問いしるべ
問いから始める物理 物理の見方

物理の見方

見積もりの演習

著者:柚木芹香

仮定を自分で決めて桁を出す演習です.答えを見る前に,使う量とその概算値を先に書き出してください.

演習

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

安静時の心拍数を毎分 70 回として,1 年間の心拍数と,80 年間の心拍数を見積もれ.また,1 回の拍動で送り出す血液を 70mL として,一生に送り出す血液の体積を求めよ.

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考え方 1分→1日→1年→一生と,時間の単位を順に掛けていく.血液は(1回の量)×(回数)である.

1 日は 60×24=1440 分なので,1 日の心拍数は 70×1440≈1.0×105 回.1 年は 365 日なので 1.0×105×365≈3.7×107 回.80 年では 3.7×107×80≈3×109 回である.

送り出す血液は 70mL=7×10−5m3 に 3×109 を掛けて 2×105m3,東京ドームの約 0.2 個分である.

答え:1 年で約 4×107 回,80 年で約 3×109 回.血液は約 2×105m3.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

髪の毛の端と端をつないで,地球を赤道に沿って 1 周させたい.髪の毛は何本必要か.髪の毛 1 本の長さは自分で決め,その理由も述べよ.また,頭髪が 1 人あたり約 105 本として,何人分の髪の毛にあたるかを答えよ.

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考え方 (地球一周の長さ)÷(髪1本の長さ)で本数が出る.髪1本の長さは,上下の限界で挟んで決める.

赤道の長さは 2πR=2π×6.4×106≈4.0×107m.髪の毛 1 本の長さは 0.1m から 0.5m くらいなので,幾何平均に近い 0.2m をとる.本数は

4.0×1070.2=2×108 本

である.1 人あたり 105 本なら,2×108/105=2×103 人分,つまり 2000 人ほどの髪の毛で足りる.

答え:約 2×108 本,約 2000 人分.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

東京 23 区(面積 6×102km2)に,1 日の降水量 50mm の大雨が一様に降った.降った雨の質量と体積を見積もり,東京ドーム何個分かを答えよ.

面積Sの地面に厚さdの雨水がたまった断面.dは50 mmである. 面積Sの地面に厚さdの雨水がたまった断面.dは50 mmである.
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考え方 雨の体積は(面積)×(降水量=水の層の厚さ)である.長さの単位を m にそろえてから掛ける.

面積を m² にそろえる.6×102km2=6×102×106m2=6×108m2.降水量 50mm=0.05m は,その面積の上に厚さ 0.05m の水の層ができる量である.体積は

6×108×0.05=3×107m3

質量は,水の密度 103kgm−3 を掛けて 3×1010kg(3×107 トン)である.東京ドームの容積 1.2×106m3 で割ると,3×107/(1.2×106)=25 個分となる.

答え:質量約 3×1010kg,体積約 3×107m3,東京ドーム約 25 個分.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

屋根の上に受光面積 4m2 の太陽熱温水器を置く.日中の平均の日射を 0.6kWm−2 とし,受けた光の 50 % が水に伝わるとする.水 200L を 20∘C から 50∘C にするのに,何時間かかるか.水の比熱は 4.2Jg−1K−1 とし,水 1L は 1kg とする.

日射が受光面積4 m²の集熱面に当たり,200 Lの水を温める. 日射が受光面積4 m²の集熱面に当たり,200 Lの水を温める.
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考え方 必要な熱(質量×比熱×温度差)を,水に伝わる出力(面積×日射×割合)で割れば時間になる.

必要な熱は,水の質量 2×105g,比熱 4.2Jg−1K−1,温度差 30K の積で

Q=2×105×4.2×30≈2.5×107J

である.水に伝わる熱の出力は,4m2×600Wm−2×0.5=1.2×103W.時間は

t=QP=2.5×1071.2×103≈2.1×104s≈5.8 時間

となる.

答え:約 6 時間.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

地球の大気全体の質量を見積もれ.ただし,水深 10m で水圧が大気圧と同じ程度になる(水 10m 分の重さが,大気全体の柱の重さに等しい)ことを使ってよい.また,空気の密度が高さによらず 1.2kgm−3 だとしたら,大気の厚さをいくらとすればこの結果と合うかを求めよ.

底面積がともに1 m²の大気柱と高さ10 mの水柱を比べる.柱の高さの縮尺は異なる. 底面積がともに1 m²の大気柱と高さ10 mの水柱を比べる.柱の高さの縮尺は異なる.
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考え方 水柱と大気の柱が同じ重さであることから,地表 1m2 あたりの空気の質量を出し,地球の表面積を掛ける.

地表の面積 1m2 の上に,水柱なら高さ 10m,すなわち体積 10m3 で質量 104kg の水がのる.大気の柱も同じ重さなので,面積 1m2 あたりの空気の質量は約 104kg.地球の表面積は 4πR2=4π×(6.4×106)2≈5.1×1014m2 なので,大気の質量は

104×5.1×1014≈5×1018kg

である.地球の質量 6×1024kg の約 10−6 にすぎない.

密度が一様だとすると,1m2 の柱の質量は(密度)×(厚さ)なので,厚さは 104/1.2≈8×103m,つまり約 8km になる.実際の大気は上空ほど薄くなりながら 100km 以上続くが,この 8km は質量の大部分が集まる「実質的な厚さ」を表す.

答え:約 5×1018kg.一様密度なら厚さ約 8km.

演習 6

オリジナル ★★★☆☆

日本の自動車(約 8×107 台)のタイヤが,路面との摩擦で 1 年間にすり減らす質量を見積もれ.必要な量は自分で仮定し,その値を書け.ヒント:タイヤは溝が浅くなると交換される.減る溝の深さ,路面に触れる面(外周と幅の帯)の面積,ゴムの密度から,タイヤ 1 本の減る量を求めよ.

タイヤ側面と表面を帯に広げた模型.外周2.0 m,幅0.2 m,減る深さ6 mmを示す. タイヤ側面と表面を帯に広げた模型.外周2.0 m,幅0.2 m,減る深さ6 mmを示す.
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考え方 タイヤ1本の減る体積を(面積)×(減る深さ)で出し,台数と走行距離に広げていく.仮定はすべて書き出す.

仮定. タイヤの幅 0.2m,外周 2.0m(直径約 0.65m),交換までに減る溝の深さ 6mm,溝などの空洞が占める割合 30 %,ゴムの密度 1.1×103kgm−3,交換までの走行距離 4×104km,年間走行距離 8×103km/台とする.

タイヤ 1 本の減る質量. 路面に触れる帯の面積は 0.2×2.0=0.4m2.減る体積は 0.4×6×10−3=2.4×10−3m3.実際にゴムがある部分は 70 % なので,質量は

2.4×10−3×0.7×1.1×103≈1.8kg

である.

1 台あたり. 1 台は 4 本なので,寿命のあいだに約 7.4kg を失う.4×104km あたり 7.4kg だから,年間 8×103km 走ると 7.4×(8×103)/(4×104)≈1.5kg.

全体. 1.5kg×8×107=1.2×108kg,すなわち約 105 トンである.仮定の各数値は 2 倍ほど動きうるので,桁(108)までを信頼する.

答え:約 1×108kg(105 トン).

ポイント 教える人へ

  • 最初に「重いか軽いか」を直感で言わせて記録し,見積もりのあとで比べさせる.

  • つまずきの多くは単位である.面積を km2 のまま,体積を L のまま,他の量と掛けてしまう.数字を式に入れる前に,すべて SI 単位にそろえさせる.

  • 「正確な値が分からないから答えられない」と止まる人には,上限と下限を言わせる.「100 人よりは多く,10000 人よりは少ない」と言えれば,もう半分は答えている.

  • 理解の確かめとして,身の回りの量を使った問題(たとえば「この教室で 1 時間に吸う空気の質量は」)を自分で一つ作らせる.

  • 答えが出たら「仮定を倍にしても結論は変わらないか」を必ず聞く.これが見積もりの核心である.