問いしるべ
問いから始める物理 万有引力と天体

万有引力と天体

広義積分と実効ポテンシャル図の読み方

著者:柚木芹香

広義積分を整理し,一般の中心力の実効ポテンシャルの図から,円軌道の条件と安定性を読み取ります.

定理 数学の道具:広義積分とべき乗の近似

広義積分. 上端が無限大の積分は,上端を b として計算してから b→∞ とする.n>1 のとき

∫r∞dxxn=limb→∞[x1−n1−n]rb=r1−nn−1

と有限の値に収束する.n=1 では ∫rbdx/x=ln⁡b−ln⁡r となり b→∞ で発散する.万有引力は n=2 で収束し,無限遠までの仕事が有限になる.力が 1/r でしか弱まらなければ,無限遠基準の位置エネルギーは定義できない.

小さい量の近似. |x| が十分小さいとき,(1+x)n≈1+nx.

練習 1. (1) ∫r∞dxx3 を求めよ.(2) 高さ h=1.0km での位置エネルギーの増加の厳密な値は GMmhR(R+h) である.R=6.37×106m として,mgh は厳密な値より何パーセント大きいか.

答え:(1) n=3 より 12r2. (2) 厳密な値と mgh の比は RR+h≈1−hR.h/R≈1.6×10−4 なので,mgh は約 0.016 % 大きいだけである.

練習 2. (1) ∫R∞GMmx2dx を求めよ.(2) (1+x)−1/2≈1−x2 を使って,x=0.010 のときの値を求めよ.(3) 2gR を g=9.8ms−2,R=6.37×106m で計算せよ.

答え:(1) [−GMmx]R∞=GMmR.(2) 1−0.005=0.995.(3) 2×9.8×6.37×106≈1.1×104ms−1.

実効ポテンシャルの図の読み方

前の節の E=12mr˙2+Ueff(r) を,第6章のポテンシャル図と同様に,次の手順で読みます.

  • E の水平線と Ueff の交点が転回点で,12mr˙2=E−Ueff≥0 となる範囲だけを動く.

  • 谷の底(dUeffdr=0)が円軌道の半径.底の Ueff の値が円軌道のエネルギー.

  • 底で下に凸(d2Ueffdr2>0)なら安定.少しずれても谷の中で振動する.

一般の Ueff(r)=L22mr2+U(r) で式にすると,次のようになります.底では

dUeffdr=−L2mr3+dUdr=0

です.L=mr2θ˙ を入れると mrθ˙2=dUdr で,これは中心向きの引力の大きさ dUdr が向心力 mrθ˙2 に等しいという,円運動の運動方程式そのものです.dUdr>0(引力)の場所でなければ,円軌道はありません.底の半径を r0 とし,L2=mr03U′(r0) を使うと,底での2階微分は

d2Ueffdr2=3L2mr04+U″(r0)=3U′(r0)r0+U″(r0)

です(U′,U″ は r での1階,2階微分).これが正なら円軌道は安定で,少しずれた軌道では r が r0 のまわりを角振動数 ωr=1md2Ueffdr2 で単振動します(第7章).

万有引力 U=−GMmr では,dUeffdr=−L2mr3+GMmr2=0 より底は r0=L2GMm2 で,エネルギーは Ueff(r0)=−GMm2r0 です.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

地球の質量を 5.97×1024kg,半径を 6.37×106m,万有引力定数を 6.67×10−11Nm2kg−2 とする.空気抵抗と自転は無視する.

地表から半径方向に初速v₀で投射する.最高点までの中心距離をrmaxとする. 地表から半径方向に初速v₀で投射する.最高点までの中心距離をrmaxとする.
  1. 脱出速度を求めよ.

  2. 地表から鉛直上向きに速さ 8.0×103ms−1 で打ち出した物体が達する,最高点の地表からの高さを求めよ.

解答を見る

考え方 力学的エネルギー保存 12mv2−GMm/r=E を使う.最高点では速さが 0 である.

  1. vesc=2GMR=2×3.98×10146.37×106≈1.12×104ms−1.

  2. 単位質量あたり E/m=12(8.0×103)2−3.98×10146.37×106=3.2×107−6.25×107=−3.05×107m2s−2.最高点では −GM/rmax=E/m なので rmax=3.98×10143.05×107≈1.31×107m.高さは rmax−R≈6.7×106m で,地球の半径ほどある.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の人工衛星が,質量 M の地球のまわりを半径 r の円軌道で回っている.

円軌道の半径と速度を示す.K,U,Eの値と棒の長さは読者が求めるため,解答を示す棒グラフは置かない. 円軌道の半径と速度を示す.K,U,Eの値と棒の長さは読者が求めるため,解答を示す棒グラフは置かない.
  1. 運動エネルギー K,位置エネルギー U,力学的エネルギー E を GMm/r で表せ.

  2. 薄い大気の抵抗で衛星のエネルギーがわずかに減り,軌道が円に近い形のまま半径が小さくなった.速さは増えるか減るか.

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考え方 円軌道の運動方程式から v2 を出し,K と U を比べる.

  1. mv2r=GMmr2 より K=12mv2=GMm2r.U=−GMmr=−2K.よって E=K+U=−GMm2r=−K.

  2. K=−E なので,E が減ると K は増える.半径が小さくなると E=−GMm/(2r) はより負になり,速さは増える.抵抗を受けて速くなるのは,位置エネルギーが,運動エネルギーの増えた分の2倍だけ減るからである.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

質量 m の物体が,質量 M の動かない天体のまわりを角運動量 L で運動する.実効ポテンシャルは Ueff(r)=L22mr2−GMmr である.

数値計算した実効ポテンシャルと,極小より高いエネルギー線を示す.r₀,r₁,r₂の値は示さない. 数値計算した実効ポテンシャルと,極小より高いエネルギー線を示す.r₀,r₁,r₂の値は示さない.
  1. 円軌道の半径 r0 を求めよ.

  2. この円軌道が安定であることを示し,r0 のまわりの小さな動径方向の振動の角振動数を求めよ.

  3. 万有引力の代わりに,大きさ krn(k>0)の中心向きの引力が働くとする.円軌道が安定になる n の範囲と,ωr と円運動の角速度 θ˙ の比を求めよ.また n=1(ばねのような力)のとき,1周の間に r は何回最小になるか.

解答を見る

考え方 底の位置は dUeffdr=0.安定性は 2階微分の符号で調べる.小さな振動は第7章の単振動として扱う.

  1. 前に求めたとおり r0=L2GMm2.

  2. d2Ueffdr2=3L2mr4−2GMmr3.L2=GMm2r0 を代入すると r=r0 で GMmr03>0 となり,下に凸なので安定である.動径方向の運動方程式は mr¨≈−GMmr03(r−r0) なので,単振動で ωr=GMr03.円運動の角速度 θ˙=Lmr02=GMr03 と一致する.1周する間に動径方向もちょうど1往復する.

  3. U′(r)=krn,U″(r)=nkrn−1 なので,本文の式から d2Ueffdr2=3kr0n−1+nkr0n−1=(n+3)kr0n−1.安定なのは n>−3 のときである.円運動の式 mr0θ˙2=kr0n より θ˙2=kr0n−1m,また ωr2=(n+3)kr0n−1m なので ωrθ˙=n+3.万有引力(n=−2)では1で,(2)と合う.n=1 では2で,1周の間に r は2回最小になる(中心 O が楕円の中心にある楕円軌道).比が整数でないと,最も近づく点の向きが1周ごとにずれていく.

ポイント ここまでのまとめ

  • ∫r∞dx/xn は n>1 で収束する.万有引力は 1/r2 で弱まるので,無限遠基準の位置エネルギーが決まる.

  • 実効ポテンシャル Ueff=L2/(2mr2)+U(r) の底が円軌道で,その条件 dUeffdr=0 は円運動の運動方程式と同じ.d2Ueffdr2>0 なら安定.万有引力では r0=L2/(GMm2),エネルギーは −GMm/(2r0).

  • 引力が krn なら,円軌道は n>−3 で安定で,ωr/θ˙=n+3.

  • 円軌道では K=−E,U=−2K.弱い抵抗で軌道がほぼ円のまま少しずつ縮むときは,エネルギーが減って半径が小さくなり,速さは大きくなる(抵抗は直接には速さを減らすが,低い円軌道ほど速いため).