十分小さい必要がある.η→0 で通常の指数放電に戻る.