問いしるべ
問いから始める物理 電荷と電場

電荷と電場

ガウスの法則

著者:柚木芹香

問い

金属でできた中空の球に電荷を与えて帯電させます.球には小さな穴があいていて,そこから空洞の中に小さな電荷を差し入れることができます.空洞の中の電荷は,球の電荷から力を受けるでしょうか.球の外に別の帯電体を近づけたら,その影響は空洞の中まで届くでしょうか.

考えてみる

球の表面の電荷が空洞の中の電荷に及ぼす力を,クーロンの法則で1つずつ足していくこともできます.近くの壁の電荷は近いので強く押し,遠くの壁の電荷は遠いけれど量が多い.この勝負は,第10章の球殻の定理と同じ形で,殻の内側では力がちょうど打ち消し合うことを知っています.けれど,それは電荷が球面に一様に分布しているときの話です.外に帯電体を近づければ,金属の中の自由電子が動いて表面の電荷の分布は偏りますし,球でない容器ではどうなるのかも分かりません.電荷の分布が分からないまま,クーロンの法則を足し合わせることはできません.

そこで見方を変えます.電気力線は正電荷から出て負電荷に入り,途中で消えません.それなら,閉じた面から出ていく電気力線の本数を数えれば,中にある電荷が分かるはずです.逆に,中の電荷が分かれば,出ていく本数が分かります.電気力線を数えるという考えを,式にしましょう.

電場の流束

一様な電場 E の中に,面積 S の平面を置きます.面に垂直な単位ベクトル(法線ベクトル)を n とし,E と n のなす角を θ とします.面を横切る電気力線の本数は,面を電場に垂直な向きに映した面積 Scos⁡θ に比例します.

定義 電場の流束

面を小さな部分 dS に分け,各部分の法線ベクトルを n とするとき

ΦE=∫E⋅ndS

を,面を n の向きに通る電場の流束(電束)という.一様な電場と平面なら ΦE=EScos⁡θ.閉じた面では n をいつも外向きにとる.

電気力線を,電場に垂直な面の単位面積あたり E 本の密度で描くことにすると,流束は面を通る電気力線の本数そのものです.ただし,本数は流束を思い描くための絵であって,流束そのものは連続な量です.1.5 本のような半端な値になっても構いません.閉じた面では,出ていく本数から入ってくる本数を引いたものになります.面積分の計算の仕方は数学の節で練習します.

左の平面の法線 n は一様な電場 E と角 θ をなす.電場に垂直な投影面積は S cosθ である.右では閉じた面を出る力線から入る力線を引いて流束を数える. 左の平面の法線 n は一様な電場 E と角 θ をなす.電場に垂直な投影面積は S cosθ である.右では閉じた面を出る力線から入る力線を引いて流束を数える.

ガウスの法則

原点にある点電荷 q を,半径 r の球面で囲みます.球面上では電場は外向きで大きさ kq/r2 なので,E⋅n=kq/r2 が一定です.流束は

ΦE=kqr2×4πr2=4πkq=qε0

で,r によりません.電場は 1/r2 で弱まり,球面の面積は r2 で増えるので,ちょうど打ち消し合います.どの半径の球面でも,通る電気力線の本数は同じです.

面が球面でなくても同じです.点電荷から見て,閉じた面の小さな部分 dS が距離 r にあり,その法線が電場と角 θ をなすとします.この部分を通る流束 (kq/r2)cos⁡θdS は,dS を半径 r の球面に映した面積 cos⁡θdS を通る流束と同じで,それは同じ円錐が半径1の球面を切り取る面積(立体角)dΩ=cos⁡θdS/r2 に kq を掛けたものです.面全体で足すと,立体角は全部で 4π なので流束は 4πkq になります.

電荷が閉じた面の外にあれば,電気力線は面に入って,また出ていくので,流束は0です.たくさんの電荷があるときは,重ね合わせの原理から流束も足し合わせられます.

法則 ガウスの法則

任意の閉じた面について,外向きの電場の流束は,面の中にある電荷の総和 Qin で決まる.

ΦE=∫E⋅ndS=Qinε0

面の外の電荷は,面上の電場を変えるが,流束には寄与しない.

左では点電荷 q からの細い円錐が閉じた面を切り取る部分 dS と,法線 n,電場 E,角 θ を示す.右では外の点電荷の力線が面に入り,再び出る. 左では点電荷 q からの細い円錐が閉じた面を切り取る部分 dS と,法線 n,電場 E,角 θ を示す.右では外の点電荷の力線が面に入り,再び出る.

ガウスの法則は,クーロンの法則の逆2乗の性質と同じことを言っています.もし力が 1/r2+δ に比例していたら,球面を通る流束は r−δ に比例して半径で変わり,電気力線は途中で消えたり生まれたりすることになります.帯電した導体の殻の内側に電場がまったく無いことを精密に調べる実験で,δ は 10−15 より小さいと確かめられています.

注意しておきたいのは,ガウスの法則は流束,つまり面全体での合計についての法則だということです.各点の電場までは教えてくれません.たとえば一様な電場は,どんな閉じた面でも流束が0で,電場の無い空間と区別できません.静電場を決めるには,もう1つ「静電場は保存場である」(電位の題材)という性質が要ります.ガウスの法則だけで電場が求まるのは,対称性から電場の向きと,どこで大きさが等しいかが前もって分かる場合です.

対称性から電場を求める

ポイント ガウスの法則で電場を求める手順

  1. 電荷の分布の対称性から,電場の向きと,電場の大きさが何に依存するかを決める.

  2. 面上で E⋅n が一定か0になるような閉じた面(ガウス面)を選ぶ.

  3. 流束を「電場の大きさ × 面積」の掛け算で書く.

  4. ガウス面の中の電荷 Qin を数え,ΦE=Qin/ε0 から電場の大きさを出す.

球対称.半径 a の薄い球殻に電荷 Q が一様に分布しているとします.電場は中心から放射状で,大きさは中心からの距離 r だけで決まります.半径 r の同心の球面をガウス面にとると,4πr2Er=Qin/ε0 です(Er は外向きの成分).殻の外(r>a)では Qin=Q で Er=kQ/r2,殻の中(r<a)では Qin=0 で Er=0 です.半径 R の球に電荷 Q が一様に分布していれば,内部では Qin=Q(r/R)3 なので

Er=kQR3r(r<R),Er=kQr2(r>R)

となります.第10章で輪に分けた積分で示した球殻の定理が,数行で出てしまいました.万有引力でも,重力の場 g について ∫g⋅ndS=−4πGMin が同じ理由で成り立ちます(kq を −Gm に置き換える).

円筒対称.無限に長い直線に,単位長さあたり λ の電荷が一様に分布しているとします.電場は直線から放射状に広がり,大きさは直線からの距離 r だけで決まります.半径 r,長さ L の円筒をガウス面にとると,両端のふたでは E⋅n=0,側面では一定なので

2πrLE=λLε0,E=λ2πε0r

です.点電荷の 1/r2 と違って,1/r でしか弱まりません.電気力線が平面の中に放射状に広がるだけだからです.

平面対称.無限に広い平面に,単位面積あたり σ の電荷が一様に分布しているとします.電場は平面に垂直で,平面の両側で反対向き,大きさは平面からの距離だけで決まります.平面を貫く,底面積 S の円筒(または箱)をガウス面にとると,流束は両方の底面から出て

2SE=σSε0,E=σ2ε0

です.電場は平面からの距離によりません.電気力線が平行なまま広がらないからです.+σ と −σ の2枚の平行な平面を重ねると,間では2つの電場が同じ向きで E=σ/ε0,外では打ち消し合って0になります.これが,導体とコンデンサーの題材で使う平行板の電場です.

球殻 Q と同心球面,直線電荷 λ を囲む円筒,平面電荷 σ を貫く円筒を並べる.青の電場は球面,円筒の側面,両底面をそれぞれ外向きに通る. 球殻 Q と同心球面,直線電荷 λ を囲む円筒,平面電荷 σ を貫く円筒を並べる.青の電場は球面,円筒の側面,両底面をそれぞれ外向きに通る.

ここでの「無限に長い直線」「無限に広い平面」は理想化です.長さや広さが L の有限の分布でも,端から十分離れ,分布からの距離 r と L の比が十分小さい所では,同じ式がよい近似になります.逆に r が L よりずっと大きい所では,どんな分布も全電荷をもつ点電荷のように見えます.

対称性が無いとき

対称性が無いときは,ガウスの法則から電場は出せないので,電荷の分布を小さな部分に分けてクーロンの法則で足し合わせます.たとえば半径 a の輪に電荷 Q が一様に分布しているとき,輪の中心軸上で中心から距離 z の点の電場は,軸に沿った向きに

Ez=kQz(a2+z2)3/2

となります(導き方は数学の節).z が a よりずっと大きいと kQ/z2 で点電荷と同じになり,中心 z=0 では対称性から0です.球面上のどこでも電場の大きさが同じ,という性質が無いので,この結果はガウスの法則からは出せません.

各点で成り立つ形(発展)

ガウスの法則は,どんな閉じた面でも成り立ちます.そこで,ごく小さな箱を考え,箱から出ていく流束を箱の体積で割った量を考えます.これを E の発散 ∇⋅E といい,ガウスの法則から,箱の中の電荷を体積で割った量,つまり電荷密度 ρ を使って

∇⋅E=ρε0

が各点で成り立ちます.逆に,この式を体積で積分すると元のガウスの法則に戻ります(ガウスの定理,数学の節).電場が「どこからわき出しているか」を各点で言う形で,第24章のマクスウェル方程式の1つ目です.

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静電気の状態では,導体の中で電場は0です.電場があれば自由電子が動いてしまい,止まった状態にならないからです(詳しくは導体の題材).そこで,空洞を囲むように,金属の中だけを通る閉じた面をとります.面上では電場が0なので流束は0で,ガウスの法則から面の中の電荷の総和は0です.空洞に何も入れていなければ,空洞の内壁には正味の電荷がありません.球に与えた電荷も,外の帯電体が引き寄せたり退けたりする電荷も,すべて外側の表面に集まります.

球形の空洞なら,対称性から空洞の中の電場は0で,空洞に入れた小さな電荷は,球の電荷からも外の帯電体からも力を受けません.外の帯電体を近づけると,外側の表面の電荷の分布が変わり,空洞の中への影響をちょうど打ち消すのです.ファラデーの部屋の中の検電器が動かなかったのは,このためです.空洞が球形でなくても中の電場が0になることは,電場が保存場であることも使って,導体の題材で示します.

ただし,空洞に入れた電荷そのものは,空洞の内壁に反対符号の電荷を呼び寄せ,その電荷から力を受けることがあります.これは空洞に電荷を置いた場合の話として,導体の題材で答えます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 電場の流束 ΦE=∫E⋅ndS は,面を通る電気力線の本数.

  • ガウスの法則:閉じた面から出る流束は Qin/ε0.逆2乗則と同じことで,電気力線は電荷の無い所で消えない.

  • 流束だけでは各点の電場は決まらない.対称性があるときに,ガウス面を選んで掛け算にする.

  • 球殻の外は kQ/r2,中は0.直線電荷は λ/(2πε0r),平面電荷は σ/(2ε0).

  • 各点の形は ∇⋅E=ρ/ε0(発展).

  • 導体で囲まれた,電荷の無い空洞には,導体の電荷や外の電荷の影響が届かない.