問いしるべ
問いから始める物理 光

光

光の干渉と光学距離

著者:柚木芹香

問い

シャボン玉の膜は,無色の石けん水なのに,赤や緑や紫の縞模様に光って見えます.模様はゆっくり流れ,割れる直前には上のほうが黒く抜けたように見えます.色素の無い膜に,なぜ色が付くのでしょうか.そして割れる直前の膜は,なぜ光を返さなくなるのでしょうか.

考えてみる

光が膜に当たると,表の面で一部が反射し,残りは膜に入って裏の面でまた一部が反射します.目に届くのは,この2つの反射光の重ね合わせです.光は電磁波(第26章)なので,2つの波の電場を足せば合成の波になります.2つの山がそろえば強め合い,山と谷が重なれば弱め合います.弱め合う波長の光が抜ければ,白い光は残りの色に見えるはずです.

ところが,懐中電灯を2つ並べて壁を照らしても,明暗の縞は見えません.波が重なれば必ず縞ができるわけではないのです.干渉を考えるには,2つの光の位相の差を正しく数える方法と,どんなときに位相の差が保たれるかを知る必要があります.

2つの光を重ねる

第7章と同じように,振動数 ν,角振動数 ω=2πν の光の電場を,複素数 E^ を使って E=Re(E^eiωt) と書きます.E^ を複素振幅といいます.真空中を距離 ℓ 進んだ光は,波の標準形 sin⁡(ωt−kx) のとおり位相が kℓ=2πℓ/λ だけ遅れるので,複素振幅に e−ikℓ が掛かります.光の強さは電場の2乗の時間平均に比例し,cos2 の平均は 1/2 なので,強さは |E^|2 に比例します.

定理 2つの光の干渉

同じ振動数の2つの光の複素振幅を E^1,E^2,それぞれだけのときの強さを I1,I2,2つの位相の差を ϕ とすると,重ねた光の強さは

I∝|E^1+E^2|2,I=I1+I2+2I1I2cos⁡ϕ

である.I1=I2=I0 なら I=4I0cos2⁡(ϕ/2) で,ϕ が 2π の整数倍で 4I0,π の奇数倍で0になる.

強さが違う2つの光でも縞はできますが,暗い所が0になりません.最大と最小は (I1±I2)2 です.2I1I2cos⁡ϕ を干渉項といいます.場所について平均すると干渉項は消え,エネルギーは配り直されるだけです.

ヤングの実験

1つの光源から出た光を,間隔 d の2つの細いスリットに当て,距離 L 離れたスクリーンに映します.2つのスリットは同じ波面の上にあるので,同位相の2つの光源とみなせます.スクリーンの中央から x の点に届く2つの光の経路差は,L が d より十分大きいとき,2本の光線がほぼ平行で

dsin⁡θ≈dxL

です(θ は中央から見た角度).経路差が波長の整数倍の所が明るくなります.

法則 ヤングの実験の明線

明線は dsin⁡θ=mλ(m=0,±1,±2,…),暗線は dsin⁡θ=(m+12)λ の所にできる.小角では明線の位置は x=mLλ/d,明線の間隔は

w=Lλd

である.この近似は d/L と |x|/L が十分小さいときに使える.

[図:ヤングの実験と経路差]

初期状態はd=0.50 mm,L=1 m,λ=500 nmで,縞の間隔は1.00 mmである.dとλを変えると縞の間隔が変わり,点Pのxを選ぶと2本の光線と経路差が変わる.下の拡大図では2本を平行とみなして波面への射影を示す.

d=0.5mm,L=1m,λ=500nm なら w=1mm です.目に見えない 500nm という長さが,L/d 倍に拡大されて見えるのです.スリットの後ろに凸レンズを置き,その焦点面で見る場合は,同じ角度 θ の光が焦点面の1点に集まるので,L を焦点距離 f に置き換えます.レンズはすべての光線の時間をそろえる(前の題材)ので,光路差を新たに作りません.

光学距離

屈折率 n の物質の中では光の速さが c/n なので,振動数は同じでも波長は λ0/n に縮みます(λ0 は真空中の波長).物質の中を距離 ℓ 進むと位相は 2πℓ/(λ0/n)=2πnℓ/λ0 だけ遅れます.つまり,位相を数えるときは,物質中の距離を n 倍して真空中の距離に換算すればよいのです.この nℓ は,この章の最初の題材でフェルマーの原理に使った光学距離(かかる時間に c を掛けたもの)そのものです.

定義 光路差

2つの光の光学距離の差 Δ を光路差といい,位相の差は

ϕ=2πΔλ0

である.

たとえばヤングの装置の一方のスリットを,屈折率 n,厚さ h の透明な薄板で覆うと,その経路の光学距離は空気の分を差し引いて (n−1)h だけ増えます.光路差0の中央明線は,覆ったスリットの側へずれます.装置全体を屈折率 n の液体に入れれば,波長が λ0/n になるので縞の間隔は Lλ0/(nd) に縮みます.

反射による位相のずれ

第26章で見たように,垂直入射の電場の反射の振幅比は n1−n2n1+n2 です.

ポイント 反射で位相が変わるかどうか

  • 屈折率の小さい側から大きい側の面で反射すると(n1<n2),位相が π ずれる(弦の固定端と同じ).光路差に換算すると λ0/2 である.

  • 屈折率の大きい側から小さい側の面で反射すると,位相は変わらない(自由端と同じ).

  • 透過した光の位相は変わらない.

干渉の問題では,まず経路の光路差を出し,次に反射での反転が「片方だけにあるか」を確かめます.片方だけなら強め合いと弱め合いの条件が入れ替わります.

薄膜の干渉

屈折率 n,厚さ h の膜に,空気中から入射角 θ1 で光が当たる場合を考えます.膜の中の屈折角を θ2 とします.

空気から膜へ斜めに入った光は,表で反射する光と,膜の裏で反射して出る光に分かれる.膜の厚さはh,屈折率はn,入射角はθ₁,屈折角はθ₂である.平行に出る2本に垂直な波面を橙の破線で示す. 空気から膜へ斜めに入った光は,表で反射する光と,膜の裏で反射して出る光に分かれる.膜の厚さはh,屈折率はn,入射角はθ₁,屈折角はθ₂である.平行に出る2本に垂直な波面を橙の破線で示す.

膜の中を往復する光は,光学距離 2nh/cos⁡θ2 を進みます.その間に,表で反射する光は空気中を 2htan⁡θ2sin⁡θ1 だけ余分に進んで同じ波面にそろいます.屈折の法則 sin⁡θ1=nsin⁡θ2 を使うと,光路差は

Δ=2nhcos⁡θ2−2nhsin2⁡θ2cos⁡θ2=2nhcos⁡θ2

です.

定理 薄膜の干渉の条件

膜の上下の反射のうち片方だけで位相が反転するとき,反射光が強め合うのは

2nhcos⁡θ2=(m+12)λ0

弱め合うのは 2nhcos⁡θ2=mλ0(m=0,1,2,…)である.両方で反転するときや,どちらでも反転しないときは,2つの条件が入れ替わる.

ここでは表と裏で1回ずつ反射した2つの光だけを足しました.ガラスや水の面の反射率は数 % なので,膜の中で何度も反射した光は弱く,無視できます.反射率が大きい面では多重反射を足し合わせる必要があります.

くさび,ニュートンリング,反射防止膜

2枚のガラス板の一端を接し,他端に薄い紙をはさむと,くさび形の空気層ができます.上から見ると,厚さ t が 2t=mλ0 を満たす所に暗線が並びます(上のガラスから空気への反射は反転せず,空気から下のガラスへの反射は反転する).厚さは接点からの距離に比例するので,暗線は等間隔です.接点では t=0 で暗くなります.

平らなガラスの上に曲率半径 R の平凸レンズを置くと,中心から r の所の空気層の厚さは t≈r2/(2R) です(r/R が十分小さいとき).暗い所は同心円になり,これをニュートンリングといいます.厚さが等しい所を結んだ線が縞になるので,ニュートンリングはレンズの面の検査に使われます.

左はガラス板にはさんだ紙でできるくさび形空気層と,等間隔の暗線である.接点は暗い.右は凸面を下にした平凸レンズとガラス板で,中心からrの所の空気層の厚さをtで示す.暗輪は同心円で,外側ほど間隔が狭い.断面の厚さを拡大して示す. 左はガラス板にはさんだ紙でできるくさび形空気層と,等間隔の暗線である.接点は暗い.右は凸面を下にした平凸レンズとガラス板で,中心からrの所の空気層の厚さをtで示す.暗輪は同心円で,外側ほど間隔が狭い.断面の厚さを拡大して示す.

カメラのレンズには,ガラス(屈折率 ns)の表面に屈折率 nf の薄い膜が付いています.1<nf<ns なら膜の上下の反射はどちらも反転するので,反転の影響は打ち消し合い,2nft=λ0/2,つまり厚さ t=λ0/(4nf) で反射光が弱め合います.上下の反射の振幅がそろう nf=ns のとき,その波長の反射は0になります.これが反射防止膜です.

マイケルソン干渉計

光を半透鏡で2つに分け,それぞれ鏡で反射させて半透鏡に戻し,重ねて見る装置をマイケルソン干渉計といいます.一方の鏡を δ 動かすと,光は往復するので光路差は 2δ 変わり,縞は N=2δ/λ0 本流れます.縞の本数を数えれば,波長を物差しにして長さが測れます.一方の腕に長さ ℓ の気体のセルを置けば,気体を入れたときの縞の移動から 2(n−1)ℓ が分かり,屈折率が測れます.

光源からの光を半透鏡で直交する2本の腕に分け,鏡M₁とM₂で反射させて検出器で重ねる.M₁を右へδ動かすと,往路と復路がそれぞれδ長くなり,光路差は2δ変わる. 光源からの光を半透鏡で直交する2本の腕に分け,鏡M₁とM₂で反射させて検出器で重ねる.M₁を右へδ動かすと,往路と復路がそれぞれδ長くなり,光路差は2δ変わる.

干渉が見えるための条件

ふつうの光源では,たくさんの原子がばらばらに光を出すので,光の位相はごく短い時間で不規則に変わります.別々の光源どうしでは位相の差 ϕ が目まぐるしく変わるので,干渉項 2I1I2cos⁡ϕ は時間平均で0になり,強さは単に足し算になります.懐中電灯2つで縞が見えないのはこのためです.

同じ光源から分けた2つの光なら,位相の乱れは同じように起こり,差は保たれます.ただし,光路差が大きすぎると,前後に出た別の光どうしを重ねることになり,位相の関係が失われます.位相がそろっている長さを可干渉距離といい,白色光では数 μm です.シャボン玉のような薄い膜は色付き,厚い窓ガラスでは色が見えないのはこのためです.レーザーの可干渉距離は,ものによっては数 m 以上あります.

ポイント 干渉の条件

  • 同じ光源から分けた光は,光路差が可干渉距離より短ければ干渉する.複素振幅を足してから2乗する.

  • 互いに無関係な光源の光は干渉しない.強さを足す.

  • 偏光の向きが直交する2つの光は,電場が直交するので干渉項が無い.

光源の大きさも問題になります.ヤングの装置で点光源をスリットの前方 D の所で横に s ずらすと,入射側にも光路差 ds/D ができ,縞全体が Ls/D だけ反対側にずれます.大きな光源の各点は互いに無関係なので,ずれた縞の強さが足されます.縞のずれが縞の間隔と同じくらいになると,明暗が埋まって縞が消えます.ヤングがスリットの前に小さな穴を置いたのはこのためです.

[図:光源位置と縞の移動,2光源の強さの和]

初期状態では光源1がs=0.25 mmだけ上へずれ,縞は下へ0.25 mm移動する.sの正の向きは配置図では上,強さのグラフではxの正の向きを右にとる.光源2を加えると強さが足される.半周期ずらして2光源のボタンで,縞が消える状態を確認できる.

問いに戻る

シャボン玉の膜の色は,膜の表と裏で反射した2つの光の干渉です.膜は数百 nm と薄く,白色光の可干渉距離より光路差が短いので干渉が起こります.光路差 2nhcos⁡θ2 で弱め合う波長が白い光から抜け,残りの色が見えます.膜は重力で下へ流れて上ほど薄くなり,厚さが場所と時間で変わるので,色の縞が流れます.

石けん水の膜は両側が空気なので,表の反射(空気から膜)は反転し,裏の反射(膜から空気)は反転しません.膜が波長よりずっと薄くなると光路差はほぼ0になり,反転の分だけ2つの反射光が打ち消し合います.割れる直前の膜が黒く見えるのは,どの色の光も反射しなくなるからです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 同じ光源から分けた光は,複素振幅を足して2乗すると強さが出る.I=I1+I2+2I1I2cos⁡ϕ.

  • 位相の差は光学距離の差(光路差)Δ から ϕ=2πΔ/λ0 で出す.屈折率 n の中の距離は n 倍する.

  • ヤングの実験の明線は dsin⁡θ=mλ,間隔は Lλ/d(d/L,|x|/L が小さいとき).

  • 屈折率の小さい側から大きい側の面での反射は位相が π ずれる.薄膜では 2nhcos⁡θ2 と反転の有無で条件が決まる.

  • 無関係な光源どうしや可干渉距離を超えた光は干渉せず,強さを足す.シャボン玉の色は薄膜の干渉で,割れる直前に黒くなるのは片方だけの反転のためである.