問いしるべ
問いから始める物理 非慣性系

非慣性系

慣性系と非慣性系の演習

著者:柚木芹香

同じ物体の運動を,地上と乗り物の中から見比べましょう.速度が0であること,加速度が0であること,実在する力がつり合うことを区別してください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

地上を慣性系とみなす.軸の向きが変わらない観測室について,次の四つの運動を考える.アは静止,イは東向きに一定速度で直進,ウは東向きに直進しながら減速,エは一定の速さで円周上を移動する.

  1. 慣性系とみなせる観測室を選び,理由を述べよ.

  2. ウの室内で,水平な力を受けない小球を室内に対して静止させて放す.直後の小球の相対加速度と,導入する慣性力の向きを述べよ.

解答を見る

考え方 系の判定に使うのは速さの大小ではなく,慣性系から見た速度ベクトルの変化である.

  1. アとイである.両者の原点の加速度は0で,軸も回らないので,任意の物体について a′=a が成り立つ.ウは速度の大きさが変わり,エは速さが一定でも速度の向きが変わるため,原点が加速する非慣性系である.エの軸が回らないという条件でも,原点の加速度は消えない.

  2. ウの加速度 A は西向きである.小球の水平加速度は地上では0なので,a′=−A は東向きとなる.室内で加える慣性力 −mA も東向きである.小球を東へ押す新しい物体が現れたわけではなく,観測室の速度が減って小球との相対速度が生まれる.初めの相対速度が0でも,相対加速度まで0とは限らない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

右向きを正とする.軸の向きが固定された台車の加速度は A=2.0ms−2,質量 m=0.50kg の物体に働く実在の水平合力は F=−1.0N である.

  1. 地上での加速度 a と台車での加速度 a′ を求めよ.

  2. 台車での運動方程式を書き,ma=F−mA と書く誤りを説明せよ.

同じ物体と力を二つの系で見る.図中の記号と条件は「地上 S」「F」「A」「台車 S'」である. 同じ物体と力を二つの系で見る.図中の記号と条件は「地上 S」「F」「A」「台車 S'」である.
解答を見る

考え方 まず実在する力から地上の加速度を求め,座標変換で台車の加速度へ移す.

  1. a=F/m=−2.0ms−2.a′=a−A だから a′=−4.0ms−2 である.物体自身が左へ加速する効果と,台車が右へ加速する効果が,相対運動では加わる.台車の速度は与えられていないが,加速度の差を求めるためには不要である.

  2. 慣性力は −mA=−1.0N なので,台車では ma′=F−mA=−2.0N と書く.左辺を ma にすると,地上の加速度に対して台車用の慣性力を足してしまう.正しくは m(a′+A)=F を移項して得られる式であり,どの座標系の加速度かをプライムで明示することが二重計算を防ぐ.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

質量 50kg の人がエレベーター内の体重計に乗っている.箱は上向きに進みながら,一定の加速度の大きさ 1.2ms−2 で減速する.g=9.8ms−2 とする.

  1. 体重計の示す垂直抗力 N を地上と箱の両方から求めよ.

  2. 同じ下向き加速度のまま,箱が下降へ転じた場合,目盛りは変わるか.体重計が N/g を質量として表示するときの値も求めよ.

上昇しながら減速する箱.図中の記号と条件は「地上 S」「箱のV」「A」「箱 S'」である. 上昇しながら減速する箱.図中の記号と条件は「地上 S」「箱のV」「A」「箱 S'」である.
解答を見る

考え方 上昇か下降かではなく,加速度の向きで目盛りが変わる.上向きを正にする.

  1. 地上では a=−1.2ms−2 なので −50×1.2=N−50×9.8.したがって N=430N である.箱では a′=0 で,慣性力は上向きに 50×1.2=60N.よって 0=N−490+60 となり,同じ値を得る.重力そのものが小さくなったのではない.

  2. 加速度が同じなら N も同じである.速度が0を通過する瞬間にも加速度は残るため,静止中の通常の目盛りに戻るわけではない.表示は 430/9.8≈44kg となる.人の質量は 50kg のままであり,表示は接触力を一定の g で割った値にすぎない.この問題では N>0 なので,人と床が接触し続ける仮定にも矛盾しない.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

水平右向きに一定加速度 A で進む車内で,質量 m の小球を軽い糸につるす.小球は車に対して静止し,糸は鉛直から後ろへ角 θ 傾いている.tan⁡θ=0.30,g=10ms−2 とする.

  1. A と張力 T を求めよ.

  2. 車が急に等速運動へ移った直後,小球は鉛直位置へ瞬時に移るか.糸が張っているとして説明せよ.

加速中の車内の糸.図中の記号と条件は「θ」「A」である. 加速中の車内の糸.図中の記号と条件は「θ」「A」である.
解答を見る

考え方 定常な傾きにはつり合いの式を使い,加速度が変わった直後には位置と速度の連続性を使う.

  1. 車内では Tsin⁡θ=mA,Tcos⁡θ=mg.割り算から A=gtan⁡θ=3.0ms−2,二式の二乗和から T=mg2+A2=mg1.09≈1.04mg を得る.地上では張力と重力の合力が右向きの mA であり,静止の式ではなく加速の式として同じ関係が出る.

  2. 瞬時には移らない.有限の力では位置や速度は飛び変わらず,小球は傾いた位置で相対速度0のまま加速終了を迎える.慣性力が消えると,重力の接線成分で鉛直位置へ向かって動き出す.抵抗がなければ鉛直位置を通り過ぎて振動し,抵抗があれば振動が減衰して鉛直に落ち着く.新しいつり合い位置と,切替直後の実際の位置を区別する必要がある.

演習 5

オリジナル ★★★☆☆

高さ h の車内で,天井の点Pから小球を車に対して静かに放す.その瞬間から車は右向きに一定加速度 A>0 で直進する.初めの車の速度は V0 で,床は水平,空気抵抗はない.球は壁に当たらず床へ達する.

  1. 車内での落下時間と,Pの真下から測る着地点の水平変位を求めよ.

  2. 地上の座標で同じ結果を導き,結果が V0 に依存しない理由を説明せよ.

天井から球を放す二つの見方.図中の記号と条件は「地上 S」「P」「h」「A」「車内 S'」である. 天井から球を放す二つの見方.図中の記号と条件は「地上 S」「P」「h」「A」「車内 S'」である.
解答を見る

考え方 車内では球の水平加速度が −A,地上では0である.比較する着地点は移動する床に対する位置である.

  1. Pの初期位置を車内の原点,右向きと上向きを正とすると,x′=−At2/2,y′=−gt2/2.床は y′=−h だから tf=2h/g.水平変位は xf′=−Ah/g で,車の後方へずれる.重力と慣性力はともに質量に比例するので,結果は球の質量にも依存しない.

  2. 地上では球の水平位置は x=V0t,Pの水平位置は X=V0t+At2/2.差を取ると x−X=−At2/2 である.鉛直方向は車が加速しないため落下時間も同じとなる.初めの共通速度 V0 は差から消え,どちらの観測者も同じ床上の点への衝突を予測する.球が後方へずれるからといって,地上で球が左向きに加速するとは限らない.

ポイント 教える人へ

  • 速さ一定と速度一定を区別し,円運動を反例として説明させる.

  • 力の図には観測する系の名前を書かせ,加速度のプライムと対応させる.

  • 体重計の値を質量そのものと同一視しないことが重要である.

  • つり合い位置の変化と実際の過渡運動を分けて問いかける.