問いしるべ
問いから始める物理 万有引力と天体

万有引力と天体

重力のポテンシャルとエネルギーの演習

著者:柚木芹香

無限遠で位置エネルギーを0とし,初めと終わりの状態を式にしましょう.天体は質量 M,半径 R の球対称な静止天体とし,空気抵抗と他天体の引力は無視します.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

質量 m の荷物を,天体の表面から中心距離 2R までゆっくり運ぶ.地表の重力加速度を g=GM/R2 とする.

  1. 外力がする仕事と,重力がする仕事を求めよ.

  2. 地表の値を用いた mgh による計算と比較せよ.

地表から中心距離2Rの点へ運ぶ. 地表から中心距離2Rの点へ運ぶ.
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考え方 ゆっくり運ぶので運動エネルギーの変化は無視できる.外力の仕事は位置エネルギーの増加に等しく,重力の仕事はその符号を逆にしたものである.

  1. U(R)=−GMm/R,U(2R)=−GMm/(2R) より W外=ΔU=GMm/(2R)=mgR/2.重力の仕事は W重力=−mgR/2 である.位置エネルギーの値は両地点とも負だが,差は正になる.

  2. 高度の増加は h=R なので,重力を一定とした値は mgR.これは厳密な仕事の2倍で,厳密な値を基準にすると100 %過大である.実際には上昇するほど重力が弱まり,最終地点では地表の4分の1になる.mgh は高さが R より十分小さいときの近似であり,今回の距離へそのまま延長できない.

演習 2

オリジナル ★★☆☆☆

地表から小球を半径方向外向きに速さ v0=GM/R で打ち出す.

  1. 到達する最大の中心距離と高度を求めよ.

  2. 中心距離 3R/2 を上昇中に通るときの速さを求め,下向きに通る場合と比べよ.

初速度v₀と中心距離3R/2の観測点を示す.到達点は描かない. 初速度v₀と中心距離3R/2の観測点を示す.到達点は描かない.
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考え方 半径方向だけの運動なので,最高点では速さ全体が0になる.楕円軌道の遠点では接線速度が残ることとの違いに注意する.

  1. 初めのエネルギーは E=mv02/2−GMm/R=−GMm/(2R).最高点で −GMm/rmax=E だから rmax=2R,高度は hmax=R である.脱出速度は初速の 2 倍なので,この小球は無限遠へは行けない.

  2. 保存則に r=3R/2 を入れると v2/2−2GM/(3R)=−GM/(2R).よって v=GM/(3R)=v0/3.下降時にも同じ位置で同じ位置エネルギーをもち,運動エネルギーも同じなので速さは等しい.ただし速度の向きは逆である.この往復の比較は,途中で衝突や抵抗による損失がないという仮定に依存する.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

地球から十分離れた所でも v∞=3.0×103ms−1 の速さを残すように,地表から半径方向外向きに物体を打ち出す.GM=3.98×1014m3s−2,R=6.37×106m とする.

  1. 必要な初速を求めよ.

  2. 脱出速度に v∞ を加える計算が正しくない理由を説明せよ.

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考え方 無限遠の運動エネルギーを0と置かず,残したい速さを含める.保存されるのは速さの和ではなく,運動エネルギーと位置エネルギーの和である.

  1. mv02/2−GMm/R=mv∞2/2 より v0=2GM/R+v∞2.2GM/R≈1.25×108m2s−2 に 9.0×106m2s−2 を足して平方根をとると,v0≈1.16×104ms−1 である.

  2. 脱出速度は約 1.12×104ms−1 だが,必要な初速はこれに 3.0×103ms−1 を足した値ではない.条件は v02=vesc2+v∞2 である.初めから大きな運動エネルギーがあるので,比較的小さい速さの追加でも無限遠に有限の運動エネルギーを残せる.次元が合うだけでは足し算の根拠にならない.

演習 4

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の衛星が半径 r の円軌道にある.接線方向に1回だけ瞬間的な噴射を行い,ちょうど脱出させる.

  1. 必要な速度増分 Δv を求めよ.

  2. 噴射が衛星に与える力学的エネルギーの増加を求め,m(Δv)2/2 と等しいか調べよ.噴射中の衛星の質量変化は無視する.

噴射前の円軌道と接線速度v_cを示す.脱出後の軌道は示さない. 噴射前の円軌道と接線速度v_cを示す.脱出後の軌道は示さない.
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考え方 噴射の前後は同じ位置にあるため,位置エネルギーは変わらない.噴射後のエネルギーを0にするには,円軌道の束縛エネルギーを補えばよい.

  1. 円軌道の速さは vc=GM/r.脱出の境界は v′=2GM/r=2vc だから,進行方向への噴射で Δv=(2−1)vc となる.これは地表から静止状態で脱出するときの初速とは異なる.

  2. 初め E=−GMm/(2r),後で E′=0 なので ΔE=GMm/(2r)=mvc2/2.直接計算しても ΔE=m{(vc+Δv)2−vc2}/2=mvcΔv+m(Δv)2/2 である.したがって m(Δv)2/2 だけでは足りず,初速度に依存する交差項が必要になる.同じ速度増分でも速い場所での順行噴射ほどエネルギー増加は大きい.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

角運動量 L≠0 が一定の質点について,r0=L2/(GMm2),A=GMm/r0,x=r/r0 と置く.エネルギーは E=−3A/8 である.

  1. 実効ポテンシャルを A,x で表し,許される r の範囲を求めよ.

  2. 転回点で速さ全体は0になるか.両転回点での速さの比を求めよ.

Ueff/A=1/(2x²)−1/xとE/A=−3/8を数値計算した.交点の座標は示さない. Ueff/A=1/(2x²)−1/xとE/A=−3/8を数値計算した.交点の座標は示さない.
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考え方 実効ポテンシャルには接線方向の運動エネルギーが含まれる.水平線との交点で0になるのは動径方向の運動エネルギーだけである.

  1. L2=GMm2r0 を代入すると Ueff/A=1/(2x2)−1/x.許される条件は −3/8≥1/(2x2)−1/x なので,正の 8x2 を掛けて 3x2−8x+4≤0.因数分解すると (3x−2)(x−2)≤0 より 2r0/3≤r≤2r0 である.

  2. 転回点で r˙=0 だが,接線速度 v=L/(mr) は0ではない.内側と外側の速さの比は (2r0)/(2r0/3)=3.内側を近点,外側を遠点とすれば,長半径は a=4r0/3 であり,−GMm/(2a)=−3A/8 と元のエネルギーに一致する.単なる U=−GMm/r と E の交点だけで遠点を求めると,接線運動を取り落とす.

ポイント 教える人へ

  • 無限遠基準の負の値と,移動による正の増加を区別させる.

  • 最高点で速さが0と言えるのは,半径方向だけの投射である.

  • 速度増分による仕事は,噴射前の速度にも依存することを確認させる.

  • 実効ポテンシャルでは動径速度と接線速度を別々に説明させる.