本体の節で使った,周期関数を倍音に分ける式と,強さが倍音ごとの和に分かれる式を,三角関数の直交性から導きます.
定理 数学の道具:三角関数の直交性
𝑚, 𝑛 を正の整数とする.
∫2𝜋0sin𝑚𝑥sin𝑛𝑥d𝑥=∫2𝜋0cos𝑚𝑥cos𝑛𝑥d𝑥=𝜋𝛿𝑚𝑛,∫2𝜋0sin𝑚𝑥cos𝑛𝑥d𝑥=0
ここで 𝛿𝑚𝑛 は 𝑚 =𝑛 なら1,𝑚 ≠𝑛 なら0.また ∫2𝜋0cos𝑛𝑥 d𝑥 =∫2𝜋0sin𝑛𝑥 d𝑥 =0 である.
積を和に直すと sin𝑚𝑥sin𝑛𝑥 =12[cos(𝑚−𝑛)𝑥−cos(𝑚+𝑛)𝑥] です.0でない整数 𝑗 について ∫2𝜋0cos𝑗𝑥 d𝑥 =[sin𝑗𝑥/𝑗]2𝜋0 =0 なので,𝑚 ≠𝑛 なら両方の項が消えます.𝑚 =𝑛 なら cos0 =1 の項だけが残り,12 ⋅2𝜋 =𝜋 です.ほかの組も同じように和に直せば分かります.
ベクトルの成分を内積で取り出すのと同じ見方ができます.関数 𝑓, 𝑔 の「内積」を ∫𝑓𝑔 d𝑥 とすると,sin𝑛𝑥 と cos𝑛𝑥 は互いに直交する軸です.ある軸との内積をとれば,その軸の成分だけが残ります.
変数を変えれば,ほかの区間でも同じことが言えます.𝑥 =𝜔𝑡 とおくと周期 𝑇 =2𝜋/𝜔 の区間で ∫𝑇0sin𝑚𝜔𝑡sin𝑛𝜔𝑡 d𝑡 =(𝑇/2)𝛿𝑚𝑛 です.弦のモードでは 𝑥 →𝜋𝑥/𝑙 として,0 ≤𝑥 ≤𝑙 の半周期だけで ∫𝑙0sin(𝑚𝜋𝑥/𝑙)sin(𝑛𝜋𝑥/𝑙) d𝑥 =(𝑙/2)𝛿𝑚𝑛 が成り立ちます(cos(𝑚 ±𝑛)𝜋𝑥/𝑙 を 0 から 𝑙 まで積分すると,𝑚 ±𝑛 ≠0 なら0).
定理 数学の道具:フーリエ係数
周期 𝑇(𝜔 =2𝜋/𝑇)の関数を 𝑓(𝑡) =𝑎02 +∞∑𝑛=1(𝑎𝑛cos𝑛𝜔𝑡+𝑏𝑛sin𝑛𝜔𝑡) と表すとき
𝑎𝑛=2𝑇∫𝑇0𝑓(𝑡)cos𝑛𝜔𝑡d𝑡(𝑛≥0),𝑏𝑛=2𝑇∫𝑇0𝑓(𝑡)sin𝑛𝜔𝑡d𝑡
積分は長さ 𝑇 のどの区間でとってもよい.𝑎0/2 は 𝑓 の平均である.
級数の両辺に cos𝑚𝜔𝑡 を掛けて1周期で積分すると,直交性で 𝑛 =𝑚 の cos の項だけが残り,∫𝑇0𝑓cos𝑚𝜔𝑡 d𝑡 =𝑎𝑚𝑇/2 です.𝑎0 に 1/2 を付けておくと,𝑛 =0 でも同じ式が使えます.
対称性があると計算が減ります.𝑓 が偶関数(𝑓( −𝑡) =𝑓(𝑡))なら 𝑏𝑛 =0,奇関数なら 𝑎𝑛 =0 です.𝑓(𝑡 +𝑇/2) = −𝑓(𝑡) なら偶数番の係数がすべて0です.
跳びのある関数(方形波など)も,区分的になめらかなら級数で表せます.跳びの点では級数は左右の値の平均になり,有限個の項で打ち切ると跳びの近くに跳びの大きさの約9 % のはみ出しが残ります(ギブズの現象).
定理 数学の道具:複素形とパーセバルの等式
オイラーの式で cos𝑛𝜔𝑡 と sin𝑛𝜔𝑡 を 𝑒±𝑖𝑛𝜔𝑡 に直すと
𝑓(𝑡)=∞∑𝑛=−∞𝑐𝑛𝑒𝑖𝑛𝜔𝑡,𝑐𝑛=1𝑇∫𝑇0𝑓(𝑡)𝑒−𝑖𝑛𝜔𝑡d𝑡
となる.実数の 𝑓 では 𝑐−𝑛 は 𝑐𝑛 の複素共役で,𝑐𝑛 =(𝑎𝑛 −𝑖𝑏𝑛)/2(𝑛 ≥1),𝑐0 =𝑎0/2 である.2乗の周期平均は
⟨𝑓2⟩=1𝑇∫𝑇0𝑓2d𝑡=∞∑𝑛=−∞|𝑐𝑛|2=𝑎204+∞∑𝑛=1𝑎2𝑛+𝑏2𝑛2
cos𝜃 =(𝑒𝑖𝜃 +𝑒−𝑖𝜃)/2,sin𝜃 =(𝑒𝑖𝜃 −𝑒−𝑖𝜃)/(2𝑖) から,𝑒𝑖𝑛𝜔𝑡 の係数は (𝑎𝑛 −𝑖𝑏𝑛)/2 です.複素形の直交性は 1𝑇∫𝑇0𝑒𝑖(𝑚−𝑛)𝜔𝑡 d𝑡 =𝛿𝑚𝑛 の1本で済み,𝑐𝑛 の式はこれから出ます.パーセバルの等式は,𝑓2 を級数の積に展開して周期平均をとると,異なる番号の積がすべて消えることから出ます.
練習1 𝑓(𝑡) =cos2𝜔𝑡 のフーリエ係数を求めよ.
練習2 𝑓(𝑡) =3sin𝜔𝑡 +4cos2𝜔𝑡 の ⟨𝑓2⟩ を,パーセバルの等式で求めよ.
答え 練習1:cos2𝜔𝑡 =12 +12cos2𝜔𝑡 なので 𝑎0 =1,𝑎2 =12,ほかは0.積分しなくても,有限個の項の和に書ければそれが答えである.練習2:(32 +42)/2 =12.5.直接計算しても 3sin𝜔𝑡 ⋅4cos2𝜔𝑡 の平均は0である.
例題
周期 𝑇 の方形波 𝑓(𝑡) を,0 <𝑡 <𝑇/2 で 𝑓 =1,𝑇/2 <𝑡 <𝑇 で 𝑓 = −1 とする(𝜔 =2𝜋/𝑇).
フーリエ係数を求めよ.
パーセバルの等式を使って,1 +132 +152 +⋯ を求めよ.また,⟨𝑓2⟩ のうち基本音が占める割合を求めよ.
[図:方形波と有限個の項の部分和]初期状態はN = 5で,0 < t < T/2では1,T/2 < t < Tでは−1となる方形波に,5項を足した部分和を重ねる.Nのスライダーを1〜25で変えると,跳びから離れた所で方形波に近づく一方,跳びの近くにはみ出しが残る様子が見える.白抜きの丸は区間の端を表す.
初期状態はN = 5で,0 < t < T/2では1,T/2 < t < Tでは−1となる方形波に,5項を足した部分和を重ねる.Nのスライダーを1〜25で変えると,跳びから離れた所で方形波に近づく一方,跳びの近くにはみ出しが残る様子が見える.白抜きの丸は区間の端を表す.
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考え方 𝑓 は奇関数で,𝑓(𝑡 +𝑇/2) = −𝑓(𝑡) も満たす.対称性で消える係数を先に決める.
原点のまわりで奇関数なので 𝑎𝑛 =0(𝑎0 も0).𝑞 =𝑛𝜔 とおくと,𝑞𝑇/2 =𝑛𝜋 より
𝑏𝑛=2𝑇[∫𝑇/20sin𝑞𝑡d𝑡−∫𝑇𝑇/2sin𝑞𝑡d𝑡]=2𝑇⋅2(1−cos𝑛𝜋)𝑞=2𝑛𝜋[1−(−1)𝑛]
偶数の 𝑛 では0,奇数の 𝑛 では 𝑏𝑛 =4/(𝑛𝜋) である.
𝑓(𝑡)=4𝜋(sin𝜔𝑡+13sin3𝜔𝑡+15sin5𝜔𝑡+⋯)
𝑓2 =1 なので ⟨𝑓2⟩ =1.パーセバルの等式から
1=∑𝑛奇数𝑏2𝑛2=8𝜋2(1+132+152+⋯)
よって 1 +132 +152 +⋯ =𝜋28.基本音の割合は 𝑏21/2 =8/𝜋2 ≈0.81 である.
確かめ:偶数倍音が無いのは 𝑓(𝑡 +𝑇/2) = −𝑓(𝑡) から予想どおり.𝑡 =𝑇/4 で級数は 4𝜋(1 −13 +15 −⋯) =4𝜋 ⋅𝜋4 =1 で,𝑓 と合う.跳びの点 𝑡 =0 では級数は0で,左右の値 ±1 の平均である.
周期 𝑇 ののこぎり波 𝑓(𝑡) を,−𝑇/2 <𝑡 <𝑇/2 で 𝑓 =2𝑡/𝑇 とし,周期的に延長する(𝜔 =2𝜋/𝑇).複素形の係数 𝑐𝑛 を求め,実数の形の 𝑎𝑛, 𝑏𝑛 に直せ.また ⟨𝑓2⟩ のうち基本音が占める割合を求めよ.1 +122 +132 +⋯ =𝜋26 を使ってよい.
[図:周期Tののこぎり波]のこぎり波f(t)を−T/2から3T/2までの2周期分示す.−T/2 < t < T/2ではf(t) = 2t/Tで,−1から1へ直線的に増える.T/2で−1へ跳んで戻り,同じ形をくり返す.破線は跳びの位置,白抜きの丸は区間の端を表す.
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考え方 ∫𝑡𝑒−𝑖𝑞𝑡 d𝑡 を部分積分で求める.奇関数なので 𝑎𝑛 =0 が予想できる.
𝑐0 は平均で0.𝑛 ≠0 では 𝑞 =𝑛𝜔 とおくと,部分積分で
∫𝑇/2−𝑇/2𝑡𝑒−𝑖𝑞𝑡d𝑡=[𝑖𝑡𝑒−𝑖𝑞𝑡𝑞]𝑇/2−𝑇/2+[𝑒−𝑖𝑞𝑡𝑞2]𝑇/2−𝑇/2
𝑞𝑇/2 =𝑛𝜋 より 𝑒∓𝑖𝑛𝜋 =( −1)𝑛 なので,第1項は 𝑖𝑇(−1)𝑛𝑞,第2項は0.よって
𝑐𝑛=1𝑇⋅2𝑇⋅𝑖𝑇(−1)𝑛𝑞=𝑖(−1)𝑛𝑛𝜋
𝑐𝑛 =(𝑎𝑛 −𝑖𝑏𝑛)/2 と比べると 𝑎𝑛 =0,𝑏𝑛 = −2Im𝑐𝑛 =2(−1)𝑛+1𝑛𝜋.
𝑓(𝑡)=2𝜋(sin𝜔𝑡−12sin2𝜔𝑡+13sin3𝜔𝑡−⋯)
直接計算すると ⟨𝑓2⟩ =1𝑇∫𝑇/2−𝑇/24𝑡2𝑇2 d𝑡 =13.パーセバルの等式でも ∑𝑏2𝑛/2 =2𝜋2 ⋅𝜋26 =13 で合う.基本音の割合は 2/𝜋21/3 =6𝜋2 ≈0.61 である.
確かめ:𝑐−𝑛 = −𝑖( −1)𝑛/(𝑛𝜋) は 𝑐𝑛 の複素共役で,𝑓 が実数であることと合う.方形波と違ってすべての倍音を含み,基本音の割合も小さい.弓でこする弦の波形はのこぎり波に近く,バイオリンの音が倍音に富むことと対応する.
両端固定の弦(長さ 𝑙,線密度 𝜇,張力 𝑆,𝑣 =√𝑆/𝜇)の中央を高さ 𝑎 まで引いて,静かに放す.𝑎/𝑙 は十分小さい.
初めの弾性エネルギー 𝐸 =∫𝑙0𝑆2(𝜕𝑦𝜕𝑥)2d𝑥 を求めよ.
初めの傾き 𝜕𝑦/𝜕𝑥 は 𝑥 の方形波である.このことと例題1を使って,モードの係数 𝐵𝑛 を求めよ.
各モードのエネルギー 𝐸𝑛 =𝜇𝑙𝜔2𝑛𝐵2𝑛/4 の和が 𝐸 に等しいことを確かめ,基本振動が占める割合を求めよ.
[図:中央で引いた弦と初めの傾き]両端固定の弦をx = l/2で高さaに引いた,静かに放す直前の三角形を上段に示す.縦方向は拡大している.下段の初めの傾き∂y/∂xは,左半分で2a/l,右半分で−2a/lとなる.中央の折れ目では傾きが跳び,白抜きの丸で区間の端を示す.
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考え方 𝑦 =∑𝐵𝑛sin𝑘𝑛𝑥 を 𝑥 で微分すると 𝜕𝑦/𝜕𝑥 =∑𝑘𝑛𝐵𝑛cos𝑘𝑛𝑥 で,傾きの余弦級数の係数から 𝐵𝑛 が出る.傾きは方形波を4分の1周期ずらしたものである.
傾きの大きさはどこでも 2𝑎/𝑙 なので 𝐸 =𝑆2 ⋅4𝑎2𝑙2 ⋅𝑙 =2𝑆𝑎2𝑙.
傾きは周期 2𝑙 の関数とみると,0 <𝑥 <𝑙/2 で 2𝑎/𝑙,𝑙/2 <𝑥 <𝑙 で −2𝑎/𝑙,𝑥 <0 側へは偶関数として延長したものである.例題1の方形波を4分の1周期ずらすと sin が cos に変わり,奇数 𝑛 で係数の符号が sin(𝑛𝜋/2) だけ交互になる.𝑡 →𝑥,𝑇 →2𝑙,𝜔 →𝜋/𝑙 と読みかえて
𝜕𝑦𝜕𝑥=2𝑎𝑙⋅4𝜋∑𝑛奇数sin(𝑛𝜋/2)𝑛cos𝑛𝜋𝑥𝑙
これを 𝑘𝑛𝐵𝑛 =(𝑛𝜋/𝑙)𝐵𝑛 と比べて
𝐵𝑛=8𝑎𝜋2⋅sin(𝑛𝜋/2)𝑛2(𝑛 奇数),𝐵𝑛=0(𝑛 偶数)
本体の節の式で 𝑏 =𝑙/2 とおいたものと一致する.
𝜔𝑛 =𝑛𝜋𝑣/𝑙,𝜇𝑣2 =𝑆 より,奇数 𝑛 で
𝐸𝑛=𝜇𝑙4⋅𝑛2𝜋2𝑣2𝑙2⋅64𝑎2𝜋4𝑛4=16𝑆𝑎2𝜋2𝑙⋅1𝑛2
例題1の 1 +132 +152 +⋯ =𝜋28 を使うと ∑𝐸𝑛 =16𝑆𝑎2𝜋2𝑙 ⋅𝜋28 =2𝑆𝑎2𝑙 =𝐸.基本振動の割合は 𝐸1/𝐸 =8/𝜋2 ≈0.81 である.
確かめ:中央が腹になる奇数のモードだけが揺れ,中央が節の偶数モードは鳴らない.モードのエネルギーの和が全体に等しいのは,弦についてのパーセバルの等式である.小さい傾き 2𝑎/𝑙 が1より十分小さいときに成り立つ.
ポイント ここまでのまとめ
sin𝑛𝑥,cos𝑛𝑥 は1周期の積分で互いに直交する.弦のモード sin(𝑛𝜋𝑥/𝑙) も 0 ≤𝑥 ≤𝑙 で直交する.
フーリエ係数は 𝑎𝑛 =2𝑇∫𝑇0𝑓cos𝑛𝜔𝑡 d𝑡,𝑏𝑛 =2𝑇∫𝑇0𝑓sin𝑛𝜔𝑡 d𝑡.複素形は 𝑐𝑛 =1𝑇∫𝑇0𝑓𝑒−𝑖𝑛𝜔𝑡 d𝑡.
偶関数は cos だけ,奇関数は sin だけ,𝑓(𝑡 +𝑇/2) = −𝑓(𝑡) なら奇数番だけ.
パーセバルの等式 ⟨𝑓2⟩ =∑|𝑐𝑛|2 で,強さやエネルギーが倍音ごとに分かれる.
方形波は奇数倍音が 1/𝑛,のこぎり波は全倍音が 1/𝑛,はじいた弦は 1/𝑛2 で減る.