この章では,第5章の重心 𝒓G を 𝑹,その速度を 𝑽 と書きます(同じものです).
問い
打ち上げ花火の玉が高く上がり,頂点の近くで割れて,星(光る粒)が四方へ広がります.空気の抵抗を無視すると,星全体の重心は,割れたことなど無かったかのように,割れる前の玉と同じ放物線を描いて落ちていきます.第5章で見たように,重心の運動は外力(重力)だけで決まるからです.
では,玉を割るとき火薬の化学エネルギーが運動エネルギーに変わって,破片の運動エネルギーの合計は増えています.重心の運動が変わらないのなら,増えた運動エネルギーは,いったいどこへ入ったのでしょうか.
考えてみる
第6章では,2つの物体の運動エネルギーが 𝐾 =12𝑀𝑉2 +12𝜇𝑣2rel と,重心の分と相対運動の分に分かれることを見ました.花火の玉は2つではなく多数の破片になりますが,同じことが言えるはずです.一直線上で,等しい質量 𝑚(𝑀 =2𝑚)の2つに割れ,速度が 𝑉 ±𝑢 になる場合で確かめます.運動量は 𝑚(𝑉 +𝑢) +𝑚(𝑉 −𝑢) =𝑀𝑉 で変わらず,運動エネルギーは
12𝑚(𝑉+𝑢)2+12𝑚(𝑉−𝑢)2=12𝑀𝑉2+𝑚𝑢2
と 𝑚𝑢2 だけ増えます.増えた分は 𝑉 に関係せず,破片が重心に対してどう動くかだけで決まります.
そこで,多数の物体でも,剛体でも,運動を重心の動きと,重心から見た動きに分けて数えることにします.
外部運動と内部運動
定義 外部運動と内部運動
質量 𝑚𝑖,位置 𝒓𝑖,速度 𝒗𝑖 の質点の集まりで,全質量を 𝑀 =∑𝑚𝑖,重心を 𝑹,重心の速度を 𝑽 =d𝑹d𝑡 とする.
𝒓𝑖=𝑹+𝒓′𝑖,𝒗𝑖=𝑽+𝒗′𝑖
と分けたとき,重心そのものの運動を外部運動,重心から見た運動 𝒓′𝑖,𝒗′𝑖 を内部運動という.
重心の定義から,重心から見た位置と速度を質量で重みづけして足すと0になります.
∑𝑚𝑖𝒓′𝑖=0,∑𝑚𝑖𝒗′𝑖=0
[図:花火の重心と破片の速度]割れた花火の玉.各破片の速度 \(\vb*{v}_i\) が,重心 G の速度 \(\vb*{V}\)(全破片に共通の太い矢印)と,G から放射状に広がる \(\vb*{v}_i'\) の和に分かれる様子を,3つの破片について描く.G は放物線上にあり,破片の位置 \(\vb*{r}_i=\vb*{R}+\vb*{r}_i'\) も矢印で示す.
運動量と運動エネルギーの分解
全運動量は 𝑷 =∑𝑚𝑖𝒗𝑖 =𝑀𝑽 +∑𝑚𝑖𝒗′𝑖 =𝑀𝑽 です.運動量は外部運動だけが持ち,第5章で見たように d𝑷d𝑡 =𝑭外 なので,外力だけが 𝑷 を変えます.
法則 ケーニッヒの定理
質点系の運動エネルギーは,外部運動の分と内部運動の分の和になる.
𝐾=12𝑀𝑉2+𝐾内,𝐾内=∑12𝑚𝑖|𝒗′𝑖|2
2体では 𝐾内 =12𝜇𝑣2rel(第6章).形の変わらない剛体が重心のまわりを角速度 𝜔 で回るなら,𝐾内 =12𝐼G𝜔2(𝐼G は重心のまわりの慣性モーメント).
証明は次の節で行います.剛体の内部運動は回転だけで,重心から距離 𝜌𝑖 の質点の速さが 𝜌𝑖𝜔 だから,𝐾内 =∑12𝑚𝑖𝜌2𝑖𝜔2 =12𝐼G𝜔2 となります.第8章で転がる物体の運動エネルギーを 12𝑀𝑣2 +12𝐼G𝜔2 と書いたのは,この定理の一例だったのです.
外力は何をするか
外力の合力は外部運動を変えます.外力は,作用点によっては内部の回転や変形も変えます.𝑀d𝑽d𝑡 =𝑭外 に 𝑽 を掛けて時間で積分すると
Δ(12𝑀𝑉2)=∫𝑭外⋅d𝑹
となります.右辺は力の作用点ではなく重心の変位で計算するので,これを「重心の仕事」と呼びます.物体に外力が実際にする仕事 ∑𝑭𝑖 ⋅d𝒓𝑖 とは,一般に違います.
たとえば静止から走り出す人を考えます.水平方向の外力は,床が足にはたらく静止摩擦力 𝑓 だけです.足は床に接している間は止まっているので,摩擦力の実際の仕事は0です.ところが重心は加速し,Δ(12𝑀𝑉2) =∫𝑓 d𝑅 >0 になります.運動エネルギーを与えたのは床ではなく,人の体の内部(筋肉の化学エネルギー)です.床の役目は,運動量 𝑷 を渡す外力になることだけです.車が走り出すときも同じです.
[図:重心の変位と静止した足]走り出す人を横から描く.後ろの足が床に接して静止し,床から前向きの静止摩擦力 \(f\) を受けている.重心 G が右へ進むこと,力の作用点(足の接地点)は動かないことを,G の矢印と接地点の印で対比する.
内力は 𝑷 を変えませんが,𝐾内 は変えられます.爆発は化学エネルギーを,ばねは弾性エネルギーを,筋肉は体のエネルギーを 𝐾内 に変えます.逆に,摩擦や衝突の変形は 𝐾内 を分子の乱雑な運動に変えます.このように蓄えられる微視的なエネルギーは内部エネルギーに含まれます.熱は温度差によるエネルギーの移動を指し,内部エネルギーそのものとは区別します.詳しくは熱の章で扱います.形の変わらない剛体では,物体を作る粒子どうしの距離が変わらないので,内力の仕事は0です.
ポイント 出入りできるのは 𝐾内 だけ
外力が無視できる短い出来事(衝突,爆発,分裂)では,𝑷 も 𝑽 も 12𝑀𝑉2 も変わらない.運動エネルギーの出入りは,すべて 𝐾内 で起きる.
ポイント ここまでのまとめ
位置と速度を 𝒓𝑖 =𝑹 +𝒓′𝑖,𝒗𝑖 =𝑽 +𝒗′𝑖 と分けると,∑𝑚𝑖𝒓′𝑖 =0,∑𝑚𝑖𝒗′𝑖 =0.運動量は外部運動だけが持ち,𝑷 =𝑀𝑽 で,外力だけが変える.
運動エネルギーは 𝐾 =12𝑀𝑉2 +𝐾内.剛体では 𝐾内 =12𝐼G𝜔2.
Δ(12𝑀𝑉2) =∫𝑭外 ⋅d𝑹 は重心の仕事で,実際の仕事とは違う.走り出す人では,摩擦力の実際の仕事は0でも運動エネルギーが増える.
問いの答え:割れても重心は変わらず,増えた運動エネルギーは全部 𝐾内,つまり破片が重心から離れていく運動に入った.