問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

慣性の法則の演習

著者:柚木芹香

慣性の法則の考え方と,慣性系の見分け方を確かめる演習です.速度が 0 であることと合力が 0 であることは別のことだ,という点に気をつけてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

次の (1)〜(4) の文は,アリストテレスの見方(力は速度に比例する)とニュートンの見方(力は速度の変化に関係する)のどちらに沿った考えか,答えよ.

荷車,宇宙探査機,走る車,落とす二球を並べる.各主張がどの見方に沿うかは図に示さない. 荷車,宇宙探査機,走る車,落とす二球を並べる.各主張がどの見方に沿うかは図に示さない.
  1. 荷車は押すのをやめると止まるのだから,荷車を動かし続けるには,押し続ける必要がある.

  2. エンジンを止めた宇宙探査機は,周りに何も無い空間では,同じ速さで進み続ける.

  3. 一定の速さで直線の道を走る自動車では,エンジンが生む前向きの力と,空気抵抗などの後ろ向きの力が打ち消し合っている.

  4. 重い物体は大きな力で引かれているのだから,軽い物体よりも速く落ちる.

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  1. アリストテレスの見方.荷車が止まる原因は,押す力が無くなったことではなく,床の摩擦などの後ろ向きの力である.この文は,その力を見落としている.

  2. ニュートンの見方.力が働かなければ速度は変わらない.

  3. ニュートンの見方.等速で進むのは合力が 0 だからだと考えている.

  4. アリストテレスの見方.力の大きさをそのまま速さに結びつけている.実際には,重力が大きい物体は慣性(質量)も大きく,加速度は変わらない.この点は次の「運動方程式」の節で学ぶ.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

次の (a)〜(e) のうち,物体に働く力の合力が 0 であるものをすべて選べ.ただし,地面を慣性系とする.

等速直進するパックと車,円軌道の衛星,最高点のボール,机上の本を示す.力の矢印は描かない. 等速直進するパックと車,円軌道の衛星,最高点のボール,机上の本を示す.力の矢印は描かない.

(a) 水平でなめらかな氷の上を,一定の速さでまっすぐ滑るパック(摩擦は無視する)
(b) 直線の道路を,一定の速さで走る自動車
(c) 円軌道を,一定の速さで回る人工衛星
(d) 真上に投げたボールの,最高点に達した瞬間
(e) 机の上に静止している本

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慣性の法則より,合力が 0 であることは,物体が静止しているか等速直線運動をしている(a=0)ことと同じである.したがって (a),(b),(e) である.

(c) は,速さが一定でも向きが変わり続けるので速度が一定ではなく,加速度がある.よって合力は 0 ではない.(d) は,その瞬間の速度こそ 0 だが,加速度は重力加速度 g のままで,合力は重力 mg である.「速度が 0」と「合力が 0」は別のことである.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

次の基準系のうち,慣性系とみなせるものをすべて選び,選ばなかったものについては理由を述べよ.ただし,地面は慣性系とする.

直進する電車と船,発進する電車,回転するカップ,カーブの電車を並べる.慣性系の判定は示さない. 直進する電車と船,発進する電車,回転するカップ,カーブの電車を並べる.慣性系の判定は示さない.

(a) 一定の速さで直線の線路を走る電車
(b) 発進して加速している最中の電車
(c) 一定の速さで直進する船の甲板
(d) 一定の速さで回っている遊園地のコーヒーカップ
(e) 急なカーブを曲がっている電車

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慣性系に対して等速直線運動をする基準系だけが慣性系である.したがって (a) と (c) が慣性系である.

(b) は加速しているので慣性系ではない.(d) は,円運動なので速さが一定でも向きが変わり続けており,加速度運動である.よって慣性系ではない.(e) も同じ理由で,カーブを曲がる電車は加速度運動をしており,慣性系ではない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

水平な台の上に,滑らかな小球が静止して置かれている.台とともに動く観測者が見ていると,小球は時刻 0 に静止していたが,その後,右向きに一定の加速度 a0 で動き始めた.小球と台の間の摩擦は無く,他の水平方向の力も働いていないとする.この台は,慣性系に対してどのような運動をしているか.

台とともに動く観測者から見た,小球の右向き加速度a₀を示す.台自体の運動の答えは描かない. 台とともに動く観測者から見た,小球の右向き加速度a₀を示す.台自体の運動の答えは描かない.
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慣性系(地面)から見ると,小球には水平方向の力が働かないので,小球は静止したまま(または等速直線運動を続ける)である.台の上の観測者から見て小球が右向きに加速度 a0 を持つのは,台のほうが加速しているからである.

台に対する小球の加速度は,(地面から見た小球の加速度)−(地面から見た台の加速度)であり,前者は 0 なので,台の加速度は左向きに大きさ a0 となる.よって,台は慣性系に対して,左向きに加速度 a0 で加速している.台の上の観測者は慣性系にいない.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

エンジンを止めて宇宙空間を慣性運動する宇宙船があり,この宇宙船は慣性系とみなせる.船内では,船尾側の面を「床」として使っている.その後,エンジンを噴かし,宇宙船が進行方向に一定の加速度 A=2.0ms−2 で加速し始めた.船内で,床から高さ h=1.0m の位置にボールを静かに放した(放した瞬間,ボールは船に対して静止している).ボールは船内の人から見るとどう動くか.床に達するまでの時間も求めよ.ただし,船内では重力は無視でき,ボールの運動にエンジンの噴射は直接は影響しないとする.

船尾を床とする宇宙船の初期状態.船尾から距離hの球と,船の加速度Aを示す.球がその後どう動くかは描かない. 船尾を床とする宇宙船の初期状態.船尾から距離hの球と,船の加速度Aを示す.球がその後どう動くかは描かない.
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考え方 まず,船の外の慣性系から,ボールと船の運動を別々に見る.

ボールには力が働かないので,慣性の法則から,放した瞬間の速度 v0(船の速度と同じ)で等速直線運動を続ける.一方,船の床は加速度 A で加速するので,床はボールのほうへ近づいてくる.

船内の人から見たボールの運動は,床に対する相対運動である.床は船の進行方向に加速するので,船内の人から見ると,ボールは進行方向と逆向き(床に向かう向き)に,大きさ A の加速度で動くように見える.つまりボールは,一定の加速度 A で「落ちる」.

時間は h=12At2 から

t=2hA=2×1.02.0=1.0s

である.この結果は,重力加速度 g の下で物体が落ちる運動と同じ形をしている.

演習 6

オリジナル ★★☆☆☆

一定の速さ v0 で走っていた電車が,時刻 0 から進行方向に一定の加速度 a=1.5ms−2 で加速し始めた.時刻 0 に,天井の高さ h=2.0m の位置から,ボールを電車に対して静止した状態で静かに放した.重力加速度を g=9.8ms−2 とし,空気抵抗は無視する.

  1. ボールが床に達するまでの時間を求めよ.

  2. ボールは,放した位置の真下の点に対して,床の上でどれだけずれた所に落ちるか.ずれの向きも答えよ.

天井から球を放した瞬間の車内を示す.高さh,電車の初速度v₀と加速度aを示し,落下位置は描かない. 天井から球を放した瞬間の車内を示す.高さh,電車の初速度v₀と加速度aを示し,落下位置は描かない.
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考え方 地面から見ると,ボールの水平方向には力が働かないので,水平速度は v0 のまま変わらない.一方,電車は加速する.この差が,電車の中で見えるずれになる.

  1. 鉛直方向は重力だけを受ける自由落下で,h=12gt2 より

t=2hg=2×2.09.8≈0.64s

である.

  1. 時間 t の間に,ボールは水平に v0t 進む.電車は v0t+12at2 進むので,電車に対するボールの水平方向のずれは 12at2 だけ後ろ(進行方向と逆向き)になる.

12at2=12a⋅2hg=ahg=1.5×2.09.8≈0.31m

よって,ボールは真下の点から約 0.31m だけ後ろに落ちる.

ポイント 教える人へ

  • 問いかけ:「摩擦を無くしたら,パックはどうなる?」と聞き,答えのあとに「では,押し続けないと止まるのはなぜ?」と戻すと,見かけの力と本当の力の区別が育つ.

  • つまずき:「速度が 0 の瞬間は合力も 0」という思い違い(最高点の例).「等速円運動は力が要らない」という思い違い.慣性は「物体が持つ力」ではなく,「速度を保つ性質」であると言い直させる.

  • 確かめ方:電車の中のボールの例を,慣性系と非慣性系の両方から説明させる.自分の言葉で,「だれから見ているか」を先に言えれば,理解できている.