問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

力の種類

著者:柚木芹香

問い

机の上に,本が1冊静止しています.この本に働いている力を,思いつくものすべて挙げてください.そのとき,次の2つが入るかどうかも考えてみましょう.

  • 本のまわりにある「空気の力」

  • 本が机を押している力

力を挙げたら,それぞれについて「だれが,どの向きに,この本を押したり引いたりしているのか」を言えるかどうか確かめてください.言えない力は,何か間違っているかもしれません.

考えてみる

多くの人が,まず「下向きの重さ」を挙げます.次に「机が支えている力」を挙げるでしょう.本が落ちないのだから,何かが上向きに本を押しているはずだからです.実際,運動方程式から考えても,本の加速度は0なので,合力は0でなければなりません.重力が下向きにあるなら,それを打ち消す上向きの力が別にあるはずです.

では「空気の力」はどうでしょうか.空気は本のまわりをすべて囲んでいて,たしかに押しています.ただし,その力は本の上面にも下面にも側面にも同じように働き,ほとんど打ち消し合います.打ち消し残った分は浮力と呼ばれますが,本の場合は重力の数百分の一にすぎません.ふつうの問題では無視します.

「本が机を押す力」はどうでしょうか.これは確かに存在する力ですが,押されているのは机です.本に働く力を調べているときには,本が他の物体に及ぼす力は入れません.この区別が,この節でいちばん大事な考え方です.

つまり,力を見つけるときは「その物体が,何から,どんな力を受けているか」を数えます.答えを先に言うと,机の上の本が受ける力は,地球から受ける重力と,机から受ける垂直抗力の2つだけです.なぜそうなるのかを,これから順に整理しましょう.

力の種類

物体に働く力は,大きく2種類に分けて考えると見つけやすくなります.

定義 接触力と遠隔力

接触力 は,物体どうしが触れ合っているところで働く力である.垂直抗力,張力,摩擦力,弾性力,流体から受ける力などがある.遠隔力 は,離れていても働く力である.重力,静電気力,磁気力などがある.

見つけやすい理由は,接触力は「触れている相手」を数えれば漏れなく拾えるからです.そして,遠隔力は今のところほとんど重力だけを考えれば足ります.電気や磁気の力が関係する問題は,問題文にそう書いてあるのがふつうです.

ただし,この2つは力の正体による分け方ではありません.前の節「作用と反作用」で見たとおり,接触力の正体は,触れ合う面の原子どうしが及ぼし合う電気の力です.電気の力そのものは遠隔力ですが,原子が電気的に中性なので,原子の大きさほどまで近づいたときにしか表に出てきません.接触力と遠隔力の区別は,力を漏れなく数えるための便利な分け方なのです.

重力

地球上の質量 m の物体には,地球から鉛直下向きに大きさ mg の重力が働きます.ここで g は重力加速度で,この本では g=9.8ms−2 とします.

質量と重さは別のものです.質量 m は,物体の「動かしにくさ」を表す量で,どこに持っていっても変わりません.重力 mg は地球が物体を引く力で,場所によって変わります.月面では g が地球の約6分の1なので,同じ物体にかかる重力も約6分の1になります.日常で「重さ」と言うときは,この重力の大きさのことが多いのですが,体重計の目盛りが何を測っているかは「垂直抗力と張力」の節で考えます.

垂直抗力

物体が面に触れているとき,面は物体を面に垂直な向きに押します.これが垂直抗力 N です.面が物体を支えている力の正体は,物体の重みで面がごくわずかにへこみ,へこんだ面が元に戻ろうとして押し返す力です.目に見えないほど小さな変形でも,力としては十分に働きます.原子の大きさで見ると,面の原子どうしの結合がばねのようにわずかに縮み,元に戻ろうとして押し返しています.

垂直抗力は「必ず mg」ではありません.その大きさは,物体が面を貫いて沈まないように,状況に応じて決まります.これは「垂直抗力と張力」の節で詳しく扱います.

張力

糸やロープが物体を引く力が張力 T です.向きは,糸に沿って,物体から糸の方へ向かう向きです.糸は押すことができません.糸が物体を押す向きの力を描いたら,それは間違いです.原子の大きさで見ると,引かれた糸では原子どうしの結合がわずかに伸び,元に戻ろうとして引き合っています.糸を押すと,結合が縮む前に糸が横へ曲がってしまうので,押す力は伝わりません.

弾性力

ばねが伸びたり縮んだりしたとき,元の長さ(自然長)に戻ろうとして物体に及ぼす力です.伸び(または縮み)が x のとき,大きさは kx で表されます.これをフックの法則と呼び,k はばね定数です.詳しくは後の章で扱います.張力も,糸がごくわずかに伸びたことで生じる弾性力の一種だと考えることができます.

摩擦力

面が物体に及ぼす力のうち,面に沿った成分です.垂直抗力とあわせて,面が物体に及ぼす力の全体(抗力)になります.垂直抗力と摩擦力は,同じ接触面の原子の組から生まれる1つの力を,面に垂直な向きと面に沿う向きに分けたものです.この力の性質は,この章の「摩擦」の節で詳しく扱います.この節の例題・演習では,次の2点だけを先取りして使います.滑っていない間の摩擦力は,運動方程式(静止ならつり合い)から決まる「必要なだけ」の大きさをとること.その上限が μN(μ は静止摩擦係数)であること.

浮力と抵抗

水や空気などの流体の中にある物体は,流体からも力を受けます.その物体が排除した流体の重さに等しい上向きの力が浮力です.また,流体中を動く物体は,流体に対する相対速度と逆向きの抵抗を受けます(流体が静止していれば運動と逆向きです).この節では存在を知っておくだけにして,抵抗はこの章の「空気抵抗と終端速度」の節で扱います.浮力は,この章の「圧力と浮力」で,流体が面を押す力から導きます.

力を見つける手順

力の見落としと,ありもしない力を描いてしまう間違いを防ぐために,次の順で力を拾います.

ポイント 力を見つける手順

  1. 注目する物体を1つ決める.

  2. まず重力を描く.

  3. その物体に触れているものを1つずつ数える.面なら垂直抗力(と,あれば摩擦力),糸なら張力,ばねなら弾性力,流体なら浮力と抵抗である.

  4. 電気・磁気の力など,離れて働く力が問題文にないか確かめる.

  5. 描いた力すべてについて「相手の物体」を言えるか確かめる.言えない力は描かない.

5番目の確認が,とくに効きます.「上向きに運動させる力」「遠心力」「勢い」などは,相手の物体を指さそうとすると指せません.こうした力は物体に働いていないのです.遠心力は,回転する観測者から運動を見るときに現れる見かけの力で,これは後の章で改めて扱います.慣性の法則が成り立つ観測者の立場で描く図(この節の最後で学ぶ自由体図)には,入れません.

自由体図

注目する物体に働く力を矢印で描いた図を,自由体図(free-body diagram)といいます.運動方程式を立てる前の下準備として,ほとんどすべての力学の問題で描きます.

定義 自由体図の約束

  • 注目する物体を1つだけ選び,まわりから切り離して,点か簡単な形で描く.

  • 描くのは,その物体が受けている力だけにする.その物体が他に及ぼす力は描かない.

  • 矢印の根元は,力が働く点(接触している点,または重力なら重心)に置く.向きは実際の向き,長さはおおよその大きさに合わせる.

  • 各矢印に「だれからの力か」が分かる名前をつける.

  • 座標軸も一緒に描く.力の成分は,もとの力の矢印と同じ図に重ねず,別に描くか点線にする.

机の上で静止する本の自由体図.重心から下向きの重力mgと,底面から上向きの垂直抗力Nの2本の矢印を同じ長さで描く.本が机を押す力は机に働く力なので,本の自由体図には描かない. 机の上で静止する本の自由体図.重心から下向きの重力mgと,底面から上向きの垂直抗力Nの2本の矢印を同じ長さで描く.本が机を押す力は机に働く力なので,本の自由体図には描かない.

これで冒頭の問いに答えられます.机の上の本には,地球から受ける重力 mg(下向き)と,机から受ける垂直抗力 N(上向き)の2つだけが働きます.本は静止しているので合力は0であり,N=mg です.本が机を押す力は机の自由体図に描くものであって,本の自由体図には入りません.この「本が机を押す力」と「机が本を押す力」は,作用・反作用の対になっています.対になる2力は別々の物体に働くので,1つの自由体図には同時に現れません.

ポイント ここまでのまとめ

  • 問いの答え:机の上の本に働く力は,地球から受ける重力 mg(下向き)と,机から受ける垂直抗力 N(上向き)の2つだけである.空気の力はほとんど打ち消し合い,本が机を押す力は机に働く力である.

  • 力は,触れ合って働く接触力(垂直抗力,張力,摩擦力,弾性力,浮力と抵抗)と,離れて働く遠隔力(ほぼ重力)に分けて数える.接触力の正体は,触れ合う面の原子どうしの電気の力である.

  • 力を見つける手順:重力を描く → 触れているものを1つずつ数える → 相手の物体を言えない力は描かない.

  • 「遠心力」「投げ上げた力」「勢い」には,相手の物体がない.慣性系の立場で描く図には入れない.

  • 自由体図は,注目する物体を1つ選び,その物体が受ける力だけを,相手の名前つきの矢印で描く.物体が他に及ぼす力は描かない.