問い
リレーのバトンを回しながら投げ上げると,バトンの重心は放物線を描き,バトン自身は同じ速さで回り続けます.重力は絶えずバトンを引いているのに,なぜ自転の速さは乱れないのでしょうか.地球も,太陽のまわりを回りながら(公転),自分でも回っています(自転).この2つの回転は,別々に保たれる量なのでしょうか.
[図:投げたバトンの並進と回転]回しながら投げたバトンのストロボ写真風の図.一定の間隔で描いた棒が放物線に沿って並び,各位置の重心に黒点を打つ.棒の向きは一定の角ずつ回っている.
考えてみる
バトンを鉛直面内の質点系と見て,原点 O のまわりの角運動量 𝑳 を考えます.第8章で見たように,質点系の d𝑳d𝑡 は O のまわりの外力のトルクの和に等しく,内力の分は打ち消し合います.一様な重力 𝑚𝑖𝒈 のトルクの和は ∑𝒓𝑖 ×𝑚𝑖𝒈 =𝑀𝑹 ×𝒈 で,重心が動くにつれて変わり続けます.つまり,O のまわりの 𝑳 は保存しません.それでも回転の速さは変わりません.𝑳 のうち,変わる部分と変わらない部分が混ざっているのではないか,と考えます.そこで運動量やエネルギーと同じように,重心の運動と,重心から見た運動に分けてみます.
角運動量の分解
位置 𝒓𝑖 =𝑹 +𝒓′𝑖,速度 𝒗𝑖 =𝑽 +𝒗′𝑖 と分けます.∑𝑚𝑖𝒓′𝑖 =0,∑𝑚𝑖𝒗′𝑖 =0 でした.𝑳 =∑𝑚𝑖𝒓𝑖 ×𝒗𝑖 に代入して展開すると
𝑳=𝑀𝑹×𝑽+𝑹×∑𝑚𝑖𝒗′𝑖+(∑𝑚𝑖𝒓′𝑖)×𝑽+∑𝑚𝑖𝒓′𝑖×𝒗′𝑖
です.中の2項は0になります.
定理 角運動量の分解
𝑳=𝑹×𝑷+𝑳′,𝑳′=∑𝑖𝑚𝑖𝒓′𝑖×𝒗′𝑖
第1項は全質量が重心に集まったとしたときの角運動量(外部運動).𝑳′ は重心のまわりの角運動量(内部運動)である.
重心のまわりのトルク
𝑳 の変化は d𝑳d𝑡 =∑(𝑹 +𝒓′𝑖) ×𝑭𝑖 =𝑹 ×𝑭外 +∑𝒓′𝑖 ×𝑭𝑖 です.第1項は dd𝑡(𝑹×𝑷) =𝑽 ×𝑷 +𝑹 ×𝑭外 と一致し(𝑽 ∥𝑷 で前者は0),残りが 𝑳′ の変化になります.
法則 内部運動の角運動量
内力が質点を結ぶ直線の向きなら,重心のまわりの外力のトルクを 𝝉G =∑𝒓′𝑖 ×𝑭𝑖 として
d𝑳′d𝑡=𝝉G
である.重心が加速していても成り立つ.
重心が加速していても成り立つ理由を,重心から見た量だけで確かめておきます.重心から見た加速度は 𝒂′𝑖 =𝒂𝑖 −𝑨(𝑨 =d𝑽d𝑡)で,𝒗′𝑖 ×𝒗′𝑖 =0 だから
d𝑳′d𝑡=∑𝑚𝑖𝒓′𝑖×𝒂′𝑖=∑𝒓′𝑖×𝑭𝑖−(∑𝑚𝑖𝒓′𝑖)×𝑨
です.最後の項は ∑𝑚𝑖𝒓′𝑖 =0 より0で,重心の加速は 𝑳′ に影響しません.この見方は,第11章で「見かけの力」として言い直します.
一様な重力なら 𝝉G =(∑𝑚𝑖𝒓′𝑖) ×𝒈 =0 なので,𝑳′ は一定です.変わるのは 𝑹 ×𝑷 だけです.これがバトンの答えで,無重量の宇宙船の中でも同じ回り方をします.
剛体と2体
この章で扱う平面運動の剛体では,面に垂直な重心軸のまわりの角速度を 𝜔 とすると,𝑳′ の大きさは 𝐼G𝜔,運動エネルギーは 𝐾 =12𝑀𝑉2 +12𝐼G𝜔2 です.第8章の転がりで 𝐼G𝛼 =𝜏G が重心の加速に関係なく使えたのも,この分解の一例です.撃力で叩かれた剛体など,衝突の問題は後の節で3つの保存則を使って解きます.地球では,公転の 𝑹 ×𝑷 が約 2.7 ×1040 kgm2s−1,自転の 𝐼G𝜔 が約 5.8 ×1033 kgm2s−1 と,桁がまるで違います.
2体では,𝒓 =𝒓1 −𝒓2,𝒗rel =𝒗1 −𝒗2 として 𝑳′ =𝜇 𝒓 ×𝒗rel です(次の節で導きます).
3つの分解
量 | 外部運動 | 内部運動 | 内力は内部の分を | 全体が保存する条件 |
|---|
運動量 | 𝑷 =𝑀𝑽 | 0(常に) | 変えない | 𝑭外 =0 |
運動エネルギー | 12𝑀𝑉2 | 𝐾内 | 変えうる | 外力と内力の仕事の和が0 |
角運動量 | 𝑹 ×𝑷 | 𝑳′ | 変えない | ∑𝒓𝑖 ×𝑭𝑖 =0 |
外力の条件ごとに整理します.外力が無ければ 𝑷,𝑹 ×𝑷,𝑳′ が別々に保存します.一様な重力だけなら 𝑷 と 𝑹 ×𝑷 は変わりますが,𝑳′ は保存します.𝐾内 は内力の仕事でも,重心に対する各作用点での外力の仕事でも変わりますが,運動量と 𝑳′ は内力では変わりません.𝑳′ を変えるのは,重心のまわりの外力のトルクだけです.
ポイント ここまでのまとめ
全角運動量は 𝑳 =𝑹 ×𝑷 +𝑳′(軌道の分+重心のまわりの分)に分かれる.
d𝑳′d𝑡 =𝝉G は重心が加速していても成り立つ.∑𝑚𝑖𝒓′𝑖 =0 で重心の加速の項が消える.
一様な重力では 𝝉G =0 なので,バトンの回転は一定である.公転と自転も分けて扱えるが,それぞれの保存には対応するトルクが0という条件が要る.
剛体では 𝐿′ =𝐼G𝜔,𝐾 =12𝑀𝑉2 +12𝐼G𝜔2.2体では 𝑳′ =𝜇 𝒓 ×𝒗rel.
内力で変えられるのは 𝐾内 だけ.𝑷 は外力,𝑳′ は重心のまわりの外力のトルクだけが変える.