問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

拘束のある運動を解く

著者:柚木芹香

問い

振り子のおもりは,糸に引かれて円の上を動きます.糸がおもりを引く力(張力)は,おもりの速さや位置によって刻々と変わり,前もっては分かりません.張力を知らないまま,振り子の運動を求めることはできるでしょうか.輪にはめたビーズを,輪ごと鉛直な軸のまわりに回したら,ビーズはどこで落ち着くでしょうか.

考えてみる

糸の長さが変わらない,ビーズが輪から外れない,のように,動き方に課された条件を拘束といいます.拘束があると,粒子の位置を表す数のうち,自由に動けるものが減ります.長さ l の糸の振り子のおもりは,平面内で2つの数 (x,y) を持ちますが,x2+y2=l2 という条件があるので,自由度は1です.

拘束を保つ力(張力や面からの力)は,拘束から外れようとする動きを押し戻すだけで,拘束に沿った動きの向きには働きません.このような拘束をなめらかな拘束といいます.なめらかな拘束は,ごくわずかに外れるだけで大きな位置エネルギーが生まれる,非常に硬いばねのようなものと考えられます.その極限では,拘束を自動的に満たす一般化座標でラグランジアンを書けば,拘束を保つ力を考えずに運動が求まります.

ポイント 拘束のある系の解き方

  1. 拘束を自動的に満たす一般化座標 q1,…,qs を選ぶ(s は自由度).

  2. 運動エネルギー K と位置エネルギー U を,一般化座標と一般化速度で書き,L=K−U を作る.

  3. オイラー=ラグランジュ方程式を立てる.拘束を保つ力は,式に現れない.

振り子

長さ l の軽い糸に質量 m のおもりをつけ,鉛直な平面内で振らせます.一般化座標には,糸が鉛直となす角 θ を選びます.支点を原点,鉛直上向きを y とすると,おもりの位置は (lsin⁡θ,−lcos⁡θ) で,速さは lθ˙ です.

支点Oから長さlの糸で質量mのおもりをつるす.θは鉛直下向きから右へ測る角.青い速度は円の接線方向で,θが増える向きを例として示す.張力は描かない. 支点Oから長さlの糸で質量mのおもりをつるす.θは鉛直下向きから右へ測る角.青い速度は円の接線方向で,θが増える向きを例として示す.張力は描かない.
L=12ml2θ˙2+mglcos⁡θ

です.∂L/∂θ˙=ml2θ˙,∂L/∂θ=−mglsin⁡θ なので

ml2θ¨=−mglsin⁡θ,θ¨=−glsin⁡θ

です.張力は一度も出てきませんでした.角が小さければ sin⁡θ≈θ で,角振動数 g/l の単振動になります.第7章で張力を消去して得た式と同じです.

回る輪の上のビーズ

半径 R の輪を鉛直に立て,鉛直な直径を軸として一定の角速度 ω で回します.輪には質量 m のビーズがはまっていて,輪に沿って滑らかに動けます.ビーズの位置は,輪の最下点から測った角 θ の1つで決まります.

鉛直な直径を軸に回る輪と,ある瞬間のビーズを描く.θは最下点から測る角で,青い矢印は輪の回転ωの向き.描いたビーズの位置はつり合いの答えを表さない. 鉛直な直径を軸に回る輪と,ある瞬間のビーズを描く.θは最下点から測る角で,青い矢印は輪の回転ωの向き.描いたビーズの位置はつり合いの答えを表さない.

ビーズの速度は,輪に沿った成分 Rθ˙ と,軸のまわりに回る成分 ωRsin⁡θ(軸からの距離 Rsin⁡θ に ω を掛けたもの)からなり,2つは垂直です.高さは中心から −Rcos⁡θ なので

L=12mR2(θ˙2+ω2sin2⁡θ)+mgRcos⁡θ

です.オイラー=ラグランジュ方程式は

θ¨=sin⁡θ(ω2cos⁡θ−gR)

となります.右辺が0になる所がつり合いの位置です.θ=0(最下点)はいつもつり合いの位置で,θ が小さいと θ¨≈(ω2−g/R)θ なので,ω2 が g/R より小さければ安定です.ω2>g/R になると最下点は不安定になり,代わりに

cos⁡θ0=gRω2

の2か所に,安定なつり合いの位置が現れます.輪を速く回すと,ビーズは最下点から押し上げられて,横に落ち着くのです.

[図:回転の速さとビーズのつり合い]

初期状態は半径1.0 mの輪をω=4.5 rad s⁻¹で回し,軸の左右の安定なつり合いを示す.角速度を変えると,ω=√(g/R)を境に安定な位置が分かれる.安定を実線と塗りつぶし,不安定を破線と白抜きで示す.最上点も描く.スライダーだけで変化し,自動再生はしない.

拘束が時間とともに動くとき

前の題材で,ラグランジアンが時刻を直接含まなければ E=∑piq˙i−L が保存することを見ました.回る輪のラグランジアンは時刻を含まないので,

E=12mR2θ˙2−12mR2ω2sin2⁡θ−mgRcos⁡θ

が保存します.ところが,これはビーズの運動エネルギーと位置エネルギーの和 12mR2(θ˙2+ω2sin2⁡θ)−mgRcos⁡θ ではありません.輪を一定の角速度で回し続けるには,輪を回す側が仕事をしなければならず,ビーズの K+U は保存しないのです.E=K+U となるのは,拘束が時間とともに動かず,K が一般化速度の2次式になっているときです.

拘束を保つ力が知りたいとき

この方法では,張力のような拘束を保つ力は求まりません.それが知りたいときは,糸の長さ r も一般化座標に加え,拘束を破る向きに力を考える方法(ラグランジュの未定乗数法)があります.大学の力学で学びます.この章では,運動を求めることに集中します.

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張力を知らなくても,振り子の運動は求まります.おもりが円の上にあることを角 θ で表し,L を θ と θ˙ で書けば,張力は式に現れません.回る輪のビーズは,輪の回転がゆっくりなら最下点で,ω2>g/R になると cos⁡θ0=g/(Rω2) の位置で落ち着きます.

ポイント ここまでのまとめ

  • 動き方の条件を拘束という.なめらかな拘束を保つ力は,拘束に沿った向きに働かない.

  • 拘束を満たす一般化座標で L=K−U を書けば,拘束を保つ力を考えずに運動が求まる.

  • 振り子:θ¨=−(g/l)sin⁡θ.回る輪のビーズ:θ¨=sin⁡θ(ω2cos⁡θ−g/R) で,ω2>g/R で最下点が不安定になり,cos⁡θ0=g/(Rω2) に安定な位置が現れる.

  • 拘束が時間とともに動くと,保存する E=∑piq˙i−L は K+U と一致しない.