問いしるべ
問いから始める物理 対称性から組み立てる力学(発展)

対称性から組み立てる力学(発展)

拘束のある運動の例題

著者:柚木芹香

本体の節の手順(座標を選ぶ → K と U を書く → オイラー=ラグランジュ方程式)を,前の章で力から解いた問題に当てはめます.拘束を保つ力を考えずに済むことと,答えが前の章と一致することを確かめてください.

ポイント 数学の道具:小さな振動の展開

つり合いの位置 q0 のまわりの小さなずれ ξ=q−q0 を考えるときは,L の運動エネルギーの部分を ξ の2次(ξ˙2 の項)まで,位置エネルギーの部分を ξ の2次まで残す.cos⁡θ≈1−θ22,sin⁡θ≈θ などを使う.こうして得た L から出る方程式は1次式になり,単振動の重ね合わせで解ける.

例題

例題 1

オリジナル ★★☆☆☆

半径 R,慣性モーメント I の滑車に軽い糸をかけ,両端に質量 m1=0.30kg と m2=0.20kg のおもりをつるす.糸は滑車に対して滑らない.滑車は質量 0.20kg の一様な円板で,I=12×0.20×R2 とする.g=9.8ms−2 とする.

  1. m1 が下がった距離 x を一般化座標として,ラグランジアンを書け.

  2. おもりの加速度の大きさを求め,滑車の慣性モーメントを無視した場合と比べよ.

固定軸に半径R,慣性モーメントIの滑車を置き,両側の糸におもりm₁,m₂をつるす.m₁側に下向きを正とする座標xを描く.加速度や張力の値は示していない. 固定軸に半径R,慣性モーメントIの滑車を置き,両側の糸におもりm₁,m₂をつるす.m₁側に下向きを正とする座標xを描く.加速度や張力の値は示していない.
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考え方 糸が伸びず滑らないので,m1 が x 下がると m2 は x 上がり,滑車は角 x/R 回る.自由度は1.

  1. m1 と m2 の速さは x˙,滑車の角速度は x˙/R.位置エネルギーは −m1gx+m2gx(定数を除く)なので

L=12(m1+m2+IR2)x˙2+(m1−m2)gx
  1. オイラー=ラグランジュ方程式から

x¨=(m1−m2)gm1+m2+I/R2=0.10×9.80.30+0.20+0.10≈1.6ms−2

慣性モーメントを無視すると 0.10×9.80.50≈2.0ms−2.滑車も回して運動エネルギーを持たせる分だけ,加速度が小さくなる.

確かめ:m1=m2 なら加速度は0.2本の糸の張力と滑車のトルクを考えて力から解いても,同じ結果になる.張力を考えずに済むのがこの方法の利点である.

例題 2

オリジナル ★★★☆☆

長さ l の軽い糸に質量 m のおもりをつけた振り子の支点が,水平方向に一定の加速度 A で動いている(支点の位置 xs(t),x¨s=A).糸が鉛直となす角を θ とする(支点の進む向きと反対側に振れたときを負).

  1. ラグランジアンを書き,θ の運動方程式を求めよ.

  2. つり合いの角 θ0 と,そのまわりの小さな振動の角振動数を求めよ.A=2.0ms−2,l=0.50m,g=9.8ms−2 として数値も答えよ.

レール上の支点の位置は床に固定した原点から測るxₛ.長さlの糸と鉛直下向きの角がθで,支点の進む右向きに振れる向きを正とする.つり合いの角や見かけの重力は示していない. レール上の支点の位置は床に固定した原点から測るxₛ.長さlの糸と鉛直下向きの角がθで,支点の進む右向きに振れる向きを正とする.つり合いの角や見かけの重力は示していない.
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考え方 支点の動きは与えられた時刻の関数で,一般化座標は θ の1つ.おもりの位置を支点の位置と θ で書く.

  1. おもりの位置は (xs+lsin⁡θ,−lcos⁡θ).速度は (x˙s+lθ˙cos⁡θ,lθ˙sin⁡θ) なので

L=12m(x˙s2+2x˙slθ˙cos⁡θ+l2θ˙2)+mglcos⁡θ

∂L/∂θ˙=m(x˙slcos⁡θ+l2θ˙) の時間微分は m(x¨slcos⁡θ−x˙slθ˙sin⁡θ+l2θ¨),∂L/∂θ=−mx˙slθ˙sin⁡θ−mglsin⁡θ なので

lθ¨=−gsin⁡θ−Acos⁡θ
  1. つり合いは gsin⁡θ0+Acos⁡θ0=0 で tan⁡θ0=−A/g.右辺は −g2+A2sin⁡(θ−θ0) と書けるので,小さなずれ ξ=θ−θ0 では lξ¨≈−g2+A2ξ,角振動数は ω=g2+A2/l.

数値:tan⁡θ0=−0.204 で θ0≈−11.5∘(進む向きと反対側に傾く).9.82+2.02≈10.0ms−2 なので ω≈10.0/0.50≈4.5s−1.

確かめ:A=0 なら θ0=0,ω=g/l.第11章で,加速する電車の中の振り子を見かけの重力 g2+A2 で解いた結果と一致する.

例題 3

オリジナル ★★★☆☆

長さ l の軽い糸2本と質量 m の2つのおもりで作った二重振り子を,鉛直な平面内で小さく振らせる.上の糸と下の糸が鉛直となす角を θ1,θ2 とする.

  1. 角が小さいとして,ラグランジアンを θ と θ˙ の2次まで書け.

  2. 2つのおもりがそろって同じ角振動数 ω で振れる運動(基準振動)を探し,ω を求めよ.l=0.50m,g=9.8ms−2 として数値も答え,それぞれの振れ方を述べよ.

2本の糸はともに長さl,2つの小球はともに質量m.それぞれの糸と鉛直下向きの間に小さな角θ₁,θ₂を描く.基準振動や振幅の比は示していない. 2本の糸はともに長さl,2つの小球はともに質量m.それぞれの糸と鉛直下向きの間に小さな角θ₁,θ₂を描く.基準振動や振幅の比は示していない.
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考え方 下のおもりの速度は,上のおもりの速度 lθ˙1 と,上のおもりに対する速度 lθ˙2 の和.角が小さければ2つはほぼ平行で,速さは l(θ˙1+θ˙2).位置エネルギーは cos⁡θ≈1−θ2/2 で展開する.

  1. 上のおもりの高さは −lcos⁡θ1,下は −lcos⁡θ1−lcos⁡θ2.定数を除いて

L=12ml2[θ˙12+(θ˙1+θ˙2)2]−12mgl(2θ12+θ22)
  1. オイラー=ラグランジュ方程式は

2θ¨1+θ¨2=−2glθ1,θ¨1+θ¨2=−glθ2

θ1=A1cos⁡ωt,θ2=A2cos⁡ωt を代入し,ω02=g/l とおくと

2(ω02−ω2)A1=ω2A2,ω2A1=(ω02−ω2)A2

2つ目から A2=ω2ω02−ω2A1 を1つ目に入れて A1≠0 で割ると 2(ω02−ω2)2=ω4,つまり 2(ω02−ω2)=±ω2.よって

ω2=(2∓2)gl

g/l=19.6s−2 では,ω≈0.586×19.6≈3.4s−1 と ω≈3.41×19.6≈8.2s−1.
振れ方は,小さいほう(A2/A1=2)が2つのおもりが同じ向きに振れる遅い振動,大きいほう(A2/A1=−2)が逆向きに振れる速い振動.

確かめ:第7章の連成振動と同じく,振動数の違う2つの基準振動がある.下のおもりの振幅は,どちらの振動でも上の 2 倍.

ポイント ここまでのまとめ

  • 慣性モーメントのある滑車も,回転の運動エネルギーを L に入れるだけで扱える.

  • 支点が与えられた動きをする場合も,支点の位置を時刻の関数として L に入れれば解ける.加速する支点の振り子は,見かけの重力 g2+A2 で傾いて振れる.

  • 小さな振動は,L を2次まで展開すると1次の連立方程式になり,基準振動で解ける.

  • どの例でも,拘束を保つ力(張力)は一度も現れない.