本体の節では,光学距離をそろえる条件から薄いレンズの式を出しました.ここでは同じ式を,屈折の法則と小さな角の近似から,球面1面ずつ組み立てて導きます.この方法は,ガラス玉や水槽のように厚さを無視できない場合にも使えます.最後に,像を作図する手順をまとめます.
定理 数学の道具:近軸近似
角 𝜃(ラジアン)が小さいとき
sin𝜃≈𝜃,tan𝜃≈𝜃,cos𝜃≈1−𝜃22
である.誤差は sin𝜃 −𝜃 ≈ −𝜃3/6,tan𝜃 −𝜃 ≈𝜃3/3 で,𝜃 に対する比は 𝜃2 の程度である.また,|𝑥| が1よりずっと小さいとき √1+𝑥 ≈1 +𝑥/2 で,半径 𝑅 の球面が中心軸から高さ ℎ の所で後退する量(サジッタ)は
𝑅−√𝑅2−ℎ2≈ℎ22𝑅
である.光線と光軸のなす角,光線の高さと距離の比が十分小さいとして,これらの近似を使うことを近軸近似という.
導出は,sin𝜃 と tan𝜃 を 𝜃 で展開したときの最初の項を残すだけです(テイラー展開は第7章).sin𝜃 =𝜃 −𝜃3/6 +⋯ なので,𝜃 =0.1 rad(約 6∘)でも sin𝜃 と 𝜃 の違いは 0.17 % ほどです.
練習1 𝜃 =0.10 rad と 𝜃 =0.30 rad について,sin𝜃 と 𝜃 の違いは 𝜃 の何パーセントか.
練習2 半径 𝑅 =0.200 m の球面で,高さ ℎ =0.0100 m でのサジッタを近似式で求めよ.厳密な値との違いはどれほどか.
答え 練習1:比はほぼ 𝜃2/6 で,𝜃 =0.10 では 0.17 %,𝜃 =0.30 では 1.5 %(厳密には sin0.30 =0.2955 で 1.5 %).練習2:ℎ2/(2𝑅) =(1.00 ×10−4)/0.400 =2.50 ×10−4 m.次の項は ℎ4/(8𝑅3) =1.6 ×10−7 m で,相対的には ℎ2/(4𝑅2) ≈6 ×10−4 しか違わない.
球面1面での結像
屈折率 𝑛1 の物質と 𝑛2 の物質が,半径 𝑅 の球面で接しているとします.光は左から右へ進み,光軸上で球面の頂点から左 𝑎 の点 P から出た光が,右 𝑏 の点 Q に集まるとします.球面の中心 C が右側にあるとき 𝑅 >0 とします.
P を出て高さ ℎ で球面に当たる光線を考えます.光線が光軸となす角は 𝛼 ≈ℎ/𝑎,その点での球面の法線(C を通る直線)が光軸となす角は 𝜑 ≈ℎ/𝑅,屈折した光線が光軸となす角は 𝛾 ≈ℎ/𝑏 です.図から,入射角は 𝜃1 =𝛼 +𝜑,屈折角は 𝜃2 =𝜑 −𝛾 です.屈折の法則 𝑛1sin𝜃1 =𝑛2sin𝜃2 を近軸近似で 𝑛1𝜃1 =𝑛2𝜃2 とすると
𝑛1(ℎ𝑎+ℎ𝑅)=𝑛2(ℎ𝑅−ℎ𝑏)
で,両辺を ℎ で割ると ℎ が消えます.どの高さを通る光線も同じ点 Q に集まるということで,これが像ができる理由です.
[図:球面の法線と入射角・屈折角]屈折率 n₁ の側の P から出た光は,高さ h の球面で屈折し,n₂ の側の Q に向かう.中心 C は右側にあり R>0 で,法線は C を通る.入射光と光軸の角 α,法線と光軸の角 φ,出射光と光軸の角 γ を示す.下の角の拡大図で θ₁=α+φ,θ₂=φ−γ を示す.
定理 球面1面の結像の式
𝑛1𝑎+𝑛2𝑏=𝑛2−𝑛1𝑅,𝑀=−𝑛1𝑏𝑛2𝑎
符号は,物体が入射側なら 𝑎 >0,像が出射側なら 𝑏 >0,球面の中心が出射側なら 𝑅 >0 とする.𝑀 は横倍率.
倍率は,物体の先端から球面の頂点に当たる光線で求めます.頂点では法線が光軸と一致するので,物体の高さを ℎ0,像の高さを ℎ′ とすると 𝑛1(ℎ0/𝑎) =𝑛2( −ℎ′/𝑏) で,上の 𝑀 が出ます.
平らな境界では 𝑅 →∞ で 𝑏 = −(𝑛2/𝑛1)𝑎 です.水中(𝑛1 =1.33)の深さ 𝑎 の物体を空気中(𝑛2 =1)から真上近くで見ると,深さ 𝑎/1.33 の所に虚像が見えます.前の題材の見かけの深さと同じ結果です.
2つの面から薄いレンズへ
空気中の屈折率 𝑛 のレンズを考え,面の半径を順に 𝑅1, 𝑅2(どちらも上の符号の約束で)とします.第1面では空気からガラスへ入るので,第1面だけによる像 𝑏1 は
1𝑎+𝑛𝑏1=𝑛−1𝑅1
です.この像が第2面にとっての物体です.レンズが薄ければ,第2面から見た物体距離は 𝑎2 = −𝑏1 です(𝑏1 >0 なら,光は第2面の向こうへ収束していくので虚物体).第2面ではガラスから空気へ出るので
𝑛−𝑏1+1𝑏=1−𝑛𝑅2
で,2つの式を足すと 𝑛/𝑏1 が消えて
1𝑎+1𝑏=(𝑛−1)(1𝑅1−1𝑅2)
です.
定理 レンズの焦点距離の式
空気中の薄いレンズの焦点距離は
1𝑓=(𝑛−1)(1𝑅1−1𝑅2)
両凸レンズでは 𝑅1 >0,𝑅2 <0 なので,本体の節の式 (𝑛 −1)(1/𝑅1+1/|𝑅2|) と一致する.周囲が屈折率 𝑛0 の物質なら,𝑛 −1 を 𝑛/𝑛0 −1 に置きかえる.
作図の手順
式で計算した結果は,作図で確かめると間違いが見つかります.薄いレンズは1枚の面で表し,光線はその面で1回だけ曲げます.
ポイント 作図の手順
物体の先端から,レンズの中心を通る直線を引く(曲がらない).
物体の先端から光軸に平行な光線を引き,レンズで曲げて後ろの焦点を通す.凹レンズでは,前の焦点から出てきたように広げる.
2本の光線がレンズの後ろで交われば実像.交わらなければ,レンズを出た光線を逆向きに延ばし,交わる点を虚像とする.
確かめに,前の焦点を通る光線(凹レンズでは後ろの焦点へ向かう光線)を引き,レンズを出たあと光軸に平行になることを使う.
虚物体のときは,レンズに入る光線を物体点へ向かう向きに引き,同じ規則で曲げる.
例題
半径 𝑅 =5.00 mm,屈折率 𝑛 =1.50 のガラス玉の光軸付近に,光軸に平行な細い光束を当てる.周囲は屈折率1の空気とし,近軸近似を用いる.
光が集まる点は,ガラス玉の後ろの面から何 mm の所か.
光が後ろの面のちょうど上に集まるのは,屈折率がいくらのときか.
[図:ガラス玉に入る平行光]半径 R=5.00 mm,屈折率 n=1.50 のガラス玉に,左から光軸に平行な細い光束を当てる.前の面と後ろの面で折れ,玉の外で光軸を横切る.横切る点までの距離は図に書かない.
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考え方 厚さ 2𝑅 を無視できないので,球面1面の式を2回使う.第1面の像を第2面の物体とし,第2面を越えた所へ向かう光は虚物体として扱う.
第1面(𝑅1 =𝑅 >0,空気からガラス)で 𝑎 =∞ だから 𝑛/𝑏1 =(𝑛 −1)/𝑅,𝑏1 =𝑛𝑅/(𝑛 −1) =3𝑅 =15.0 mm.第2面は第1面から 2𝑅 =10.0 mm 先にあるので,第2面にとっての物体距離は 𝑎2 =2𝑅 −𝑏1 = −5.00 mm(虚物体).第2面は中心が入射側にあるので 𝑅2 = −𝑅,ガラスから空気へ出るので
𝑛𝑎2+1𝑏=1−𝑛−𝑅,1𝑏=0.505.00mm+1.505.00mm=12.50mm
で,後ろの面から 𝑏 =2.50 mm の所に集まる.
文字のまま計算すると 𝑎2 =𝑅(𝑛 −2)/(𝑛 −1),1/𝑏 =2(𝑛 −1)/(𝑅(2−𝑛)),つまり 𝑏 =𝑅(2 −𝑛)/(2(𝑛−1)) である.𝑏 =0 となるのは 𝑛 =2.0 のとき.
確かめ:(2) の一般式に 𝑛 =1.50 を入れると 𝑏 =𝑅 ×0.50/1.00 =2.50 mm で一致する.水滴(𝑛 =1.33)なら 𝑏 ≈𝑅 である.光束の半径が 𝑅 より十分小さいことが近軸近似の条件で,太い光束では縁の光ほど手前に集まる(球面収差).
半径 15.0 cm の球形の金魚鉢に水(屈折率 4/3)が満ちている.ガラスの厚さは無視する.観察者は屈折率1の空気中の光軸上にいて,近軸近似を用いる.倍率は横倍率を指す.
金魚が,観察者に近い側の鉢の面から 10.0 cm の所(鉢の中心と面を結ぶ光軸上)にいる.観察者には金魚が面から何 cm の所に,何倍の大きさで見えるか.
金魚が鉢の中心にいるときはどうか.平らな面の水槽の場合と比べよ.
[図:金魚鉢の中心と金魚の位置]半径15.0 cmの水を満たした金魚鉢と,右側の観察者を示す.(1) の金魚は近い面から10.0 cmの光軸上にいる.金魚から出て右の面で屈折し観察者の側へ向かう光線と,その逆向きの延長が交わる像を示す.像までの距離と倍率は図に書かない.(2) では金魚を中心に置く.
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考え方 光は水から空気へ右向きに出る.鉢の面の中心は入射側(左)にあるので 𝑅 <0 である.
𝑛1 =4/3,𝑛2 =1,𝑎 =10.0 cm,𝑅 = −15.0 cm を球面1面の式に入れると
1𝑏=1−4/3−15.0cm−4/310.0cm=145.0cm−645.0cm=−19.00cm
で 𝑏 = −9.00 cm.面の内側 9.00 cm の所に虚像がある.倍率は 𝑀 = −(4/3)(−9.00)1×10.0 =1.20 で,正立に1.2倍で見える.
𝑎 =15.0 cm では 1/𝑏 =1/45.0 −4/45.0 = −1/15.0(単位 cm−1)で 𝑏 = −15.0 cm,𝑀 = −(4/3)(−15.0)15.0 =43.中心にいる金魚は中心に見え,4/3 倍に大きく見える.平らな面なら 𝑏 = −𝑎/(4/3),𝑀 =1 で,(1) では 7.50 cm,(2) では 11.3 cm の所に等倍で見える.
確かめ:中心から出た光は面に垂直に当たるので曲がらず,像は中心に残る.これは 𝑏 = −15.0 cm と合う.観察者が光軸から大きく外れた方向から見ると近軸近似が破れ,像はゆがむ.
光軸上に,焦点距離 𝑓1 =10.0 cm の凸レンズと,その右 20.0 cm に焦点距離 𝑓2 = −20.0 cm の凹レンズを置く.レンズは薄いとし,近軸近似を用いる.
凹レンズだけを置き,その左 30.0 cm に物体を置いたときの像の位置と倍率を,式で求め作図で確かめよ.
2枚とも置き,凸レンズの左 15.0 cm に物体を置いたときの最終の像の位置と全体の倍率を求めよ.
[図:凹レンズ単独と2枚のレンズの配置](1) は凹レンズの左30.0 cmの物体から,光軸に平行な光線と中心を通る光線を引き,前の焦点から出たように広がる延長と虚像を示す.虚像の位置と倍率は図に書かない.(2) は凸レンズの左15.0 cmの物体から出た光が,凹レンズの向こうの点へ向かう途中で凹レンズに入る.最終の像の位置は描かない.
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考え方 2枚のときは,凸レンズの像を凹レンズの物体とする.凹レンズを越えた所へ収束する光なら虚物体 𝑎2 <0 である.
1/𝑏 =1/𝑓2 −1/𝑎 = −1/20.0 −1/30.0 = −1/12.0(単位 cm−1)で 𝑏 = −12.0 cm,𝑀 = −𝑏/𝑎 =0.400.凹レンズの左 12.0 cm に,正立で0.4倍の虚像ができる.作図では,平行に入った光線は前の焦点(左 20.0 cm)から出たように広がり,その延長と中心を通る直線が左 12.0 cm で交わる.
凸レンズで 1/𝑏1 =1/10.0 −1/15.0 =1/30.0,𝑏1 =30.0 cm,𝑀1 = −2.00.この点は凹レンズの右 10.0 cm なので 𝑎2 =20.0 −30.0 = −10.0 cm(虚物体).
1𝑏2=1𝑓2−1𝑎2=−120.0+110.0=120.0
で 𝑏2 =20.0 cm,𝑀2 = −𝑏2/𝑎2 =2.00.凹レンズの右 20.0 cm に実像ができ,全体の倍率は 𝑀 =𝑀1𝑀2 = −4.00(倒立で4倍).
確かめ:本体の節の光線の規則で,物体の点(光軸上)から高さ 𝑦 で凸レンズに入る光線を追う.傾きは 𝑦/15.0 から 𝑦/15.0 −𝑦/10.0 = −𝑦/30.0 に変わり,凹レンズでの高さは 𝑦 −20.0 ×𝑦/30.0 =𝑦/3.凹レンズで傾きは −𝑦/30.0 −(𝑦/3)/( −20.0) = −𝑦/60.0 になり,光軸を横切るのは (𝑦/3)/(𝑦/60.0) =20.0 cm 先である.𝑦 によらないので,式の結果と一致する.
ポイント ここまでのまとめ
近軸近似:sin𝜃 ≈tan𝜃 ≈𝜃,サジッタ ℎ2/(2𝑅).誤差の比は 𝜃2 や (ℎ/𝑅)2 の程度.
球面1面:𝑛1/𝑎 +𝑛2/𝑏 =(𝑛2 −𝑛1)/𝑅,𝑀 = −𝑛1𝑏/(𝑛2𝑎).高さ ℎ が消えることが,像ができる理由.
2つの面を続けて使うと,薄いレンズの 1/𝑓 =(𝑛 −1)(1/𝑅1 −1/𝑅2) が出る.厚いガラス玉や組み合わせレンズでは,前の像を次の物体とし,必要なら虚物体を使う.
作図は,中心を通る光線と平行な光線の2本で像を決め,焦点を通る光線で確かめる.