問い
振り子のおもりは,糸に引かれて円の上を動きます.糸がおもりを引く力(張力)は,おもりの速さや位置によって刻々と変わり,前もっては分かりません.張力を知らないまま,振り子の運動を求めることはできるでしょうか.輪にはめたビーズを,輪ごと鉛直な軸のまわりに回したら,ビーズはどこで落ち着くでしょうか.
考えてみる
糸の長さが変わらない,ビーズが輪から外れない,のように,動き方に課された条件を拘束といいます.拘束があると,粒子の位置を表す数のうち,自由に動けるものが減ります.長さ 𝑙 の糸の振り子のおもりは,平面内で2つの数 (𝑥, 𝑦) を持ちますが,𝑥2 +𝑦2 =𝑙2 という条件があるので,自由度は1です.
拘束を保つ力(張力や面からの力)は,拘束から外れようとする動きを押し戻すだけで,拘束に沿った動きの向きには働きません.このような拘束をなめらかな拘束といいます.なめらかな拘束は,ごくわずかに外れるだけで大きな位置エネルギーが生まれる,非常に硬いばねのようなものと考えられます.その極限では,拘束を自動的に満たす一般化座標でラグランジアンを書けば,拘束を保つ力を考えずに運動が求まります.
ポイント 拘束のある系の解き方
拘束を自動的に満たす一般化座標 𝑞1, …, 𝑞𝑠 を選ぶ(𝑠 は自由度).
運動エネルギー 𝐾 と位置エネルギー 𝑈 を,一般化座標と一般化速度で書き,𝐿 =𝐾 −𝑈 を作る.
オイラー=ラグランジュ方程式を立てる.拘束を保つ力は,式に現れない.
振り子
長さ 𝑙 の軽い糸に質量 𝑚 のおもりをつけ,鉛直な平面内で振らせます.一般化座標には,糸が鉛直となす角 𝜃 を選びます.支点を原点,鉛直上向きを 𝑦 とすると,おもりの位置は (𝑙sin𝜃, −𝑙cos𝜃) で,速さは 𝑙˙𝜃 です.
[図:振り子の座標と接線方向の速度]支点Oから長さlの糸で質量mのおもりをつるす.θは鉛直下向きから右へ測る角.青い速度は円の接線方向で,θが増える向きを例として示す.張力は描かない.
𝐿=12𝑚𝑙2˙𝜃2+𝑚𝑔𝑙cos𝜃
です.𝜕𝐿/𝜕˙𝜃 =𝑚𝑙2˙𝜃,𝜕𝐿/𝜕𝜃 = −𝑚𝑔𝑙sin𝜃 なので
𝑚𝑙2¨𝜃=−𝑚𝑔𝑙sin𝜃,¨𝜃=−𝑔𝑙sin𝜃
です.張力は一度も出てきませんでした.角が小さければ sin𝜃 ≈𝜃 で,角振動数 √𝑔/𝑙 の単振動になります.第7章で張力を消去して得た式と同じです.
回る輪の上のビーズ
半径 𝑅 の輪を鉛直に立て,鉛直な直径を軸として一定の角速度 𝜔 で回します.輪には質量 𝑚 のビーズがはまっていて,輪に沿って滑らかに動けます.ビーズの位置は,輪の最下点から測った角 𝜃 の1つで決まります.
[図:鉛直な輪と回転軸]鉛直な直径を軸に回る輪と,ある瞬間のビーズを描く.θは最下点から測る角で,青い矢印は輪の回転ωの向き.描いたビーズの位置はつり合いの答えを表さない.
ビーズの速度は,輪に沿った成分 𝑅˙𝜃 と,軸のまわりに回る成分 𝜔𝑅sin𝜃(軸からの距離 𝑅sin𝜃 に 𝜔 を掛けたもの)からなり,2つは垂直です.高さは中心から −𝑅cos𝜃 なので
𝐿=12𝑚𝑅2(˙𝜃2+𝜔2sin2𝜃)+𝑚𝑔𝑅cos𝜃
です.オイラー=ラグランジュ方程式は
¨𝜃=sin𝜃(𝜔2cos𝜃−𝑔𝑅)
となります.右辺が0になる所がつり合いの位置です.𝜃 =0(最下点)はいつもつり合いの位置で,𝜃 が小さいと ¨𝜃 ≈(𝜔2 −𝑔/𝑅)𝜃 なので,𝜔2 が 𝑔/𝑅 より小さければ安定です.𝜔2 >𝑔/𝑅 になると最下点は不安定になり,代わりに
cos𝜃0=𝑔𝑅𝜔2
の2か所に,安定なつり合いの位置が現れます.輪を速く回すと,ビーズは最下点から押し上げられて,横に落ち着くのです.
[図:回転の速さとビーズのつり合い]初期状態は半径1.0 mの輪をω=4.5 rad s⁻¹で回し,軸の左右の安定なつり合いを示す.角速度を変えると,ω=√(g/R)を境に安定な位置が分かれる.安定を実線と塗りつぶし,不安定を破線と白抜きで示す.最上点も描く.スライダーだけで変化し,自動再生はしない.
初期状態は半径1.0 mの輪をω=4.5 rad s⁻¹で回し,軸の左右の安定なつり合いを示す.角速度を変えると,ω=√(g/R)を境に安定な位置が分かれる.安定を実線と塗りつぶし,不安定を破線と白抜きで示す.最上点も描く.スライダーだけで変化し,自動再生はしない.
拘束が時間とともに動くとき
前の題材で,ラグランジアンが時刻を直接含まなければ 𝐸 =∑𝑝𝑖˙𝑞𝑖 −𝐿 が保存することを見ました.回る輪のラグランジアンは時刻を含まないので,
𝐸=12𝑚𝑅2˙𝜃2−12𝑚𝑅2𝜔2sin2𝜃−𝑚𝑔𝑅cos𝜃
が保存します.ところが,これはビーズの運動エネルギーと位置エネルギーの和 12𝑚𝑅2(˙𝜃2 +𝜔2sin2𝜃) −𝑚𝑔𝑅cos𝜃 ではありません.輪を一定の角速度で回し続けるには,輪を回す側が仕事をしなければならず,ビーズの 𝐾 +𝑈 は保存しないのです.𝐸 =𝐾 +𝑈 となるのは,拘束が時間とともに動かず,𝐾 が一般化速度の2次式になっているときです.
拘束を保つ力が知りたいとき
この方法では,張力のような拘束を保つ力は求まりません.それが知りたいときは,糸の長さ 𝑟 も一般化座標に加え,拘束を破る向きに力を考える方法(ラグランジュの未定乗数法)があります.大学の力学で学びます.この章では,運動を求めることに集中します.
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張力を知らなくても,振り子の運動は求まります.おもりが円の上にあることを角 𝜃 で表し,𝐿 を 𝜃 と ˙𝜃 で書けば,張力は式に現れません.回る輪のビーズは,輪の回転がゆっくりなら最下点で,𝜔2 >𝑔/𝑅 になると cos𝜃0 =𝑔/(𝑅𝜔2) の位置で落ち着きます.
ポイント ここまでのまとめ
動き方の条件を拘束という.なめらかな拘束を保つ力は,拘束に沿った向きに働かない.
拘束を満たす一般化座標で 𝐿 =𝐾 −𝑈 を書けば,拘束を保つ力を考えずに運動が求まる.
振り子:¨𝜃 = −(𝑔/𝑙)sin𝜃.回る輪のビーズ:¨𝜃 =sin𝜃(𝜔2cos𝜃 −𝑔/𝑅) で,𝜔2 >𝑔/𝑅 で最下点が不安定になり,cos𝜃0 =𝑔/(𝑅𝜔2) に安定な位置が現れる.
拘束が時間とともに動くと,保存する 𝐸 =∑𝑝𝑖˙𝑞𝑖 −𝐿 は 𝐾 +𝑈 と一致しない.