円運動の運動方程式から第3法則を導き,ニュートンの「月の落下」を数で確かめます.
定理 数学の道具:べき乗則と比の計算
べき乗の比. ある量が 𝑦 =𝐶𝑥𝑛(𝐶 は定数)と表されるとき,𝑥 を 𝑘 倍にすると 𝑦 は 𝑘𝑛 倍になる.2つの場合の比をとると,比例定数 𝐶 は消える.
𝑦2𝑦1=(𝑥2𝑥1)𝑛
𝑦2 ∝𝑥3 なら 𝑦 ∝𝑥3/2 のように,𝑛 が分数でもそのまま使える.
練習 1. (1) 木星の軌道の長半径は地球の 5.2 倍である.第3法則を使って,木星の公転周期は何年か.(2) 万有引力は距離の2乗に反比例する.地球の中心から 2𝑅 の点(𝑅 は地球の半径)の重力加速度は,地表の何倍か.
答え:(1) 𝑇 ∝𝑎3/2 より (5.2)3/2 ≈11.9 倍.約12年. (2) 距離が2倍なので 1/22 =14 倍.
練習 2. (1) 火星の軌道の長半径は地球の 1.52 倍である.公転周期は何年か.(2) 公転周期が 8 年の小惑星の軌道の長半径は,地球の何倍か.
答え:(1) 1.523/2 ≈1.9 年.(2) 𝑎 ∝𝑇2/3 より 82/3 =4 倍.
円軌道の運動方程式
質量 𝑀 の天体のまわりを,質量 𝑚 の物体が半径 𝑟 の等速円運動をしているとします.𝑚 は 𝑀 よりずっと小さく,天体は動かないとみなします.向心方向の運動方程式は
𝑚𝑣2𝑟=𝐺𝑀𝑚𝑟2
です.𝑚 が消えて 𝑣 =√𝐺𝑀/𝑟.周期は 𝑇 =2𝜋𝑟/𝑣 なので
𝑇=2𝜋√𝑟3𝐺𝑀,𝑇2𝑟3=4𝜋2𝐺𝑀
です.この近似のもとで,右辺は 𝑚 にも 𝑟 にもよらず,中心の天体の質量 𝑀 だけで決まります(天体の動きまで考えると 𝑀 は 𝑀 +𝑚 になり,周回する物体の質量もわずかに入ります).太陽のまわりの惑星では 𝑀 が共通なので,これがケプラーの第3法則です.楕円軌道では 𝑟 が長半径 𝑎 に変わって同じ式が成り立ちます(後の節).
ニュートンの月の落下
月までの距離 𝑟 =3.84 ×108 m は,地球の半径 𝑅 =6.37 ×106 m の約 60.3 倍です.力が距離の2乗に反比例するなら,月の位置での重力加速度は地表の値 𝑔 =9.8 ms−2 の 1/60.32 倍なので
𝑎予想=9.860.32≈2.70×10−3ms−2
です.一方,月の公転周期は約 27.3 日 =2.36 ×106 s なので,実際の値は
𝑎実測=4𝜋2𝑟𝑇2=4𝜋2×3.84×108(2.36×106)2≈2.72×10−3ms−2
です.2つの値はよく一致し,地表の重力と月を回す力は同じ万有引力で説明できます.
[図:月の接線方向の進行と落下]1秒間の接線方向の進行と,直進位置から中心側へ落ちる変位.落下量は大きく誇張した模式図である.
1秒間に月は接線方向に約 1.0 km 進み,その間に地球へ 12𝑎𝑡2 ≈1.4 mm だけ落ちます.この小さな落下が毎瞬続くので,月は直進せず円を描きます.
例題
地表の重力加速度を 𝑔 =9.8 ms−2,地球の半径を 𝑅 =6.37 ×106 m とする.自転の影響は無視し,万有引力定数を 𝐺 =6.67 ×10−11 Nm2kg−2 とする.
[図:地表の物体と重力]地表の質量mの物体に中心向きの重力mgが働く.中心から表面までがRである.
地球の質量 𝑀 を求めよ.
地球の平均密度を求めよ.
解答を見る
考え方 地表の重力が万有引力であるとして,𝑚𝑔 =𝐺𝑀𝑚/𝑅2 を 𝑀 について解く.
𝑀 =𝑔𝑅2𝐺 =9.8×(6.37×106)26.67×10−11 ≈5.96 ×1024 kg.
体積 43𝜋𝑅3 ≈1.08 ×1021 m3 で割って 5.5 ×103 kgm−3.地表の岩石(約 3 ×103 kgm−3)より大きく,内部はもっと密だと分かる.
赤道上空で,地上から見て静止して見える人工衛星(静止衛星)を考える.地球の質量を 5.97 ×1024 kg,半径を 6.37 ×106 m とし,衛星の周期は地球の自転周期に等しく 24 時間(8.64 ×104 s)としてよい.
[図:静止衛星の配置]赤道上の地点と衛星が中心から同じ方向を保ち,地球と同じ角速度で公転する.
軌道半径 𝑟(地球の中心から)を求めよ.
地表からの高さを求めよ.
衛星の速さを求めよ.
解答を見る
考え方 円軌道の式 𝑇2/𝑟3 =4𝜋2/(𝐺𝑀) を 𝑟 について解く.
𝐺𝑀 =6.67 ×10−11 ×5.97 ×1024 =3.98 ×1014 m3s−2.
𝑟3=𝐺𝑀𝑇24𝜋2=3.98×1014×(8.64×104)24𝜋2≈7.53×1022m3
より,𝑟 ≈4.22 ×107 m.
𝑟 −𝑅 ≈3.6 ×107 m(約 36000 km).
𝑣 =2𝜋𝑟𝑇 =2𝜋×4.22×1078.64×104 ≈3.1 ×103 ms−1.
地球は太陽のまわりを半径 1.50 ×1011 m,周期 1 年 =3.16 ×107 s の円軌道で回っているとする.万有引力定数を 𝐺 =6.67 ×10−11 Nm2kg−2,地球の質量を 5.97 ×1024 kg とする.
[図:太陽を回る地球]円軌道の地球の速度は接線方向,万有引力は太陽へ向かう.
太陽の質量を求め,地球の質量の何倍かを答えよ.
解答を見る
考え方 円軌道の式を,中心の天体(太陽)の質量 𝑀 について解く.
𝑀 =4𝜋2𝑟3𝐺𝑇2 =4𝜋2×(1.50×1011)36.67×10−11×(3.16×107)2 ≈2.0 ×1030 kg.地球の質量の 2.0×10305.97×1024 ≈3.4 ×105 倍.
ポイント ここまでのまとめ
円軌道では 𝑣 =√𝐺𝑀/𝑟,𝑇2/𝑟3 =4𝜋2/(𝐺𝑀).質量 𝑚 は消え,中心の天体の質量 𝑀 だけが残る.
月の向心加速度は地表の 𝑔 の 1/602 程度で,実測と合う.リンゴと月は同じ万有引力で動く.
周期と軌道半径から中心天体の質量が求まる.べき乗の関係は,比をとると定数が消える.