問いしるべ
問いから始める物理 万有引力と天体

万有引力と天体

ケプラーの法則と万有引力

著者:柚木芹香

問い

木から離れたリンゴは,地球に引かれて真下に落ちます.では夜空の月はどうでしょうか.月も同じ地球の引力を受けているなら,月は地球に向かって落ち続けているはずです.ところが,月が地面に落ちてくることはありません.なぜ月は落ちてこないのでしょうか.また,リンゴを落とす力と月を引く力は,同じ力なのでしょうか.

考えてみる

リンゴを手から離すと真下に落ち,水平に投げると放物線を描いて少し離れた所に落ちます.強く投げるほど遠くに落ちるので,もっと強く投げれば,もっと遠くに落ちるはずです.地球は丸いので,地面は遠くへ行くほど下へ曲がっていきます.落ちる間に地面のほうが先に遠ざかるほど速く投げたら,ボールはどうなるのでしょうか.

球形の地表から同じ点で水平投射する.2つの落下軌道と円軌道を描く. 球形の地表から同じ点で水平投射する.2つの落下軌道と円軌道を描く.

月に当てはめると,月は慣性で直進しようとし,その進路が地球の引力で曲げられ続けているとも読めます.これが正しいかは,引力の大きさが距離とともにどう変わるかで決まります.それを教えてくれたのが,惑星の運動の観測です.

ケプラーの3法則

ケプラーは,ティコ・ブラーエが長年かけて集めた火星などの精密な観測を整理して,惑星の運動に3つの規則を見つけました.

法則 ケプラーの3法則

第1法則 惑星は,太陽を1つの焦点とする楕円軌道を描く.

第2法則 太陽と惑星を結ぶ線分は,等しい時間に等しい面積を掃く.すなわち,単位時間あたりに掃く面積(面積速度)は一定である.

第3法則 惑星の公転周期 T の2乗は,軌道の長半径 a の3乗に比例する.すなわち T2/a3 は,すべての惑星で同じ値である.

これらは観測から見つかった事実で,当時はなぜそうなるのかが分かっていませんでした.第2法則は,近日点(太陽に近い点)では速く,遠日点では遅く動くことを意味します.なお第3法則の共通の値は,惑星の質量が太陽よりずっと小さく,太陽が動かないとみなせる近似での関係です.

厳密な楕円の焦点を基準に,同じ平均近点角の幅に対応する等面積の領域を示す. 厳密な楕円の焦点を基準に,同じ平均近点角の幅に対応する等面積の領域を示す.

第8章で見たとおり,中心力だけを受ける質点では角運動量 L が保存し,面積速度 L/(2m) が一定です.逆にいえば,面積速度が一定だという第2法則は,惑星に働く力が常に太陽と惑星を結ぶ直線に沿うこと(中心力であること)を教えています.太陽に向かう引力か,遠ざける斥力かは第2法則だけでは決まらず,惑星が太陽のまわりに曲がって回ることから,引力だと分かります.

第3法則から逆2乗則を読む

ほとんどの惑星の軌道は円に近いので,半径 r,周期 T の等速円運動で近似します.向心加速度の大きさは a向心=rω2=4π2r/T2 です.第3法則を,すべての惑星に共通の定数 k を使って T2=kr3 と書くと

a向心=4π2rkr3=4π2k⋅1r2

となり,加速度は距離の2乗に反比例します.惑星の質量を m とすれば,太陽が惑星に及ぼす力は F=ma向心=(4π2/k)m/r2 で,m に比例します.作用・反作用により,惑星が太陽を引く力も同じ大きさです.惑星の質量に比例するなら,太陽の質量 M にも比例すると考えるのが対称的です.ニュートンはこれをすべての物体に広げました.

法則 万有引力の法則

質量 m1,m2 の2つの質点が距離 r だけ離れているとき,互いに引き合う力の大きさは

F=Gm1m2r2

である.向きは2点を結ぶ直線に沿う.G=6.67×10−11Nm2kg−2 を万有引力定数という.

「万有」とは,あらゆる物体の間に働くという意味です.リンゴと地球の間にも,机の上の2冊の本の間にも働きますが,後者は小さすぎて気づきません.地球のような球は,外から見ると全質量が中心に集まった質点と同じに扱えます.この事実は,この章の後の節で証明します.

地表の重力と地球の質量

質量 m の物体が地表(地球の中心から R)で受ける重力が万有引力だとすれば,地球の質量を M として mg=GMm/R2 です.

g=GMR2

重力加速度 g は,物体の質量によらず,地球の質量と半径だけで決まります.これで,質量によらず同じ加速度で落ちる理由もわかります.高さ h では g は GM/(R+h)2 に減ります.月の距離は地球の半径の約60倍なので,そこでの値は g の 1/602 のはずで,約 2.7×10−3ms−2 です.これが月の実際の向心加速度と合うことは,次の節で確かめます.

重ね合わせの原理

物体が3つ以上あるときは,その物体が受ける力を,ほかの物体それぞれからの万有引力のベクトル和として求めます.

ポイント 重ね合わせの原理

質点が受ける万有引力は,ほかの各質点が単独でいるときの万有引力の和(ベクトル和)である.第三の物体が現れても,2つの物体の間の力は変わらない.

月は地球に引かれると同時に太陽にも引かれ,その合力で動きます.

キャベンディッシュの実験

ニュートンの時代には,G の値は測られていませんでした.1798年にキャベンディッシュは,細い糸で水平につるした棒の両端に小さな鉛球をつけ,大きな鉛球を近づけて,棒がわずかにねじれるのを測りました.

棒の両端の小球が近くの大球へ引かれ,つり糸を軸に棒がねじれる. 棒の両端の小球が近くの大球へ引かれ,つり糸を軸に棒がねじれる.

質量 1kg の2つの物体を 1m 離したときの力は 6.67×10−11N にすぎず,これを測るのは大変な仕事でした.G が分かると,g=GM/R2 から地球の質量 M=gR2/G が求まります.この実験が「地球の重さを量った」と言われるのはそのためです.

月は落ち続けている

地表すれすれを水平に飛ぶ物体が円軌道を描くとして,運動方程式 mv2/R=mg を解くと,v=gR≈7.9×103ms−1(第一宇宙速度)です.これより遅ければ地面に落ち,この速さなら落ち続けながら地面に届きません.月の場合は,中心までの距離 r=3.84×108m での円運動の式から v=GM/r≈1.0×103ms−1 になります.月は,地球に引かれて落ち続けながら,横向きに進む速さのために地面に届かないのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • ケプラーの3法則:楕円軌道,面積速度一定,T2/a3 が共通.第2法則は,力が中心力であること(角運動量の保存)を表す.

  • 円軌道と第3法則から,力は距離の2乗に反比例する.万有引力の法則は F=Gm1m2/r2,g=GM/R2.力はベクトルとして足し合わせる(重ね合わせ).

  • 問いの答え:月は地球に向かって落ち続けているが,横向きに十分な速さで進んでいるため,落ちた先の地面がいつも遠ざかる.リンゴを落とす力と月を回す力は,同じ万有引力である.