問いしるべ
問いから始める物理 熱力学の法則

熱力学の法則

エントロピーとラチェットの演習

著者:柚木芹香

系と熱源のエントロピー収支を確かめましょう.配置の数は Ω と書きます.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

600K と 400K の熱源の間で,高温側から低温側へ熱 240J だけが直接移ります.各熱源と全体のエントロピー変化,高温側の減少と第二法則の関係,逆向きの可否を答えてください.

600 Kの高温熱源から400 Kの低温熱源へ,240 Jの熱だけが直接移る.熱の向きを赤い矢印で示す. 600 Kの高温熱源から400 Kの低温熱源へ,240 Jの熱だけが直接移る.熱の向きを赤い矢印で示す.
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考え方

熱源は符号つきの Q/T で計算する.

高温側は −240/600=−0.40,低温側は 240/400=0.60,全体は 0.20(単位はすべて JK−1).全体が増えれば,一部分の減少は問題ない.逆向きは全体が減り,巨視的には自発的に起こらない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

等体積の左右の箱に,番号で区別できる8個の分子があります.各分子は独立に確率 1/2 で左右にいます.左に2個の状態A,4個の状態Bの配置数・確率・左右配置のエントロピー差 SB−SA,BからAへ戻る可否を答えてください.

番号1〜8で区別できる分子の配置例を並べる.Aでは左に2個,右に6個,Bでは左右に4個ずつある.左右は等体積で,破線の中央境界は分子が通過できる. 番号1〜8で区別できる分子の配置例を並べる.Aでは左に2個,右に6個,Bでは左右に4個ずつある.左右は等体積で,破線の中央境界は分子が通過できる.
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考え方

左側の分子を選び,配置数から確率とエントロピーを求める.

配置数は ΩA=(82)=28,ΩB=(84)=70.全配置 28 で割り,確率は 7/64,35/128.Aに「右に2個」は含めない.S=kBln⁡Ω より差は kBln⁡(5/2)>0.Aの確率も0ではなく,戻りは禁止されない.少数分子では減少も観測でき,巨視的な大きな偏りは極めてまれである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

0∘C の氷 1.0×102g が,同温に保った水中でゆっくり全部融けます.熱源が熱を供給する可逆な極限とします.融解熱 3.3×102Jg−1,モル質量 18gmol−1,R=8.3Jmol−1K−1 を使ってください.

  1. 氷のエントロピー変化を求めてください.

  2. 分子1個あたり kB の何倍ですか.

  3. 微視状態数の増え方と,「1分子あたり約13倍」の意味を説明してください.

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考え方

可逆な融解では ΔS=mL/T,分子数 N には NkB=νR を使う.

  1. ΔS=100×330/273≈1.2×102JK−1.

  2. ΔS/(NkB)=18×330/(273×8.3)≈2.6.

  3. S=kBln⁡Ω より総数は約 e2.6N 倍.約13倍は総数比の N 乗根 e2.6 の実効的表現で,分子が独立に空間の居場所を13倍にした意味ではない.微視状態には速度分布や相関も含む.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

ピストンを固定した断熱シリンダーで,体積 V0,温度 T0 の理想気体の分子 N 個と,体積 3V0 の真空を仕切ります.仕切りを除き平衡にした後,断熱と固定を外し,T0 の熱源で可逆等温圧縮して V0 へ戻します.仕切りを除く仕事は無視します.

断熱しピストンを固定したシリンダーで,体積V₀,温度T₀の理想気体を体積3V₀の真空から仕切る.仕切りを除くと,気体は温度T₀のまま体積4V₀へ自由膨張する.次に断熱と固定を外し,T₀の熱源に接して外から可逆等温圧縮し,体積V₀へ戻す.圧縮では気体から熱源へ熱が移る. 断熱しピストンを固定したシリンダーで,体積V₀,温度T₀の理想気体を体積3V₀の真空から仕切る.仕切りを除くと,気体は温度T₀のまま体積4V₀へ自由膨張する.次に断熱と固定を外し,T₀の熱源に接して外から可逆等温圧縮し,体積V₀へ戻す.圧縮では気体から熱源へ熱が移る.
  1. 自由膨張の Q,W,最終温度,気体のエントロピー変化を求めてください.

  2. 圧縮の Q,W と,全過程の気体・熱源・全体のエントロピー変化を求めてください.気体を戻せば可逆ですか.

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考え方

エネルギー収支を立て,エントロピーは可逆経路で求める.

  1. 断熱・真空への膨張で Q=W=0.ΔU=0 より最終温度は T0.可逆等温経路から ΔS=NkBln⁡(4V0/V0)=NkBln⁡4.熱0でも増える.

  2. Q=W=−NkBT0ln⁡4.気体は −NkBln⁡4,熱源は NkBln⁡4 変化する.全過程では気体は0,熱源と全体は NkBln⁡4>0.投入仕事 Win=−W は熱源に残り,外界は戻らない.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

理想気体 νmol が T0 の熱源に接し,固定したピストンの下で体積 V0,温度 T0,圧力 2pe にあります.固定を外し,一定外圧 pe へ不可逆に膨張させ,熱平衡と力のつり合いを待ちます.ピストンの摩擦・熱容量は無視し,初めと終わりは静止,外への仕事は散逸なく蓄えます.

熱源T₀に接した理想気体が,初めは固定ピストンの下で体積V₀,圧力2pₑにある.固定を外して一定外圧pₑへ膨張させ,静止した終状態は温度T₀,体積2V₀,圧力pₑとなる.熱Qは熱源から気体へ,仕事Wは気体から外へ移る.途中の平衡状態やp-V経路は仮定しない. 熱源T₀に接した理想気体が,初めは固定ピストンの下で体積V₀,圧力2pₑにある.固定を外して一定外圧pₑへ膨張させ,静止した終状態は温度T₀,体積2V₀,圧力pₑとなる.熱Qは熱源から気体へ,仕事Wは気体から外へ移る.途中の平衡状態やp-V経路は仮定しない.
  1. 終体積,W,Q,系・熱源・全体のエントロピー変化を求めてください.

  2. エントロピー生成 Sgen を収支から求め,同じ両端の可逆等温膨張と比べてください.

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考え方

途中の等温は仮定せず,外圧の仕事を使う.

  1. 状態方程式より Vf=2V0.両端で ΔU=0 なので W=peV0=νRT0/2=Q.系は可逆経路から νRln⁡2,熱源は −Q/T0=−νR/2.仕事の受け手のエントロピーは不変で,全体は νR(ln⁡2−1/2) 増える.

  2. ΔS=Q/T0+Sgen より Sgen=νR(ln⁡2−1/2)>0.系内の散逸と,系と熱源の温度差による界面の生成を含む.可逆なら W=Q=νRT0ln⁡2,系は同じ,熱源は −νRln⁡2,全体と生成は0.仕事差は T0Sgen である.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

羽根側を T1=600K,爪側を T2=300K に保つラチェットを考えます.ある時間に回転を生む機構は羽根側から 120J を受け取り,外へ 45J の仕事をします.さらに軸を通って,爪側へ直接流れる熱が 30J あります.装置は初めの状態に戻ります.

羽根側はT₁=600 K,爪側はT₂=300 Kで,羽根とラチェット歯車を軸で結ぶ.回転を生む機構には羽根側から熱120 Jが入り,外へ仕事45 J,爪側へ熱75 Jが出る.別に軸を通る熱漏れ30 Jが羽根側から爪側へ直接移る.実線で機構の経路,破線で熱漏れの経路を区別する. 羽根側はT₁=600 K,爪側はT₂=300 Kで,羽根とラチェット歯車を軸で結ぶ.回転を生む機構には羽根側から熱120 Jが入り,外へ仕事45 J,爪側へ熱75 Jが出る.別に軸を通る熱漏れ30 Jが羽根側から爪側へ直接移る.実線で機構の経路,破線で熱漏れの経路を区別する.
  1. 各熱源の熱収支,装置全体の効率,両熱源のエントロピー変化の和を求めてください.

  2. 機構が受け取る熱と熱漏れの量を固定し,機構を可逆な極限にしても,全体はカルノー効率に届きますか.数値でも確かめてください.

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考え方

仕事を生む熱と熱漏れを別々に数え,熱源の収支を足す.

  1. 機構から爪側への熱は 120−45=75J.高温熱源は 150J を失い,低温熱源は 105J を受ける.効率は 45/150=0.30,エントロピー変化の和は −150/600+105/300=0.10JK−1.熱漏れで 30(1/300−1/600)=0.050JK−1 が生じる.

  2. 機構の吸熱を q>0,熱漏れを h>0 とすると,仕事の上限は q(1−T2/T1).したがって

η≤qq+h(1−T2T1)<1−T2T1

である.仕事の上限は 60J,全体の効率上限は 60/150=0.40 で,カルノー効率0.50には届かない.可逆な機構でも熱漏れの生成は残る.同温なら仕事の上限は0で,歯の形だけでは仕事は得られない.

ポイント 教える人へ

  • 系と熱源,実際と可逆経路の熱を区別します.

  • 少数系の揺らぎと巨視的な第二法則の違いを問います.

  • 温度差・熱漏れの生成と,融解の「約13倍」を説明してもらいます.