問いしるべ
問いから始める物理 電磁誘導と交流

電磁誘導と交流

誘導電場の例題

著者:柚木芹香

ファラデーの法則で誘導電場そのものを求め,それが導体や荷電粒子に何をするかを例題で調べます.対称性で向きを決め,円に沿った線積分から大きさを出します.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

半径 a の長いソレノイドの中に,軸に平行で手前向きの一様な磁場があり,一定の割合 dB/dt=β>0 で増えています.ソレノイドの外の磁場は0です.軸に垂直な断面で考え,軸の位置をOとします.電荷は無く,誘導電場はOのまわりに対称とします.

左の棒PQは中心Oからa/2離れた弦で,右の棒は中心からd>a離れ,∠POQ=90°となる.磁場は手前向きに増える.点線は指定された三角形OPQで,誘導電場と起電力の答えは示していない. 左の棒PQは中心Oからa/2離れた弦で,右の棒は中心からd>a離れ,∠POQ=90°となる.磁場は手前向きに増える.点線は指定された三角形OPQで,誘導電場と起電力の答えは示していない.
  1. 中心から距離 r の所の誘導電場の大きさと向きを,r<a と r≥a について求めよ.

  2. 中心からの距離が a/2 で,両端P,Qがソレノイドの内面にある細い真っすぐな棒を置く.PからQへ向かう向きは,手前から見てOのまわりを時計回りに回る向きとする.棒に沿ってPからQへの誘導電場の線積分(棒の起電力)を,直接の積分と三角形OPQの磁束の2通りで求めよ.

  3. 中心からの距離が d>a で,∠POQ=90∘ となるように棒PQをソレノイドの外に置く.PからQへ向かう向きは (2) と同様に時計回りとする.同じ線積分を求め,d によらないことを示せ.

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考え方 誘導電場はOを中心とする円に沿う.弦に沿った成分を取り出して積分する.三角形OPQで考えるときは,半径に沿った2辺が電場に垂直で寄与しないことを使う.

  1. 半径 r の円で 2πrE が磁束の変化の速さに等しいので,r<a では 2πrE=πr2β より E=rβ/2,r≥a では 2πrE=πa2β より E=a2β/(2r) である.手前向きの磁束が増えるので,電場は奥向きの磁場を作る電流を流す向き,つまり手前から見て時計回りである.

  2. 棒の中点をMとし,Mから棒に沿った座標を x とする.中心から r の点で,円に沿った電場の棒に沿う成分は E⋅a/2r=rβ2⋅a2r=aβ4 で,棒のどこでも同じである.棒の長さは 2a2−a2/4=3a だから

∫PQE⋅dl=aβ4⋅3a=34a2β

である.三角形OPQを手前から見て時計回り(O→P→Q→O)に一周すると,OPとQOの上では電場が辺に垂直なので寄与は無く,一周の積分はPQの部分だけになる.時計回りに対応する法線は奥向きなので,一周の積分は手前向きの磁束の増える速さ β×12⋅3a⋅a2=34a2β に等しく,一致する.

  1. 中点から x の所では r2=d2+x2 で,棒に沿う成分は a2β2r⋅dr=a2βd2(d2+x2).∠POQ=90∘ なので x は −d から d まで動き

∫PQE⋅dl=a2βd2∫−dddxd2+x2=a2β2[arctan⁡xd]−dd=πa2β4

である.三角形OPQはOのまわりに中心角 90∘ の扇形の磁場の領域を丸ごと含み,その外の磁場は0なので,磁束の増える速さは β⋅πa2/4 で一致する.d は答えに現れない.

確かめ:棒の所の磁場は0なのに,棒の両端には電荷が押し出される.誘導電場は磁場の変わる場所の外にも広がっている.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

内半径 a,肉厚 h,電気伝導率 κ の長い銅管を鉛直に立て,質量 M,磁気モーメント m の小さな磁石を,磁気モーメントを鉛直にして管の軸に沿って落とします.磁石の中心から軸に沿って z 離れた所の,半径 a の円を貫く磁石の磁束は

Φ(z)=μ0ma22(a2+z2)3/2

です.h は a より十分小さく,管の各部分の電流は軸のまわりを回る向きだけに流れ,渦電流自身が作る磁場は無視します.

磁気モーメントmを上向きにした磁石が,内半径a,肉厚hの銅管を速さvで下る.磁石からz離れた幅dzの輪を示す.渦電流の矢印は,上側と下側の輪の手前側を表す. 磁気モーメントmを上向きにした磁石が,内半径a,肉厚hの銅管を速さvで下る.磁石からz離れた幅dzの輪を示す.渦電流の矢印は,上側と下側の輪の手前側を表す.
  1. 磁石が一定の速さ v で落ちているとき,磁石から z の所にある幅 dz の輪の起電力と抵抗を求め,管全体の発熱率を求めよ.∫−∞∞z2(a2+z2)5dz=5π128a7 を使ってよい.

  2. 磁石の終端速度 vt を求めよ.

  3. M=3.8×10−3kg,m=0.50Am2,a=8.0×10−3m,h=1.5×10−4m,κ=5.9×107Ω−1m−1,g=9.8ms−2,μ0=4π×10−7TmA−1 で vt を求めよ.渦電流自身の磁場を無視する近似が成り立つことを,比 μ0κhvt で確かめよ.

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考え方 磁石と一緒に動く座標で見ると,管の各輪を貫く磁束が時間とともに変わる.各輪を独立な回路とみなし,発熱率を管全体で足し合わせる.終端速度では重力の仕事率と発熱率がつり合う.

  1. ある輪の磁石からの距離 z は毎秒 v ずつ変わるので,起電力の大きさは |dΦ/dt|=|Φ′(z)|v である.

Φ′(z)=−3μ0ma2z2(a2+z2)5/2

輪の長さは 2πa,断面積は hdz なので,抵抗は 2πa/(κhdz) である.輪の発熱率は(起電力)2/(抵抗)で

dP=κhv22πaΦ′(z)2dz,P=κhv22πa⋅9μ02m2a44⋅5π128a7=45κhμ02m21024a4v2

となる.磁石の下の輪では磁束が増え,上の輪では減るので,渦電流は上下で逆向きに回る.どちらも磁石の運動を妨げる向きの力を磁石に及ぼす(レンツの法則).

  1. 磁石に働く制動力を F とすると,発熱率は Fv に等しい.終端速度では F=Mg なので Mgvt=P より

vt=1024Mga445κhμ02m2

である.

  1. 数値を入れると vt≈9.9×10−1ms−1,すなわち毎秒 1.0m ほどで,自由落下よりずっと遅い.終端速度に近づく時間は vt/g≈0.10s で,ほぼすぐに一定の速さになる.渦電流の面密度は κh と電場(vB 程度)の積なので,それが作る磁場ともとの磁場の比は μ0κhvt≈1.1×10−2 で,1より十分小さい.

確かめ:vt は κh と m2 に反比例し,よく導く厚い管ほど,強い磁石ほどゆっくり落ちる.実際の磁石の大きさは a と同程度なので,この値は見積もりである.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

ベータトロンは,誘導電場で電子を加速する装置です.軸のまわりに対称で軸に平行な磁場の中で,電子(電荷 −e)が軸を中心とする半径 r の円軌道を回ります.軌道の内側の磁場の平均を Bav(軌道を貫く磁束は πr2Bav),軌道の上の磁場を Borb とし,どちらも0から増やします.電子の運動量の大きさを p とすると,接線方向の力 F で dp/dt=F が,円運動について p=erBorb が,相対論でも成り立ちます(第13章).

電磁石のすき間を電子が回る.手前向きに増える磁場では誘導電場Eは時計回り,電子の速度vは反時計回りで,磁気力Fは中心向きである.内側の平均磁場B_avと軌道上の磁場B_orbの比の答えは記さない. 電磁石のすき間を電子が回る.手前向きに増える磁場では誘導電場Eは時計回り,電子の速度vは反時計回りで,磁気力Fは中心向きである.内側の平均磁場B_avと軌道上の磁場B_orbの比の答えは記さない.
  1. 電子が半径 r を保ったまま加速され続けるための,Bav と Borb の関係を求めよ.

  2. r=0.50m,Borb が 5.0ms の間に0から 0.40T まで一定の割合で増えるとする.放射によるエネルギー損失は無視する.最後の電子の運動量と運動エネルギーを求めよ.電子の静止エネルギーは mc2=0.511MeV,エネルギーは K+mc2=(pc)2+(mc2)2 で K が運動エネルギー,c=3.00×108ms−1,e=1.60×10−19C とする.

  3. 1周あたりに得る平均のエネルギーと,加速の間に回る回数を求めよ.回る道のりの合計を,光が 5.0ms に進む距離と比べよ.

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考え方 誘導電場が運動量を増やし,軌道上の磁場が円軌道を保つ.2つの条件で決まる運動量が,いつも等しくなるようにする.

  1. 対称性から,誘導電場は軌道に沿って一定の大きさ E をもち,2πrE=πr2dBav/dt より E=r2dBav/dt である.dp/dt=eE を積分すると,静止に近い状態から始めて p=er2Bav.一方,半径 r を保つには p=erBorb が要る.両方がいつも成り立つ条件は

Bav=2Borb

で,軌道の内側の平均の磁場を,軌道上の磁場の2倍の割合で増やせばよい.

  1. p=erBorb=1.60×10−19×0.50×0.40kgms−1=3.2×10−20kgms−1.pc=9.6×10−12J=60MeV なので

K=602+0.5112MeV−0.511MeV≈5.9×101MeV

で,電子の速さはほぼ光の速さである.

  1. 1周の起電力は軌道を貫く磁束の変化の速さで,E=πr2⋅2⋅0.405.0×10−3V≈1.3×102V と一定である.1周で得るのは eE≈1.3×102eV で,回る回数は,丸める前の値を用いて K/(eE)≈4.7×105 回である.道のりは 4.7×105×2π×0.50m≈1.5×106m で,光が 5.0ms に進む 1.5×106m とほぼ等しい.電子はほとんどの時間を光の速さに近い速さで回っているからである.

確かめ:磁場を手前向きに増やすと,誘導電場は手前から見て時計回りで,電荷 −e の電子は反時計回りに押される.反時計回りに動く電子に手前向きの磁場が及ぼす力は中心向きで,向きも自動的にそろう.ここでは電子が放射で失うエネルギーを無視し,光が軌道を1周する時間(約 10−8s)が磁場の変化の時間よりずっと短いとした.

ポイント ここまでのまとめ

  • 対称な誘導電場は,円に沿った線積分 2πrE を磁束の変化の速さと等しいとおいて求める.電場は磁場の変わる場所の外にも広がる.

  • 渦電流の発熱を輪ごとに足すと,管の中を落ちる磁石の終端速度が求まる.渦電流自身の磁場は μ0κhv が小さいときに無視できる.

  • ベータトロンでは,軌道の内側の平均の磁場を軌道上の磁場の2倍の割合で増やすと,電子は同じ半径のまま加速される.