問いしるべ
問いから始める物理 力と運動の法則

力と運動の法則

力の種類の演習

著者:柚木芹香

力を見つけて自由体図を描く演習です.どの問題でも,力を描く前に「注目する物体」を1つ決め,描いた矢印すべてについて相手の物体を言えるか確かめてください.

演習 1

オリジナル ★☆☆☆☆

ボールを真上に投げ上げた.手を離れた後,最高点に達するまでの途中で,ボールに働く力をすべて挙げ,自由体図を描け.空気の抵抗は無視する.「投げ上げた力」は含まれるか.

手を離れて上昇しているボールと速度の向きを示す.自由体図の答えとなる力は描かない. 手を離れて上昇しているボールと速度の向きを示す.自由体図の答えとなる力は描かない.
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考え方 手を離れた後のボールに触れているものは,空気だけである.空気の力は無視するので,あとは遠隔力の重力を考えればよい.

働く力は,地球から受ける重力 mg の1つだけで,向きは鉛直下向きである.上昇中も最高点でも,同じ力のみが働く.「投げ上げた力」は,手がボールに触れている間だけ手が及ぼした力であって,手を離れた後には存在しない.手を離れた後に上向きに進み続けるのは,慣性の法則(運動の状態を保つ性質)によるものである.上昇中のボールの加速度は下向きの g であり,速さが減っていくことと矛盾しない.

演習 2

オリジナル ★☆☆☆☆

水に浮かんで静止している,質量 m の木片に働く力を挙げ,自由体図を描け.また,浮力の大きさを求めよ.

水面に一部が沈んだ質量mの木片を示す.力や浮力の値は描かない. 水面に一部が沈んだ質量mの木片を示す.力や浮力の値は描かない.
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考え方 木片に触れているものは水(と,上面の空気)である.水が及ぼす力は,浮力として上向きの1つにまとめて考える.

木片に働く力は,重力 mg(下向き)と,水から受ける浮力 Fb(上向き)の2つである.静止しているので合力は0であり

Fb=mg

となる.浮力が押しのけた水の重さに等しいこと(アルキメデスの原理)は「圧力と浮力」の節で学ぶ.

演習 3

オリジナル ★★☆☆☆

滑らかな水平な机の上で,机に固定した点に糸で結ばれた小球が,その点のまわりを等速で円運動している.この場面を,ある生徒は次のように考えた.

「球には,中心に向かう糸の張力と,外向きの遠心力が働いていて,この2つがつり合っている.だから球は動かないはずだ.」

この考えのどこが間違っているかを,球に働く力を正しく数えて説明せよ.

固定点と小球を結ぶ糸,円軌道と速度の向きを示す.力を答える問題のため張力の矢印は描かない. 固定点と小球を結ぶ糸,円軌道と速度の向きを示す.力を答える問題のため張力の矢印は描かない.
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考え方 球に触れているものは,机と糸である.それぞれが及ぼす力を数え,「遠心力」に相手の物体があるかどうかを確かめる.

小球に触れているのは机と糸だけである.働く力は,地球から受ける重力 mg(下向き),机から受ける垂直抗力 N(上向き),糸から受ける張力 T(中心向き)の3つである.鉛直方向は N=mg でつり合っている.水平方向に働く力は張力 T だけで,これはつり合う相手のない力である.

「遠心力」の相手の物体を指そうとしても,指せるものがない.したがって,慣性の法則が成り立つ観測者から見た自由体図に,遠心力は描かない.水平方向の合力が0でない(T だけがある)ので,球は中心向きの加速度をもつ.これは円運動の加速度であり,速度の向きが変わり続けることと合っている.もし本当に力がつり合っているなら,球は静止するか等速直線運動をするはずである.糸を切ると球が円の接線方向に飛んでいくことも,この見方と合っている.

演習 4

オリジナル ★★☆☆☆

水平な机の上で静止している質量 m の本について,次の問いに答えよ.

質量mの本が水平な机に接して静止している.求める力の矢印は描かない. 質量mの本が水平な机に接して静止している.求める力の矢印は描かない.
  1. 本の自由体図に描かれる力を挙げよ.

  2. 「本に働く重力 mg」の反作用の力はどの物体のどの力か.また「机が本を押す垂直抗力 N」の反作用の力は何か.

  3. mg と N は作用・反作用の対か.そうでないなら,なぜ同じ大きさになるのか.

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考え方 作用・反作用は「物体Aが物体Bに及ぼす力」と「物体Bが物体Aに及ぼす力」の対である.力の名前(重力・垂直抗力)ではなく,力を及ぼす物体と受ける物体で考える.

  1. 本に働く力は,地球から受ける重力 mg(下向き)と,机から受ける垂直抗力 N(上向き)の2つである.

  2. 重力 mg は「地球が本を引く力」なので,その反作用は「本が地球を引く力」で,大きさ mg,向きは上向き(地球の自由体図に描かれる力)である.垂直抗力 N は「机が本を押す力」なので,その反作用は「本が机を押す力」で,大きさ N,向きは下向き(机の自由体図に描かれる力)である.

  3. 作用・反作用の対ではない.mg と N はどちらも本に働く力であって,対になる2力は別々の物体に働くからである.同じ大きさになるのは,本の加速度が0という運動方程式の結果として N−mg=0 となるからである.その証拠に,本の上に手で下向きの力を加えると,mg は変わらないのに N は大きくなり,2つは等しくなくなる.

演習 5

オリジナル ★★☆☆☆

鉛直で粗い壁に,質量 m の物体を水平に大きさ F の力で押しつけたところ,物体は静止した.壁と物体の間の静止摩擦係数を μ とする.物体の自由体図を描いて,垂直抗力と摩擦力の大きさを求め,物体が滑り落ちないために必要な F の条件を求めよ.

粗い鉛直壁に物体を水平力Fで押しつける.座標の正方向を示す. 粗い鉛直壁に物体を水平力Fで押しつける.座標の正方向を示す.
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考え方 物体に触れているのは壁と手である.手は水平に押すので,物体に働く力は,重力,手の力 F,壁の垂直抗力 N,壁との摩擦力 f の4つである.静止しているので,水平方向と鉛直方向でそれぞれつり合う.

水平方向:N=F.鉛直方向では,重力 mg が下向き,摩擦力 f は滑り落ちようとするのを妨げるので上向きである.つり合いから

f=mg

となる.静止摩擦力は最大でも μN=μF であるから,滑り落ちないための条件は f≤μN,すなわち mg≤μF である.よって

F≥mgμ

となる.押す力をこれより小さくすると,物体は滑り落ち始める.押す力を強くしても摩擦力 f は mg のままで,増えるのは垂直抗力と最大摩擦力の方である.

ポイント 教える人へ

  • 最初の問いでは,本に働く力を言葉で挙げさせてから,「それは何が何に及ぼした力か」を1つずつ言わせる.「本が机を押す力」「空気の力」は,ほぼ確実に出てくる.

  • よくあるつまずきは,物体が他に及ぼす力まで自由体図に描いてしまうことである.「この図は本の図なので,本が受ける矢印だけである」と,毎回言う.

  • 「遠心力」「勢い」「投げた力」を描くときは,相手の物体を指さしてもらう.指せなければ描けない,という手順を習慣にさせる.

  • 理解の確かめには,同じ状況で「本の自由体図」と「机の自由体図」を両方描かせて,どの矢印が作用・反作用の対になっているかを答えさせるのがよい.

  • 斜面の力の分解が出てきたら,角が θ になる理由を,斜面が水平のときの極端な場合で確かめさせる.