この章では,第24章でそろえた電場と磁場の法則と,第25章の波の言葉を合わせて,電磁波を扱いました.出発点は,突然流れ始めた電流の板が作る場の面です.積分形のファラデーの法則とアンペール・マクスウェルの法則は,場の面が速さ 𝑐 =1/√𝜀0𝜇0 で 𝐸 =𝑐𝐵 を保って進むときに限って同時に満たされ,光はこの電磁波だと分かりました.電磁波は媒質なしに伝わり,エネルギーと運動量を運びます.次に,電磁波を生むのは加速する電荷であることを電気力線の折れ曲がりから導き,原子の中の電子を振動子とみて,空が青いことと屈折率の起源を説明しました.最後に,物質の境界で電場と磁場の接線成分がつながることから,反射と透過の割合を求めました.
定義と法則
法則 真空中の平面電磁波
電荷も電流もない真空では,マクスウェル方程式から波動方程式 ∇2𝑬 =1𝑐2𝜕2𝑬𝜕𝑡2 が出る.𝑩 も同じ方程式に従う.
速さはどの波長でも 𝑐 =1/√𝜀0𝜇0 =3.00 ×108 ms−1 で,𝑐 =𝜆𝜈 =𝜔/𝑘.
電場と磁場は進む向きに垂直で(横波),互いにも垂直で,𝑬 ×𝑩 が進む向きを向く.各点・各時刻で 𝐸 =𝑐𝐵.𝑥 方向に進む波では,+𝑥 向きなら 𝐵𝑧 =𝐸𝑦/𝑐,−𝑥 向きなら 𝐵𝑧 = −𝐸𝑦/𝑐.
横波であることはガウスの法則(真空で 𝛁 ⋅𝑬 =0)から分かる.電場が振動する向きを偏光の向きという.
電波,赤外線,可視光(770 nm から 380 nm),紫外線,X 線・γ 線は同じ方程式に従う電磁波で,違うのは波長だけである.
定義 電磁波のエネルギーと強さ
電磁波では電場と磁場のエネルギー密度が各瞬間に等しく(𝑢𝐸 =𝑢𝐵 =𝜀0𝐸2/2),合わせて 𝑢 =𝜀0𝐸2 である.ポインティングベクトルの大きさは 𝑆 =𝐸𝐵/𝜇0 =𝑐𝑢 で,エネルギーは速さ 𝑐 で運ばれる.電磁波の強さ 𝐼 は,進む向きに垂直な単位面積を単位時間に通るエネルギーの時間平均で,正弦波では
𝐼=⟨𝑆⟩=12𝜀0𝑐𝐸20=𝑐⟨𝑢⟩
である.
法則 電磁波の運動量と光の圧力
電磁波が電荷に及ぼす進む向きの力は,電荷が受け取る仕事率の 1/𝑐 倍である.したがって電磁波はエネルギー 𝑈 とともに運動量 𝑈/𝑐 を運ぶ.強さ 𝐼 の光が面に垂直に当たるとき,すべて吸収する面が受ける圧力は 𝐼/𝑐,すべて正反対に反射する面では 2𝐼/𝑐 である.斜めに当たるときは,光を受ける面積と運動量の法線成分の両方が入射角の余弦倍になる.
法則 加速する電荷の放射の場
電荷 𝑞 が加速度 𝒂 で運動するとき,距離 𝑟 の遠方の電場は
𝑬rad(𝑡)=−𝑞𝒂⟂(𝑡−𝑟/𝑐)4𝜋𝜀0𝑐2𝑟
である.𝒂⟂ は加速度のうち観測の向きに垂直な成分で,大きさは加速度と観測の向きのなす角 𝜃 について sin𝜃 倍になる.磁場は大きさ 𝐸rad/𝑐 で,電場と進む向きの両方に垂直である.場は 𝑟/𝑐 だけ前の加速度で決まり(遅れ),加速度の向きには放射が無く(横向き),1/𝑟 でしか弱まらないのでエネルギーが遠くへ運ばれる.電荷の速さが 𝑐 より十分小さく,𝑟 が電荷の動く範囲や波長より十分大きいときの式である.
定理 ラーモアの式
非相対論的に運動する電荷 𝑞 が加速度 𝑎 のときに全方向へ放射する電力は
𝑃=𝑞2𝑎26𝜋𝜀0𝑐3
で,強さは向きによって sin2𝜃 に比例する.
定義 散乱断面積とレイリー散乱
入射光の強さ 𝐼 と,1個の散乱体が散乱する平均電力 ⟨𝑃⟩ の比 𝜎sc =⟨𝑃⟩/𝐼 を散乱断面積という.固有角振動数 𝜔0 の振動子とみた束縛電子では
𝜎sc=𝑒46𝜋𝜀20𝑚2𝑐4⋅𝜔4(𝜔20−𝜔2)2
である.𝜔 が 𝜔0 より十分小さいと 𝜎sc ∝𝜔4 ∝𝜆−4 となり,これをレイリー散乱という.自由な電子(𝜔0 =0)では振動数によらない.
定理 屈折率の起源と分散
物質の中の電子が入射光に揺すられて出す波は,前方では入射光に 90∘ 遅れて足され,光の位相を遅らせる.これが屈折率 𝑛 >1 の正体で,希薄な物質では
𝑛=1+𝑁𝑒22𝜀0𝑚(𝜔20−𝜔2)
である.𝜔 が 𝜔0 に近づくほど 𝑛 が大きいので,可視光では紫ほど屈折率が大きい(分散).𝜔 が 𝜔0 を超えると 𝑛 <1 になるが,信号やエネルギーが 𝑐 より速く伝わるわけではない.
定理 物質の中の平面波と境界の条件
屈折率 𝑛 の非磁性で透明な物質では,波の速さは 𝑐/𝑛,磁場は 𝐵 =𝑛𝐸/𝑐,強さは 𝐼 =𝑛𝜀0𝑐𝐸20/2 である.表面電流の無い境界では,電場の接線成分と磁場の接線成分がそれぞれつながる.境界をまたぐ細い長方形の道にファラデーの法則とアンペール・マクスウェルの法則を使うと,道の面積が0に近づくので磁束も電束も消えることから分かる.
定理 垂直入射の反射と透過
屈折率 𝑛1 の側から 𝑛2 の側へ垂直に入射するとき,振幅反射率・振幅透過率は
𝑟=𝑛1−𝑛2𝑛1+𝑛2,𝑡=2𝑛1𝑛1+𝑛2
で,反射率・透過率は 𝑅 =𝑟2,𝑇 =(𝑛2/𝑛1)𝑡2,𝑅 +𝑇 =1 である.弦の接続点の式で波数を屈折率に置き換えたものと同じ形で,𝑛2 >𝑛1 の反射では電場の位相が 𝜋 ずれる(固定端にあたる).𝑛1 >𝑛2 の反射と透過波では位相は変わらない.金属は 𝑟 ≈ −1 に近く,よく反射する.
定理 斜め入射:フレネルの式(結果)とブルースター角
入射光と境界の法線を含む面を入射面といい,電場が入射面に垂直な光をs偏光,平行な光をp偏光という.入射角 𝜃1,屈折角 𝜃2(𝑛1sin𝜃1 =𝑛2sin𝜃2)について
𝑅𝑠=(𝑛1cos𝜃1−𝑛2cos𝜃2𝑛1cos𝜃1+𝑛2cos𝜃2)2,𝑅𝑝=(𝑛2cos𝜃1−𝑛1cos𝜃2𝑛2cos𝜃1+𝑛1cos𝜃2)2
である.𝑅𝑠 は入射角とともに増える.tan𝜃𝐵 =𝑛2/𝑛1 のブルースター角では 𝑅𝑝 =0 で,反射光と屈折光が直交し,反射光はs偏光だけになる.𝑛1 >𝑛2 で sin𝜃1 >𝑛2/𝑛1 なら全反射が起こり,向こう側には波長程度の距離で弱まる場(エバネッセント波)が染み出す.
手順
ポイント 電磁波の問題を解く手順
進む向きと電場の向きを決め,𝑬 ×𝑩 が進む向きを向くように磁場の向きを決める.逆向きに進む波では,電場が同じ向きでも磁場が逆になる.
強さとエネルギー密度は 𝐼 =𝜀0𝑐𝐸20/2 =𝑐⟨𝑢⟩,点光源なら 𝐼 =𝐿/(4𝜋𝑟2),光の力は吸収した電力の 1/𝑐 倍で,受ける面積は断面積で数える.
放射は加速度の視線に垂直な成分で決まる.小さな双極子では 𝐼 =𝐼⟂sin2𝜃,𝑃 =8𝜋3𝑟2𝐼⟂.散乱光の偏光は,入射光を散乱の面に垂直な部分と面内の部分に分けて考える.
境界では,同じ 𝜔 の場の複素振幅について「ˆ𝐸 がつながる」「𝑐ˆ𝐵 がつながる」の2式を立てて解く.強さの比は屈折率を含めて 𝑅 =|𝑟|2,𝑇 =(𝑛2/𝑛1)|𝑡|2 に直す.
膜が重なるときは,比 𝑌 =𝑐ˆ𝐵/ˆ𝐸 を奥の境界から手前へ受け渡し,𝑟 =(𝑛1 −𝑌)/(𝑛1 +𝑌) で反射率を出す.
主な公式
真空の平面波:𝑐 =1/√𝜀0𝜇0,𝐸 =𝑐𝐵,𝑢 =𝜀0𝐸2,𝑆 =𝑐𝑢,𝐼 =12𝜀0𝑐𝐸20
電流の板(単位幅あたり 𝐾)を流し始めたとき:波面は 𝑥 = ±𝑐𝑡,その内側で 𝐵 =𝜇0𝐾/2,𝐸 =𝑐𝐵.電源の仕事率は単位面積あたり 𝑐𝜇0𝐾2/2 で,両側へ流れ出すエネルギーに等しい
光の圧力:吸収面 𝐼/𝑐,反射面 2𝐼/𝑐
金属の壁での定在波:壁は電場の節・磁場の腹,電場の節は 𝜆/2 おき,正味のエネルギーの流れは0
光のドップラー効果(発展):遠ざかる速さ 𝑉,𝛽 =𝑉/𝑐 で 𝜈′ =𝜈√1−𝛽1+𝛽.𝛽 が小さければ Δ𝜆/𝜆 ≈𝛽
放射の強さ:𝐼 =𝑞2𝑎2sin2𝜃16𝜋2𝜀0𝑐3𝑟2,振動する双極子(振幅 𝑝0)の平均電力 ⟨𝑃⟩ =𝑝20𝜔412𝜋𝜀0𝑐3
散乱による弱まり:𝐼 =𝐼0𝑒−𝑁𝜎sc𝑑.青(450 nm)は赤(700 nm)の約6倍強く散乱される
散乱光の偏光:散乱の角 Θ で(面に垂直):(面内)=1 :cos2Θ,90∘ で完全な直線偏光
空気からガラス(𝑛 =1.50):𝑟 = −0.20,𝑅 =0.040.窓ガラス1枚の反射は約 2𝑅,多重反射まで数えて 2𝑅/(1 +𝑅) ≈0.077
反射がある側の電場の2乗:⟨𝐸2⟩ ∝1 +𝑟2 +2𝑟cos2𝑘𝑥(間隔 𝜆/2 の縞).正味の流れは (1 −𝑅)𝐼𝑖
反射防止膜:厚さ 𝑑 =𝜆/(4𝑛)(𝑘𝑑 =𝜋/2)で 𝑌 =𝑛2/𝑛3,𝑛2 =𝑛1𝑛3 なら 𝑅 =0
各題材の問いへの答え
真空を伝わる電磁波:光は電場と磁場が揺れる波である.揺れているのは物質ではなく場そのもので,変化する電場が磁場を作り,変化する磁場が電場を作ることで,場は媒質なしに自分で伝わる.その速さはマクスウェル方程式から 𝑐 =1/√𝜀0𝜇0 と決まり,光の速さと一致する.太陽の光は,宇宙空間を電場と磁場のエネルギーと運動量として運ばれてくる.
電荷の放射と光の散乱:空気の分子の中の電子が太陽の光に揺すられて加速し,四方へ光を出し直す.その強さは 𝜔4 に比例するので,青い光は赤い光の約6倍強く散乱され,太陽から離れた方向の空は散乱された青い光で満たされる.夕方は光が大気を長く通るので青が抜け落ち,まっすぐ届く光は赤が中心になる.太陽から 90∘ 離れた空の光は,放射の横向きの性質のために強く偏光している.
電磁波の反射と透過:透明でも屈折率が変わる所では,入射波と透過波だけでは境界の2つの条件を同時に満たせず,反射が起こる.ガラスの1つの面で4 %,表と裏の2つの面で約8 %の光が反射する.夜に部屋が映るのは,反射が増えるからではなく,比べる外の光が弱くなるからである.
この章で使った数学
細長い長方形の道に積分形の法則を使って偏微分の関係を出し,組み合わせて1次元の波動方程式にする方法は,第25章の弦の波動方程式の導き方と同じ考え方です.微分形からは,回転の回転の公式で3次元の波動方程式がまとめて出ます(発展).こちらは飛ばして,本体の積分形の議論だけで先へ進んでもかまいません.時間平均と境界の条件には,第7章・第23章と同じ複素振幅を使いました.
定理 数学の道具:電磁波の章の道具
真空で場が 𝑥 と 𝑡 だけによるとき,𝜕𝐸𝑦/𝜕𝑥 = −𝜕𝐵𝑧/𝜕𝑡,𝜕𝐵𝑧/𝜕𝑥 = −1𝑐2𝜕𝐸𝑦/𝜕𝑡.組み合わせると 𝜕2𝐸𝑦𝜕𝑥2 =1𝑐2𝜕2𝐸𝑦𝜕𝑡2.
(発展)回転の回転:𝛁 ×(𝛁×𝑭) =𝛁(𝛁⋅𝑭) −∇2𝑭.真空のマクスウェル方程式に使うと ∇2𝑬 =1𝑐2𝜕2𝑬𝜕𝑡2.
正弦波の2乗の時間平均は 1/2,⟨sin𝜔𝑡cos𝜔𝑡⟩ =0.複素振幅では ⟨𝐸𝐹⟩ =12Re(ˆ𝐸ˆ𝐹∗).
すべての 𝑡 で Re[ˆ𝐴𝑒𝑖𝜔𝑡] =Re[ˆ𝐵𝑒𝑖𝜔𝑡] なら ˆ𝐴 =ˆ𝐵.境界の条件は複素振幅どうしの等式として書ける.
この章で,光が電場と磁場の波であることと,境界での反射の振る舞いが分かりました.次の第27章では,光の進み方と干渉を調べます.反射で位相が反転するかどうかは薄膜の干渉の色を決め,偏光の向きもそこで使います.