問いしるべ
問いから始める物理 電流と磁場

電流と磁場

電流に働く力とモーター

著者:柚木芹香

問い

扇風機も洗濯機も電車も,電気で回るものの中にはモーターが入っています.モーターの中にあるのは,磁石と,電流の流れるコイルだけです.磁石と電流で,どうして回り続ける力が作れるのでしょうか.しかも第1題材で見たように,磁気力は運動の向きに垂直に働くので,電荷に仕事をしません.それなのにモーターは,物を持ち上げたり車を走らせたりして仕事をします.このエネルギーはどこから来るのでしょうか.

考えてみる

電流を流したコイルは磁石のようにふるまうので,磁石のそばに置くと,向きをそろえるように回ります.けれども,向きがそろった所で止まってしまいます.方位磁針が北を向いて止まるのと同じです.回り続けさせるには,止まりそうになるたびに何かを切り替える必要がありそうです.

もう1つの謎は仕事です.導線の中の電荷1個に働く磁気力 qv×B は,その電荷の速度 v にいつも垂直です.1個ずつ見れば仕事は0なのに,その和で導線が押されて動くなら,導線には仕事がされています.どこかで帳じりが合っているはずです.まず,電流が受ける力を,第1題材のローレンツ力から組み立てます.

電流に働く力

断面積 S の導線の中を,電荷 q の担い手(キャリア)が数密度 n,平均の速さ w(第21章のドリフト速度 vd のこと.後で速度 v と区別するため w と書きます)で導線に沿って流れているとします.電流は I=qnwS です.導線の長さ dl の部分には nSdl 個のキャリアがあり,それぞれに qw×B が働くので,力の和は qnSdlw×B です.導線に沿って電流の向きを向く長さ dl のベクトルを dl とすれば,これは次のように書けます.

法則 電流に働く力

電流 I の流れる導線の微小部分 dl(電流の向き)には

dF=Idl×B

の力が働く.一様な磁場の中の長さ l のまっすぐな導線では F=Il×B,大きさは IlBsin⁡θ(θ は導線と磁場のなす角)である.

入試で使うフレミングの左手の法則は,この外積の向きを指で覚える方法です.力はキャリアに働きますが,キャリアは導線の外へは出られません.横へ押されたキャリアが導線の片側に寄ると,ホール効果の電場ができ,この電場が導線の正イオンを同じ向きに引きます.こうして力は導線全体に伝わります.

磁場が一様なら,曲がった導線の力も簡単に求められます.B を積分の外に出すと F=I(∫dl)×B で,∫dl は導線の始点から終点へのベクトルです.一様な磁場の中では,どんな形の導線でも,両端をまっすぐ結んだ導線と同じ力を受けます.閉じた回路なら始点と終点が一致するので,一様な磁場が閉じた回路に及ぼす力の合力は0です.ただし,次に見るように回転させる力(トルク)は0とは限りません.

平行な電流の間の力

距離 d を隔てた平行な2本の長い直線導線に,電流 I1,I2 を流します.導線1は導線2の位置に大きさ B1=μ0I1/(2πd) の磁場を作るので(前の題材),導線2の長さ l の部分に働く力は

F=I2lB1=μ0I1I22πdl

です.向きを外積で確かめると,同じ向きの電流は引き合い,逆向きの電流は退け合います.同符号の電荷が退け合うのとは逆です.たとえば d=1.0cm で 10A ずつ流すと,1m あたり 2.0×10−3N で,質量 0.2g の物に働く重力ほどにすぎません.この式は,導線の長さが d よりずっと長く(端の影響の割合は d/l 程度),導線の太さが d よりずっと細いときの近似です.

左は同じ向きの電流 I₁ と I₂,右は逆向きの電流.導線1を囲む磁力線の接線が導線2での B₁ となる.導線2への力 F は左で導線1へ向き,右では外向きになる. 左は同じ向きの電流 I₁ と I₂,右は逆向きの電流.導線1を囲む磁力線の接線が導線2での B₁ となる.導線2への力 F は左で導線1へ向き,右では外向きになる.

この力は,長い間アンペアの定義に使われていました.1948年から2019年までの定義は「真空中に 1m 離して平行に置いた,無限に長く無視できるほど細い2本の直線導線に同じ一定の電流を流し,導線の長さ 1m あたり 2×10−7N の力が働くとき,その電流を 1A とする」でした.上の式に入れると,この定義は μ0=4π×10−7NA−2 と決めたことと同じです.

定義 アンペア(今の SI)

2019年5月20日から,SI は電気素量の値を e=1.602176634×10−19C(C=As)ちょうどと定め,秒はセシウム原子の放つ光の振動数で決める.1A は,1秒あたり電気素量 1/(1.602176634×10−19)≈6.241509×1018 個分の電荷が通る電流である.

今の定義では,力ではなく電荷の数でアンペアが決まります.代わりに μ0 は測る量になりましたが,前の題材で見たとおり 4π×10−7NA−2 との違いはごくわずかで,計算では今までどおりこの値を使います.

コイルに働くトルクと磁気モーメント

一様な磁場 B の中に,辺の長さ a,b の長方形の1巻のコイルを置き,長さ a の辺に平行で磁場に垂直な軸のまわりに回れるようにします.コイルの面の法線(電流の向きに右ねじを回すとき,ねじの進む向き)の単位ベクトルを n とし,n と B のなす角を θ とします.長さ a の2辺には大きさ IaB の逆向きの力が働き,その作用線は bsin⁡θ だけずれているので,トルクの大きさは IaB⋅bsin⁡θ=ISBsin⁡θ(S=ab)です.長さ b の2辺の力は軸に平行で,同じ直線の上で打ち消し合います.

長さ a の2辺に逆向きの力 IaB が働く.法線 n と磁場 B の角は θ.回転軸方向から見た右図で,力の作用線のずれ b sin θ を示す. 長さ a の2辺に逆向きの力 IaB が働く.法線 n と磁場 B の角は θ.回転軸方向から見た右図で,力の作用線のずれ b sin θ を示す.

平面のコイルなら,形が何であっても,細い長方形の集まりに分けると隣り合う辺の電流が打ち消し合うので,トルクは面積 S だけで決まります.

定義 磁気モーメント

電流 I が囲む面積 S の平面のコイルの磁気モーメントを m=ISn(単位 Am2)とする.N 巻なら m=NISn である.一様な磁場の中でコイルに働くトルクは

τ=m×B

で,合力は0である.

トルクは m を B の向きへそろえようとします.角 θ を dθ だけ増やすとき,磁気のトルクがする仕事は −mBsin⁡θdθ=d(mBcos⁡θ) なので,この仕事は

U=−mBcos⁡θ=−m⋅B

の減少として数えられます.θ=0 が安定なつり合い,θ=π が不安定なつり合いです.ただし,この U は電流を一定に保ったまま動かすときの力学の位置エネルギーです.コイルが回ると,第23章で学ぶ誘導起電力がコイルに生じ,電流を一定に保つ電源がそれに逆らって仕事をします.U はその電源の仕事まで含めた勘定で,コイルと電源と磁場の全エネルギーではありません.第20章で,電圧を一定に保ったまま誘電体を引き込む力を求めたとき,電源の仕事を入れたのと同じ注意です.

磁場が場所によって違うと,コイルには合力も働きます.m が z 軸の向きを向き,軸の上の磁場 B(z) が z とともに変わるなら,U(z)=−mB(z) から Fz=mdBdz です.小さなコイルは磁場の強い方へ引かれます.これは,磁場が広がる所で磁場に横向きの成分ができ,それとコイルの電流の外積が軸の向きを向くことから直接も確かめられます.この式は,コイルの大きさが磁場の変わる長さよりずっと小さいときの近似です.

(発展)歳差 コイルや原子が回転していて角運動量 L をもち,m が L と同じ向きなら,トルク m×B は L に垂直です.すると第8章のコマと同じく,L は大きさを変えずに磁場のまわりを回ります(歳差).慣性モーメントは,電流の I と区別して J と書きます.

電流計とモーター

可動コイル形の電流計では,磁石の極を円筒の形に削り,中に鉄の円柱を置いて,コイルの辺がいつも磁場に垂直になるようにします(放射状の磁場).するとトルクは角度によらず NISB で,ばねの復元トルク κϕ とつり合う ϕ=NSBI/κ は電流に比例します.一様な磁場のままだとトルクに角度の因子が残り,目盛りが等間隔になりません.

モーターでは,コイルを回し続けます.m が B の向きを通り過ぎると,トルクは逆向きになって回転を止めようとします.そこで,回転軸に付けた2つに割れた輪(整流子)とブラシで,半回転ごとに電流の向きを反転させます.するとトルクは NISB|sin⁡θ| となって向きが変わらず,1回転の平均は (2/π)NISB です.実際のモーターは,角度をずらした多くのコイルを使って,トルクのむらを小さくしています.

N 極から S 極へ向く磁場の中の1巻のコイルと回転軸,分割した整流子,2本のブラシ,直流電源を描く.①,②は同じコイルの辺とそれにつながる整流子の半片を区別する印.半回転後は位置が入れかわり,同じ辺①を流れる電流が反転する. N 極から S 極へ向く磁場の中の1巻のコイルと回転軸,分割した整流子,2本のブラシ,直流電源を描く.①,②は同じコイルの辺とそれにつながる整流子の半片を区別する印.半回転後は位置が入れかわり,同じ辺①を流れる電流が反転する.

磁気力は仕事をしないのに

レールの上を速さ u で動く導体棒で,帳じりを確かめます.棒は x 方向に動き,棒に沿って y 方向に電流が流れ,磁場は z 方向です.キャリアの速度は,棒と一緒に動く uex と,棒に沿って流れる wey の和なので,磁気力は

q(uex+wey)×Bez=qwBex−quBey

です.第1項は棒を押す力で,仕事率 quwB の正の仕事をします.第2項は棒に沿った流れを押し戻す力で,仕事率 −quwB の負の仕事をします.和はちょうど0で,磁気力はやはり仕事をしません.磁気力がしているのは,電流の流れのエネルギーを棒の運動へ移しかえることです.

q > 0 のキャリアは棒の速度 u eₓ と棒に沿う速度 w eᵧ を合成した v で動く.B は +z 向き.磁気力は棒を押す qwB eₓ と流れを押し戻す −quB eᵧ に分かれ,合力は v に垂直である. q > 0 のキャリアは棒の速度 u eₓ と棒に沿う速度 w eᵧ を合成した v で動く.B は +z 向き.磁気力は棒を押す qwB eₓ と流れを押し戻す −quB eᵧ に分かれ,合力は v に垂直である.

流れを押し戻す力は,棒の長さ l にわたって起電力 uBl が電流に逆らうのと同じ働きをします.電流を保つには,電源がこれに逆らって仕事率 I⋅uBl を余分に出さなければなりません.一方,棒が受ける力は IlB で,その仕事率は IlB⋅u です.2つは等しく,モーターの仕事は電源から来ます.動く導体に生じるこの起電力は,第23章の主題です.

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電流は動く電荷の流れなので,磁場の中ではローレンツ力の和 Idl×B を受けます.コイルにはトルク m×B が働き,磁気モーメントを磁場にそろえようとします.そろった所で止まらないように,整流子で半回転ごとに電流を反転させれば,トルクの向きがいつも同じになり,回り続けます.磁気力は電荷に仕事をしませんが,電流の流れのエネルギーを導体の運動へ移しかえます.流れが弱まらないように電源が仕事をするので,モーターの仕事は結局,電源から来ます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 電流に働く力は dF=Idl×B.一様な磁場では,導線の力は両端を結ぶベクトルだけで決まり,閉じた回路の合力は0.

  • 平行電流の間の力は単位長さあたり μ0I1I2/(2πd).同じ向きなら引き合う.今の SI では e の値を定めてアンペアを決め,μ0 は測る量.

  • 磁気モーメント m=NISn,トルク τ=m×B,電流一定のときの位置エネルギー −m⋅B.磁場が一様でなければ Fz=mdB/dz.

  • 整流子で半回転ごとに電流を反転させるとモーターになる.

  • 磁気力の仕事は,導線を押す正の仕事と流れを押し戻す負の仕事の和で0.モーターの仕事は電源が出す.