問いしるべ
問いから始める物理 回転と剛体

回転と剛体

慣性モーメントの積分計算と例題

著者:柚木芹香

前の節で表にまとめた慣性モーメントを,積分で確かめます.そのあと,滑車・実体振り子・球の例題に進みます.

数学の道具

定理 数学の道具:慣性モーメントの積分

連続した物体の I=∫r2dm は,軸からの距離が同じ微小部分を選んで足す.微小部分の質量 dm を,密度と体積(長さ・面積)で表すのが最初の仕事である.

細い棒(長さ l,質量 M,線密度 λ=M/l)の中心を通り棒に垂直な軸では,中心から x の位置の微小部分 dm=λdx を足して

I=∫−l/2l/2x2Mldx=Ml⋅23(l2)3=112Ml2

である.

円板(半径 R,質量 M,面密度 σ=M/(πR2))の中心を通り面に垂直な軸では,軸から r の細い輪(幅 dr)を微小部分に選ぶ.面積は 2πrdr で,距離はどの点も r だから

I=∫0Rr2σ2πrdr=2πσR44=12MR2

である.

左に棒の微小部分(位置 x,幅 dx),右に円板の細い輪(半径 r,幅 dr)を描く. 左に棒の微小部分(位置 x,幅 dx),右に円板の細い輪(半径 r,幅 dr)を描く.

練習 1. 長さ l の細い棒の端を通り棒に垂直な軸のまわりの I を,積分で求めよ.また平行軸の定理で確かめよ.

練習 2. 内半径 a,外半径 b,質量 M の一様な円環板の,中心を通り面に垂直な軸のまわりの I を求めよ.また a→0 と a→b の極限を調べよ.

答え:練習 1 は ∫0lx2Mldx=13Ml2.平行軸の定理では 112Ml2+M(l2)2=13Ml2 で一致する.練習 2 は M=σπ(b2−a2) と I=∫abr2σ2πrdr=πσ2(b4−a4) から I=12M(a2+b2).a→0 で円板の 12Mb2,a→b で輪の Mb2 になる.

練習 3. (1) 軸から 0.10m に 1.0kg,0.20m に 2.0kg の小球を固定した軽い棒の I を求めよ.(2) 質量 2.0kg,半径 0.10m の一様な円板の,ふちの1点を通り面に垂直な軸のまわりの I を,平行軸の定理で求めよ.

答え:(1) 1.0×0.102+2.0×0.202=0.090kgm2.(2) 12MR2+MR2=32×2.0×0.102=0.030kgm2.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

質量 M=2.0kg,半径 R の一様な円板の滑車に軽い糸を掛け,両端に質量 m1=3.0kg,m2=1.0kg のおもりをつるして静かに放す.糸は滑車の上を滑らず,滑車の軸は摩擦なく回る.重力加速度を g=9.8ms−2 とする.

  1. おもりの加速度の大きさを求めよ.

  2. 両側の糸の張力 T1,T2 を求めよ.

円板の滑車に掛けた糸と,右に m_1,左に m_2 のおもり.m_1 が下がる向きに加速度 a,滑車の角加速度 \alpha,糸の張力 T_1,T_2 を示す. 円板の滑車に掛けた糸と,右に m_1,左に m_2 のおもり.m_1 が下がる向きに加速度 a,滑車の角加速度 \alpha,糸の張力 T_1,T_2 を示す.
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考え方 おもりそれぞれに運動方程式を立て,滑車には回転の運動方程式を立てる.糸が滑らないので a=Rα である.

  1. m1 が下がる向きを正とする.

m1g−T1=m1a,T2−m2g=m2a,(T1−T2)R=12MR2⋅aR

第3式は T1−T2=12Ma.第1式と第2式を足すと (m1−m2)g−(T1−T2)=(m1+m2)a なので

a=m1−m2m1+m2+M/2g=2.05.0×9.8≈3.9ms−2

滑車の質量が0なら a=4.9ms−2 だったので,滑車の慣性の分だけ遅くなる.

  1. T1=m1(g−a)=3.0×5.88≈18N,T2=m2(g+a)=1.0×13.72≈14N である.T1−T2≈3.9N で,12Ma=3.9N と一致する.両側の張力が違うからこそ,滑車が回り出す.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 M,長さ l=1.0m の一様な細い棒の一端を,水平な固定軸で支える.棒は軸のまわりに摩擦なく振れる.

微小振動の周期を求めよ.また,同じ周期の単振り子の長さはいくらか.

一端を軸で支えた棒が鉛直から角 \theta だけ傾いた図.重心 G,軸から重心までの距離 d=l/2 と重力 Mg を示す. 一端を軸で支えた棒が鉛直から角 \theta だけ傾いた図.重心 G,軸から重心までの距離 d=l/2 と重力 Mg を示す.
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考え方 実体振り子の周期は T=2πI/(Mgd).I は平行軸の定理で求める.

端のまわりでは I=13Ml2,d=l2 だから

T=2πMl2/3Mgl/2=2π2l3g=2π2×1.03×9.8≈1.6s

長さ ℓ の単振り子の周期 2πℓ/g と比べると,ℓ=23l≈0.67m である.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

質量 M,半径 R の一様な球について,中心を通る軸のまわりの慣性モーメントを積分で求めよ.

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軸を z 軸とする球を,軸に垂直な薄い円板(高さ z,厚さ dz,半径 \sqrt{R^2-z^2})に切った図. 軸を z 軸とする球を,軸に垂直な薄い円板(高さ z,厚さ dz,半径 \sqrt{R^2-z^2})に切った図.

考え方 球を軸に垂直な薄い円板に切り,円板の慣性モーメント 12dmρ2 を足し合わせる.

軸を z 軸とし,高さ z の薄い円板の半径を ρ=R2−z2,厚さを dz とする.体積密度は 3M4πR3 だから,円板の質量は dm=3M4πR3πρ2dz=3M4R3(R2−z2)dz である.

I=∫12ρ2dm=3M8R3∫−RR(R2−z2)2dz=3M8R3⋅16R515=25MR2

ここで ∫−RR(R4−2R2z2+z4)dz=2R5(1−23+15)=16R515 を使った.

ポイント ここまでのまとめ

  • 慣性モーメント I=∫r2dm は,軸からの距離が同じ微小部分を選んで足す.棒の中心は 112Ml2,円板は 12MR2,球は 25MR2,薄い球殻は 23MR2.

  • 滑車の質量は,おもりの加速度に m1+m2+M/2 として効く.両側の張力の差が滑車を回す.

  • 実体振り子の周期は,微小振動では 2πI/(Mgd).棒の端で支えると,長さ 23l の単振り子と同じ周期になる.