問いしるべ
問いから始める物理 回転と剛体

回転と剛体

第8章のまとめ

著者:柚木芹香

この章では,並進の運動量・力・質量に対応する角運動量・トルク・慣性モーメントを導入し,質点の回転から,剛体のつり合い,固定軸のまわりの回転,剛体の平面運動,転がりへと進みました.ここで定義と法則を一覧にし,各節の最初の問いに短く答えます.

定義と法則

法則 角運動量とトルク

  • 原点に対する質点の角運動量 L=r×p,トルク(力のモーメント)τ=r×F.外積の大きさは |a×b|=|a||b|sin⁡θ(平行四辺形の面積)で,向きは a から b へ回す右ねじの向きである.

  • 運動方程式から dLdt=τ.トルクが0なら角運動量は保存する.

  • 力が常に原点に向かう(中心力)なら τ=0 で L は一定.面積速度 dAdt=L2m が一定になる(ケプラーの第2法則).

  • 質点系では,内力が質点を結ぶ直線の向きなら内力のトルクは打ち消し合い,全角運動量の変化は外力のトルクだけで決まる.

法則 剛体のつり合い

  • 剛体がつり合う条件は,外力の合力が 0,任意の点のまわりの外力のモーメントの和が0であること.平面でのモーメントは NO=xFy−yFx(反時計回りが正)で,垂直抗力 N とは区別する.

  • 力のモーメントは,力の作用線上で力を動かしても変わらない.大きさが等しく逆向きで作用線が違う2力(偶力)は,合力が0でもモーメントを持つ.

  • 重力は,物体全体では重心に働く1つの力として扱える.

法則 固定軸のまわりの回転

  • 慣性モーメント I=∑miri2=∫r2dm.回転の運動方程式 Iα=τ(α=θ¨).

  • 回転の運動エネルギー K=12Iω2,角運動量 L=Iω.

  • 平行軸の定理 I=IG+Md2.

  • 実体振り子(微小振動)の周期 T=2πIMgd.

法則 剛体の平面運動

  • 剛体の平面運動は,基準点 O′ の並進と,O′ のまわりの回転に分けられる.角速度 ω は基準点の選び方によらない.

  • O′ から点 P へのベクトルを r′,角速度ベクトルを ω=ωez(反時計回りが正)とすると,vP=V+ω×r′,aP=A+αez×r′−ω2r′.ez×(x,y)=(−y,x).

  • 速度が0の点が瞬間回転中心 I.2点の速度に垂直な直線の交点で,各点の速度は I からの線分に垂直で I からの距離に比例する.I は固定軸ではなく,I にある点の加速度は0とは限らない.

法則 転がり

  • 剛体の運動を力で決めるときは,重心の並進 MaG=F外 と,重心のまわりの回転 IGα=τG に分ける.運動エネルギーは 12Mv2+12IGω2.

  • 滑らずに転がる条件は,進む向きと回転の正の向きを合わせて v=Rω,a=Rα.接点は瞬間回転中心で,その速度は0である.

  • 静止した斜面を滑らずに転がる場合,静止摩擦力は接点で仕事をせず,重力以外の仕事や空気抵抗などの散逸を無視すれば,力学的エネルギーが保存する.

  • 支点が固定された軸対称のコマが速く自転し,傾きをほぼ一定に保って遅く歳差するとき,歳差の角速度は Ω≈MgrIω(I は自転軸まわりの慣性モーメント,ω は自転の角速度).

手順

ポイント 剛体の問題を解く手順

  1. 運動の種類を決める.つり合い,固定軸のまわりの回転,平面運動(転がりを含む)のどれかを見分ける.速度の関係だけを問われたら,瞬間回転中心を探す.

  2. 物体に働く力をすべて図に描く.作用点を正しく置くことが,トルクの計算の前提である.

  3. つり合いなら,合力0とモーメント0を立てる.モーメントの中心は,未知の力が多く通る点を選ぶと式が減る.

  4. 回転の運動方程式 Iα=τ では,軸(または重心)を決めて,トルクの符号を回転の向きで統一する.

  5. 滑らずに転がるなら v=Rω,糸がほどけるなら糸の点の速度で結ぶ.滑るなら動摩擦力を使う.

  6. 力が不明のときは,角運動量の保存やエネルギー保存が使えないかを考える.極端な場合(質量が0,I→0 など)で検算する.

主な公式

  • L=r×p,τ=r×F,dLdt=τ

  • Iα=τ,K=12Iω2,I=IG+Md2

  • 慣性モーメント:輪 MR2,円板 12MR2,球 25MR2,棒の中心 112Ml2,棒の端 13Ml2

  • 平面運動:v=V+ω×r′,瞬間回転中心 rI=rO′+ez×Vω

  • 斜面を転がる物体:a=gsin⁡θ1+k(IG=kMR2)

各節の問いへの答え

  • 角運動量とトルク:フィギュアスケートの選手が腕を縮めると,外から回転を妨げるトルクがほぼ無いので L=Iω が保存し,I が小さくなった分だけ ω が大きくなる.質点で半径が半分になれば I∝r2 は 14,角速度は4倍になる.

  • 剛体のつり合い:はしごが滑らない条件は,合力0とモーメント0の連立で決まり,床の摩擦力が最大摩擦力以下であることから,寝かせられる限界の角度が出る.なめらかな壁に立てかけた一様なはしごでは,床との角を θ,床との静止摩擦係数を μ として,tan⁡θ≥12μ のとき滑らない(μ=0.50 なら θ≥45∘).

  • 固定軸のまわりの回転:質量と半径が同じなら,輪 I=MR2,円板 I=12MR2 で,同じトルクなら円板の角加速度が2倍になる.円板のほうが速く回り出す.質量が軸の近くにあるほど回しやすい.

  • 剛体の平面運動:倒れていくはしごの各点は,瞬間回転中心(壁と床の交点 O の向かい側の,長方形の頂点)からの線分に垂直な向きに動く.真ん中の点は O を中心とする半径 l/2 の円弧を描く.

  • 転がり:斜面を転がる順は,球,円板,輪である.a=gsin⁡θ1+k で,k は球が 25,円板が 12,輪が1である.質量や半径には依らない.

この章で使った数学

外積(定義,成分,右ねじ,微分,紙面に垂直なベクトルとの外積で90度回す),瞬間回転中心の作図と座標での計算,2次元のモーメントのスカラー計算,積分による慣性モーメントの計算,束縛条件の微分,速度の分解によるエネルギーの分離がありました.