問い
2つの物体が,ばねでつながれたり,引き合ったりして影響し合うとき,ラグランジアンはどう変わるでしょうか.そして,第4章で法則として受け入れた「作用と反作用は等しい」は,なぜ成り立つのでしょうか.
考えてみる
前の題材で,影響し合わない粒子が集まった系のラグランジアンは,粒子ごとの和
𝐿=∑𝑎12𝑚𝑎𝑣2𝑎
になりました.𝑎 は粒子の番号です.粒子どうしが影響し合うなら,これに何かを足す必要があります.何を足せばよいかは,対称性だけでは決まりません.相互作用の形は自然が決めることで,実験で調べるしかないからです.ただし,足す項にどんな性質があるべきかは,対称性から言えます.
閉じた系のラグランジアン
外からの影響を受けない粒子の集まりを閉じた系といいます.閉じた系の相互作用を,各時刻の粒子の位置だけで決まる関数で表すことにします.
法則 閉じた系のラグランジアン
閉じた系のラグランジアンを
𝐿=∑𝑎12𝑚𝑎𝑣2𝑎−𝑈(𝒓1,𝒓2,…)
とする.𝑈 を系の位置エネルギーという.
𝑈 が速度を含まないのは,この章で扱う相互作用(ばね,万有引力,電気の力など)がそうなっているからです.磁気の力のように速度による相互作用もありますが,ここでは扱いません.𝑈 に負号を付けるのは約束で,次の題材で意味が分かります.
𝑈 は各時刻の位置だけで決まっています.1つの粒子を動かすと,その影響は同じ時刻に他の粒子に伝わることになります.時間がどの慣性系でも同じように進むガリレイの世界では,これは矛盾なく成り立ちます.光の速さが有限であることを取り入れると,この点を見直すことになります(この章の後半).
運動方程式と力
閉じた系のラグランジアンで,粒子 𝑎 の 𝑥 座標についてオイラー=ラグランジュ方程式を立てます.𝜕𝐿/𝜕˙𝑥𝑎 =𝑚𝑎˙𝑥𝑎,𝜕𝐿/𝜕𝑥𝑎 = −𝜕𝑈/𝜕𝑥𝑎 なので,
𝑚𝑎¨𝑥𝑎=−𝜕𝑈𝜕𝑥𝑎
です.𝑦,𝑧 も同じなので,ベクトルでまとめて書きます.
定理 運動方程式
閉じた系の各粒子は
𝑚𝑎¨𝒓𝑎=−𝜕𝑈𝜕𝒓𝑎
にしたがって動く.右辺を,粒子 𝑎 に働く力 𝑭𝑎 と呼ぶ.
ここで 𝜕𝑈/𝜕𝒓𝑎 は,𝑈 を 𝑥𝑎,𝑦𝑎,𝑧𝑎 で偏微分した3つを成分とするベクトル(勾配)です.こうして第4章の運動方程式 𝑚𝒂 =𝑭 が出てきました.ただし,この章では,力は運動を決める原因として先にあるのではなく,位置エネルギー 𝑈 から定義される量です.
作用と反作用
閉じた系の外には何もないので,空間が一様なら,系全体をそのまま 𝜺 だけ平行移動しても何も変わらないはずです.つまり
𝑈(𝒓1+𝜺,𝒓2+𝜺,…)=𝑈(𝒓1,𝒓2,…)
です.左辺を 𝜺 について1次まで書くと,増える分は 𝜺 ⋅∑𝑎𝜕𝑈/𝜕𝒓𝑎 で,これがどんな 𝜺 でも0なので
∑𝑎𝜕𝑈𝜕𝒓𝑎=0,つまり∑𝑎𝑭𝑎=0
です.閉じた系の力をすべて足すと0になります.粒子が2つなら 𝑭1 = −𝑭2 で,これが作用反作用の法則です.
[図:平行移動で変わらない相互作用]伸びたばねでつながった2粒子を右へ同じ距離εだけ移す.距離と位置エネルギーUは変わらない.各粒子への力は同じ大きさで互いに向かう.
さらに空間が等方なら,2つの粒子の位置エネルギーは,2粒子を結ぶ向きにもよらず,距離 𝑟 =|𝒓1−𝒓2| だけの関数 𝑈(𝑟) になります.このとき力は2粒子を結ぶ直線に沿って働きます(数学の節).第4章の「2つの力は同じ直線上にある」も,ここから出てきます.
ポイント 作用反作用の正体
作用反作用の法則は,閉じた系の位置エネルギーが平行移動で変わらないこと,つまり空間の一様性から出る.
質量の比を測る
前の題材で,意味があるのは質量の比だけでした.2つの粒子だけからなる閉じた系では,𝑚1¨𝒓1 =𝑭1,𝑚2¨𝒓2 =𝑭2 = −𝑭1 なので
𝑚1¨𝒓1=−𝑚2¨𝒓2,𝑚1𝑚2=|¨𝒓2||¨𝒓1|
です.2つを影響し合わせて加速度の大きさを比べれば,質量の比が測れます.問いのスケートで,重い人がゆっくり離れていくのはこのためです.
外から与えられた場の中の粒子
地球のまわりを回る人工衛星のように,系の一部(衛星)が,他の部分(地球)の影響を受けるけれども,他の部分の動きはほとんど変わらないことがあります.地球の動きが時刻の関数 𝒓E(𝑡) として分かっていれば,衛星のラグランジアンは
𝐿=12𝑚𝑣2−𝑈(𝒓,𝒓E(𝑡))
と書けます.𝑈 は衛星の位置と時刻の関数 𝑈(𝒓, 𝑡) になり,これを外から与えられた場の位置エネルギーといいます.地表付近のように 𝑈 =𝑚𝑔𝑧(𝑧 は鉛直上向きの高さ)とすると,𝑚¨𝑧 = −𝑚𝑔,¨𝑥 =¨𝑦 =0 となって,放物運動が出てきます.
問いに戻る
影響し合う粒子のラグランジアンは,自由な粒子の和から位置エネルギー 𝑈 を引いた形にとります.そこから運動方程式が出て,力は 𝑈 の勾配に負号を付けたものとして定義されます.作用と反作用が等しいのは,閉じた系を丸ごと平行移動しても 𝑈 が変わらないから,つまり空間が一様だからです.
ポイント ここまでのまとめ
閉じた系のラグランジアン:𝐿 =∑𝑎12𝑚𝑎𝑣2𝑎 −𝑈.𝑈 は位置だけの関数で,位置エネルギーという.
オイラー=ラグランジュ方程式から 𝑚𝑎¨𝒓𝑎 = −𝜕𝑈/𝜕𝒓𝑎.右辺を力 𝑭𝑎 と定義する.
空間の一様性から ∑𝑎𝑭𝑎 =0.2粒子なら作用反作用の法則.等方性から,力は2粒子を結ぶ直線に沿う.
2粒子の加速度の比から質量の比が測れる.
他の部分の動きが決まっているとき,粒子は場の位置エネルギー 𝑈(𝒓, 𝑡) の中を動く.