問いしるべ
問いから始める物理 電磁気と波の総合演習

電磁気と波の総合演習

放射とエネルギーの流れ

著者:柚木芹香

第26章の光圧・放射を,第10章の軌道,第7章の振動,第16章の熱収支,第18章の熱放射と組み合わせます.エネルギーと運動量を別々に数えてください.熱の発展章の関係は問題に示します.最後には応答時間と近似の条件も調べます.第26章(発展)の放射の式を使う問題が多いので,第26章を飛ばした人は後回しにしてかまいません.

総合演習 16

オリジナル ★★★★☆

光に押される塵は,重力が勝っていても脱出する

質量 M,出力 P⋆ の球対称な恒星のまわりの円軌道 r0 から,半径 a,密度 ρ の小球を母天体に対する速度0で離します.球は恒星の光をすべて吸収し,熱放射の放射率は ε です.球は一様温度で,静止系の熱放射は対称です.母天体の光圧,球の質量変化と接線方向の光の力は無視します.

距離 r での入射強度は I=P⋆/(4πr2),完全吸収の圧力は I/c,球の全熱放射出力は 4πa2εσSBT4 とします.背景放射は無視します.GM=1.30×1020m3s−2,P⋆=3.60×1026W,r0=1.50×1011m,ρ=200kgm−3,ε=0.70,c=3.00×108ms−1,σSB=5.67×10−8Wm−2K−4 とします.

  1. 光圧と重力の比 β を求め,両力が等しくなる半径 ac を計算せよ.平衡温度 Te(r) も求めよ.吸収率と放射率が違う理由を述べよ.

  2. エネルギーと角運動量から束縛条件を求めよ.束縛される場合の遠点距離と,解放点・遠点での平衡温度の比を求めよ.a=10.0μm で数値を求め,力のつり合いによる判定と比べよ.

  3. 球の比熱を一定の cs=1.0×103Jkg−1K−1 とします.小さな温度差の放射緩和時間を導き,解放点で求めよ.平衡温度を追う条件と,接線方向の力を省く条件を無次元量で示せ.

恒星,母天体の円軌道r_0と解放する小球を描く.接線方向の初速度と,径方向の光圧・重力を示す. 恒星,母天体の円軌道r_0と解放する小球を描く.接線方向の初速度と,径方向の光圧・重力を示す.
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考え方

逆二乗の中心力と,一様温度・灰色の熱放射を使う.

  1. 質量は m=4πρa3/3,吸収する投影面積は πa2.従って

Frad=P⋆a24cr2,Fg=GMmr2,β=3P⋆16πcGMρa=aca.

ac=2.75×10−6m である.吸収と熱放射の平衡は

P⋆a24r2=4πa2εσSBT4,Te(r)=(P⋆16πεσSBr2)1/4.

吸収率と放射率が等しいのは同じ波長であり,恒星光と熱放射の波長域では別の値になる.

  1. 初速度は v0=GM/r0.単位質量あたりの角運動量 j=r0v0=GMr0 は保存する.ポテンシャルを −GM(1−β)/r とすれば,単位質量あたりの全エネルギーは

e=12v02−GM(1−β)r0=GMr0(β−12).

e<0,すなわち β<1/2 で束縛され,等号では無限遠で速さ0の脱出となる.1/2≤β<1 でも,初速度が新しい中心力に対して大きすぎて脱出する.

径方向の速度が0になる点では e=j2/(2r2)−GM(1−β)/r.z=r0/r を代入すると

z2−2(1−β)z+1−2β=0,(z−1)(z−(1−2β))=0.

解放点 r0 が近点で,他方は ra=r0/(1−2β).平衡温度は r−1/2 に比例するので Ta/T0=1−2β である.数値では β=0.275,ra/r0=2.23,ra=3.34×1011m,T0=299K,Ta=201K.力のつり合い半径は ac だが,解放時の脱出限界は 2ac=5.51μm となる.

  1. 全熱容量は Ch=mcs で,温度の式は

ChdTdt=P⋆a24r(t)2−4πa2εσSBT4.

距離固定で T=Te+ϑ を線形化すると

Chdϑdt=−16πa2εσSBTe3ϑ,τh=ρacs12εσSBTe3.

解放点では τh=0.16s.平衡温度の変化が緩和より遅い条件は,τh|dr/dt|/(2r) が小さいことを要する.力学の時間 r03/(GM)=5.10×106s より短く,内部熱拡散も十分速いとした.

接線方向の光の力は光圧に対し v/c 程度の補正で,解放点では v0/c=9.81×10−5 と小さい.長期には損失が蓄積する.吸収を幾何学的面積で扱うには恒星光の代表波長を a で割った量も小さくする.線形化には |ϑ|/Te も小さくする.β→0 で遠点は近点へ戻る.

総合演習 17

オリジナル ★★★★★

振動する電荷のエネルギーを熱として受け取る

電荷 q,質量 m の粒子をばね定数 κ の束縛でz方向に振動させます.ω0=κ/m,初振幅 A0 で,駆動はありません.非放射的な抵抗は −bdz/dt です.放射と抵抗は弱く,一周期の振幅変化を無視します.非相対論的な双極子の遠方電場の横成分を

Erad(r,θ,t)=qsin⁡θ4πε0c2rd2zdt2(t−r/c)

と与えます.θ は軸との角で,磁場は Brad=Erad/c,エネルギー流は外向きです.c−2=ε0μ0 とします.

  1. 球面を通る平均流を積分して全放射出力を求め,それを平均損失 br⟨(dz/dt)2⟩ と等置する br を求めよ.周期平均エネルギー E(t) と振幅 A(t) の減衰を導け.

  2. 非放射的な発熱と全放射エネルギーを求めよ.θ=π/2 の遠方に,面積 D の小さな完全吸収検出器を放射に垂直に置きます.全放射のうち検出器へ届く割合 χ を求め,振動軸上に置く場合と比べよ.

  3. 検出器の熱容量は C,背景との熱交換は小さな温度差 ϑ に対して Hϑ です.最初の放射が届く瞬間を検出器の t=0 とし,ϑ(0)=0 とします.温度の時間変化とピーク時刻を求めよ.Γ=(b+br)/m,τ=C/H として,Γτ=1 の極限も示せ.

z方向の振動電荷と,距離r,角θの検出器を描く.面積D,熱容量C,熱交換Hを示す. z方向の振動電荷と,距離r,角θの検出器を描く.面積D,熱容量C,熱交換Hを示す.
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考え方

遠方場の流れを積分し,周期平均の損失を求める.検出器の反作用は無視し,伝播時間一定,温度応答は線形とする.

  1. 一周期では z=Acos⁡ω0t,加速度の2乗平均は A2ω04/2.従って

⟨Sr⟩=ε0c⟨Erad2⟩=q2A2ω0432π2ε0c3r2sin2⁡θ.

球面の面積要素 r2sin⁡θdθdϕ で積分する.∫0πsin3⁡θdθ=4/3 より

Pr=q2A2ω0412πε0c3,br=q2ω026πε0c3.

これはほぼ単色の振動の平均制動係数である.E=mω02A2/2,⟨vz2⟩=ω02A2/2=E/m より

dEdt=−(b+br)Em=−ΓE,E=E0e−Γt,A=A0e−Γt/2,E0=12κA02.
  1. 抵抗での平均発熱率は (b/m)E(t),放射出力は (br/m)E(t).積分すると

Qb=bb+brE0,Er=brb+brE0,Qb+Er=E0.

赤道面では ⟨Sr⟩D/Pr=3D/(8πr2) なので χ=3D/(8πr2) である.入力は Pd=P0e−Γt,P0=χbrE0/m,総入射量は χEr.軸上の点では sin2⁡θ=0 で届かない.有限面積や近接場には補正が要る.

  1. Cdϑ/dt+Hϑ=P0e−Γt.積分因子 et/τ を掛け,初期値から積分すると,Γ≠1/τ では

ϑ(t)=P0Ce−Γt−e−t/τ1/τ−Γ.

微分を0として Γe−Γt∗=e−t∗/τ/τ より

t∗=ln⁡(Γτ)Γ−1/τ,ϑmax=P0He−Γt∗.

Γτ→1 では見かけの0割を極限でとり,ϑ=(P0/C)te−t/τ,t∗=τ,ϑmax=P0τ/(Ce) となる.

全収支は ∫0∞Hϑdt=P0/Γ で閉じる.

近似には Γ/ω0,A0ω0/c,c/(ω0r),D/r2 が十分小さく,線形熱交換には |ϑ|/Tb が小さいことを要する.Tb は背景温度である.H→0 で温度は χEr/C へ近づく.

総合演習 18

オリジナル ★★★★☆

光圧と温度上昇を同時に測る板

真空中の薄い板が出力 P の光をすべて垂直に受けます.光の反射率 R,透過率 T,吸収率 α=1−R−T は未知の一定値です.反射は鏡面反射,透過は直進で,再入射はありません.熱容量は C,片面積は A.ばね定数 κ で支持し,照射方向の変位を x とします.静止した定常状態を測ります.

両面は同じ温度 T,放射率 ε で,放射の反動は相殺します.背景温度は Tb=300K,支えを通る伝導損失は G(T−Tb),正味の放射損失は 2εσSBA(T4−Tb4) とします.G,ε は未知です.A=1.00×10−3m2,C=0.500JK−1,κ=1.00×10−4Nm−1,c=3.00×108ms−1,σSB=5.67×10−8Wm−2K−4 です.

  1. 光のエネルギーと運動量の流れから力を求め,定常変位 x∗ と定常温度 T∗ の式を立てよ.変位だけでは R,T が分離できない理由を説明せよ.

  2. ヒーターで温度 Tj を保ち,全損失の温度微分 hj を測りました.表から G,ε を求めよ.光のみで P=1.00W を照射すると T∗=350K,x∗=34.7μm でした.α,R,T を求め,各割合の許容範囲も確かめよ.

Tj/K

hj/WK−1

300

0.0111

400

0.0195

  1. P(t)=P+δPcos⁡Ωt,1≫|δP|/P と微小変調します.板の速度は十分小さく,運動による光のエネルギー収支の補正はこの変調による変化に比べて無視できるものとします.温度の複素振幅と,振幅が低周波値の 1/2 になる角振動数を求めよ.光圧の仕事を吸収熱から引く必要があるか説明せよ.

ばね付きの板と入射・反射・透過光,両面の熱放射を描く.A,x,T,支えの熱伝導Gとヒーターを示す. ばね付きの板と入射・反射・透過光,両面の熱放射を描く.A,x,T,支えの熱伝導Gとヒーターを示す.
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考え方

運動量から力,吸収から温度を求める.照射出力は変位によらず,速度は光速より十分小さいとする.

  1. 入射光は毎秒 P/c の正方向の運動量を運ぶ.反射光は −RP/c,透過光は TP/c を持ち去るから

F=Pc(1+R−T)=Pc(α+2R).

定常なつり合いと熱収支は

κx∗=Pc(α+2R),αP=G(T∗−Tb)+2εσSBA(T∗4−Tb4).

変位は R−T しか決めない.熱から吸収率を得れば,保存則と合わせて各割合が決まる.

  1. 校正した損失を温度で微分すると

h(T)=G+8εσSBAT3=G+HT3,H=8εσSBA.

従って横軸 T3,縦軸 h の直線の傾きと切片から

H=0.0195−0.01114003−3003WK−4=2.27×10−10WK−4,
G=h(300K)−H(300K)3=4.97×10−3WK−1,ε=H8σSBA=0.501.

未丸め値では,伝導損失は 0.2485W,放射損失は 0.3920W,従って α=0.6405.また

qF=cκx∗P=1.041,R=qF−α2=0.2003,T=1−α−R=0.1593.

丸めて α≈0.64,R≈0.20,T≈0.16.各値は0以上で和は1となる.

  1. T=T∗+ϑ とおき,ϑ=Re⁡(ϑ^eiΩt) とする.熱収支の1次の式は

Cdϑdt+h∗ϑ=αδPcos⁡Ωt,

h∗=G+HT∗3 より

ϑ^=αδPh∗+iΩC.

温度の時定数は τh=C/h∗=34.0s,低周波値に対する振幅比は 1/1+Ω2τh2.従って Ωh=1/τh=0.0294rads−1,温度は π/4 遅れる.

静止した板の仕事率は0で,吸収熱は αP.周期平均の機械的な仕事は変調振幅の2次だが,瞬間の仕事率には定常光圧と速度の積という1次項がある.従って平均だけを理由に温度の1次応答から除くことはできない.ここでは問題の条件により運動の補正を無視し,吸収熱を αP(t) と扱う.光圧の仕事をこの吸収熱から一律に引くのではなく,補正が必要なら反射光・透過光・吸収光のエネルギー収支を速度の1次まで組み直す.例えば max|v|/c が |δP|/P に比べて十分小さければ運動の補正を省ける.近似には |ϑ^|/T∗ と変位振幅の許容変位に対する比も小さいことを要する.Ω→0 で定常式の微分に戻り,C/h∗ の次元も時間となる.