問いしるべ
問いから始める物理 運動を記述する

運動を記述する

速度から位置へ

著者:柚木芹香

問い

電車の速度計の記録だけが残っています.駅を出てから次の駅に止まるまでの40秒間について,横軸に時刻 t,縦軸に速度 v をとったv-tグラフを描いたところ,次のようになりました.出発から10 sまでは速度が0から 20ms−1 まで一定の割合で増え,10 sから30 sまでは 20ms−1 のまま,30 sから40 sまでは一定の割合で減って0になります.

横軸が時刻t(単位s),縦軸が速度v(単位m/s)のグラフ.原点から点(10,20)まで直線で上がり,(30,20)まで水平に進み,(40,0)まで直線で下がる台形の折れ線. 横軸が時刻t(単位s),縦軸が速度v(単位m/s)のグラフ.原点から点(10,20)まで直線で上がり,(30,20)まで水平に進み,(40,0)まで直線で下がる台形の折れ線.

この電車は40秒間に何m走ったでしょうか.グラフに書かれているのは速度だけで,位置は書かれていません.それでも距離は分かるのでしょうか.分かるなら,グラフのどこを見ればよいのでしょうか.まず自分で考えてみてください.

考えてみる

速度が一定の区間なら,話は簡単です.速度 v で時間 Δt だけ進めば,進んだ距離は vΔt です.これはv-tグラフでは,高さ v,幅 Δt の長方形の面積にあたります.10 sから30 sの区間は,高さ20,幅20の長方形なので,20×20=400m です.

速度が変わる区間はどうでしょうか.0 sから10 sは速度が一定の割合で増えるので,平均の速度は真ん中の 10ms−1 で,10×10=100m 進みます.これは三角形の面積 12×10×20 と同じです.30 sから40 sも同じ形で100 mです.合計は

100+400+100=600m

となり,台形の面積と一致します.問いの答えは「v-tグラフと横軸で囲まれた面積」でした.

では,速度が曲線を描いて変わるときはどうでしょうか.面積は公式では求まりません.そこでこの節では,面積を「細かく切って足し合わせる」という考え方で一般の場合に広げます.計算の道具である積分は,次の節で整えます.ここまでの微分は位置から速度を求める操作でした.積分はその逆向きの道具です.

面積が変位になるわけ

位置 x(t) が分からず,速度 v(t) だけ分かっているとします.時刻 t1 から t2 までの変位 x(t2)−x(t1) を知りたいとき,この時間を短い区間に細かく刻みます.1つの区間の幅 Δt が十分に小さければ,その間に速度はほとんど変わらないので,その区間の速度を v とみなして

Δx≈vΔt

と近似できます.これは幅 Δt,高さ v の細い長方形の面積です.全区間の変位は,各区間の変位の和なので,細い長方形の面積をすべて足せば,求める変位が近似的に得られます.区間を細かくするほど近似はよくなります.

定義 定積分(区分求積)

区間 a≤t≤b を n 等分し,幅を Δt=b−an,分点を tk=a+kΔt とする.このとき

∫abv(t)dt=limn→∞∑k=1nv(tk)Δt

を,v(t) の a から b までの定積分という.v-tグラフと横軸にはさまれた部分の面積を表す.ただし横軸より下にある部分の面積は負として数える.

物理では ∫abvdt が「a から b までの変位」です.記号 ∫ は和(Sum)の頭文字Sを縦に伸ばしたもので,dt は「限りなく小さくした幅 Δt」を表します.

例として v=3t2 の0 sから1 sまでを,4等分,10等分,100等分で計算してみます.tk=k/n,Δt=1/n なので,和は

∑k=1n3(kn)21n=3n3⋅n(n+1)(2n+1)6=(n+1)(2n+1)2n2

です.n=4 なら1.406,n=10 なら1.155,n=100 なら1.015で,n→∞ で 1 に近づきます.つまり ∫013t2dt=1 です.毎回このように和をとるのは大変なので,次に近道を探します.

変位と道のりのちがい

定積分は,横軸より下の部分を負の面積として数えます.速度が負とは逆向きに進むことなので,往復すれば行きと帰りの変位は打ち消し合います.一方,動いた長さの合計である道のりは,戻る間も増え続けます.

ポイント 変位と道のり

変位は ∫abvdt,道のりは ∫ab|v|dt である.速度が途中で符号を変えるときは,符号が変わる時刻で区間を分け,区間ごとに面積の大きさを足し合わせて道のりを求める.

ポイント ここまでのまとめ

  • 速度が一定なら変位は vΔt.v-tグラフでは高さ v,幅 Δt の長方形の面積にあたる.

  • 速度が変わるときも,時間を細かく刻んで長方形の面積を足し合わせれば変位が得られる.その極限が定積分 ∫abvdt で,v-tグラフと横軸で囲まれた面積(横軸の下は負)である.

  • 変位は ∫vdt,道のりは ∫|v|dt.速度が符号を変えるときは区間を分ける.

  • 問いの答え:台形の面積から,電車は40秒間に 600m 走った.