問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

斜面での力の分解と例題

著者:柚木芹香

自由体図を描いて,斜面で力を分解する数学の道具を使う例題です.

数学の道具

定理 数学の道具:斜面での力の分解

傾き θ の斜面に物体があるとき,座標軸を斜面に沿った向きと斜面に垂直な向きにとると,力が扱いやすくなる.重力 mg は鉛直下向きで,斜面に垂直な向きとのなす角が θ になる.したがって

斜面に沿って下向き: mgsin⁡θ,斜面に垂直で面に向かう向き: mgcos⁡θ

と分解できる.

角が θ になる理由は,次のとおりです.斜面と水平面のなす角が θ なら,斜面に垂直な直線と鉛直線のなす角も,同じ θ になる(互いに垂直な2直線の組を,同じ角だけ回しただけだからである).θ→0 の極端な場合を考えると,斜面が水平なので重力はすべて面に垂直で,mgcos⁡0=mg となり,確かに正しい式になっている.

練習 1. 傾き 60∘ の斜面上の質量 m の物体について,重力の斜面に沿った成分と,垂直な成分を求めよ.

練習 2. 傾き 30∘ の斜面上の質量 2.0kg の物体について,重力の斜面に沿った成分と垂直な成分を数値で求めよ(g=9.8ms−2).

練習 3. 傾き θ の斜面上の物体に,斜面に向かって水平に大きさ F の力を加える.この力の,斜面に沿って上向きの成分と,斜面に垂直で面に向かう成分を求めよ.

練習 4. 重力の斜面に沿った成分が,垂直な成分のちょうど半分になる斜面の傾き θ を求めよ.

答え:(1) 斜面に沿う成分は mgsin⁡60∘=32mg,垂直な成分は mgcos⁡60∘=12mg.(2) 沿う成分 2.0×9.8×12=9.8N,垂直な成分 2.0×9.8×32≈17N.(3) 水平と斜面のなす角が θ なので,斜面に沿って上向きの成分は Fcos⁡θ,面に向かう成分は Fsin⁡θ.(4) mgsin⁡θ=12mgcos⁡θ より tan⁡θ=12,θ≈27∘.

例題

例題 1

オリジナル ★☆☆☆☆

傾き 30∘ の粗い斜面の上に,質量 2.0kg の箱が静止している.この箱の自由体図を描き,箱が受ける垂直抗力の大きさ N と,静止摩擦力の大きさ f を求めよ.

左が高く右が低い傾き30°の斜面とその上の箱.箱の中心を原点として,斜面に沿って下り向きを正とするx軸と,斜面に垂直なy軸をとる. 左が高く右が低い傾き30°の斜面とその上の箱.箱の中心を原点として,斜面に沿って下り向きを正とするx軸と,斜面に垂直なy軸をとる.
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考え方 箱に触れているのは斜面だけなので,受ける力は重力,垂直抗力,摩擦力の3つである.静止しているので,斜面に沿う向きと垂直な向きのそれぞれで,力がつり合う.

自由体図には,鉛直下向きの重力 mg,斜面に垂直で面から出る向きの垂直抗力 N,斜面に沿って上向き(滑り落ちようとするのを妨げる向き)の静止摩擦力 f を描く.

傾き30°の斜面上の箱を点で描いた自由体図.鉛直下向きの重力mg,斜面に垂直で面から出る向きの垂直抗力N,斜面に沿って上向きの静止摩擦力fを描く.重力は斜面に沿う成分mg sin30°と垂直な成分mg cos30°に分けて点線で示す.NはN=mg cos30°,fはf=mg sin30°の長さで描く. 傾き30°の斜面上の箱を点で描いた自由体図.鉛直下向きの重力mg,斜面に垂直で面から出る向きの垂直抗力N,斜面に沿って上向きの静止摩擦力fを描く.重力は斜面に沿う成分mg sin30°と垂直な成分mg cos30°に分けて点線で示す.NはN=mg cos30°,fはf=mg sin30°の長さで描く.

斜面に垂直な向きのつり合いから

N=mgcos⁡30∘=2.0×9.8×32≈17N

斜面に沿う向きのつり合いから

f=mgsin⁡30∘=2.0×9.8×12=9.8N

を得る.摩擦力は μN とは限らず,静止している間は「必要なだけ」である(上限との比較は「摩擦」の節で扱う).

例題 2

オリジナル ★★☆☆☆

質量 0.50kg の球を軽い糸で吊るし,球を滑らかな鉛直の壁に押しつけて静止させる.糸と壁のなす角は 30∘ で,糸は球の中心を通っているとする.球の自由体図を描き,糸の張力 T と,壁が球を押す力 N を求めよ.

滑らかな鉛直の壁の上端に固定した糸が斜めに伸び,その先に質量0.50 kgの球が壁に触れて吊るされている.糸と壁のなす角は30°で,糸は球の中心を通る. 滑らかな鉛直の壁の上端に固定した糸が斜めに伸び,その先に質量0.50 kgの球が壁に触れて吊るされている.糸と壁のなす角は30°で,糸は球の中心を通る.
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考え方 球が触れているのは糸と壁だけである.壁は滑らかなので,壁が及ぼす力は面に垂直な水平方向の1つだけである.鉛直方向と水平方向でつり合いを立てる.

球には,鉛直下向きの重力 mg,糸に沿って壁の上端の向きに引く張力 T,壁から水平に押される垂直抗力 N が働く.糸が壁となす角を α=30∘ とすると,張力の鉛直成分は Tcos⁡α(上向き),水平成分は Tsin⁡α(壁に向かう向き)である.垂直抗力 N はこれとつり合って壁から遠ざかる向きに働く.

鉛直方向:Tcos⁡α=mg

水平方向:N=Tsin⁡α

これを解いて

T=mgcos⁡α=0.50×9.83/2≈5.7N,N=mgtan⁡α=0.50×9.8×13≈2.8N

となる.張力は重力 mg=4.9N より大きい.糸が斜めになっているぶん,水平方向の成分まで負担しているからである.

ポイント ここまでのまとめ

  • 自由体図は,注目する物体が受ける力だけを,相手の名前つきで描く.まず重力,次に触れているものを数える.

  • 斜面では,軸を斜面に沿う向きと垂直な向きにとる.重力の成分は,沿う向きが mgsin⁡θ,垂直な向きが mgcos⁡θ である.θ→0 の極端な場合で検算できる.

  • 静止摩擦力は「必要なだけ」働く力で,上限は μN である.常に μN とは限らない.

  • 力が3つ以上でも,成分ごとにつり合いを立てれば張力や垂直抗力が求まる.