問いしるべ
問いから始める物理 外部運動と内部運動

外部運動と内部運動

外部運動と内部運動の計算

著者:柚木芹香

前の節の主張を和の計算で確かめ,重心の仕事と実際の仕事の違いが現れる例題に進みます.

定理 数学の道具:重心のまわりの和

内部運動の運動量の和は0. V=∑miviM なので

∑mivi′=∑mivi−V∑mi=MV−MV=0

ケーニッヒの定理. |vi|2=V2+2V⋅vi′+|vi′|2 を 12mi 倍して足すと

K=12MV2+V⋅∑mivi′+K内=12MV2+K内

交差項は ∑mivi′=0 で消える.

重心の仕事. 質点系の運動方程式 MdVdt=F外 に V を掛けると d(12MV2)dt=F外⋅V.Vdt=dR だから,積分して Δ(12MV2)=∫F外⋅dR.

練習 1. 質量 50kg の人が,静止から一定の静止摩擦力 100N で走り出す.重心が 9.0m 進んだときの速さを求めよ.

答え:重心の仕事は 100×9.0=900J.12⋅50v2=900 より v=6.0ms−1.

練習 2. 質量 60kg の人がその場で跳び上がる.床が足を押す力が一定の 1500N で 0.30s 続いたとする.重心の運動方程式から,足が床を離れるときの重心の速さを求めよ(g=9.8ms−2).

答え:60a=1500−60×9.8=912 より a≈15ms−2.v=at≈4.6ms−1.床の力は仕事をしないが,重心の運動は外力の合力で決まる.

練習 3. 質量 2.0kg の質点Aと質量 1.0kg の質点Bが,それぞれ速度 (3.0,0)ms−1 と (0,3.0)ms−1 で動いている.重心速度 V を求め,全運動エネルギー K を外部運動の分 K外 と内部運動の分 K内 に分けよ.

答え:V=2.0×(3.0,0)+1.0×(0,3.0)3.0=(2.0,1.0)ms−1.K外=12×3.0×(2.02+1.02)=7.5J.K=12×2.0×3.02+12×1.0×3.02=13.5J より K内=6.0J.(重心に対する速度 (1.0,−1.0),(−2.0,2.0) から直接 12×2.0×2.0+12×1.0×8.0=6.0J と確かめられる.)

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平な床の上で,質量 60kg の人が静止から一定の加速度で走り出し,2.0s 後に 4.0ms−1 になった.

走り出す人を横から描く.後ろの足の接地点(印)に前向きの静止摩擦力 \(f\) を,重心 G に右向きの速度と加速度を示す.\(2.0\,\mathrm{s}\) 間の G の変位を矢印で書き入れる. 走り出す人を横から描く.後ろの足の接地点(印)に前向きの静止摩擦力 \(f\) を,重心 G に右向きの速度と加速度を示す.\(2.0\,\mathrm{s}\) 間の G の変位を矢印で書き入れる.
  1. 床が人に及ぼす摩擦力を求めよ.

  2. 重心の仕事と,摩擦力の実際の仕事を求めよ.

  3. 増えた運動エネルギーは,どこから来たか.

解答を見る

考え方 水平方向の外力は静止摩擦力だけである.重心の仕事は重心の変位で,実際の仕事は力の作用点(足の接地点)の変位で計算する.

  1. 加速度 a=4.02.0=2.0ms−2 より,f=Ma=60×2.0=120N.

  2. 重心の変位は 12⋅2.0⋅2.02=4.0m なので,重心の仕事は 120×4.0=480J.これは 12⋅60⋅4.02=480J に等しい.一方,足は床に接している間は静止していて作用点の変位が0なので,摩擦力の実際の仕事は 0 である.

  3. 床は仕事をしていないので,人の体の内部(筋肉の化学エネルギーなど)から来た.床は運動量 Mv=240kgms−1 を渡す役をしただけである.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

頂点で水平に 10ms−1 で飛ぶ質量 3.0kg の花火の玉が,等しい質量 1.0kg の3つに割れた.割れた直後,重心から見て3つの破片は水平面内で,速さ 4.0ms−1 で互いに 120∘ の向きに飛び,1つは玉の進行方向に飛んだ.空気の抵抗は無視する.

120度ずつ離れた等しい内部速度と,別に描いた共通の重心速度.実験室系での合成結果は表示しない. 120度ずつ離れた等しい内部速度と,別に描いた共通の重心速度.実験室系での合成結果は表示しない.
  1. 3つの破片の速度(進行方向を x,水平で垂直な向きを y)を求めよ.

  2. 割れる前後の運動エネルギーの差を求め,K内 と比べよ.

解答を見る

考え方 破片の速度は vi=V+vi′ である.内部運動の速度の和は0になっている.

  1. V=(10,0).vi′ は (4.0,0),(−2.0,23),(−2.0,−23)(ms−1)で,和は 0 になる.よって

v1=(14,0),v2=(8.0,3.5),v3=(8.0,−3.5)  ms−1

運動量の和は 1.0×(30,0)=(30,0)=3.0×(10,0) で,割れる前に等しい.

  1. 割れた後は 12⋅1.0⋅(142+8.02+3.52+8.02+3.52)≈174J,前は 12⋅3.0⋅102=150J.差は 24J.K内=3×12⋅1.0⋅4.02=24J と一致し,外部の分 12MV2=150J は変わらない.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

傾いた面の高さ h=0.50m の所から,質量 M,半径 r の一様な円柱を静かに放し,滑らずに転がして下まで降ろす.重力加速度を 9.8ms−2 とし,円柱の慣性モーメントは IG=12Mr2 である.比べるために,同じ高さから滑らかな面を滑る質量 M の箱も考える.

円柱と箱を同じ高さから放す設定.円柱の接点の摩擦は斜面上向き,垂直抗力は面に垂直.到着速度の答えは表示しない. 円柱と箱を同じ高さから放す設定.円柱の接点の摩擦は斜面上向き,垂直抗力は面に垂直.到着速度の答えは表示しない.
  1. 下端での,円柱の重心の速さ v と,箱の速さを求めよ.

  2. 円柱の運動エネルギーのうち,K内 が占める割合を求めよ.

  3. 静止摩擦力の実際の仕事と,重心の仕事を求めよ.

解答を見る

考え方 接点は瞬間的に静止しているので,静止摩擦力の実際の仕事は0で,力学的エネルギーが保存する(第8章).滑らずに転がるので ω=v/r.

  1. 円柱は K=12Mv2+12⋅12Mr2⋅(vr)2=34Mv2 で,34Mv2=Mgh より

v=4gh3=4×9.8×0.503≈2.6ms−1

箱は 12Mv2=Mgh より v=2gh=9.8≈3.1ms−1.

  1. K内=12IGω2=14Mv2 なので,K の 13 である.重力が与えた Mgh のうち,23 が重心の運動,13 が回転(内部運動)に入った.この分だけ円柱は箱より遅い.

  2. 静止摩擦力の実際の仕事は 0.重心の仕事は Δ(12Mv2)=23Mgh で,重力の仕事 Mgh と摩擦力が重心に対して行う −fs の和(s は面に沿った距離)に等しい.よって fs=13Mgh である.摩擦力は円柱から運動エネルギーを奪うのではなく,重心の運動のエネルギーを回転に移している.

ポイント ここまでのまとめ

  • 重心のまわりで足すと ∑mivi′=0.これで交差項が消え,K=12MV2+K内 が出る.

  • 外力の仕事のうち重心の運動を変える分は,重心の変位で計算する ∫F外⋅dR で,実際の仕事とは違う.走り出す人や転がる円柱では,静止摩擦力の実際の仕事は0である.

  • 転がる剛体では,重力の仕事が重心の運動と回転(K内)に配分される.分裂や爆発は,外部の分を変えず K内 だけを増やす.