問いしるべ
問いから始める物理 確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

確率振幅から組み立てる量子力学(発展)

同種粒子と光子の統計の例題

著者:柚木芹香

本体の節の規則を,散乱の数え方,誘導放出の大きさ,黒体放射のピークに使います.どの過程が区別できないか,どの量を何について数えているかを,毎回はっきりさせてください.

例題

例題 1

オリジナル ★★★☆☆

同じ速さで正面衝突させた2粒子を,重心系で入射の向きから角 θ の方向に置いた検出器で数える.粒子1が θ へ散乱される振幅を f(θ) とし,クーロン力による散乱の模型として f(θ)=c0sin2⁡(θ/2)(c0 は定数)とする.2つの振幅の位相の差は無視し,散乱でスピンや内部状態は変わらないとする.

  1. θ=90∘ で,印の付いた区別できる粒子,アルファ粒子(スピン0),スピンのそろっていない電子のビームどうしについて,検出確率の比を求めよ.電子の両ビームは無偏極で,2粒子のスピンに相関はないとする.

  2. θ=60∘ で同じ3つの場合の確率を |c0|2 の何倍かで求め,区別できる粒子に対する比を求めよ.

左右から粒子1と粒子2が同じ速さで入射する.検出器Dは粒子1の入射方向から角θにある.実線は粒子1がDへ,粒子2が反対側へ行く過程,破線はその入れ替えである.π−θは反対側へ出る粒子1の入射方向から測る散乱角である.線は見分けやすくずらした模式的な道すじである. 左右から粒子1と粒子2が同じ速さで入射する.検出器Dは粒子1の入射方向から角θにある.実線は粒子1がDへ,粒子2が反対側へ行く過程,破線はその入れ替えである.π−θは反対側へ出る粒子1の入射方向から測る散乱角である.線は見分けやすくずらした模式的な道すじである.
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考え方
検出器に入る粒子が粒子1の過程と粒子2の過程の2つがある.区別できれば確率を足し,区別できなければ振幅を足すか引く.スピンのそろっていない電子では,スピンが同じ場合と反対の場合に分けて確率を平均する.

2つの電子のスピンは,上上,上下,下上,下下が等しく起こるので,同じ向きの確率が 1/2,反対向きの確率が 1/2 である.反対向きなら,スピンを見ればどちらの電子かが分かるので,区別できる粒子と同じ確率になる.したがって

Pe=12|f(θ)−f(π−θ)|2+12(|f(θ)|2+|f(π−θ)|2)

である.

  1. θ=90∘ では f(θ)=f(π−θ)=c0/sin2⁡45∘=2c0.区別できる粒子は Pdist=2×4|c0|2=8|c0|2,アルファ粒子は PB=|4c0|2=16|c0|2,電子は Pe=12×0+12×8|c0|2=4|c0|2.比は

Pdist:PB:Pe=2:4:1

である.

  1. θ=60∘ では f(60∘)=c0/sin2⁡30∘=4c0,f(120∘)=c0/sin2⁡60∘=43c0.

Pdist=(16+169)|c0|2=1609|c0|2≈17.8|c0|2
PB=(4+43)2|c0|2=2569|c0|2≈28.4|c0|2

同じ向きのスピンの電子は (4−43)2|c0|2=649|c0|2 なので

Pe=12×649|c0|2+12×1609|c0|2=1129|c0|2≈12.4|c0|2

区別できる粒子に対する比は,アルファ粒子が 256/160=1.6,電子が 112/160=0.70 である.

確かめ:アルファ粒子の確率から区別できる粒子の確率を引いた干渉の項は 2Re⁡[f(θ)f(π−θ)∗] で,電子では同じ項の半分を引いている.90∘ で倍率がちょうど2と 1/2 になるのは,2つの振幅が等しい角だからである.位相の差を無視したのは模型の仮定で,実際のクーロン散乱では2つの振幅の位相が角と速さによって違い,(2) の数値はずれる.90∘ の結果は,f(θ) と f(π−θ) が同じものになるので位相によらない.また,原子核が近づいて核力が効くほどエネルギーが高い場合は,クーロン力だけの模型が使えない.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

1つの光のモードについて,誘導放出の回数と自発放出の回数の比はモードの光子数 n に等しい.h=6.63×10−34Js,kB=1.38×10−23JK−1,c=3.00×108ms−1 とする.

  1. 温度 300K の熱放射の中で,波長 633nm の可視光のモードと,振動数 24GHz のマイクロ波(アンモニア分子の遷移)のモードの平均光子数を求め,誘導放出と自発放出のどちらが主になるかを答えよ.

  2. 温度 300K の熱平衡にある原子の集団(準位差は波長 633nm に対応)に,光子数 n=1.0×106 のモードの光を通す.上下の準位の縮退度は等しいとする.この光は強められるか.強めるには Nu/Nl をどうすればよいか.

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考え方
平均光子数はボース分布 n¯=1/(ex−1),x=hν/(kBT) で求める.光子数の増減は,放出 B(n+1)Nu と吸収 BnNl の差で決まる.

  1. kBT=1.38×10−23×300=4.14×10−21J.可視光では

x=hcλkBT=6.63×10−34×3.00×108633×10−9×4.14×10−21=75.9

なので n¯≈e−75.9≈10−33 である.自発放出が圧倒的に主で,熱放射による誘導放出は無視できる.マイクロ波では

x=6.63×10−34×2.4×10104.14×10−21=3.8×10−3

で,ex−1≈x より n¯≈1/x≈2.6×102 である.室温でも1つのモードに数百個の光子がいて,誘導放出が主になる.

  1. そのモードへの光子の正味の増加は単位時間に

B(n+1)Nu−BnNl=BNl((n+1)NuNl−n)

である.熱平衡では Nu/Nl=e−75.9 で,括弧の中はほぼ −n なので,光は吸収されて弱まる.強めるには (n+1)Nu>nNl,つまり Nu/Nl>n/(n+1) が必要である.n=1.0×106 では n/(n+1)≈0.999999 で,1よりわずかに小さい.上の準位の数を下の準位の数より多くする(反転分布)と,この条件を確実に満たす.

確かめ:n=n¯ と Nu/Nl=e−x を入れると,(n¯+1)e−x=n¯ となって正味が0になり,熱平衡の光が増えも減りもしないことと合う.可視光のレーザーで反転分布をわざわざ作る必要があるのは,x が大きく熱平衡の上の準位がほとんど空だからである.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

プランクの式 u(ν)dν=8πhν3c3dνehν/(kBT)−1 を使う.

  1. 波長が λ と λ+dλ の間にある放射のエネルギー密度 uλ(λ)dλ を求めよ.

  2. uλ が最大になる波長 λmax について,λmaxT を求めよ.x=hc/(λkBT) の方程式は,くり返し代入で数値的に解いてよい.h=6.626×10−34Js,kB=1.381×10−23JK−1,c=2.998×108ms−1 とする.

  3. u(ν) が最大になる振動数 νmax を求め,T=5800K で c/νmax と λmax を比べよ.

同じ温度の黒体放射について,上は波長の幅あたりのエネルギー密度u_λ(λ),下は振動数の幅あたりのu(ν).山の位置にλ_maxとν_maxを付け,上のグラフにはc/ν_maxも示す.c/ν_maxはλ_maxより長い側にあり,一致しない.数値は入れてない.縦軸の尺度は上下で異なる. 同じ温度の黒体放射について,上は波長の幅あたりのエネルギー密度u_λ(λ),下は振動数の幅あたりのu(ν).山の位置にλ_maxとν_maxを付け,上のグラフにはc/ν_maxも示す.c/ν_maxはλ_maxより長い側にあり,一致しない.数値は入れてない.縦軸の尺度は上下で異なる.
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考え方
同じ波長の幅に入るエネルギーを数えるので,uλdλ=u(ν)|dν| とする.最大の条件は,無次元の変数 x で書くと温度によらない方程式になる.

  1. ν=c/λ より |dν|=cλ2dλ.したがって

uλ(λ)=8πhc3c3λ3cλ21ehc/(λkBT)−1=8πhcλ51ehc/(λkBT)−1

である.

  1. x=hc/(λkBT) とすると,uλ は定数倍を除いて g(x)=x5ex−1 である.λ と x は1対1なので,g が最大になる x を探せばよい.

dgdx=5x4(ex−1)−x5ex(ex−1)2=0よりx=5(1−e−x)

x=5 から始めて右辺に代入すると,4.966,4.965,4.965 と収まり x=4.965.よって

λmaxT=hc4.965kB=6.626×10−34×2.998×1084.965×1.381×10−23=2.90×10−3mK

これは第18章のウィーンの変位則の定数である.

  1. u(ν) は定数倍を除いて x3ex−1(x=hν/(kBT))で,同じ計算で x=3(1−e−x).x=3 から始めて 2.851,2.827,2.822,2.822,2.821 と収まる.νmax=2.821kBT/h なので,T=5800K では

cνmax=hc2.821kBT=1.986×10−252.821×1.381×10−23×5800=8.8×10−7m

一方 λmax=2.90×10−3/5800=5.0×10−7m である.

確かめ:2つの山の位置が違うのは誤りではない.uλ は「波長の幅あたり」,u(ν) は「振動数の幅あたり」の量で,短い波長ほど同じ dλ に多くの振動数が入るから,波長で数えると山が短い側へ寄る.どちらの変数で数えても,全体のエネルギー密度は同じ T4 に比例する値になる.

ポイント ここまでのまとめ

  • 同種粒子の散乱では,検出器に入る粒子を入れ替えた過程の振幅を組み合わせる.スピンのそろっていない電子は,スピンが同じ場合と反対の場合の確率を平均する.

  • 90∘ では,区別できる粒子,スピン0のボース粒子,スピンのそろっていない電子の確率の比が 2:4:1 になる.

  • 誘導放出と自発放出の比はモードの光子数で,室温では可視光でほぼ0,マイクロ波で数百である.光を強めるには反転分布が要る.

  • プランクの式から,波長で数えたピークの条件 x=5(1−e−x) と λmaxT=2.90×10−3mK が出る.振動数で数えたピークとは位置が違う.