問いしるべ
問いから始める物理 測定と不確かさ(発展)

測定と不確かさ(発展)

最小二乗法と両対数グラフ

著者:柚木芹香

前の節では,測った点に直線を当てはめ,その傾きから g を求めました.この節では,当てはめの式(最小二乗法)を偏微分で導き,傾きの不確かさも出します.最後に,べきの指数を読む両対数グラフを扱います.

定理 数学の道具:最小二乗法と両対数グラフ

最小二乗法. 点 (xi,yi)(i=1,…,N)に直線 y=a+bx を当てはめる.縦のずれ(残差)ei=yi−a−bxi の2乗の和

S(a,b)=∑i=1N(yi−a−bxi)2

を最小にする a,b を選ぶ.S は a についても b についても2次式で,a,b を大きく動かすといくらでも大きくなるので,最小の点では両方の偏微分が0になる.

∂S∂a=−2∑(yi−a−bxi)=0,∂S∂b=−2∑xi(yi−a−bxi)=0

1つ目から y¯=a+bx¯,つまり直線は点 (x¯,y¯) を通る.これを2つ目に入れて ∑xi[(yi−y¯)−b(xi−x¯)]=0.∑x¯(yi−y¯)=0,∑x¯(xi−x¯)=0 を引いてよいので

b=∑(xi−x¯)(yi−y¯)∑(xi−x¯)2,a=y¯−bx¯

分母を Sxx=∑(xi−x¯)2 と書く.定数 c だけを当てはめる(b=0)なら c=y¯ になり,平均は最小二乗法の特別な場合である.

傾きと切片の不確かさ. ∑(xi−x¯)y¯=0 なので,b=∑wiyi,wi=xi−x¯Sxx と,b は yi の1次式である.各 yi が独立に同じ標準不確かさ σ を持つなら,前の題材の合成の式(偏微分は wi)から

u(b)2=∑wi2σ2=σ2Sxx

同様に a=∑(1N−x¯wi)yi で,∑wi=0 を使うと u(a)2=σ2(1N+x¯2Sxx).σ は残差から se=∑ei2N−2 で見積もる.N−2 で割るのは,データから a,b の2つを決めた分だけ残差が小さく出るからである(平均の1つを決めたときの N−1 と同じ考え方).x を広い範囲に散らすほど Sxx が大きくなり,傾きは確かになる.

両対数グラフ. y=Cxn の常用対数を取ると

log10⁡y=log10⁡C+nlog10⁡x

log10⁡x を横軸,log10⁡y を縦軸にとると直線になり,傾きが指数 n,切片が log10⁡C である.指数が分からないべきの関係は,両対数グラフの傾きで読む.

練習. 3点 (0,1),(1,3),(2,4) に直線を当てはめよ.

答え:x¯=1,y¯=83,Sxx=2,∑(xi−x¯)(yi−y¯)=(−1)(−53)+0+1⋅43=3.よって b=1.5,a=83−1.5=76≈1.17.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

前の節の表(x=l′,y=T2)について,x¯,y¯,Sxx,∑(xi−x¯)(yi−y¯) を計算し,傾き b,切片 a と,g=4π2/b を求めよ.

x[m]

0.200

0.400

0.600

0.800

1.000

1.200

y[s2]

0.861

1.659

2.471

3.265

4.080

4.889

解答を見る

考え方 ∑(xi−x¯)y¯=0 なので,分子は ∑(xi−x¯)yi で計算してよい.

x¯=0.700m.xi−x¯=−0.5, −0.3, −0.1, 0.1, 0.3, 0.5m なので Sxx=2×(0.25+0.09+0.01)=0.70m2.y¯=17.2256=2.8708s2.

∑(xi−x¯)yi=−0.4305−0.4977−0.2471+0.3265+1.2240+2.4445=2.8197ms2

よって

b=2.81970.70=4.028s2m−1,a=y¯−bx¯=2.87083−2.81970=0.0511s2

g=4π24.0281=9.801ms−2 である.確かめとして,単位は b が s2m−1 なので 4π2/b は ms−2 になる.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

例題 1 の当てはめについて答えよ.

横軸に上端までの長さ l′ の6つの目盛り,縦軸に残差 e_i を示す.残差0の水平線がある.残差の点と縦軸の数値目盛りは示していない. 横軸に上端までの長さ l′ の6つの目盛り,縦軸に残差 e_i を示す.残差0の水平線がある.残差の点と縦軸の数値目盛りは示していない.
  1. 各点の残差 ei と,残差の標準偏差 se を求めよ.

  2. 傾きの標準不確かさ u(b) と,g の標準不確かさを求めよ.

  3. 切片の標準不確かさ u(a) を求めよ.横軸との交点 −a/b から読んだおもりの半径は,ノギスで測った r=1.270cm と合っているか.b の不確かさは小さいので無視してよい.

解答を見る

考え方 残差から se を出し,σ の代わりに使う.g∝b−1 なので,g の相対不確かさは b と同じである.

  1. ei=yi−0.05113−4.02814xi を計算すると,10−3s2 単位で 4.2, −3.4, 3.0, −8.6, 0.7, 4.1.∑ei2=1.30×10−4s4 より

se=1.30×10−46−2=0.0057s2

確かめとして,残差の和は0になる(直線が (x¯,y¯) を通るから).

  1. u(b)=0.005710.70=0.0068s2m−1.相対で 0.00684.028=0.17 % なので,u(g)=9.801×0.0017=0.017ms−2.結果は g=9.801(17)ms−2.

  2. u(a)=0.00571×16+0.490.70=0.00571×0.931=0.0053s2.交点から読む半径は ab=0.051134.0281=0.0127m,その不確かさは 0.00534.028=0.0013m.つまり 1.27cm(標準不確かさ 0.13cm)で,ノギスの 1.270cm と合っている.グラフの切片は,長さの読みに一定のずれがあることを数で教えてくれる.ただし不確かさはノギスよりずっと大きく,半径そのものを測る方法としては粗い.

例題 3

オリジナル ★★☆☆☆

周期の式を知らないものとして,振り子の長さ l(おもりの中心まで)を変えて周期 T を測った.T=Cln の形を仮定して,両対数グラフから n と C を求めよ.さらに C=2π/g として g を求めよ.

l[m]

0.100

0.200

0.400

0.800

1.600

T[s]

0.635

0.898

1.269

1.795

2.539

解答を見る

考え方 長さは2倍ずつなので,log10⁡l は等間隔に並ぶ.両端の2点で傾きを見積もり,全体で確かめる.

log10⁡l=−1.000, −0.699, −0.398, −0.097, 0.204,log10⁡T=−0.1972, −0.0467, 0.1035, 0.2541, 0.4047.log10⁡T も 0.1505 ほどずつ等間隔に増えるので,点は直線に乗る.両端から

n=0.4047−(−0.1972)0.204−(−1.000)=0.60191.204=0.500

5点に最小二乗法を使っても n=0.4998 となる.n=0.5 として,切片は log10⁡C=log10⁡T―−0.5×log10⁡l―=0.1036+0.1990=0.3026,C=2.007sm−1/2.g=4π2C2=39.484.028=9.80ms−2.確かめとして,l=1m では log10⁡l=0 なので,C は長さ 1m の振り子の周期(約 2.0s)に当たる.また n=12 は,第2章の次元解析で出した T∝l/g と一致する.

ポイント ここまでのまとめ

  • 最小二乗法は,残差の2乗の和を最小にする.偏微分を0とおいて b=∑(xi−x¯)(yi−y¯)∑(xi−x¯)2,a=y¯−bx¯.直線は (x¯,y¯) を通る.

  • b は yi の1次式なので,u(b)=se/Sxx.se は残差の2乗の和を N−2 で割って求める.x を広く散らすほど傾きは確かになる.

  • y=Cxn は両対数グラフで直線になり,傾きが n である.