問いしるべ
問いから始める物理 物理の見方

物理の見方

見積もりの数学

著者:柚木芹香

見積もりでは,下限と上限で挟んだあと,その真ん中をどう選ぶかが問題になります.この節では,そのための道具を整え,例題で使います.

定理 数学の道具:幾何平均と対数の目安

幾何平均. 正の数 a, b に対し,ab を幾何平均といいます.「下限が a,上限が b」と分かったとき,見積もりの中心値には算術平均 a+b2 ではなく幾何平均を選びます.

理由は,見積もりの誤差を「何倍ずれたか」で測るからです.たとえば下限 10,上限 1000 のとき,算術平均 505 は下限の約 50 倍で,挟み方が不ぞろいです.幾何平均 10×1000=100 は,下限の 10 倍,上限の 110 倍で,どちら側にも同じ倍率の余裕があります.

対数の目安. 常用対数(10y=x となる y を log10⁡x と書く)をとると log10⁡ab=12(log10⁡a+log10⁡b) となります.幾何平均は対数の算術平均です.掛け算が指数の足し算になることを使うと,次の目安が得られます.

  • 210=1024≈103 より,2≈100.3.したがって 5=10/2≈100.7.

  • 3.162≈10 より,10≈3.すなわち 3≈100.5.

これで 2×103×3×104≈100.3+0.5+7=107.8≈6×107 のように暗算できます.

練習 1. 20 と 5000 の幾何平均を求めよ.答え:105=102.5≈3×102.

練習 2. 220 はおよそ 10 の何乗か.答え:20×0.3=6 より約 106(実際は 1.05×106).

練習 3. 0.1m と 1km の幾何平均を求めよ.答え:0.1×1000m=10m.

練習 4. 対数の目安を使って,4×103×5×10−2 と 2×107 を暗算せよ.答え:4=22≈100.6 なので 100.6+3+0.7−2=102.3≈2×102(実際は 200).107.3=103.65,100.65 は 4≈100.6 と 5≈100.7 の間なので,約 4.5×103(実際は 4.47×103).

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

縦 9m,横 7m,高さ 3m の教室がある.中の空気の質量を見積もり,体重 60kg の人ひとりの質量と比べよ.さらに,ふつうの教室の大きさの範囲では結論が変わらないことを,上下の限界をとって確かめよ.

教室の縦9 m,横7 m,高さ3 mを示す. 教室の縦9 m,横7 m,高さ3 mを示す.
解答を見る

考え方 質量=密度×体積に分解する.教室の寸法は人によって違うので,小さめの教室と大きめの教室で挟み,結論が動かないかを見る.

体積は 9×7×3=189≈1.9×102m3.空気の密度は 1.2kgm−3 なので,質量は

1.2×189≈2.3×102kg

である.人ひとりの 60kg と比べると 230/60≈4 倍で,空気のほうが重い.

上下の限界をとる.小さめの教室として 5×6×2.5=75m3 をとると,質量は 1.2×75=90kg.大きめの教室として 12×10×3.5=420m3 をとると,質量は 1.2×420≈5.0×102kg.どちらの場合も 60kg を上回る.したがって「教室の空気は人ひとりより重い」という結論は,ふつうの教室ならどれでも成り立つ.二つの限界の幾何平均 90×500≈2.1×102kg は,最初の見積もりとよく合う.

答え:約 2×102kg,人ひとりの約 4 倍.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

日本の全人口(1.2×108 人)が,同時にその場で高さ 0.4m 跳び上がったとする.このとき地球は,反対向きにどれだけ動くか見積もれ.地球を一つの硬い塊とみなし,その動きが無視できる大きさかどうかを判断せよ.ただし,後の章で学ぶ運動量保存の法則「外から力を受けない物体系では,(質量)×(速度)の総和が変わらない」を使ってよい.

人びとの上向きの速さvと地球の反対向きの速さVを模式的に示す.矢印の長さは速さの比ではない. 人びとの上向きの速さvと地球の反対向きの速さVを模式的に示す.矢印の長さは速さの比ではない.
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考え方 人びとが上向きにもつ運動量と同じ大きさの運動量を,地球が下向きにもつ.人間と地球の質量の比を作れば,地球の動きは人間の動きにその比を掛けたものになる.

1 人 60kg で,全員の質量は m=60×1.2×108≈7×109kg.高さ h=0.4m まで上がる跳び出しの速さは,後の章で学ぶ等加速度運動の式から v=2gh=2×9.8×0.4≈2.8ms−1 である.運動量保存より,地球(質量 M=6.0×1024kg)が下向きにもつ速さ V は

MV=mv⇒V=mMv=7×1096×1024×2.8≈3×10−15ms−1

である.人びとの重心が最高点で 0.4m 上がっているとき,地球の重心は同じ比で逆向きに動いているから,その移動量は

mM×0.4m≈1.2×10−15×0.4≈5×10−16m

となる.

これは原子核の大きさ(10−15m 程度)よりも小さい.念のため上限をとり,世界の全人口 8×109 人が跳んでも,移動量は 3×10−14m で,原子の大きさ(10−10m)の千分の一以下である.

答え:地球の動きは約 5×10−16m.無視できる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 下限 a と上限 b が分かったら,中心値には幾何平均 ab を選ぶ.どちら側にも同じ倍率の余裕が残る.

  • 対数の目安は 2≈100.3,3≈100.5,5≈100.7.掛け算を指数の足し算にして暗算できる.

  • 上下の限界で挟み,結論が変わらないことを確かめるのが見積もりの核心である.

  • 桁違いに小さいものは捨てられる.人類が跳んでも地球の動きは約 5×10−16m で,無視できる.