位置エネルギーから力を出すには,多変数の関数を位置の成分で偏微分します.距離だけで決まる位置エネルギーなら,力が2粒子を結ぶ直線に沿うことも,この計算で分かります.
定理 数学の道具:勾配
位置の関数 𝑈(𝒓) =𝑈(𝑥, 𝑦, 𝑧) の偏微分を並べたベクトル
𝜕𝑈𝜕𝒓=(𝜕𝑈𝜕𝑥,𝜕𝑈𝜕𝑦,𝜕𝑈𝜕𝑧)
を,𝑈 の勾配という.位置を 𝛿𝒓 だけ変えたときの 𝑈 の変化は,1次の近似で 𝛿𝑈 =𝜕𝑈/𝜕𝒓 ⋅𝛿𝒓 である.
勾配は,𝑈 が最も急に増える向きを向いています.𝛿𝒓 の大きさを決めたとき,𝛿𝑈 が最大になるのは 𝛿𝒓 が勾配と同じ向きのときだからです.力 𝑭 = −𝜕𝑈/𝜕𝒓 は,𝑈 が最も急に減る向きを向きます.
定理 数学の道具:距離の関数の勾配
𝑟 =|𝒓1−𝒓2| の関数 𝑈(𝑟) について
𝜕𝑈𝜕𝒓1=𝑈′(𝑟)𝒓1−𝒓2𝑟,𝜕𝑈𝜕𝒓2=−𝑈′(𝑟)𝒓1−𝒓2𝑟
である.
𝑟2 =(𝑥1 −𝑥2)2 +(𝑦1 −𝑦2)2 +(𝑧1 −𝑧2)2 を 𝑥1 で偏微分すると 2𝑟𝜕𝑟/𝜕𝑥1 =2(𝑥1 −𝑥2) なので,𝜕𝑟/𝜕𝑥1 =(𝑥1 −𝑥2)/𝑟 です.合成関数の微分で 𝜕𝑈/𝜕𝑥1 =𝑈′(𝑟)(𝑥1 −𝑥2)/𝑟 となり,𝑦1,𝑧1 も同じです.𝒓2 で微分すると符号だけが変わります.2つの力 −𝜕𝑈/𝜕𝒓1 と −𝜕𝑈/𝜕𝒓2 は,大きさが等しく向きが逆で,どちらも 𝒓1 −𝒓2 に平行,つまり2粒子を結ぶ直線に沿っています.
練習1 𝑈 =12𝑘(𝑥2 +𝑦2 +𝑧2) の勾配を求め,力の向きを答えよ.
練習2 万有引力の位置エネルギー 𝑈(𝑟) = −𝐺𝑚1𝑚2𝑟 から,粒子1に働く力を求めよ.
答え 練習1:𝜕𝑈/𝜕𝒓 =𝑘𝒓 なので 𝑭 = −𝑘𝒓.原点を向き,原点からの距離に比例する.練習2:𝑈′(𝑟) =𝐺𝑚1𝑚2𝑟2 なので 𝑭1 = −𝐺𝑚1𝑚2𝑟2 𝒓1−𝒓2𝑟.粒子2のほうを向き,大きさは 𝐺𝑚1𝑚2/𝑟2 で,第10章の万有引力の法則と同じ.
例題
滑らかな水平面の上で,2台の台車 A,B を押し縮めたばねをはさんで静止させ,同時に手を放した.ばねが伸びている間,A の加速度の大きさは 0.60 ms−2,B の加速度の大きさは 0.20 ms−2 だった.B の質量が 1.2 kg のとき,A の質量を求めよ.
[図:ばねをはさんだ2台の台車]水平面の左にA,右にBを置き,間に押し縮めたばねを描く.青い矢印は放した後に動き出す向きだけを示す.加速度や未知の質量は示していない.
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考え方 A と B とばねを1つの閉じた系と見る.ばねの質量を無視すると,A と B に働く力の和は0なので,𝑚A𝑎A =𝑚B𝑎B(大きさ).
𝑚A=𝑚B𝑎B𝑎A=1.2×0.200.60=0.40kg
確かめ:軽い A のほうが大きく加速している.ばねの強さを知らなくても,加速度の比だけで質量の比が決まる.
𝑥 軸の上に,質量 𝑚1 と 𝑚2 の2つの粒子が,ばね定数 𝑘,自然の長さ 𝑙 の軽いばねでつながれている.粒子の位置を 𝑥1 <𝑥2 とし,位置エネルギーを 𝑈 =12𝑘(𝑥2 −𝑥1 −𝑙)2 とする.
2つの粒子の運動方程式を,オイラー=ラグランジュ方程式から導け.
ばねの伸び 𝑠 =𝑥2 −𝑥1 −𝑙 が満たす方程式を求め,𝑚1 =1.0 kg,𝑚2 =2.0 kg,𝑘 =6.0 Nm−1 のときの振動の角振動数を求めよ.
[図:ばねでつながれた2粒子]粒子の位置x₁,x₂を共通の原点から測る.ばねの長さは自然の長さlと伸びsに分けて示す.
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考え方 𝑈 を 𝑥1,𝑥2 で偏微分して力を出す.𝑈 は差 𝑥2 −𝑥1 だけの関数なので,2つの力の和は0になる.
𝜕𝑈/𝜕𝑥1 = −𝑘(𝑥2 −𝑥1 −𝑙),𝜕𝑈/𝜕𝑥2 =𝑘(𝑥2 −𝑥1 −𝑙) なので
𝑚1¨𝑥1=𝑘(𝑥2−𝑥1−𝑙),𝑚2¨𝑥2=−𝑘(𝑥2−𝑥1−𝑙)
右辺の和は0で,作用反作用になっている.
¨𝑠 =¨𝑥2 −¨𝑥1 = −𝑘𝑚2𝑠 −𝑘𝑚1𝑠 = −𝑘(1𝑚1+1𝑚2)𝑠.𝜇 =𝑚1𝑚2𝑚1+𝑚2 とおくと ¨𝑠 = −𝑘𝜇𝑠 で,角振動数は 𝜔 =√𝑘/𝜇.数値では 𝜇 =2.03.0 kg で
𝜔=√6.02.0/3.0=3.0s−1
確かめ:𝑚2 →∞ なら 𝜇 →𝑚1 で,壁につけたばねの振動 √𝑘/𝑚1 に戻る.𝜇 は第5章の換算質量である.
地球(質量 𝑀,半径 𝑅)の中心を原点とし,地表からの高さ 𝑧 の所にある質量 𝑚 の物体の位置エネルギーを 𝑈 = −𝐺𝑀𝑚𝑅+𝑧 とする.
𝑧 が 𝑅 よりずっと小さいとして 𝑈 を 𝑧 の2次まで展開し,1次までで 𝑈 ≈定数 +𝑚𝑔𝑧 となることを示せ.𝑔 を 𝐺, 𝑀, 𝑅 で表せ.
2次の項まで入れると,鉛直方向の力は地表の値から何割変わるか.𝑧 =10 km,𝑅 =6.4 ×103 km として答えよ.
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考え方 11+𝑥 =1 −𝑥 +𝑥2 −⋯ を 𝑥 =𝑧/𝑅 で使う.力は −d𝑈/d𝑧.
𝑈=−𝐺𝑀𝑚𝑅11+𝑧/𝑅≈−𝐺𝑀𝑚𝑅+𝐺𝑀𝑚𝑅2𝑧−𝐺𝑀𝑚𝑅3𝑧2
1次までで 𝑈 ≈ −𝐺𝑀𝑚𝑅 +𝑚𝑔𝑧,𝑔 =𝐺𝑀𝑅2.定数はラグランジアンに足しても運動を変えないので,地表付近では 𝑈 =𝑚𝑔𝑧 としてよい.
2次まで入れた 𝑈 から
𝐹𝑧=−d𝑈d𝑧=−𝑚𝑔+2𝐺𝑀𝑚𝑅3𝑧=−𝑚𝑔(1−2𝑧𝑅)
2𝑧𝑅 =2×106.4×103 ≈3.1 ×10−3 なので,力は地表より約 0.31 % 弱い.
確かめ:高い所ほど引力が弱いという向きに合う.𝑧 =0 では −𝑚𝑔 に戻る.
ポイント ここまでのまとめ
勾配 𝜕𝑈/𝜕𝒓 は 𝑈 が最も急に増える向きを向く.力 −𝜕𝑈/𝜕𝒓 はその逆向き.
距離 𝑟 だけの関数 𝑈(𝑟) なら,2粒子に働く力は大きさが等しく逆向きで,2粒子を結ぶ直線に沿う.
2粒子が影響し合うときの加速度の比が,質量の逆比になる.
ばねでつながれた2粒子の伸びは,換算質量 𝜇 で 𝜔 =√𝑘/𝜇 の振動をする.
地表付近の 𝑈 =𝑚𝑔𝑧 は,万有引力の位置エネルギーを高さで展開した1次の近似.