問いしるべ
問いから始める物理 測定と不確かさ(発展)

測定と不確かさ(発展)

グラフでモデルを確かめる

著者:柚木芹香

問い

ここまで,周期の式 T=2πl/g が正しいものとして,長さと周期から g を求めてきました.しかし,この式そのものは正しいのでしょうか.1つの長さで周期を測るだけでは,式は確かめられません.l と T を測れば,式から何かしらの g が必ず計算できてしまうからです.周期の式が正しいことを,測定からどうやって確かめればよいでしょうか.

考えてみる

式を確かめるには,条件を変えて測り,同じ1つの定数で全部の結果が説明できるかを調べます.おもりの上端までの読み l′ を 0.200m から 1.200m まで6通りに変え,それぞれ振れ角を約 5∘ にそろえて,10周期の時間から周期を求めました(説明のために作った例の値です).

l′[m]

0.200

0.400

0.600

0.800

1.000

1.200

T[s]

0.928

1.288

1.572

1.807

2.020

2.211

T2[s2]

0.861

1.659

2.471

3.265

4.080

4.889

T を l′ に対してグラフにすると,上に凸の曲線になります.しかし,曲線が l の形なのか,l0.4 の形なのか,目で見分けるのは困難です.曲線は,形の違いが見えにくいのです.

直線になる軸を選ぶ

周期の式を2乗すると T2=4π2gl です.T2 を縦軸に,長さを横軸にとれば,式が正しいなら直線になります.直線かどうかなら,定規を当てるだけで目で判断できます.

横軸は,実際に読んだ l′ のままにします.l=l′+r(r はおもりの半径)なので

T2=4π2gl′+4π2gr

となり,傾きは b=4π2g,縦軸の切片は a=4π2rg です.傾きから g=4π2b が求まります.直線が横軸と交わる点は l′=−r で,これは l=0 の点です.

ここに大事な利点があります.長さの読みに一定のずれ(おもりの半径,支点の位置の見誤り,ものさしの端のすり減り)があっても,直線が横にずれるだけで,傾きは変わりません.1組の測定から g=4π2l/T2 を計算すると,一定のずれはそのまま g に入りますが,傾きから求めればそのずれを避けられます.

本文の6点を最小二乗直線に重ねる.傾き b はΔ(T²)/Δl′.原点の近くを拡大して縦の切片 a と横軸との交点 l′ = −r を示す.拡大図は上下の縮尺が全体図と異なる. 本文の6点を最小二乗直線に重ねる.傾き b はΔ(T²)/Δl′.原点の近くを拡大して縦の切片 a と横軸との交点 l′ = −r を示す.拡大図は上下の縮尺が全体図と異なる.

直線を当てはめる

測った点は少しずつ散らばるので,全部の点を通る直線はありません.そこで,各点の縦のずれ(残差)ei=yi−(a+bxi) の2乗の和が最小になるように a,b を決めます.これを最小二乗法といい,計算は次の節で行います.表のデータでは

b=4.028s2m−1,a=0.0511s2

となり,g=4π24.028=9.801ms−2,標準不確かさは 0.017ms−2 です.横軸との交点は −ab=−0.0127m で,おもりの半径 1.27cm とよく合います.

残差を見る

直線に乗っているように見えても,それだけでは安心できません.当てはめた後の残差を,横軸に対して並べてみます.

l′[m]

0.200

0.400

0.600

0.800

1.000

1.200

残差 [s2]

+0.004

−0.003

+0.003

−0.009

+0.001

+0.004

残差の符号に決まった並びはなく,大きさは 0.01s2 以下です.どの長さでも前の題材と同じ測り方(t10 を10回)をしたとして,周期の標準不確かさを 0.0017s とすると,T2 の標準不確かさは 2Tu(T),つまり 0.003〜0.008s2 ほどと見込まれるので,残差はその程度に収まっています.これで初めて,「この範囲の長さで,周期の式は測定の精度の範囲で成り立つ」といえます.

測り方を変えてみます.どの長さでも,おもりを水平に 15cm 引いて放したとします.すると短い振り子ほど振れ角が大きくなり,l′=0.200m では約 45∘ にもなります.第7章で見るように,振れ角が大きいと周期は長くなるので,短い振り子の T2 だけが大きく出ます.この測定に直線を当てはめると,残差は左から +0.018, −0.011, −0.012, −0.006, +0.001, +0.010s2 と,両端で正,中ほどで負の弓なりになります.傾きから出した g も 9.93ms−2 へずれます.点の並びを眺めただけでは直線に見えても,残差に形があれば,モデル(振れ角の小さい単振り子)が測定の条件に合っていないと分かります.

ポイント モデルを確かめる手順

  1. 条件(ここでは長さ)を広い範囲で変えて測る.

  2. モデルが正しければ直線になる軸を選ぶ.

  3. 直線を当てはめ,傾きと切片の物理的な意味を確かめる.

  4. 残差を並べ,形が無く,大きさが測定の不確かさ程度かを見る.形があれば,モデルか測り方を疑う.

ポイント ここまでのまとめ

  • 1組の測定からは,式が正しくなくても何かの定数が出てしまう.条件を変えて,同じ定数で全部が説明できるかを見る.

  • 直線になる軸(T2 と l′)を選ぶ.傾き 4π2/g から g を求めると,長さの一定のずれは切片に入り,傾きには入らない.

  • 残差に形が無く,大きさが不確かさ程度なら,モデルはその範囲で成り立つ.弓なりなどの形は,モデルのずれを教える.

  • 問いの答え:長さを変えて T2 と l′ のグラフが直線になること,残差に形が無いことを確かめる.傾きから g=9.801ms−2(標準不確かさ 0.017),切片からおもりの半径が読み取れた.