問いしるべ
問いから始める物理 電磁気と波の総合演習

電磁気と波の総合演習

動く導体と誘導

著者:柚木芹香

第23章の電磁誘導を,第4章の運動方程式,第6章のエネルギー,第7章の振動,第8章の回転と組み合わせます.導体の運動が電流を作り,その電流が運動を変えるので,起電力だけを先に計算して終わりにしないでください.落下,回転,周期駆動の収支を調べます.最後には,境界と切り替え,外力の条件も確かめます.

総合演習 10

オリジナル ★★★★☆

磁場へ落ちるコイルの電流はすぐには立ち上がらない

横幅 ℓ,高さ h,巻数 N,質量 m の長方形コイルを鉛直の案内に沿って落とします.コイル面に垂直な一様磁場 B が,水平な境界より下の半空間だけにあります.下辺が境界に達した瞬間を t=0 とし,このとき速度と電流はともに0です.下辺の下向き変位を x,下向きを正とする速度を v,磁束の増加を妨げる向きの電流を I とします.全抵抗 R と自己インダクタンス L は一定で,磁場の源は動かず,摩擦・空気抵抗・巻線間の電気容量を無視します.K=NBℓ とおき,K2/(mL)>R2/(4L2) とします.

  1. 0<x<h の連立方程式を立て,終端速度の候補 v∞ を求めよ.機械的エネルギー,磁気エネルギー,発熱の収支を,時間微分の形で示せ.

  2. α=R/(2L),ωd=K2/(mL)−α2 を用い,複素指数関数から v(t),I(t),x(t) を求めよ.m=0.020kg,K=0.20Tm,L=0.050H,R=0.20Ω,h=0.120m,g=9.8ms−2 のとき,初めて x=h に達する時刻,速さ,電流を求めよ.

  3. コイル全体が磁場に入った後の運動と電流,その後に生じる熱量を求めよ.この装置で終端速度を観測できるとは限らない理由を説明し,自己誘導を省く近似の条件を時間尺度の比で示せ.

水平な磁場境界と,そこへ下辺から入る長方形コイルを描く.下向きのx,幅ℓ,高さh,巻数N,磁場の向きと正の電流の向きを示す. 水平な磁場境界と,そこへ下辺から入る長方形コイルを描く.下向きのx,幅ℓ,高さh,巻数N,磁場の向きと正の電流の向きを示す.
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考え方

一辺だけが磁場にある間に外部磁束が変わる.一定の集中定数 R,L を使う準静的模型で,運動と回路を連立する.

  1. 外部磁束の大きさは NBℓx=Kx である.正の電流の向きを定義したので,駆動起電力は Kv.下辺への上向きの磁気力は KI となり,

mdvdt=mg−KI,LdIdt+RI=Kv,dxdt=v.

定常な候補では I∞=mg/K,従って v∞=mgR/K2 である.両式にそれぞれ v,I を掛けると,交換項 KIv が消えて

ddt(12mv2+12LI2−mgx)=−RI2.

重力の仕事が運動・磁気エネルギーと熱に分かれる.

  1. 第1式を微分し,第2式で I を消去すると

d2vdt2+RLdvdt+K2mLv=RgL.

v−v∞∝est を代入した特性方程式は s2+2αs+K2/(mL)=0 で,根は −α±iωd.実部をとった解を v=v∞+e−αt(C1cos⁡ωdt+C2sin⁡ωdt) と書く.v(0)=0,I(0)=0 より dv/dt(0)=g なので,C1=−v∞,C2=(g−αv∞)/ωd である.従って

v=v∞+e−αt[−v∞cos⁡ωdt+g−αv∞ωdsin⁡ωdt],
I=mK[g−e−αt(gcos⁡ωdt+v∞(ωd2+α2)−αgωdsin⁡ωdt)].

位置も初期値を保って積分する.D=(g−αv∞)/ωd,Q=α2+ωd2 とおくと

C(t)=∫0te−αscos⁡ωdsds=α+e−αt(−αcos⁡ωdt+ωdsin⁡ωdt)Q,
S(t)=∫0te−αssin⁡ωdsds=ωd−e−αt(αsin⁡ωdt+ωdcos⁡ωdt)Q,x=v∞t−v∞C(t)+DS(t).

数値では α=2.0s−1,ωd=6.0rads−1,v∞=0.98ms−1.x(th)=h の最初の根から

th≈0.16s,vh≈1.4ms−1,Ih≈0.39A.

速度の時間微分は dvdt=ge−αt(cos⁡ωdt+αsin⁡ωdt/ωd).この時刻までは ωdt<π/2 で正なので,v(0)=0 から速度は正となり,位置は単調増加する.電流の遅れにより終端速度の候補を上回る.

  1. 両横辺が一様磁場に入ると外部磁束は一定となり,両辺への磁気力は打ち消し合う.u=t−th≥0 とおけば

I=Ihe−Ru/L,v=vh+gu,x=h+vhu+12gu2.

残る磁気エネルギーは

Qafter=∫0∞RIh2e−2Ru/Ldu=12LIh2≈3.8×10−3J

として熱になる.未丸め値を使い,入口から全進入までの熱も(1)から Qin=mgh−mvh2/2−LIh2/2≈1.1×10−3J>0 であり,直接の ∫0thRI2dt と一致する.

終端速度の観測には,最も遅い減衰時間 τs に対し th/τs≫1 が必要だが,今回は th<1/α で終了する.自己誘導を省くには,電流応答時間 τe=L/R と抵抗だけの制動時間 τm=mR/K2 の比 τe/τm=LK2/(mR2) を十分小さくする.その場合でも出発直後の t∼τe は除く.境界幅 δ を0とする模型は,実際には δ/h が小さい極限である.次元は Kv が電圧,KI が力となり,有限の境界力によって v,I が不連続に跳ばないことも確かめられる.

総合演習 11

オリジナル ★★★★☆

回転円板からコンデンサーへ移すエネルギー

慣性モーメント J の導体円板が,固定された一様磁場 B に垂直な軸のまわりに回ります.半径 a,b の同心円上に理想的な集電接点を置き,0<a<b とします.接点間の外部回路には抵抗 R と容量 C のコンデンサーを直列に入れます.初めコンデンサーの電荷は0,円板の角速度は ω0>0 です.円板の抵抗,回路の自己インダクタンス,接点の摩擦,電荷担体の遠心力を無視します.正の回転は外側接点へ正電荷を送る向きとし,K=B(b2−a2)/2 とおきます.

  1. 径方向の運動起電力を積分で求め,円板への制動トルクが −KI となることを示せ.q を充電される極板の電荷として,ω,q の関係を求めよ.

  2. 充電中の q(t),ω(t) と時定数,十分後の回転エネルギー,静電エネルギー,全発熱を η=CK2/J で表せ.η=1 のとき,各エネルギーは初めの回転エネルギーの何倍か.

  3. 充電が終わるたびに円板を回路から切り離し,コンデンサーだけを別の抵抗で完全放電してから同じ回路へ戻します.これを n 回行った後の角速度と,二つの抵抗での累積発熱を求めよ.一度の充電と,この繰り返しで到達する状態の違いを説明せよ.

磁場に垂直な回転円板,半径aとbの集電接点,直列のRとCを描く.円板を切り離してCだけを放電する切り替え位置も示す. 磁場に垂直な回転円板,半径aとbの集電接点,直列のRとCを描く.円板を切り離してCだけを放電する切り替え位置も示す.
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考え方

動く円板の電荷へのローレンツ力を積分する.電荷と角運動量を結び,電源のない系の全エネルギーを数える.

  1. 半径 r の導体の速さは ωr で,径方向の単位電荷への力は Bωr.従って

E=∫abBωrdr=Kω.

径方向の電流が受ける接線方向の力から,幅 dr の部分のトルクは −IBrdr となる.これを積分すると Jdω/dt=−KI である.I=dq/dt を使い,初期値まで積分すれば

Jω+Kq=Jω0.

円板単独の角運動量保存ではない.

  1. 回路方程式 Rdq/dt+q/C=Kω に(1)を入れると

Rdqdt+(1C+K2J)q=Kω0.

従って τ=RC/(1+η),q∞=CKω0/(1+η) として

q=q∞(1−e−t/τ),ω=ω01+η(1+ηe−t/τ).

E0=Jω02/2 とおく.終状態の各エネルギーと熱は

Erot=E0(1+η)2,UC=q∞22C=ηE0(1+η)2,QR=ηE01+η.

途中の収支は d/dt(Jω2/2+q2/(2C))=−RI2 である.また I=q∞e−t/τ/τ を使った直接積分は QR=Rq∞2/(2τ) となり,同じ式を与える.η=1 なら回転に 1/4,コンデンサーに 1/4,熱に 1/2 が配分される.

  1. r=1/(1+η) とおけば,各回の充電で角速度が r 倍になるので ωn=rnω0.第 j 回の直前の回転エネルギーは E0r2(j−1) である.充電抵抗の熱と放電抵抗の熱はそれぞれ

Qcharge,n=η1+ηE0∑j=0n−1r2j=E01+η2+η(1−r2n),
Qdischarge,n=η(1+η)2E0∑j=0n−1r2j=E02+η(1−r2n).

和と残る E0r2n を足すと E0 に戻る.一度だけなら電圧が起電力を打ち消して回転が残り,放電するたびに再び減速できる.η>0 で n→∞ なら全初期エネルギーが熱になるが,完全な充放電も無限回の操作も理想極限である.切り替えは電流が十分小さくなってから行う.自己インダクタンスを省くには L/(Rτ) が小さく,さらに ω0b/c と装置の伝播時間を τ で割った量が十分小さいことを要する.K→0 では充電も減速も消え,η が無次元であることとも整合する.

総合演習 12

オリジナル ★★★★★

誘導による制動は抵抗を下げれば強くなるか

間隔 ℓ の水平な導体レール上を,質量 m の棒が摩擦なく動きます.棒はばね定数 κ のばねにつながり,自然長からの変位を x とします.回路には抵抗 R>0 と一定の自己インダクタンス L>0 が直列に入り,レール面に垂直な一様磁場 B が固定されています.外力 F0cos⁡ωt を加えた定常振動を考え,K=Bℓ とします.正の電流は正の速度が作る向きです.棒・レールの抵抗,機械的な減衰,電気容量を無視し,定数は変位によらないとします.

  1. 複素振幅 x^,I^ と Z=R+iωL を使い,変位と電流の振幅・位相を決める式を導け.磁気力を速度比例成分と復元力成分に分けよ.

  2. 外力の平均仕事率と抵抗の平均発熱率が等しいことを示せ.m=0.10kg,κ=10Nm−1,K=0.20Tm,L=0.20H,R=2.0Ω,F0=5.0×10−4N,ω=10rads−1 で変位・電流の振幅と平均発熱率を求めよ.

  3. 速度振幅を外部装置で一定に保つ場合,平均発熱を最大にする R を求めよ.次に外力振幅を一定にし,ω=κ/m で R を変える場合と比較せよ.大きな R へ結果を延長できるか,棒の許される変位幅 a を使って論じよ.

ばねにつながるレール上の棒と,直列のR,Lを描く.正のx,電流,磁場,周期外力だけを示す. ばねにつながるレール上の棒と,直列のR,Lを描く.正のx,電流,磁場,周期外力だけを示す.
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考え方

複素インピーダンスで電流の遅れを残すと,制動と復元力が現れる.過渡解が消えた定常状態で,固定する振幅を区別する.

  1. 実際の量を x=Re⁡(x^eiωt),I=Re⁡(I^eiωt) とする.運動と回路の式は md2∗dx2t=−κx−KI+F0cos⁡ωt,LdI/dt+RI=Kdx/dt.従って

I^=iωKZx^,x^=F0D,D=κ−mω2+iωK2R+iωL.

実部と虚部に分けると

D=dr+idi,dr=κ−mω2+ω2K2LR2+ω2L2,di=ωK2RR2+ω2L2.

変位振幅は F0/dr2+di2,位相は複素数 1/D の偏角で決まる.電流振幅は ωK|x^|/|Z|,位相は変位に対し π/2−arctan⁡(ωL/R) だけ進む.磁気力は −bedx/dt−κex と表せ,be=K2R/(R2+ω2L2),κe=ω2K2L/(R2+ω2L2) である.

  1. 複素振幅の積の実部を使うと

⟨PF⟩=12Re⁡[F0(iωx^)∗]=F02ωdi2|D|2=Rω2K2F022|Z|2|D|2=12R|I^|2.

収支も d/dt(mv2/2+κx2/2+LI2/2)=Fv−RI2 となり,一周期で蓄積エネルギーの変化が0になる.数値では Z=2+2i(単位 Ω),D=0.10+0.10i(単位 Nm−1).従って

|x^|=3.5×10−3m,|I^|=2.5×10−3A,⟨PR⟩=6.3×10−6W.

変位は外力より π/4 遅れ,電流は変位より π/4 進むので,電流と外力は同位相である.

  1. 速度振幅 v0 を固定するなら ⟨PR⟩=K2v02R/[2(R2+ω2L2)].微分の符号は ω2L2−R2 と同じなので最大は R=ωL.R→0,∞ で発熱は0になる.

一方,外力を固定して裸の固有角振動数で駆動すると κ−mω2=0 であり,

x^=F0ZiωK2,I^=F0K,⟨PR⟩=RF022K2.

制動が弱まるほど振幅と外力の供給仕事が増し,発熱も増す.ただし |x^|/a=F0|Z|/(ωK2a) が十分小さい範囲に限る.大きな R では変位範囲を超え,発散の予測は使えない.集中定数近似には ωd/c が小さいことも必要で,d は回路の最大寸法である.R→0 の κe→K2/L と R→∞ の両磁気成分0は,磁気エネルギーの蓄積と開回路の極限に合う.