問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

運動方程式

著者:柚木芹香

問い

なめらかな床の上で,空の台車を一定の力で押すと,ある加速度で動き始めました.次に,台車に荷物を積んで全体の質量を2倍にし,先ほどと「同じ力」で押します.加速度は,空のときの何倍になるでしょうか.

もうひとつ.ここでいう「同じ力」は,どうすれば保証できるでしょうか.手で押している感覚は,力を測る道具としては頼りになりません.力の大きさを数で表すには,どうしたらよいでしょうか.まず自分で予想を立ててみてください.

考えてみる

台車と荷物を合わせた質量を2倍にすると,同じ力では動き出しが鈍くなることは,経験から分かります.加速度は半分になると予想した人が多いでしょう.その予想は正しいのですが,「同じ力で」と言い切るには,力を一定に保つ方法が要ります.

そこで,力の大きさを「ばねの伸び」で約束することにします.同じばねを同じ長さだけ伸ばせば,ばねは同じ力で引くと考えるのです.伸びを一定に保ちながらばねで台車を引けば,同じ力で引き続けられます.同じばねを2本そろえて並べて引けば,2倍の力です.

このようにして台車の質量 m とばねの本数(力の大きさ)を変えて加速度を測ると,たとえば次のような結果になります.

力(ばねの本数)

質量

加速度

1本

1.0kg

2.0ms−2

2本

1.0kg

4.0ms−2

1本

2.0kg

1.0ms−2

2本

2.0kg

2.0ms−2

3本

3.0kg

2.0ms−2

力を2倍にすれば加速度も2倍になり,質量を2倍にすれば加速度は半分になっています.最後の行を見ると,力と質量が同じ割合で増えれば,加速度は変わりません.加速度は「力に比例し,質量に反比例する」と読み取れます.最初の問いの答えは,加速度は半分になる,です.

ポイント 実験から読み取れること

  • 加速度 a は力 F に比例する.

  • 加速度 a は質量 m に反比例する.

  • 加速度の向きは,力の向きと同じである.

[図:力と加速度のグラフ]

横軸が力F(ばねの本数),縦軸が加速度aのグラフ.原点を通る直線が2本あり,質量1 kgの直線は傾き2,質量2 kgの直線は傾き1で,前者の傾きは後者の2倍.初期状態はF=2本で,a=4.0 m/s²とa=2.0 m/s²を読み取れる.スライダーでFを動かすと,どのFでも質量1 kgの加速度が質量2 kgの2倍であることが分かる.

運動方程式

以上の実験事実を,ニュートンは第2法則として式にまとめました.

法則 ニュートンの第2法則(運動方程式)

質量 m の物体に力 F が働くとき,物体の加速度 a について

ma=F

が成り立つ.複数の力が働くときは,F はそれらのベクトル和(合力)である.

質量は,「加速されにくさ」を表す量です.同じ力で押したとき,質量の大きい物体ほど加速度が小さくなります.慣性の大きさを表すこの質量を,慣性質量と呼びます.質量は物体そのものの量で,地球でも月でも宇宙空間でも変わりません.これに対して,重さ(物体に働く重力の大きさ)は,場所によって変わります.月の上では,同じ物体の重さは地球上の約6分の1になりますが,押したときの動かしにくさは同じです.

力の単位は,この式から決まります.質量 1kg の物体に 1ms−2 の加速度を生じさせる力の大きさを 1N(ニュートン)とします.

1N=1kgms−2

地表で質量 0.10kg(約100g,小さなりんご1個)の物体に働く重力は,0.10×9.8≈1N です.先ほどの表の「ばね1本」の力は,質量 1.0kg で加速度が 2.0ms−2 だったので,2.0N と分かります.

運動の勢いを表す量として,運動量 p=mv があります.ニュートン自身は,力を運動量の変化の割合として

F=dpdt

と表しました.質量が一定のとき,d(mv)dt=mdvdt=ma なので,F=ma と同じです.運動量を使う形は,衝突や質量が変わる物体を扱うときに役立ちます.ただし質量が出入りする場合は,同じ物質を追う系について立て,流れ出入りする運動量も数える必要があります.それらは後の章で扱います.

位置 x の時間微分で速度を,もう一度微分して加速度を表すと,運動方程式は

md2xdt2=F

とも書けます.力が分かれば,この式から加速度が決まり,積分を2回行って速度と位置が決まります.初期条件(最初の位置と速度)を与えれば,その後の運動がすべて決まるのです.

法則であって,定義ではない

F=ma だけを見ると,「加速度を測れば,力は ma と決まる」という,力の定義のようにも読めます.しかし,運動方程式は,それだけで終わる定義ではありません.

力には,運動方程式とは別に,その力がどう決まるかを述べる法則があります.たとえば,地表の物体に働く重力は mg であり,ばねの力は伸びに比例します.こうした「力の法則」を運動方程式に代入して初めて,その物体が将来どう動くかという予言ができます.

たとえば,質量 m の物体に重力 mg だけが働くなら,鉛直下向きを正として ma=mg,すなわち a=g となります.質量に関係なく同じ加速度になるという予言は,実験で確かめられる内容を持っています.運動方程式は,力の法則と組み合わせて,はじめて自然を言い当てる道具になるのです.

ポイント 運動方程式の使い方

運動方程式は,「力の法則(何がどんな力を及ぼすか)」と「初期条件」を与えると,運動を決める.力を知るには,別に法則が要る.

運動方程式を立てる手順

運動方程式を立てるときは,次の4つのステップをいつも同じ順に踏みます.

  1. 注目する物体を決める.運動方程式は,その物体1つについて立てる.

  2. その物体に働く力を,すべて見つける.触れているものから受ける力と,重力を数える.矢印で描いた図(この章の「力の種類」の節で学ぶ自由体図)にすると見落としにくい.

  3. 座標軸を決め,正の向きを定める.

  4. 軸の成分ごとに max=Fx,may=Fy を書き,初期条件のもとで解く.

力の見つけ方は,この章の「力の種類」の節で練習します.ここでは,力が与えられている場合から始めましょう.なお,最後に答えが極端な場合(質量が非常に大きい,など)で妥当かを確かめる「検算」も,以後の節でいつも行います.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:同じ力で質量が2倍なら,加速度は半分になる.「同じ力」は,ばねの伸びを一定に保つなどして約束する.

  • 運動方程式 ma=F:加速度は合力に比例し,質量に反比例する.向きは合力と同じである.

  • 力の単位は 1N=1kgms−2.質量は場所によらず,重さ(重力の大きさ)は場所で変わる.

  • 運動方程式は,力の法則と初期条件を与えて初めて運動を予言する道具である.力の定義ではない.

  • 立式の手順:注目する物体を決める → 働く力をすべて見つける → 座標軸を決める → 成分ごとに max=Fx を立てて解く.