問いしるべ
問いから始める物理 光

光

光の屈折とフェルマーの原理

著者:柚木芹香

問い

水を入れたコップに箸を斜めに差すと,水面のところで箸が折れ曲がって見えます.水の中の部分は実際より浅く,水面の近くまで持ち上がって見えます.箸はまっすぐなままなので,曲がっているのは箸から目に届く光の道筋のはずです.光は水と空気の境目で,なぜ,どちら向きに曲がるのでしょうか.

ここから光の章です.第26章(発展)では,光が電磁波であることを電場と磁場の法則から導き,物質の中で光が遅くなる理由(屈折率の起源)と,境界での反射と透過を調べました.第26章を飛ばした人のために,この章と後の章で使うその結果を,記号の表の前にまとめておきます.この章では,光がどう進み,どう重なるかを扱います.前半の2つの題材(この題材と「像を作る」)は,光を細い線(光線)とみなす幾何光学です.後半の3つの題材(干渉,回折,偏光)では,光を波として扱い,光線の考え方が破れる所を見ます.この題材の中心になる最小時間の原理は,第13章の停留作用の原理と同じ形をしていますが,第13章を飛ばした人もそのまま読めます.第29章では,光が粒としての性質ももつことへ進みます.初めて読むときは,題や見出しに(発展)と付いた所(この題材の「なぜ光は時間を比べられるのか」と,偏光の題材の「複屈折と波長板」)を飛ばしてかまいません.

ポイント 第26章(発展)から使う結果

第26章を飛ばした人は,次の結果を認めて先へ進んでください.導き方は第26章にあります.

  • 光は電磁波で,電場 E と磁場 B が進む向きに垂直に振動する横波である.真空中の速さは c=1/ε0μ0 で,各点・各時刻で E=cB.

  • 光の強さ(進む向きに垂直な単位面積を単位時間に通るエネルギーの時間平均)は,電場の振幅の2乗に比例する.真空では I=12ε0cE02.

  • 光は運動量も運ぶ.強さ I の光を垂直に受けて吸収する面は I/c,完全に反射する面は 2I/c の圧力を受ける.

  • 加速度運動する電荷は電磁波を出す(放射).遠くでの電場は,電荷の加速度のうち見る向きに垂直な成分に比例する.物質の中で光が遅くなる(屈折率 n>1)のは,光に揺すられた物質の電子が出す光が,元の光と重なるからである.

  • 屈折率 n1 の側から n2 の側へ垂直に入る光では,反射光の電場の振幅比は n1−n2n1+n2,強さの反射率は R=(n1−n2n1+n2)2 である.n2>n1 なら,反射で電場の位相が π ずれる.

  • 斜めに入る光の反射率は偏光によって違う.電場が入射面内にあるp偏光の反射率は,tan⁡θB=n2/n1 のブルースター角で0になる.

ポイント 第27章で使う記号

記号

意味

c

真空中の光の速さ 3.00×108ms−1

n, v

屈折率 n=c/v,媒質中の光の速さ v

θ1, θ2

入射角,屈折角(どちらも境界の法線から測る)

θc

全反射の臨界角

f

焦点距離

a, b

レンズから物体まで,像までの距離(干渉と回折ではスリットの幅にも a を使う)

ν, λ

光の振動数(焦点距離の f と区別する),波長.真空中の波長は λ0

d

スリットの間隔,回折格子の格子定数

Δ

光路差(光学距離の差)

I

光の強さ

波の章(第25章)では振動数に f を使いましたが,この章では f を焦点距離に譲り,振動数を ν と書きます.

考えてみる

光は一様な媒質の中ではまっすぐ進み,境界で向きを変えます.問題は向きの変え方の規則と,その理由です.反射については,古代のヘロンが「鏡で反射して点 A から点 B へ行く光は,鏡を経由する道の中で最短の道を通る」と気づいていました.ところが屈折には,この考えが使えません.水中の点と空気中の点を結ぶ最短の道は線分で,そこでは光は曲がらないからです.最短の「長さ」の代わりに何をとれば,屈折まで説明できるのでしょうか.

反射の法則と屈折の法則

先に,実験で分かっている規則をまとめます.角は境界の面からではなく,境界に立てた法線から測ります.

法則 反射の法則と屈折の法則

入射光線,反射光線,屈折光線と,入射点での境界の法線は,同じ平面内にある.反射角は入射角に等しい.屈折率 n1 の媒質から n2 の媒質へ進む光の入射角 θ1 と屈折角 θ2 は

n1sin⁡θ1=n2sin⁡θ2

を満たす(屈折の法則,スネルの法則).屈折率は,真空中の光の速さ c と媒質中の速さ v の比 n=c/v である.

空気の屈折率はほぼ1(1.0003),水は 1.33,ふつうのガラスは 1.5 程度,ダイヤモンドは 2.42 です.屈折率の大きい媒質へ入る光は法線に近づくように曲がり,屈折率の小さい媒質へ出る光は法線から離れるように曲がります.どちらの場合も,境界では一部の光が反射します(その割合は第26章で求めました).

フェルマーの原理

17世紀にフェルマーは,長さの代わりに時間をとりました.

法則 フェルマーの原理

光が点 A から点 B へ進むとき,実際の道筋は,その道筋を少しずらしても,かかる時間が1次の範囲で変わらない道である(多くの場合は時間が最小になる道).

屈折率 n の媒質を長さ ℓ だけ進む時間は ℓ/v=nℓ/c なので,時間を比べることは,屈折率と長さの積 nℓ を道に沿って足した量を比べることと同じです.この量を光学距離(光路長)といいます.フェルマーの原理は「光学距離が停留する道を通る」と言い換えられます.

一様な媒質では,時間が最小の道は線分です.反射では,鏡の面について B と対称な点 B' をとると,鏡上のどの点 P を経由しても AP+PB=AP+PB′ です.これが最小になるのは A,P,B' が一直線に並ぶときで,そのとき入射角と反射角が等しくなります.ヘロンの最短の道は,フェルマーの原理の特別な場合です.

屈折では,浜辺から海で溺れている人を助けに行くライフガードを思い浮かべると分かりやすくなります.砂浜を走るほうが泳ぐより速いので,まっすぐ向かうより,砂浜を長めに走って水に入る点をずらすほうが早く着きます.ずらしすぎると今度は走る距離が増えすぎるので,ちょうどよい入水点があるはずです.

[図:境界上の通過点と最小時間]

初期状態では,上の点Aから下の点Bへ向かう時間が最小の点Pを示す.n₁ = 1,n₂ = 1.5,h₁ = h₂ = 2 m,L = 6 m と固定し,角はPの法線から測る.スライダーでPを動かすと折れ線と時間T(x)のグラフ上の点が動き,最小の点でn₁ sin θ₁とn₂ sin θ₂が一致することが分かる.

式で確かめます.A は境界から高さ h1,B は深さ h2 にあり,境界に沿った水平距離が L だけ離れているとします.境界上の点 P の位置を,A の真下から測って x とすると,A→P→B にかかる時間は

T(x)=n1ch12+x2+n2ch22+(L−x)2

です.これを x で微分して0とおくと

dTdx=n1cxh12+x2−n2cL−xh22+(L−x)2=0

となります.第1項の分数は sin⁡θ1,第2項の分数は sin⁡θ2 なので,n1sin⁡θ1=n2sin⁡θ2 が出ます.屈折の法則は,光が遅い媒質の中を短く通るように道を選んだ結果なのです.T(x) の2階微分は正なので,この点で時間は最小です.

ただし,いつも最小とは限りません.楕円の形の鏡の内側では,一方の焦点から出て鏡で1回反射し,もう一方の焦点へ届く道は,反射点がどこでも長さが同じです(楕円の定義そのもの).このとき時間は反射点によらず一定で,停留はしていますが,ほかの道より短いわけではありません.鏡の曲がり方が楕円より強く,接点のまわりで楕円の内側に入っていれば,接点で反射する道は,近くの反射の道の中で最も時間がかかる道(最大)になります.原理の正しい言い方が「最小」ではなく「停留」なのはこのためです.第13章で見た,力学の運動が作用を停留させる道を選ぶことと同じ形です.

全反射と光ファイバー

屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進む光(n1>n2)では,sin⁡θ2=(n1/n2)sin⁡θ1 が1を超える入射角があります.そのような屈折光は存在しえないので,光はすべて反射されます.これを全反射といいます.屈折角がちょうど 90∘ になる入射角を臨界角 θc といい

sin⁡θc=n2n1

です.水から空気へは 48.8∘,ガラスから空気へは 41.8∘,ダイヤモンドから空気へは 24.4∘ です.ダイヤモンドがよく光るのは,臨界角が小さく,中に入った光が全反射をくり返して上面へ戻るからです.屈折率の小さい側から入る光は,入射角によらず全反射しません.

光ファイバーは,屈折率の大きい細いガラスの芯(コア)を,屈折率が少し小さいガラス(クラッド)で包んだものです.芯の中を軸に近い向きに進む光は,側面へ臨界角より大きい角で当たるので全反射をくり返し,曲がったファイバーに沿って何キロメートルも進みます.どこまで斜めの光を取り込めるかは例題で求めます.

屈折率が場所で変わるとき

屈折率が高さ y とともに少しずつ変わる媒質を考えます.薄い水平な層に分けると,隣の層との境界の法線はどれも鉛直なので,屈折の法則が層ごとにつながり

n1sin⁡θ1=n2sin⁡θ2=n3sin⁡θ3=⋯

となります.層を薄くした極限で,鉛直から測った光線の角を θ とすれば,n(y)sin⁡θ は光線に沿って一定です.光線は屈折率の大きい側へ曲がり込みます.nsin⁡θ の一定の値が,ある高さの屈折率に等しくなると sin⁡θ=1 で光線は水平になり,そこで向きを変えて戻ってきます.

晴れた日に熱いアスファルトの道路の先が濡れたように光って見える逃げ水(下位蜃気楼)がこの例です.路面のすぐ上の空気は熱くて密度が小さく,屈折率が上の空気よりわずかに小さくなっています.空から斜めに降りてきた光は,屈折率の大きい上の側へ曲がり込んで向きを上に変え,目に届きます.目は光が来た向きの先に物があると判断するので,路面の上に空が映って見えます.空気の屈折率のずれは 10−5 ほどしかありませんが,ほぼ水平に進む光は何十メートルも層の中を進むので,向きが目に見えるほど変わります.

空気の屈折率は路面に近いほど小さく,青い層の濃さは上ほど大きい屈折率を表す.空の点から右へ進む光は,路面に達する前に上向きに曲がって目に届く.目に届く光の向きを逆に延ばした破線は,路面の下の空の像を指す. 空気の屈折率は路面に近いほど小さく,青い層の濃さは上ほど大きい屈折率を表す.空の点から右へ進む光は,路面に達する前に上向きに曲がって目に届く.目に届く光の向きを逆に延ばした破線は,路面の下の空の像を指す.

大気全体も上ほど薄く,屈折率が小さいので,天体の光は下向きに曲がり,天体は実際より高く見えます(大気差).地平線の近くでは約 0.5∘ で,夕日が地平線に接して見えるとき,実際の太陽はもう地平線の下にあります.

ここまでの光線の考え方には適用の条件があります.光線とみなせるのは,波長が物体の大きさや,屈折率が目立って変わる距離に比べて十分小さいときです.たとえば屈折率が n=n0−αy と変わる層では,真空中の波長 λ0 について λ0α/n2 が十分小さいこと,つまり1波長進む間の屈折率の変化がわずかであることが必要です.すき間や物体が波長と同じくらいになると,光は回り込み(回折,この章の第4題材),光線の考えは使えなくなります.

分散とプリズム,虹

屈折率は光の波長によって少し違います(分散).第26章で見たように,屈折率は物質の中の電子の振動が出す波の重ね合わせで決まり,可視光では波長が短いほど,つまり紫に近いほど屈折率が大きくなります.たとえば水では,赤い光で 1.331,紫の光で 1.343 くらいです.

三角柱のプリズムに白色光を通すと,紫ほど大きく曲がるので色に分かれます.入射光と出射光の向きのなす角を偏角 δ といい,頂角 A のプリズムの外側での入射角を θ1,出射角を θ3 とすると δ=θ1+θ3−A です.プリズムを回して入射角を変えると,偏角はある所で最小になり,そのときプリズムの中の光路は左右対称です.最小偏角 δmin を測ると

n=sin⁡[(A+δmin)/2]sin⁡(A/2)

から屈折率が決まります.最小の所では入射角が少しずれても偏角が1次では変わらないので,角を精度よく読めます.測った δmin の不確かさ uδ から屈折率の不確かさを見積もるには,第14章の1次の誤差評価 un=|dn/dδ|uδ を使います.このとき角の微分はラジアンで計算します.

白色光は頂角Aのプリズムで屈折し,赤から紫へ分かれて出る.角θ₁とθ₃はそれぞれの面の法線から測る.δは入射光の延長方向と出射方向のなす角で,θ₃とδは赤い光線に対して示す.紫は青の変数色と色名で表し,短波長ほど大きく曲がる順序を示す. 白色光は頂角Aのプリズムで屈折し,赤から紫へ分かれて出る.角θ₁とθ₃はそれぞれの面の法線から測る.δは入射光の延長方向と出射方向のなす角で,θ₃とδは赤い光線に対して示す.紫は青の変数色と色名で表し,短波長ほど大きく曲がる順序を示す.

虹も分散と「偏角の最小」で説明できます.雨粒に入った太陽の光は,中で1回反射して出てきます.入射する位置によって偏角が違いますが,偏角が最小になる所では,入射位置が少しずれても出ていく向きがほとんど変わりません.そのため,その向きに光が集まって明るく見えます.水では,太陽と反対の方向から約 42∘ の円の上でこれが起こり,赤のほうが外側に並びます.角度の計算は例題で行います.

なぜ光は時間を比べられるのか(発展)

光が進む前に,あらゆる道の時間を比べて一番よい道を選んでいるように見えるのは不思議です.答えは,光が波であることにあります.A から B へ向かう波は,いろいろな道を通る寄与の重ね合わせと考えられ,各道の寄与の位相は,かかった時間(光学距離)で決まります.時間が停留する道のすぐ近くの道は,時間がほとんど同じなので位相がそろい,強め合います.停留する道から離れた道は,少しずらすだけで位相が大きく変わるので,隣り合う道の寄与どうしが打ち消し合います.こうして,時間が停留する道の近くの細い束だけが残り,それが光線に見えるのです.束の太さは波長で決まるので,波長が無視できない所では光線の考えが破れます.この見方は,干渉と回折(この章の第3・4題材)で具体的に使い,第30章では電子にも同じ考えが当てはまることを見ます.

問いに戻る

光は水の中では空気中の 1/1.33 倍の速さでしか進めません.フェルマーの原理によれば,光は時間が停留する道,ここでは最も早く着く道を通るので,遅い水の中の道のりを短くするように境界で折れ曲がります.水中の箸から出た光は,水面で法線から離れる向きに曲がって目に届きます.目は届いた光をまっすぐ逆にたどった先に箸があると判断するので,水中の部分は実際より水面に近い所に見えます.真上近くから見ると,見かけの深さは実際の深さの約 1/1.33 倍です.水面より上の部分はそのままの位置に見えるので,箸は水面の所で上へ折れ曲がって見えるのです.

ポイント ここまでのまとめ

  • 屈折率は n=c/v.角は法線から測り,反射角は入射角に等しく,屈折では n1sin⁡θ1=n2sin⁡θ2 が成り立つ.

  • フェルマーの原理:光は光学距離 ∑nℓ(かかる時間)が停留する道を通る.反射と屈折の法則はここから出る.停留は最小とは限らない.

  • 屈折率の大きい側から小さい側へ進む光は,入射角が臨界角 sin⁡θc=n2/n1 を超えると全反射する.光ファイバーはこれを使う.

  • 屈折率が層状に変わる媒質では nsin⁡θ が光線に沿って一定で,光線は屈折率の大きい側へ曲がる(逃げ水,大気差).

  • 屈折率は波長で違う(分散).プリズムの最小偏角から屈折率を測れ,虹は雨粒の中の偏角が最小になる向きに光が集まって見える.

  • 光線の考えは,波長が物体の大きさや屈折率が変わる距離に比べて十分小さいときの近似である.