問いしるべ
問いから始める物理 熱力学の法則

熱力学の法則

装置から経路を決める例題

著者:柚木芹香

数学の道具

ポイント 数学の道具:装置から圧力と p-V 図の経路を決める

入試では経路が与えられず,装置の拘束とつり合いから決まります.順序は決まっています.

  1. ピストンの力のつり合いから圧力を出す.鉛直で質量 M,断面積 A なら pA=p0A+Mg.ばねでつながれていれば,伸び x として pA=p0A+kx(向きに注意).ストッパーで止まっているときは抗力 N≥0 を入れ,N=0 が離れる条件になる.ピストンが加速していないのが前提で,これが「ゆっくり」の意味である.

  2. 幾何から体積を出す:V=V0+Ax.

  3. 1と2から x を消すと,p と V の関係=経路が出る.固定なら鉛直線,重さだけなら水平線,ばねなら傾いた直線,熱源に接していれば双曲線である.

  4. 仕事は面積で読む.等圧なら pΔV,直線なら台形,等温なら νRTln⁡(V2/V1).

  5. 各過程で Q,W,ΔU のうち2つを求め,残りを第一法則で出す.

練習. 断面積 A,質量 M のなめらかなピストンが鉛直なシリンダーの気体を上から押さえている(大気圧 p0).(1) ピストンが自由に静止しているときの気体の圧力.(2) ピストンが下からストッパーに支えられているとき,圧力は (1) より高いか低いか.

答え:(1) p0+Mg/A (2) 支える力 N の分だけ低い(p=p0+Mg/A−N/A).加熱して N=0 になると離れて動き出す

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直なシリンダー(断面積 A)に,質量 M のなめらかなピストンで単原子分子の理想気体を閉じ込める.ピストンの上は大気(圧力 p0)である.ピストンは内壁の突起(ストッパー)に下から支えられており,そのとき気体の体積は V0,温度は T0,圧力は p0 である.ここからゆっくり加熱する.シリンダーとピストンの熱容量は無視する.

ストッパーに支えられた質量Mのピストンの下に,体積V₀,温度T₀,圧力p₀の気体がある.加熱するとV₀を保って圧力がp₁=p₀+Mg/Aまで上がり,ストッパーの抗力Nが0になる.その後は圧力p₁を保って2V₀まで膨張する. ストッパーに支えられた質量Mのピストンの下に,体積V₀,温度T₀,圧力p₀の気体がある.加熱するとV₀を保って圧力がp₁=p₀+Mg/Aまで上がり,ストッパーの抗力Nが0になる.その後は圧力p₁を保って2V₀まで膨張する.
  1. ピストンがストッパーから離れるときの気体の圧力と温度を求めよ.

  2. そこまでに与えた熱量と気体がした仕事を求めよ.

  3. さらに加熱して体積が 2V0 になるまでの温度変化・熱量・仕事を求めよ.

  4. 全体の経路を p-V 図に描き,全体の Q,W,ΔU を照合せよ.

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考え方 ストッパーに支えられている間は体積が変わらない.離れた後は,ピストンのつり合いから圧力が一定に決まる.

  1. ピストンに働く力のつり合いは pA+N=p0A+Mg で,離れる瞬間は N=0 だから p1=p0+Mg/A である.体積は V0 のままなので p/T 一定より T1=T0p1p0=T0(1+Mgp0A).

  2. 定積なので W=0,Q=ΔU=32(p1−p0)V0=3MgV02A.

  3. 圧力 p1 一定で体積が2倍になるので T2=2T1.仕事は W=p1V0,内部エネルギーの変化は ΔU=32p1V0 なので Q=52p1V0 である.これは νCpΔT と一致する.

  4. 経路は「V=V0 の鉛直線」のあと「p=p1 の水平線」である.全体では W=p1V0,ΔU=32(2p1−p0)V0,Q=ΔU+W で,(2) と (3) の和に等しい.(3) の仕事 p1V0 の中身は,大気を押しのける p0V0 とピストンの位置エネルギーの増加 Mg⋅V0/A である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

水平なシリンダー(断面積 A)になめらかなピストンで単原子分子の理想気体を閉じ込め,ピストンを自然長のばね(ばね定数 k)で外の壁につなぐ.ピストンの外側は大気(圧力 p0)である.初めの気体は体積 V0,圧力 p0,温度 T0 で静止している.ゆっくり加熱してピストンを距離 d だけ外へ動かした.

左側の外の固定壁に結ばれた自然長のばねが,右へx動いたピストンを力kxで左へ引く.気体の圧力はp=p₀+kx/A,体積はV=V₀+Axとなる.p–V図の経路は傾きk/A²の直線で,V₀からV₀+Adまでの台形の面積が仕事W=p₀Ad+kd²/2を表す. 左側の外の固定壁に結ばれた自然長のばねが,右へx動いたピストンを力kxで左へ引く.気体の圧力はp=p₀+kx/A,体積はV=V₀+Axとなる.p–V図の経路は傾きk/A²の直線で,V₀からV₀+Adまでの台形の面積が仕事W=p₀Ad+kd²/2を表す.
  1. ピストンが x 動いたときの気体の圧力を求め,p を V の関数として表せ.

  2. 気体がした仕事を求め,大気にした仕事とばねに蓄えられたエネルギーの和と一致することを確かめよ.

  3. 加えた熱量と,最後の温度を求めよ.

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考え方 ピストンのつり合いに,ばねの力を向きに注意して入れる.圧力が V の1次式になるので,仕事は台形の面積である.

  1. ピストンは気体から外へ pA,大気から内へ p0A,伸びたばねから内へ kx を受けるので p=p0+kx/A である.V=V0+Ax から x を消して

p=p0+kA2(V−V0).
  1. W=∫V0V0+AdpdV=p0Ad+12kd2.第1項は大気を押しのける仕事,第2項はばねの弾性エネルギーである.ピストンの運動エネルギーは初めと終わりで0なので,気体がした仕事はこの2つに全部渡る.

  2. 終状態は p2=p0+kd/A,V2=V0+Ad である.ΔU=32(p2V2−p0V0)=32(p0Ad+kdV0A+kd2) なので

Q=ΔU+W=52p0Ad+3kdV02A+2kd2.

温度は T2T0=p2V2p0V0=(1+kdp0A)(1+AdV0) 倍になる.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

断熱された固定容器が仕切りで2室に分けられ,反応しない理想気体が,室1に ν1 mol(定積モル比熱 CV1,温度 T1,体積 V1),室2に ν2 mol(CV2,T2,V2)入っている.モル比熱は一定とする.

断熱された固定容器の2室にν₁,C_V1,T₁,V₁とν₂,C_V2,T₂,V₂の理想気体がある.仕切りを抜くと両成分が体積V₁+V₂に混ざり,温度T_fで平衡になる.固定で熱を通す仕切りは温度,動けて熱を通す仕切りは温度と圧力,動けて断熱の仕切りは圧力の一致を要求する. 断熱された固定容器の2室にν₁,C_V1,T₁,V₁とν₂,C_V2,T₂,V₂の理想気体がある.仕切りを抜くと両成分が体積V₁+V₂に混ざり,温度T_fで平衡になる.固定で熱を通す仕切りは温度,動けて熱を通す仕切りは温度と圧力,動けて断熱の仕切りは圧力の一致を要求する.
  1. 仕切りを抜いて平衡になったときの温度 Tf を求めよ.

  2. そのときの各成分の分圧と全圧を求めよ.

  3. 仕切りを抜かずに,仕切りが「固定で熱を通す」「動けて熱を通す」「動けて断熱」の3通りの場合,平衡で何が一致するかを述べよ.

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考え方 容器全体は断熱・固定なので Q=0,W=0 で,内部エネルギーの和が保たれる.

  1. ν1CV1(Tf−T1)+ν2CV2(Tf−T2)=0 より

Tf=ν1CV1T1+ν2CV2T2ν1CV1+ν2CV2

である.比熱の重みつき平均であって,物質量だけの平均ではない.モル比熱が温度に依るときは ∑iνi∫TiTfCVi(T)dT=0 を解く.

  1. 各成分は全体積 V1+V2 を占めるので,分圧は pi=νiRTf/(V1+V2),全圧はその和 p=(ν1+ν2)RTf/(V1+V2) である.

  2. 固定で熱を通すなら温度だけが一致する(体積が変わらないので圧力は一致しない).動けて熱を通すなら温度と圧力が一致する.動けて断熱なら,力のつり合いから圧力だけが一致し,温度は一致しない.ピストンが止まったことから温度が等しいと決めつけてはいけない.

ポイント ここまでのまとめ

  • 経路は装置が決める.ピストンのつり合いで p を,幾何で V を書き,x を消せば p-V 図の経路が出る.

  • ストッパーの抗力は N≥0.N=0 が離れる条件で,そこで定積から等圧へ経路が折れ曲がる.

  • ばね付きシリンダーでは p が V の1次式になり,仕事は台形の面積.内訳は大気への仕事とばねの弾性エネルギーである.

  • 断熱・固定の容器で混ぜると Tf は νiCVi を重みとする平均になる.仕切りが何を通すかで,一致する量(温度・圧力)が変わる.