問いしるべ
問いから始める物理 電磁誘導と交流

電磁誘導と交流

インダクタンスと電気振動

著者:柚木芹香

問い

コイルと電池をつないで電流を流しておき,スイッチを切ります.するとスイッチの接点の間に,小さな火花が飛ぶことがあります.電池の電圧はたった数ボルトなのに,空気の中で火花を飛ばすには数千ボルト以上が要ります.この高い電圧はどこから来るのでしょうか.また,火花で光や熱になったエネルギーは,スイッチを切る前にはどこにあったのでしょうか.

考えてみる

素朴には,スイッチを切れば電流はすぐに0になり,それで終わりのはずです.しかし前の題材で見たとおり,回路を貫く磁束が変われば起電力が生じます.コイルに電流が流れていると,コイル自身の中に磁場があり,コイル自身を貫く磁束があります.電流を減らせばこの磁束も減るので,コイル自身に起電力が生じます.レンツの法則から,その向きは電流の減少を妨げる向き,つまり電流を流し続けようとする向きです.しかも起電力は磁束の変化の速さに比例するので,電流を急に断ち切るほど大きくなります.エネルギーについても,電流を流し続けようとする起電力が火花の中で仕事をするのですから,その源がどこかにあるはずです.電池はもう切り離されているので,残る候補はコイルの中の磁場です.これを順に式にします.

自己誘導

1つの回路に電流 I が流れると,その電流が作る磁場の磁束が回路自身を貫きます.ビオ・サバールの法則から磁場は I に比例するので,この磁束も I に比例します.N 巻きのコイルなら,1巻きを貫く磁束 Φ を巻数の分だけ足した NΦ が,回路全体を貫く磁束です.これを鎖交磁束といいます.

定義 自己インダクタンス

回路自身の電流 I が作る鎖交磁束を NΦ=LI と書き,比例定数 L を自己インダクタンスという.単位は H(ヘンリー)で,1H=1WbA−1=1VsA−1 である.電流が変わると,電流の正の向きに測って

E=−LdIdt

の起電力が回路に生じる.これを自己誘導という.

長さ l,断面積 S,巻数 N の細長いソレノイドでは,中の磁場は B=μ0NI/l(第22章)で,1巻きの磁束は Φ=BS なので

L=μ0N2Sl=μ0n2Sl(n=Nl)

です.L は巻数の2乗に比例します.巻数が2倍になると,磁場が2倍になり,その磁場を貫かれる巻きの数も2倍になるからです.鉄心を入れれば磁場が μr 倍になり,L も μr 倍です.例えば N=1000,S=1.0×10−3m2,l=0.10m なら L≈1.3×10−2H です.この式は,コイルの半径が長さより十分小さく,端で磁場が広がる効果を無視できるときの近似です.

回路の式には,自己誘導の起電力を電池の起電力と並べて入れます.起電力 E0 の電池,抵抗 R,コイル L を直列にした回路では,「抵抗での電圧降下=起電力の和」から RI=E0−LdI/dt,つまり

LdIdt+RI=E0

です.抵抗の無い理想的なコイルでは導線の中の電場が0なので,コイルの外を通る道に沿って測った端子の間の電圧は LdI/dt になります.入試で「コイルの電圧降下 LdI/dt」と呼ぶのはこれです.

電流は急には変われない

スイッチを入れた直後を考えます.電流が一瞬で有限の値に跳ぶと dI/dt が無限大になり,無限大の起電力が必要になります.だからコイルを流れる電流は連続に変わります.スイッチを入れた直後は I=0 のままで,電池の電圧はすべてコイルにかかります.上の式は第4章の空気抵抗や第21章のコンデンサーの充電と同じ1階の線形微分方程式で,I(0)=0 の解は

I=E0R(1−e−t/τ),τ=LR

です.時定数 τ=L/R の間に,電流は最終値 E0/R の約63 %に達します.十分時間がたつと dI/dt=0 で,コイルはただの導線と同じになります.

[図:RL回路の電流の立ち上がり]

初期設定はℰ₀=1 V,L=1 H,R=1 Ωで,時刻0にスイッチを閉じる.LとRを操作すると同じ時間軸上で最終電流ℰ₀/Rと時定数L/Rが変わる.

電流 I0 が流れている所でコイルを電池から外し,抵抗 R だけの閉回路に切り替えると,LdI/dt+RI=0 から I=I0e−t/τ です.電流はすぐには消えず,時定数 L/R で減っていきます.

コイルのエネルギーと磁場のエネルギー

回路の式 LdI/dt+RI=E0 の両辺に I を掛けると

E0I=RI2+ddt(12LI2)

です.左辺は電池が毎秒する仕事,右辺の第1項はジュール熱です.残りの第2項は,電池の仕事のうち熱にならずに蓄えられる分です.

定理 コイルのエネルギー

電流 I が流れる自己インダクタンス L のコイルは,エネルギー U=12LI2 を蓄えている.

このエネルギーはどこにあるのでしょうか.ソレノイドでは L=μ0N2S/l,B=μ0NI/l なので

12LI2=B22μ0×Sl

です.Sl は磁場がある空間の体積です.つまり,磁場のある空間に単位体積あたり B2/(2μ0) のエネルギーがあると考えると,ちょうど合います.第20章で静電エネルギーを電場のエネルギー密度 ε0E2/2 と見たのと同じで,磁場もエネルギーの入れ物です.この見方は第24章で一般の場に広げます.

法則 磁場のエネルギー密度

磁場 B のある真空の空間には,単位体積あたり B22μ0 のエネルギーがある.

相互誘導

2つのコイルを近くに置くと,コイル1の電流 I1 が作る磁束がコイル2も貫きます.その鎖交磁束を M21I1 と書くと,I1 が変わればコイル2に −M21dI1/dt の起電力が生じます.逆に I2 がコイル1に作る鎖交磁束を M12I2 とします.

コイル1の磁力線の一部がコイル2を貫く.両コイルの手前側の正の電流I₁,I₂は下向きで,それぞれ軸に沿って右向きの磁場B₁,B₂を作る. コイル1の磁力線の一部がコイル2を貫く.両コイルの手前側の正の電流I₁,I₂は下向きで,それぞれ軸に沿って右向きの磁場B₁,B₂を作る.

M12 と M21 は,コイルの形が違っても必ず等しくなります.エネルギーから確かめます.はじめに I2=0 のまま I1 を0から最終値まで増やすと,電池1の仕事は 12L1I12 です.次に I1 を一定に保って I2 を増やすと,電池2の仕事 12L2I22 のほかに,コイル1に生じる起電力 −M12dI2/dt に逆らって I1 を保つ電池1の仕事 ∫I1M12dI2=M12I1I2 が要ります.増やす順を逆にすれば,相互の項は M21I1I2 です.最後の状態が同じなら蓄えたエネルギーも同じはずなので(そうでなければ,順序を変えて往復するだけでエネルギーを取り出せてしまいます),M12=M21 です.

定理 相互インダクタンス

2つの回路の間の相互インダクタンス M=M12=M21 は1つの値に決まる.電流 I1,I2 が流れる2つのコイルのエネルギーは

U=12L1I12+MI1I2+12L2I22

である.M の符号は電流の正の向きの選び方と巻き方で決まり,正の電流どうしが同じ向きの磁場を作るとき正である.

磁場のエネルギーは B2/(2μ0) を空間で積分したものなので,どんな電流でも U≥0 です.U を I1 の2次式と見て判別式を考えると,M2≤L1L2 が出ます.k=M/L1L2 を結合の割合といい,一方の磁束がすべて他方を貫く理想的な場合に |k|=1 です.2つのコイルを直列につなぐと I1=±I2 で,合成の自己インダクタンスは L1+L2±2M になります.

抵抗が0の回路,例えば超伝導のリングでは,外から貫く磁束を Φext として,回路の式は 0=−ddt(LI+Φext) です.外部の磁束と自分の電流の磁束の和が一定に保たれ,外の磁場を変えても,リングは電流を流して貫く磁束を元のまま保ちます.

電気振動

電荷 q を蓄えたコンデンサー C をコイル L につなぎます.電流 I の正の向きを,q の極板へ流れ込む向きにとると I=dq/dt で,回路の式は LdI/dt+q/C=0,つまり

Ld2qdt2+qC=0

です.これは第7章のばね振り子の mx¨+kx=0 と同じ形です.抵抗 R もあれば Lq¨+Rq˙+q/C=0 で,速度に比例する抵抗のある振動と同じ形になります.

力学の振動

電気振動

変位 x

電荷 q

速度 v=x˙

電流 I=q˙

質量 m

自己インダクタンス L

ばね定数 k

1/C

抵抗の比例定数 b

抵抗 R

運動エネルギー 12mv2

コイルのエネルギー 12LI2

ばねのエネルギー 12kx2

コンデンサーのエネルギー q22C

コイルは電流の変化を嫌うので質量の役,コンデンサーは電荷をためるほど押し返すのでばねの役です.第7章と同じく q=est を代入すると,微分が s の掛け算になり,Ls2+Rs+1/C=0 が出ます.R=0 なら s=±iω0,ω0=1/LC で,電荷は角振動数 ω0 で振動します.R が小さければ s=−γ±iω′,γ=R/(2L),ω′=ω02−γ2 で,振幅が e−γt で減る減衰振動です.解き方の詳細は数学の節で扱います.

ポイント 電気振動

LC回路の電荷と電流は角振動数 ω0=1/LC で振動し,12LI2+q22C が一定に保たれる.抵抗があると ddt(12LI2+q22C)=−RI2 でエネルギーが熱になり,R が 2L/C より小さければ減衰振動,2L/C 以上なら振動せずに0へ近づく.

[図:LRC回路の電気振動とエネルギー]

初期設定はR=0,t=π/4に相当する状態で,電荷と電流のエネルギーが等しい.初期電荷q(0)=1,I(0)=0,L=C=1を基準に示す.時間のスライダーまたは再生でエネルギーの移り変わりを見られ,Rを2以上にすると電荷は振動しなくなる.

ここまでは,回路のどこでも電流が同じ瞬間に同じ値をとるとしてきました.これは第21章で見た集中定数の近似で,電磁場の変化が回路を伝わる時間 td(大きさが数メートルの回路なら 10−8s ほど)が,L/R や 1/ω0 より十分短いときに使えます.振動数が高く ω0td が1に近づくと,回路は電磁波を出し,導線に沿って電流の波が伝わるので,この扱いは破れます.

問いに戻る

コイルの電流を断ち切ろうとすると,自己誘導の起電力 −LdI/dt が電流を流し続ける向きに生じます.例えば L=0.10H のコイルに流れていた 2A の電流が 10μs で消えれば,起電力はおよそ 0.10×2/(1×10−5)=2×104V で,空気の中で火花を飛ばすのに十分です.電池が数ボルトでも,電流の変化が急なら電圧はいくらでも大きくなります.火花で放出されるエネルギーは 12LI2=0.2J で,スイッチを切る前はコイルの中の磁場に,密度 B2/(2μ0) で蓄えられていました.コイルと並列に抵抗をつないで電流の逃げ道を作っておけば,電流は時定数 L/R で減り,火花は飛ばずにエネルギーは抵抗の熱になります.

ポイント ここまでのまとめ

  • 自己インダクタンス L は NΦ=LI で定義し,起電力は −LdI/dt.細長いソレノイドでは L=μ0N2S/l.

  • コイルの電流は連続に変わる.RL回路の時定数は L/R.

  • コイルのエネルギーは 12LI2 で,磁場にエネルギー密度 B2/(2μ0) で蓄えられる.

  • 相互インダクタンスは M12=M21,エネルギーは 12L1I12+MI1I2+12L2I22 で,M2≤L1L2.抵抗0の回路では鎖交磁束が保たれる.

  • LC回路は ω0=1/LC で振動し,L が質量,1/C がばね定数の役をする.

  • 問いの答え:電流を急に断ち切ると −LdI/dt が非常に大きくなって火花が飛ぶ.そのエネルギー 12LI2 は磁場に蓄えられていた.