問いしるべ
問いから始める物理 非慣性系

非慣性系

慣性系と非慣性系の例題

著者:柚木芹香

同じ問題を地上の立場(慣性系)と乗り物の中の立場(非慣性系)の両方で解いて,答えが一致することを確かめます.

ポイント 数学の道具:2つの立場で解く手順

  1. 向きの正を決める.水平なら進行方向,鉛直なら上向きを正にする.

  2. 慣性系で解く場合:物体の加速度 a(地上から見た値)を書き,実際に働く力の和を ma に等しいとおく.

  3. 非慣性系で解く場合:物体の加速度 a′(乗り物から見た値)を書き,実際の力に見かけの力 −mA を加えた和を ma′ に等しいとおく.

  4. 2つの立場の式を比べる.移項すれば同じ式になるはずで,これが検算になる.

練習. 加速度 A=2.0ms−2 で水平に加速する電車の天井から,おもりを糸でつるした.糸が鉛直となす角 θ を,慣性系と電車の系の両方で式を立てて求めよ(g=9.8ms−2).

答え:慣性系では Tsin⁡θ=mA,Tcos⁡θ=mg.電車の系では Tsin⁡θ−mA=0,Tcos⁡θ−mg=0 で,移項すれば同じ式になる.tan⁡θ=A/g≈0.20 より θ≈12∘.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

水平でまっすぐな線路を,電車が一定の加速度 A=1.5ms−2 で発車した.天井から軽い糸でつるされた,質量 0.20kg のつり革が,電車に対して静止して傾いている.重力加速度を g=9.8ms−2 とする.

  1. 地上の人の立場で,糸が鉛直となす角 θ と,糸の張力 T を求めよ.

  2. 電車の中の人の立場で,同じ θ と T を求めよ.

  3. 発車から 10s 後の電車の速さと,その間に進んだ距離を求めよ.また,この間に θ はどう変わるか.加速が終わって電車が等速になると,つり革はどうなるか.

加速中のつり革.図中の記号と条件は「θ」「A」「mg」「T」である. 加速中のつり革.図中の記号と条件は「θ」「A」「mg」「T」である.
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考え方 (1) は慣性系なので,実際の力だけを数える.(2) は非慣性系なので,後ろ向きの見かけの力 mA を加える.

  1. 進行方向を x,上向きを y の正とする.つり革の加速度は A で,電車と同じ向きの水平成分だけをもつ.運動方程式は

x 方向: Tsin⁡θ=mA,y 方向: Tcos⁡θ−mg=0

である.数値は mA=0.20×1.5=0.30N,mg=0.20×9.8=1.96N だから,

tan⁡θ=mAmg=Ag=1.59.8≈0.153⇒θ≈8.7∘
T=(mA)2+(mg)2=0.302+1.962≈1.98N≈2.0N

である.

  1. 電車の中の人から見て,つり革の加速度は 0 である.働く力は,重力 mg(下向き),張力 T,見かけの力 mA(後ろ向き)の3つで,それらがつり合う.

x 方向: Tsin⁡θ−mA=0,y 方向: Tcos⁡θ−mg=0

である.これは(1)の式を移項しただけの同じ式で,θ≈8.7∘,T≈2.0N が得られる.

  1. 発車から 10s 後の速さは v=At=1.5×10=15ms−1(時速 54km/h)である.進んだ距離は

x=12At2=12×1.5×102=75m

である.tan⁡θ=A/g は電車の速さによらず,加速度 A だけで決まるので,A が一定の間は θ も変わらない.加速が終わって A=0 になると tan⁡θ=0 となり,つり革は鉛直にぶら下がる.

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 60kg の人が,エレベーターの床に置いた体重計に乗っている.体重計の目盛りは,人が体重計を押す力の大きさ(人が体重計から受ける垂直抗力 N と同じ)に比例するものとし,N=mg のとき,ふだんの値を示す.g=9.8ms−2 とする.

  1. エレベーターが上向きに加速度 2.0ms−2 で動き出した.体重計が示す力 N を,地上(慣性系)の立場で求めよ.

  2. (1)を,エレベーターの中の人の立場で求め,同じ結果になることを確かめよ.

  3. 下向きに加速度 3.0ms−2 で動いているときの N を求めよ.また,(1)と(3)を,体重計の目盛りを質量に直して比べよ.

  4. ケーブルが切れて,エレベーターが自由落下を始めた.空気抵抗とブレーキの影響はないとして,N を求めよ.

エレベーターの三つの加速条件.図中の記号と条件は「上向き加速」「A」「体重計の値は未知」「下向き加速」「自由落下」である. エレベーターの三つの加速条件.図中の記号と条件は「上向き加速」「A」「体重計の値は未知」「下向き加速」「自由落下」である.
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考え方 人はエレベーターに対して止まっているので,エレベーターの加速度が,そのまま人の加速度になる.上向きを正とする.

  1. 地上から見た人の加速度は,エレベーターと同じ a=2.0ms−2(上向き)である.人に働く力は,上向きの N と,下向きの重力 mg だけだから,

ma=N−mg⇒N=m(g+a)=60×(9.8+2.0)=708N

である.およそ 7.1×102N で,止まっているときの 60×9.8=588N より大きい.

  1. エレベーターの加速度は A=2.0ms−2(上向き)で,エレベーターの中の人の加速度は a′=0 である.力は N(上向き),mg(下向き),見かけの力 mA(A と逆の下向き)の3つで,

0=N−mg−mA⇒N=m(g+A)=708N

となる.(1)と一致する.

  1. 下向きの加速度を A=3.0ms−2 とする.上向きを正とすれば,加速度は −A で,m(−A)=N−mg から

N=m(g−A)=60×(9.8−3.0)=408N

である.非慣性系で解けば,見かけの力は上向きに mA で,0=N−mg+mA から同じ結果が出る.

目盛りを質量に直すと,(1)では 708/9.8≈72kg,(3)では 408/9.8≈42kg である.人の質量は変わらないのに,目盛りは上へ加速するときは重く,下へ加速するときは軽くなる.

  1. 自由落下では,エレベーターの加速度は下向きに g である.(3)の式で A=g とおけば

N=m(g−g)=0

である.体重計は,人からまったく押されないので,目盛りは 0 になる.エレベーターの中の人から見れば,重力 mg と見かけの力 mg(上向き)が打ち消し合っている.中の人は,床に対して浮いているように見える.

ポイント ここまでのまとめ

  • 同じ問題を,慣性系(実際の力だけ,加速度は地上から見た値)と非慣性系(見かけの力を足す,加速度は乗り物から見た値)の両方で解くと,移項すれば同じ式になる.これが検算になる.

  • 電車の中で静止したつり革は,tan⁡θ=A/g で傾く.傾きを決めるのは速さではなく,加速度である.

  • エレベーターの体重計の目盛りは,上向きに加速すると m(g+A),下向きに加速すると m(g−A) になる.質量が変わったのではなく,床が人を押す力が変わったのである.

  • 自由落下(A=g)では目盛りが 0 になる.この「重さが消える」現象は,「並進慣性力」の節で,有効重力という考え方で整理する.